FC2ブログ
2020年04月/ 03月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫05月

2020年02月06日(木)

入江法律事務所 60

とうとうこのシリーズも60…もしかして最長ですか?
いつになったら結婚できるのかしら?100回記念?いや、あと40話もネタはないな。


☆☆☆☆☆

【More・・・】






「ええと…レストランでの注文の仕方は…。」
「おい、裁判所で何やってるんだ。」
本を手にブツブツと呟く琴子を直樹は睨んだ。
「何って、英会話の勉強ですよ!」
『誰でも安心トラベル英会話』の本を見せながら、琴子は言った。
「何でここでやるんだ。やるなら事務所に戻ってやれ。」
これから裁判だというのにと、直樹は溜息をついた。
「先生の戦いを全て見届けるのが私の使命です。でもハワイで困らないために英会話も身につけないと!」
「戦いって大げさな。」
「英会話だって最低限できるようにしておかないと。先生は絶対助けてくれないし!」
ハネムーンを兼ねて結婚式をハワイですることにした二人だった。琴子はその準備に余念がないようである。

********
「先生、お腹がすきました…。」
琴子のお腹からはグーグーと音が鳴り続けていた。
「英語を勉強してこなかったお前が悪い。」
直樹は琴子に目をくれることなく、自分の顔サイズのステーキをパクリ。
「ああ、一切れ…せめて一切れ…。」
「だめだ。ここで甘やかしたらお前は一生俺に甘え続ける。向上心を身につけさせるため、俺も泣く泣く鬼になっているんだ。」
そういって直樹はまたステーキをパクり。
「せめて通訳を…してくれれば…。」
「だめ。」
そして直樹は手を挙げ、スタッフに英語をペラペラしゃべった。
「何をお願いしたんです?」
「ステーキおかわり。」
「ひどーい!!」
********

「…って、なるでしょ。ああ、想像したら怖くなってきた!カロリーメイト用意しておこう!」
「だからお前の中で俺はどれだけ鬼なんだ。そもそも顔サイズのステーキ二枚も食ったら胃がもたれるって。」
「くう!!胃がもたれるほど、私も食べてやる!!」
そして再び琴子は英会話の本に目をやった。
「ったく…。」
溜息をつきつつも、一生懸命なその姿は可愛いもので直樹の頬も琴子にばれないよう緩むのだった。

「あれ?」
今日の法廷の入口に掲示されている名前を見て、琴子は首を傾げた。
「何だよ?」
「船津検事は?」
「今日はいない。」
「何で?あ、もしかしてクビになった?」
「違うよ、今日は民事だ。検事の出番なし。」
「民事…でしたっけ?」
「お前、俺の秘書なの何の裁判かも知らずについてきたのかよ!このパーリーガル!」
「パラリーガル!」
「パーリーガルで充分だ。」
「宿命のライバル対決じゃないのかあ、チェッ。」
明らかにテンションが落ちる琴子であった。
直樹はそれ以上相手にせず、中へ入る。琴子も続いた。



「あれ?」
入って来た裁判官は傍聴席に目をやった。一人だけとはいえ、傍聴人がいるとは珍しい。民事はそれぞれの依頼人も尋問でもなければやって来ないというのに。
「ま、いっか。」
法律を勉強している学生かもしれない。とりあえず原告、被告両名の代理人弁護士はそろっているのを裁判官は確認した。
「ん?」
再び傍聴席に目をやった裁判官はまばたきを繰り返した。あの意味は…。

「…何やってるんだ、裁判官は。」
原告側の席についている直樹は裁判官の様子がおかしいことに気づいた。
「片目をパチパチしているが。ゴミでも入ったか?」
ところが片目パチパチに続き裁判官は何と…。
「投げキッス!?」
これには相手の被告側の弁護士も目を丸くしていた。片目パチパチ、投げキッス、それを繰り返す裁判官…。
「一体彼に何が…。」
しかも傍聴席に向かってしている。もしや琴子に一目惚れ?そこで直樹はハッとなり琴子を見た。
「やっぱり!!」
琴子の手には今日もしっかりと大きなうちわ。そこには『ウィンク&投げキッスして!!』と大きく書かれていた。
「くそっ!英会話に気を取られてこっちのチェックを忘れていた!」
その琴子はというと、何で気持ちの悪い行動をされているんだと顔をしかめている。自分のうちわが原因とは全く気づいていない。
「ちょっとお待ちください!」
直樹は勢いよく立ち上がり、琴子を外へ引っ張り出した。

「先生!あの裁判官すごく気持ち悪いんですけど!何ですか、変態裁判官?」
「お前が原因だ!!」
直樹は琴子からうちわを取り上げて、その字面を顔につきつけた。
「これは裁判官じゃなくて先生にしてもらいたくて作ったんです!あの人からファンサ(ファンサービス)してもらってもちっとも嬉しくないんですけど!」
「じゃあ作るな!」


「…失礼しました。」
直樹は着席した。それにしても、うちわがあるからってその指示どおりにしなくとも。
一方裁判官は、一人しかいない傍聴人にせめてものサービスと思ってしていた。というか、あんなうちわを裁判所で見るのは初めてなので、最近は開かれた裁判を求められているとも聞いたし、それくらいやるべきなのではと考えてしまったのである。
「しかし、あの傍聴人と原告の代理人は知り合いなのか。」
なんかやる気をなくしてしまった裁判官であった。入江直樹…ああ、噂には聞いている。とにかく優秀、とにかくイケメン。裁判所の女性職員も口にしている名前だし、彼の裁判の担当に我こそはと皆が手を挙げているとか。裁判所の廊下を歩いたらバラが咲き乱れるとまで言われている。
「何だよ、俺は全てを勉強に捧げて来たのに、この差は。」
裁判官は面白くなくなってきた。もしかしてあのうちわは彼のためのものだった?入江直樹は裁判中にウィンクと投げキッスをしまくっているのか?
「こうなったら、徹底的にこらしめてやる。」
もはや中立な立場を忘れている裁判官であった。


「ったく、あいつは。」
何とか裁判が開始されたことに安堵しつつ、直樹はそっと琴子を見た。
「あいつ、ここでも英会話かよっ!」
船津との宿命のライバル対決にしか興味がない琴子は、早々に飽きたらしい。英会話の本を広げていた。
「まあ、おとなしくしてくれれば何をしてもいいか。」
今日はあまりやることのない裁判である。お互いの主張を聞いて次回の日程を決めて終了。
「しかし、あいつはやっぱり面白いな。」
何をしでかすか分からない。もしかしたら、ハワイのホテルでもあのうちわを持ち込むのか?
『先生、やさしくして』なんて書いてあったら、もうどうなるか。ったく可愛い奴…。

「原告側代理人。」
「うるさいな。」
「原告側代理人!」
「ああ?」
あれこれと我慢の先に待つことを想像していた直樹は、邪魔をされた不機嫌さを露わにして顔を上げた。
「やべっ。」
裁判の最中だった。裁判官が睨んでいる。
「す、すみません…。」
「まったく、裁判をなんだと思っているんですか。」
ここぞとばかりに日頃自分がモテない鬱憤を当たり始める裁判官。
「ちょっと人からチヤホヤされているからって、真面目にやってくれないと!」
「は?」
いつ誰がチヤホヤされていると?何でそこまで言われるんだ?直樹は裁判官を睨んだ。
「ちょっとそれは…。」
「態度が悪いと退廷を命じますよ。」
「わかりました…。」
まあ、聞いていなかった自分も悪いしと直樹は大人しく引き下がることにした。
その時である。

「ジャストモーメント!!!!!」
大きな、それは大きな声が法廷に響き渡った。
「な、何?」
「ジャストモーメント、プリーズ!!!」
声の主は琴子だった。琴子が立ち上がり、裁判官に向けて叫んでいる。
「なぜ英語?」
裁判官は注意するのも忘れ、ぽかんとなっている。
「裁判官!騒がしい傍聴人は裁判の邪魔です!」
すかさず相手の弁護士が抗議をした。
「シャーラーッップ!!!!!」
琴子は弁護士に怒鳴った。
「な、何だと?」
「シャーラップ!!シットダウン!!」
琴子は弁護士を睨んで叫び続ける。
「シーットダウーン!!!!!」
「い、イエッサー。」
琴子の迫力に負け、弁護士はへなへなと座った。

「なぜ今、実践英会話!!」
直樹は頭を抱えたくなった。
「裁判官!!」
琴子は続ける。どうやらそれ以上の英語はできないらしい。
「な、何です?」
「今のは聞き捨てなりません!入江先生がチヤホヤされている?自分よりモテている?自分より優秀で男前?それが憎たらしい?何ですって?」
「…いや、そこまで言ってないし。」
と、直樹が呟けば、
「あの子から見たあの裁判官の印象、それなんだ。」
と相手の弁護士が裁判官に同情する。
「いいですか?モテモテのイケメン弁護士だってあなたの知らない苦労があるんです。あなたには一生縁がないであろう苦労があるんです!!」
「すげえ、あの子、裁判官を骨まで叩き斬っているよ。」
彼女に逆らったら、自分もどんな言われようだったか。指示されたとおり黙って着席してよかったと、相手の弁護士は胸を撫で下ろした。
「そんな…一生縁がないって決めつけなくても…。」
今はモテてないけれど、いつかは潮目が変わるかもしれないじゃないか。しかし、骨まで叩き斬られた裁判官に琴子に反論する気力はもうなかった。

「そもそも、イケメンで優秀ということは人から妬まれるんです!それも想像を絶するほどの妬みを!それが天賦の才を持つ者の宿命なんです!!」
「あいつ、天賦の才なんて言葉をよく知ってたなあ。」
変なところに直樹は感心する。
「いいですか?入江先生は子供のころから見目麗しく、勉強もスポーツも出来た。でもそれすら親の七光りだと噂する人間が後を絶たなかったんです。親が芸能人だからって!」
「違う、俺の親は芸能人じゃねえ!」
直樹が否定しても、琴子に耳には届いていなかった。
「でも先生は努力をしたんです!全力を出せばもう七光りなんて言わせないって!それでみんなその実力を素直に認めるようになりました!先生の実力で雑音をシャットダウンしたんです!」
「シャットダウン」のところを妙に巻き舌に発音する琴子であった。
「それでも、先生は妬まれました。それが天才の宿命。その才能に嫉妬するものは後を絶たなかった。」
目を閉じ琴子は自分の世界にすっかり入り込んでしまった。
「まんじゅうが入っていると思い重箱を開ければ泥まんじゅう。パイをいただきますと食べたら中に仕込まれたガラスで口の中は血だらけ。でも先生は負けなかった!!」
「何をしたら…。」
「そんな嫌がらせをされるわけ?」
裁判官と相手の弁護士は直樹を見つめた。直樹は「違う」と首を横に振ろうとする。
「先生は負けなかった!理想の弁護士像を追い続けて…山に籠もり、狼の心を掴んだんです!!」
「山月記!?」
裁判官、相手の弁護士、そして直樹までも声をそろえてその名前を言った。
「いや、山月記は虎だった…違う、そういうことじゃない。」
直樹は一人呟く。
「とにかく!モテモテ才能にあふれた人には凡人の中の凡人、ザ凡人のあなたには理解出来ないことばかりなんです!」
演説を終えた琴子は裁判官を見据えて言った。
「ドューユーアンダースターンド?」
「い、イエース。」
裁判官はつられて英語で返事をした。それを聞いた琴子は「よし、よし」と頷いた。
「じゃ、話はそこまでで。続きをプリーズ。」
琴子はストンと席に座った。そして再び英会話の本を開き「入国審査は…」とつぶやき始めた。

―― なぜ自分たちはこいつに裁判の進行を指揮されているのだ?

三人の脳裏に同じ疑問が生じたことは言うまでもなあった。



「いやあ、先生が文句言われているのをみたら、アユコが浮かんで来ちゃって。」
裁判終了後、琴子は頭に手をやって笑った。
「やっぱり…。」
「でも途中からマヨも入ってきて。やっぱ主人公最強だわー。」
「あの天狗マンガか。」
天賦の才という言葉もマンガで知ったのだろうと直樹は納得した。
訳の分からない演説だったが、裁判官は直樹を恐ろしい人物だと認識したらしい。
「きっと試験勉強中、気合いをいれるために泥まんじゅうを食べガラスパイを食べ、山で遠吠えをしてストレス解消していたんだ。これが本物の天才のすることなんだ!」
そう思ったかどうかは定かではないが、
「入江先生…あの…次回は○月×日でよろしゅうございましょうか。先生のご都合が悪かったら、違う日を考えます。」
と、ものすごくへりくだった態度になってしまった。

「…先生、怒ってます?」
黙り込んでしまった直樹に琴子が不安そうな目を向ける。まったく、本当に何をするか分からない。
「お前が俺を守ろうとしてくれたんだから、怒ってはいないよ。」
一応、あの裁判官に倍返し以上のことをしてくれたわけだし。それにそれだけ琴子は自分を愛してくれているということで。
「よかった。」
ホッとした琴子の顔は可愛かった。
「昼飯行くか。」
「私も!」
「ステーキ食いたくなったわ。」
「私も!」
「でも、まんじゅうとパイは当分いいわ。」
「大丈夫です。ちゃんとあんことかフルーツが入ってますって。」
「どうかなあ。」
「もう先生ったら。」
こうして今日も入江法律事務所の二人は仲むつまじいのである。



関連記事
12:00  |  入江法律事務所  |  CM(3)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2020.02.06(木) 13:53 |  | 

●仕事中に読んではいけないものでした。

水玉様 お久しぶりです~。
弁護士直樹とパーパラリーガル琴子ちゃん
めっちゃ笑わせてもらいました(笑)
仕事中にもかかわらず、ちょっと息抜きとサイトに来てみたら
更新されてて大喜びで読んで・・・腹がよじきれそうになりました。

部下から、「何見て笑ってんスか?」って零下30度の視線を
いただいちゃいました(笑)
この二人の話も大好きです。
やっとパパさんにお許し貰えたことだし。。。
ちゃんと結婚式挙げてやってください。
あと、琴子ちゃんに特大ステーキ食べさせてあげてください!

花粉にインフルに新型コロナといろんなものが飛び交ってますが
お体に気を付けて、また楽しいお話を書いてくださいね☆
六華 | 2020.02.06(木) 15:29 | URL | 

●管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2020.02.20(木) 22:19 |  | 

コメントを投稿する

URL
コメント
パスワード  編集・削除するのに必要
非公開  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

 | HOME |