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2019年12月20日(金)

水面に映る蓮の花 30

お返事が全然できずに申し訳ありません。
全て読んでおります。本当にありがとうございます。
もう読んでく下さる方はいらっしゃらないかもなあと思うタイミングでコメントがいただけるので、すごく嬉しいです。

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自分の命が狙われていたことを桔梗から知らされた琴子は、顔面蒼白になった。
「桔梗が最近厳しい顔をしていたのは、そういう理由からだったのね。」
「はい。万が一のことを考えまして。」
それから琴子は厨で起きたことを細かく桔梗から聞いた。全てを聞き終えた時、琴子は言った。
「ありがとう、桔梗。そなたのおかげで助かりました。」
「とんでもございません、姫様。」
「そなたがいなかったら、私はここにこうしていなかった。本当にありがとう。でも。」
琴子が続けた。
「桔梗がその女官を問い詰めた時、もし本当に毒味をしていたらどうしましたか?」
「え?」
予想外の琴子の質問に、桔梗は驚いた。
「今回は女官が毒味をせずに逃げようとしました。でも、もし口にしていたら?」
「それは…。」
琴子は冤罪であった時を心配しているのかと桔梗は思った。
「犯人でなかったということではないわ。桔梗がそこまで確信を持ったのだからその者が犯人であったことは間違いないでしょう。私が言いたいのは、その怪しい汁物を口にして女官が倒れたらということ。」
「倒れたら、でございますか?」
それは自業自得だろうと一瞬思ったが、そのような答えを琴子が待っているわけない。女官が混入させようとしていたものは幸いというべきか猛毒ではなく、過剰摂取となる薬の量だったと聞いている。命を奪うまではないが、一時は重症となる可能性は大きかったということだった。

「桔梗、直樹様が一番心を注いでおいでのお仕事は何か知っているでしょう?」
考えをめぐらせ続ける桔梗に、琴子が話しかけた。
「はい、医学のお仕事でございます。」
「そう、医師として公務の合間をぬって患者の治療をされているわ。私はその直樹様の妻なのよ。」
最も今では妻と呼ばれるにふさわしいのか分からない状態だがと、琴子は自嘲気味に笑った。
「医師の妻として、人を傷つけるようなことはできないし、傷つけることを許すこともできないわ。」
「あっ…。」
漸く琴子の真意が分かった桔梗は「お許し下さいませ」と頭を下げた。
「叱っているわけではないわ。桔梗は間違ったことをしていない。それは私も分かっている。だけどもし、女官が口にして倒れていたらと思うと…ね。いくら悪事に手を貸した者とはいえ。」
琴子は平伏する桔梗の背に手を置いた。
「難しいところね。他人の命を奪おうとした者が罰せられることは私には口を出すことはできない。もちろん、罰せられるべきだとは思う。でも自分が被害者になると…医師である直樹様の妻として行動に気をつけたいと思う。」
「仰るとおりでございます。」
「桔梗、勘違いしないで。私は責めているわけではない。命を救ってくれたことに感謝はしているのよ、本当に。だけどそういう気持ちが私の中にあるということを聞いてほしかっただけなの。桔梗を辛い目に遭わせたことは私に責任があるわ。許しておくれ。」
「とんでもないことでございます。」
琴子の考えが分かり、桔梗は顔をなかなか上げることができなかった。


桔梗が捕らえた女官及び直樹が捕らえた偽医師の白状により、やはりこのことを仕組んだ者も柘榴だとすぐに判明した。
「すぐに牢へ入れるように。」
後宮内の出来事ということで、王妃の厳命が飛んだ。柘榴はもうこれまでかと観念したのか、大人しく牢へ入った。

柘榴が入牢してから三日目の夜のことであった。
「柘榴…。」
名を呼ばれて柘榴は振り向いた。
「欅宮様。」
懐かしい主人の顔がそこにあった。柘榴は格子に駆け寄った。全ての装飾品は奪われ、粗末な衣装のその姿はかつて欅宮の筆頭女官としての威厳はなかった。
「どうして、勝手なことをしたのだ。」
欅宮は、琴子への異物混入事件についてはまったく知らされていなかった。
「それは…。」
今までは何をするにあたっても、主人に全て相談してきたのに。欅宮は勝手なことで牢に入ることになった柘榴に裏切られた気持ちでいっぱいだった。
「それは…私の誇りを傷つけられたからでございます。」
「そなたの誇り?」
しばし考えた欅宮は「ああ」と思い出した。
「あの小娘に馬鹿にされたと噂が少し前に流れたな。そのことか。」
「…左様でございます。」
「それだけではなかろう、柘榴。」
長いこと仕えてきた柘榴が、そのような私的な恨みで大それたことを考えることはないと欅宮は思った。
「他に何かあったのだろう。」
「他に…それは…。」
「それは?」
「…宮様のお気持ちが私から離れてしまわれたと焦ったのでございます。」
涙を流しながら、柘榴は告白した。
「私がそなたから離れる?そなたのことは忠実な女官として思っていたが?」
「ですが最近は…私のことを信頼してくださっていなかったのではありませぬか?」
涙ながらに柘榴が欅宮を見上げた。
「もちろん、私が失敗していたことが不愉快でいらしたのでしょう。ですが…何だか宮様は私にあきれておいでだったような気がするのです。」
「あきれていた…か。」
欅宮は哀れな視線を柘榴に向けた。
「あきれてはおらぬ。だが、失望はしていた。いや、失望というより悲しみの方が深かった。」
「悲しみと仰いますと?私が宮様を悲しませたと仰るのでしょうか。」
「そうだ。」

欅宮は懐に手を入れ、布に包まれたものを取り出した。そして布をそっと開いた。
「これを覚えているか?」
「もちろんでございます。」
それは琴子を陥れる際に使った、欅宮の髪飾りであった。
「そなた、これをなぜあの時に使った?」
「それは、宮様が一番大事にしていらっしゃるものだからでございます。その方が小娘の罪が重くなると思いました。」
なぜ今頃そのようなことを聞くのだろうかと、柘榴は不思議でならなかった。
「そう、私が一番大事にしているものだ。それは間違いない。ならば、なぜ私が一番大事なものがこれなのか、柘榴、そなたは分かるのか?」
「それは…。」
柘榴は髪飾りと欅宮の顔を何度も交互に見ながら、考えた。
「私は確かにこれが一番大事だ。だから女官の手にまかせず、手入れもこれだけは自らしておる。柘榴、そなたにも手入れはさせたことはない。」
確かにその通りであった。他人の手に任せたくないほどの宝物であることは柘榴にもよく分かっていた。
「一度しか話したことがないから、覚えていないのも無理はないが…。」
思い出せそうにない柘榴に、欅宮は悲しげに微笑み髪飾りを元のようにしまった。
「一度だけそなたに話したのだがな。それを覚えていなかったのか。」
「宮様。」
「…桔梗ならば覚えていたであろうな、きっと。」
「宮様!?」
そこであの憎らしい桔梗の名前が出てくることに、柘榴は驚いた。
「桔梗ならば…あの小娘が一度しか口にしないことであっても必ず覚えて、その意をくんだであろう。」
柘榴に聞かせたかったのか、それとも独り言だったのか。欅宮は呟くと、柘榴に背を向けた。そして出口に向かって歩き出した。

唖然として主人の姿を見送っていた柘榴は、少しするとハッとなった。
「思い…出した…あの髪飾りは…。」
そして格子を両手で掴み、叫んだ。すでに外に出てしまった欅宮に聞こえるように大声で叫んだ。
「宮様…っ!!お許しを…お許し下さいませ!!私が私が悪うございました!!浅はかでございました!!」
しかし、その声は欅宮に届くことはなかった。



鴨狩は東宮の御殿へ向かってくる集団に気づき、出迎えるために外へ降りた。
「これは東宮妃様。」
「鴨狩、東宮様はいらっしゃいますか?」
久しぶりの琴子の訪問であった。
「はい、おいででございます。」
「このたびのこと、東宮様が桔梗に教えて下さったと聞きました。お礼を申し上げるために参りました。ああ、鴨狩にも本当に世話になりました。礼を申します。」
「滅相もございませぬ。」
「取り次いでくれるか?」
「もちろんでございます。」
嬉しそうにニコニコとして、鴨狩は御殿内へ声を張り上げた。
「東宮様!東宮妃様がお越しでございます!」
自ら犯人の一人を捕まえた直樹である。もう仲直りの時分だろう。もしかしたら、琴子はこのまま東宮の御殿へ泊まることになるかもしれない。鴨狩は心が浮つくのを止められなかった。
が、鴨狩の気持ちとは裏腹に、返事がなかった。
「東宮様?」
聞こえているはずなのにと、もう一度声を張り上げようとした時である。
「通すことはならぬ。」
冷たい返事は、外で待つ琴子にも届いた。
「な、直樹様?」
耳を疑った鴨狩はその名を呼んだ。
「琴子様は此度のことのお礼にいらして…。」
「礼など言われる筋合いはない。」
また冷たい声が響いた。
「名ばかりであろうが正妃が面倒に巻き込まれそうになったのだ。東宮としての体面を保ったまで。騒ぎが大きくなり臣下たちの戯言が増えたら厄介だっただけ。」
「直樹様…。」
それ以上何を言っても、直樹が琴子を通すことはないと鴨狩は分かった。仕方なく鴨狩は琴子の元へ戻った。
琴子は怒ることもなく、微笑んだ。が、その目は悲しげだった。
「名ばかりの正妃…東宮様にそのように言われてしまいましたね。」
「そのようなことは決して…。」
「…よろしくお伝えしておくれ。」
そして琴子は「戻る」と後ろの桔梗を始めとする女官達に告げ、鴨狩に背を向けた。が、女官達の筆頭として立っている桔梗が動こうとしない。
その顔は般若のごとき恐ろしさで、今にも髪に飾っている簪を引き抜いて直樹と刺し違えに向かうのではという雰囲気であった。
「き、桔梗殿…。」
桔梗が御殿へ歩き出したら体を張って止めねばと、鴨狩は覚悟した。
「桔梗!」
しかし、珍しく厳しい琴子の声がそこに響いた。
「戻ると申しておるぞ!」
「…かしこまりました。」
鴨狩に分かる桔梗の気持ちが、琴子に分からないはずがない。桔梗は渋々琴子に従ったのだった。
そして琴子達を見送る鴨狩は一人呟いた。
「今の言い方、琴子様は東宮妃として威厳が出てきたものだ。」
それに比べてと、鴨狩は御殿を見やった。
「我が主は逆に…どうしてあそこまで意地を張られるのか。」
名ばかりの正妃などと聞こえよがしに言って、本当に琴子が位から降りると言ったらどうするつもりなのだろうか。その時に後悔しても遅いのにと深い溜息をつく侍従であった。






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 | 2019.12.21(土) 14:37 |  | 

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 | 2019.12.22(日) 12:39 |  | 

だめだこりゃ!つなぎ留めたいくせに、直になれずというか、ぎりぎりにならなきゃ動けない直樹、本当に後悔しても遅くなるよ、桔梗姫様のためならて感じv-14
なおなお | 2019.12.22(日) 18:39 | URL | 

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 | 2019.12.23(月) 19:46 |  | 

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