日々草子 水面に映る蓮の花 27
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水面に映る蓮の花 27

二か月も間を空けて続きをお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
ところで、ブログバースデーを迎えて初心に戻って、記事にするまでのないことをこの場で色々呟いてみようかと。
母が突然「玉ちゃんは、敵情視察するためにあの店に入ったのよ!!!」と叫んだのを受け、
「…玉ちゃん、そんな器用な子じゃないわ!」と答えた私です。母の話しについて行けた自分を褒めてやりたい(笑)
私は私で役柄と演者がごっちゃになってるなあ。「玉ちゃん、可愛いのう」という意見は一致しているんだけど。
あの話かと分かった方、ぷぷぷと笑って下さると嬉しいです(勝手ですが、嫌いな方は何も触れずにスルーして下さいね。自分の好きなものを嫌いと言われると傷ついちゃうので(泣))。

☆☆☆☆☆





東宮妃が戻ったとはいえ、雀殿は忘れ去られた御殿と宮中で揶揄されていた。東宮が訪れることがないからである。
「東宮妃様、よろしいでしょうか。」
居間で一人過ごしていた琴子に、桔梗が声をかけた。
「何です、改まって。」
居間に入ると、桔梗は出入り口に控える女官たちに目配せをした。女官たちは一礼するとその場を離れた。
「他の者に聞かれたくない話?」
琴子の手元には書物のようなものが置かれていた。
「そちらは画集でございますか?」
「ええ、裕樹様からお借りしているものよ。」
寂しく過ごしている裕樹が琴子を慰めるため、先日持参したものだった。
「本当にお優しゅうございますね。二ノ宮様は。」
「ええ。」
そして琴子は桔梗を見て、話をするよう促す表情を見せた。
「姫様…。」
桔梗は決意した顔を向けた。
「おもいきって、ご実家に下がられてはいかがでしょうか?」
「え?」
「姫様はこれまでお辛い思いをたくさんされておいででした。先日まで冷宮にもいらして。ここ雀殿は姫様の御殿とはいえ、宮中はどうしても騒々しい場所でございます。落ち着かれないことでしょう。」
「桔梗…。」
「一度、静かで人の噂など聞こえない所にいらして御静養あそばせ。二ノ宮様もそう仰られたことがございます。」
「裕樹様が?」
「はい。姫様をご心配されておいでなのです。」
桔梗の話を聞いて、琴子は考える様子を見せた。そして、首を横に振った。
「…実家へは戻らないわ。」
「姫様。」
「私が今戻ったら、父上が心配するわ。今でもきっと心配しているでしょうに。」
「お父上様にお顔を見せるだけでも。」
「却って、心配かけるだけよ。あともう一つ。」
「もう一つとは?」
「今、宮中から下がったら二度と戻れない気がするの。」
「そんな!一時的ですよ?下がるのは一時的…。」
「いいえ、そうはならないわ。」
きっぱりと琴子は告げた。
「絶対、戻れない。」
そう言われるとそうなるかもしれないと桔梗は思った。直樹がどういう行動に出るか予測できない。そのまま廃妃になりかねない。
「きっと、宮中の者たちは私を東宮妃の座にこだわる愚か者だと笑うでしょうね。」
「そのようなこと、ご心配あそばされないよう。」
「ねえ、桔梗。冷宮で私が話したことを覚えている?」
「姫様がお話になったこと?」
そこは長年仕えて来た桔梗である。すぐに分かった。
「東宮様のお側にいたいと…仰っていましたね。」
「ええ。」
琴子は恥ずかしそうに微笑んだ。
「たとえ相手にしていただけなくとも、少しでも直樹様と近い距離にいたい。今でもその思いは変わっていないの。」
「私が愚かでございました、姫様。」
そうだった、あの時琴子の直樹への強い愛情を見たというのに。すっかり忘れていた自分を桔梗は恥じた。
「そんなことないわ。桔梗は私のことを思って言ってくれたのだから。」
琴子は桔梗を慰めると続けた。
「意地っ張りな主人でごめんなさいね。」
「私は、姫様にお仕えできること誇りに思っておりますよ。」
桔梗は涙ぐみながら、微笑んだ。

「…ねえ、桔梗。」
再び画集をめくり始めた琴子が、呼びかけた。
「まずはお前に言っておこうと考えていたのだけれど。」
「何でございましょうか?」
「このところ、ずっと考えていたのだけれど。」
「はい。」
「直樹様…東宮様に側室をおすすめしようかと思っているの。」
「え!?」
桔梗は耳を疑った。
「ほ、本当でございますか?」
「ええ、本当。」
たじろぐ桔梗とは別に、琴子は落ち着いていた。
「私には未だ、お子ができない。そろそろ側室をすすめねばならない頃でしょう。」
「欅宮様のことを気にして、そのようなことを?」
前から子が出来ないことを欅宮から責められていた琴子であった。
「いいえ。東宮妃として当然のことをするまでのこと。」
確かにその通りであると桔梗も分かっていた。正妃から世継ぎが誕生することが望ましいが、それが叶わない時は側室をすすめる。それも正妃の役割であった。
「もっとも、正式に選ぶ際は義母上様のお力が必要だけれど。」
「本当によろしいのですか。」
「ええ。それくらいせねば。」
「姫様…。」
「義母上様にお伝えしておいて。桔梗は東宮女官長なのだから。」
「…かしこまりました。」
琴子の決意が揺るがないものだと分かった桔梗は、そう返事するしかなかった。
琴子の前から退出する際、桔梗は気づいた。この話をする間、琴子は画集から目を上げなかった。一度も自分を見なかった。話をする際は必ず、相手の目を見る琴子なのに。
―― やはり、本心から出た言葉ではない。
だが、本心を押し殺しても生きねばならない、それが宮中というところであり、東宮妃という立場を選んだ琴子の生き方なのだ。桔梗は我が身を切られるような辛さであった。



「東宮様、王妃様のおいででございます。」
さすがに王妃が相手とあって、いつもの調子とは違う鴨狩の声色に直樹はだらしなく寝ていた体を慌てて起こした。
「母上が?」
通す前に散らかった書物を片付けねばと直樹が考えるより先に、「入りますぞ」という王妃の声と共に入口の扉が開かれた。
「まあ…これは何という散らかりよう。」
いつの間に自慢の息子はこのようにだらしなくなったのか。王妃は深い溜息をついた。
「私はどこに座ればいいのですか?」
「こちらにどうぞ。母上。」
自分の席を直樹は勧めた。王妃は黙ってそこに腰を下ろした。
「まるで兄と弟が逆転したようですね。最近は裕樹がしっかりしてきて。」
「そのようなことをわざわざ仰りにいらしたのですか?」
母の嫌味を無視し、直樹は聞いた。
「…育て方を間違えたのか。このような者のために、東宮妃がせずともよい苦労を。」
「琴子のことでいらしたのですか。」
「東宮妃より申し出がありました。」
「実家へ戻ると?」
「違います。そなたに側室をとのことでした。」
「側室?」
これは意外なことであった。もうここで暮らすのは辛いと泣きついたのかと思ったのに。
「子ができぬことに加え、そなたに仕えることもままならないと。私としては仕えさせてもらえないの間違いだと言ったのですが。」
王妃は再び嫌味を口にした。
「…夫婦のことは、他人には分からないこと。母上もそうではありませぬか。」
「そうですね。私も東宮妃がそのようなことを口にするまで追い詰められていると全く理解できておりませんでした。」
さすが東宮の生みの母である。一歩もひるまず渡り合っている。
「子ができぬと悩むのはまだ早いと申しました。が、東宮妃の決意は固いようです。私がいくら説得しても翻意させることは無理でした。」
「それで、側室をすすめに母上が?」
「正式な側室を募るのは王妃の名で行うことですから。どうしますか?」
「…琴子の好きなように。」
直樹の返事に、王妃は深い溜息をついた。
「…本当に、戻れぬところまで来てしまっているのね。」
息子夫婦がここまで溝を深めているとは。もう自分たちがどうこう口に出しても無駄ということか。
「ならば、時を見計らい私が命令を出します。名家のしかるべき姫君から迎えましょう。」
「母上も家柄にこだわるのですか。」
あきれたように直樹は笑った。
「東宮妃の実家より名家であると、琴子が困るのでは?」
「それも東宮妃の希望なのです。自分のような目に逢わぬようにと。私としては、せめて…。」
「せめて?」
「東宮妃と仲良くしてくれる、心根の優しい側室をと考えております。そなたとて、正妃と側室が醜い争いを繰り広げるのは見たくないでしょう。」
「女の争いは醜いものですからね。」
何を言っても、暖簾に腕押しとはこのことか。話をここまでにして、王妃は散らかった室内を見回した。
「まるで兄と弟が逆転したような。成人した者の部屋とは思えぬ。」
「ならば、東宮の地位も裕樹に譲りましょうか、お望みならば。」
「直樹!」
これは言い過ぎたと、叱られた直樹は俯いた。が、その口は本音を少し漏らした。
「私がこの地位にいなければ、私も琴子も幸せに…いや。」
直樹は自嘲するよう薄笑った。
「…東宮でなければ、琴子と出会わなかった。」
それが悲しみを含んでいたので、王妃は叱れなかった。
王妃は散らかった書物の一冊を手に取った。
「最近、医師としての仕事もしていないと聞いていますが。」
「謹慎を命じられておりますゆえ。」
「まさか、患者を傷つけたのですか?」
「…それ以前の問題のようです。詳しいことは師の君にお聞きに。」
王妃は書物をめくった。何が書いてあるのか理解できない。
「更にあきれましたか、母上。」
「…医師の務めは私には分かりませぬゆえ。」
医師として失格の烙印を押されたとしても、東宮として、未来の王としての務めは果たしていることは知っている。我が息子ながら非常に頭の切れる有能な若者であることも。
妻一人幸せにできない男を東宮として置いていいのかと思うが、それと公務は別に考えねばならないのである。そして王妃の立場から東宮をその座から下ろすことを王に進言することはできないこと。王妃には王妃としての役割がある。その一つは、東宮妃からの側室の申し出を受けることもあった。こちらも本心を隠してせねばならない辛い王妃の務めであった。

王妃は手にした書物を机の上に置くと、立ち上がった。
「誰ぞ、いるか。」
「はい、王妃様。」
外に控えていた鴨狩の声が聞こえた。
「この部屋を片付けさせるように。」
「かしこまりました。」
「私は戻ります。」
扉が開き、王妃はその間を静かに歩いて行った。



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玉ちゃんは、良い子です。

間違いなし❗️

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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