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2019.09.11 (Wed)

水面に映る蓮の花 24

コメントと拍手をありがとうございました!
待っていて下さって、本当にうれしいです。

☆☆☆☆☆


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「あれは?」
木の陰からはみ出ている衣装の端を見つけて、桔梗は笑みをこぼした。
「二ノ宮様。」
こっそり後ろに回り声をかけると、裕樹は「うわっ!」と声を上げた。
「な、何だ。驚かせやがって。」
「失礼いたしました。でもこのような所でかくれんぼですか?」
「子供扱いするな。」
頬を膨らませて裕樹は桔梗を睨んだ。が、すぐに顔を元に戻して言った。
「琴子は…元気になったのか?」
宮中にも取った早々、また寝込んでしまったという話は裕樹の耳にも届いていた。
「大分よくなられましたよ。でも焦らないようにと医師長様からきつく言われておりますゆえ。」
「うん、そうだな。僕も母上に雀殿へ行くなときつく言われているんだ。」
「王妃様に?」
「僕が行くとうるさいからとか、琴子がゆっくり休めないとか…。」
それでも気になってここから覗いていたのかと、桔梗は裕樹の優しさに胸が詰まる思いだった。
「じゃあ、戻る。」
「お待ちを。」
戻ろうとする裕樹の手を桔梗が握った。
「今日は姫様、朝から起きていらっしゃいます。ご気分もいいようでお会いになられては?」
「で、でも…母上が…。」
「大丈夫でございます、王妃様には私が無理に宮様をお連れしたと申し上げます。」
「そんなことをさせてまで…。」
「姫様もきっと宮様にお会いしたいと思っていらっしゃいますよ。」
有無を言わせず、桔梗は裕樹を引っ張って雀殿へ連れて行った。



「まあ、裕樹様!お久しぶり!」
「お、おう。」
琴子はゆったりとした格好で居間にいた。裕樹を見るその顔は以前より明らかにやつれていた。
「げ、元気そう…じゃないか。」
「はい、もう大分良くなりましたけど桔梗がうるさくて。」
「ご無理は禁物ですわ。」
お茶を運んできた桔梗に軽く睨まれると、琴子は肩をすくめた。
「そ、その…。」
裕樹は居心地悪そうに身をよじらせていた。
「どうかなさいましたか?」
「ええと…。」
「王妃様には私が無理にお連れしたと申し上げますよ?」
母に叱られることを恐れているのかと思った桔梗が念を押した。
「宮様は、王妃様にこちらにいらっしゃると姫様の邪魔になるからと言われていたとか。」
「まあ、王妃様が気遣って下さったのですね。でも大丈夫ですよ、私からちゃんと王妃様に裕樹様のお優しさをお話しますから。」
「そんなことじゃなくて。」
裕樹はお茶を一気に飲み干した。
「…お前があっちに行く前にひどいことを言ったから。」
「ひどいこと?」
「その…ほら、好美のことで、さ。」
琴子を助け出すことに無我夢中になっていた時は忘れていたのだが、冷宮へ琴子が行く前に諍いをしたことを裕樹は忘れてはいなかった。「貧乏貴族の娘」と、何と酷いことを言ってしまったのか。それで裕樹は王妃に足止めされたことで少しホッとしつつ、でも会いたい気持ちも抑えられずにいたのである。
「好美殿のことで、余計なことを申し上げた私が悪かったのです。」
あのときは追い詰められており、気持ちに余裕がなかった。自分のような苦しみを味合わせたくないばかりに、先走りしたことを言ってしまった琴子であった。
「でも、お前の立場とか考えたら心配するのも当たり前だよな。」
宮中はそれほど、身分やら後ろ盾やらにうるさい所なのだと琴子の冷宮行きで改めて分かった裕樹だった。それがないばかりに琴子が未だに苦労をしていること、そしてこの先も苦労して行くことも。
「ごめんなさい。」
裕樹はガバッと頭を下げた。
「私もごめんなさい。」
琴子も頭を下げた。

「おふたりとも、頭をお上げくださいませ。私はどうすればよろしいのですか?」
桔梗がオロオロと二人の後頭部を見比べている。
「お前も頭を下げろ。」
「は、はい。」
訳が分からぬまま、裕樹に命令されたとおり桔梗は頭を下げた。

三人で頭を下げていたが、琴子がたまらず吹き出した。
「何だかおかしいですね。」
「本当だ。」
「そうですわね。」
三人は笑いながら頭を上げた。
「そうだわ。桔梗、裕樹様のお好きな餅菓子を後で作ってお届けして。」
「え!」
裕樹の顔が輝いた。
「そんな…僕が餅菓子目当てで来たかのようではないか。」
渋りつつも、その顔はしまりのないものになっている。
「かしこまりました。後で宮様の御殿へお届けいたしましょう。」
昼の食事は軽くしておこうと考えた裕樹であった。
「そうだ、今度春也と好美を連れて来てもいいか?」
「はい、もちろん。裕樹様とご一緒に私を助けて下さったんでしたね。」
裕樹と好美の記憶力と春也の行動で濡れ衣が晴れたことは、琴子も聞かされていた。
「本来ならば私からお礼に伺うべきなのですが。」
「何を言っている、お前はおとなしくしてろ。」
琴子の体を気遣いつつ、東宮妃という立場なのだからここででんと構えていればいいという意味を込めて裕樹は言った。
「二人ともな、お前は絶対あんなことをする奴じゃないと言っていたんだ。」
「本当に素晴らしい方々。」
「うん、あの二人といると楽なんだ。」
「ぜひともこちらへおいでくださいませ。桔梗の餅菓子も他のお菓子もたっぷりと用意しておきますから。」
「それは楽しみだ!」
久しぶりの楽しい一時が雀殿に流れたのだった。



「なあ、桔梗。」
桔梗に送られて帰る途中、裕樹が口を開いた。
「兄上に会ってもらえずに琴子は倒れたのだろう?」
「宮様…。」
「宮中はくだらないお喋りで暇潰す奴らが多いからな。」
のこのこ戻って来た琴子を嘲笑う者が多いことを、裕樹の言葉が示していた。
「宮様は姫様の前で兄上様のことを口にされませんでしたね。」
「まあ、な。」
裕樹は足を止め、桔梗を見上げた。
「琴子は…実家に戻った方が幸せなのではないか?」
「宮様…。」
「誤解するなよ。別に廃妃になれなんて僕は思ってない。だけど生まれた時から暮らしている僕ですらうんざりするところが宮中なんだ。琴子はどれほど辛いか。病み上がりというかまだ調子がよくない琴子にとっては良い環境じゃない気がする。」
「お優しい方ですね、宮様は。」
「正直、兄上は何をお考えかまったく分からない。母上だって呆れて会っていないし、僕もお目にかかっていない。桔梗だって兄上に苛々してるだろう?」
「…。」
黙っている桔梗に、
「すまない。お前の立場では兄上に文句など言えないな。」
と裕樹が言ったのだった。


「…弟宮様は幼いのにお優しいことで。」
裕樹に気遣われた桔梗であったが、鴨狩に率直な気持ちをぶつけていたのはその日の夕方、餅菓子を裕樹に届けた帰りであった。
「あのお優しさのかけらが東宮様にあればと思います。」
「…確か私に謝りに来たのでは?」
鴨狩に嫌な顔をしたことを謝れと琴子に言われ、ようやく足を運んだ桔梗であった。が、謝罪はそこそこに溜まっていた鬱憤をぶつけていた。
「あんまりですわ。」
「それはそう思う。」
「なんで面会も拒まれているんでしょうねえ。いいですか、鴨狩殿。姫様はあの冷宮でも直樹様を思っていらしたのですよ。お空を眺めて。おいたわしくておいたわしくて。」
「分かっている。」
「分かってないでしょうが。私も正直、姫様にご実家へ戻ることをおすすめしようかと思っております。」
「…それもありかも。」
「はあ!?」
お前がそれを受け入れるのかと、桔梗は鴨狩を睨んだ。
「今の直樹様は、ますます余裕がない。」
「なぜゆえに?」
「師の君様にお叱りを受けたのだ。」
「何か失敗でもなさいましたの?」
「…琴子様のこと。」
「姫様の?」
「妻を気遣わない態度に師の君がお怒りになったのだ。」
「ほう…。」
最初に王妃が直樹に妻を診察するよう言ったとは女官長から桔梗は聞いていた。が、それを拒んだゆえに医師長が診察しているのである。そして戻った琴子を拒否したという話は医師長も聞いているだろう。
「そのような者に他人の命を任せられるかと、しばし頭を冷やすようにと言われたのだ。」
「つまり直樹様も謹慎中ということですね。」
「これ。」
鴨狩は桔梗に向け口をつぐむよう言った。が、その通りであるのは間違いない。
「それで目が覚められるとよろしいですけれど。」
「ご夫婦のことご夫婦にしか分からないのだ。」
「はいはい。」
頼りにならない侍従だと思いつつ、でも自分たちの立場ではそれが限度とも分かる桔梗はそれ以上鴨狩を責めなかった。そして、直樹の謹慎については琴子の耳に入れなかった。


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 |  2019.09.11(水) 16:34 |   |  【コメント編集】

★頑張れ!琴子ちゃん(>_<)

水玉様 短い期間での更新ありがとうございます。
琴子ちゃん、辛いですね。。。
王妃や弟宮の裕樹が優しくしてくれるから何とか
やっていけてるけど、やっぱり一番は東宮直樹と
仲良くやっていくことですもんね~。
何で直樹は・・・<(`^´)>
早くラブラブ❤な二人に会いたいよ~!!
六華 |  2019.09.11(水) 18:20 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2019.09.11(水) 21:45 |   |  【コメント編集】

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