FC2ブログ
2019年12月 / 11月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫01月

2019.02.23 (Sat)

水面に映る蓮の花 17

本当に月刊誌連載のごとくになってしまって申し訳ありません。
月刊誌ならばもっと1話分の量多く書かねばいけないのでしょうが。

☆☆☆☆☆



【More・・・】



―― また、外にいらっしゃる。
東宮妃の御殿で暮らしていた時、いや、実家が貧しき時よりも更に粗末な食事を終えた後、琴子は決まって外に立って空を見ていた。
「姫様…。」
「え?ああ、私も手伝うわ。」
食器を手にした桔梗を見て、琴子が室内へ戻ろうとする。
「いえ、これは私が。」
慌てて桔梗が片付けに行こうとすると「何を言うの」と琴子が止めた。
「もう私と桔梗の二人だけなのだから。」
「ですが、姫様に手伝っていただくほどの数ではありません。」
桔梗がつい笑ってしまうほど、食器は少なかった。
「姫様、お腹がすきませんか?」
「大丈夫よ。桔梗は?」
「大丈夫です。」
それでも琴子が手伝うと言ったので、結局それぞれが自分の分を洗った。
「昔もこうやって二人で家事をしたわね。」
「そうですね。」
あの頃の方が琴子にとっては幸せなのではないのだろうかと、桔梗は悲しくなった。

そしてまた、琴子は外に出た。
「…外の空気を自由に吸える気がするわ。」
そんなことを呟く琴子であった。確かに、東宮妃として暮らしていた時は、琴子の後を女官たちが付いて歩く。それは窮屈だったかもしれない。
「姫様、東宮殿の方向は逆でございますよ。」
「えっ!?」
琴子が慌てて桔梗に言われた方向を見た。
「やはり…そうでしたのね。」
クスクスと桔梗に笑われた琴子は顔を真っ赤にした。
「…みっともないことをしていると思ったでしょ?」
「とんでもございません。」
琴子が直樹のいる所を見て、直樹のことを考えていることは桔梗にも手に取るように分かった。
「空は…冷宮も東宮殿も同じでしょう?」
がらくたとして積み上げられていた椅子に、琴子は座った。それはここに来たばかりの頃、桔梗と一緒に磨いたものであった。
「だから…直樹様も同じ空を見ていらっしゃるかもと思ったら。」
「ええ、きっとそうでございましょう。」
琴子の側に身を屈め、桔梗は励ました。
「でも、もう私のことなど考えていらっしゃらないわね。」
「そんなことはございません。直樹様は今ごろ…。」
「今ごろ…?」
琴子が桔梗を見つめその続きを待った。
「今ごろ」と言いかけたものの、「思い直して姫様を助けようとしている」とは言えない桔梗だった。正直、ここまで琴子を追い詰めたのは直樹であり、思い直すくらいならばこのような場所へ琴子を閉じ込める前に手を打ってくれるはずだろう。」
「ごめんなさい、桔梗。」
自分が答えにくい質問をしてしまったため、苦しめてしまったと琴子は桔梗に謝った。自分が直樹の名前など出したから。
「いいえ、姫様。さ、思う存分空をご覧くださいませ。私もご一緒にいいですか?」
「もちろんよ。ほら、月が綺麗だこと。」
「本当に。」
二人はしばし、空を見上げていた。



「雀殿は今後どうなるのかしら?」
「さあ…また全てを取り変えて新しいお妃を迎える御殿にでもなるのではなくて?」
下働きの女官たちが噂をしていると「んんっ!」という咳払いが聞こえた。
「これは二ノ宮様!」
通りかかったのが二ノ宮と気付き、下っ端女官たちが頭を下げる。二ノ宮―裕樹はギロリと睨むと、彼女たちの前を足早に通り過ぎた。
「あの物言いは何なのだ。まったく無礼な奴らめ。母上に言いつけてクビにしてやろう。」
「宮様、あまり乱暴なものの仰りようは…。」
「うるさい、黙れ。」
後を付いて来る侍従に一喝すると、裕樹は「雀殿へ向かう」と告げた。
「宮様、あちらは…。」
「何だ、お前まであそこに行くと運が落ちるとか言うつもりか?」
雀殿がそう言われていることは、裕樹の耳にも入っていた。それがまた腹立たしいのである。
「いえ、めっそうもない。」
「ならば黙ってついてまいれ。」
わざと大股で裕樹は歩き始める。侍従と女官が慌ててその後ろを付いて来る。

雀殿は全ての戸が下ろされ、人の気配は微塵もなかった。
「管理すらさせないのか…。」
まるで二度と琴子が戻らないかのような扱いではないか。
「宮様。」
眺めていた裕樹の元へ、どこにいたのか見張りの兵たちが姿を見せた。
「恐れながら宮様、こちらへ入られることは禁止されております。」
有無をいわせぬ口調、そして頑強な兵たちには裕樹もそれ以上進むことはできなかった。

「…まったく、どいつもこいつも!」
自分の御殿へ戻った裕樹は行儀悪くひっくり返った。チラリと傍らにまとめられた絵の書物を見る。
「…何だか描く気が全然起きない。」
東宮妃が廃妃寸前ということで宮中は大騒ぎとなり、裕樹の元へ絵の師匠が足を運ばなくなってどれほど過ぎただろうか。裕樹自身もとても好きなことをやる気分になれなかったことと、師匠もしばし参上するのを控えようという判断からである。
「つまらないなあ。」
このまま琴子に一生会えないのだろうか。冷宮まで思いきって行ってみようかとも思うが、先ほどの雀殿のごとく、屈強な兵たちに拒まれることは間違いない。
「宮様。」
ごろごろと転がっていると、外から女官が声をかけてきた。
「何だ?僕は今忙しい。」
寝転がりつつ、裕樹は不機嫌に答えた。
「好美様がお目通りをと。」
「好美だと!?」
何と、まさか好美が来るとは。
「通せ。」
裕樹は起き上がり威厳を正した。

「宮様、ご機嫌うるわしく…。」
「わけないだろ。」
一応型どおりの挨拶をした好美を前に、裕樹はやはり不機嫌だった。それでも、こうして訪れてくれることは嬉しいものである。
「師の君はお元気でいらっしゃるのか?」
「はい。」
「そうか。ご迷惑をかけて申し訳ないと僕が謝っていたことを伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
「それで?今日はどうした?」
何か師の君からの伝言があって娘である好美が来たのかと裕樹は思っていた。
「その…用件が特にあるわけではなく…。」
「は?」
好美の返事に、裕樹は少しがっかりした。
「何だ、それは?」
「いえ…父からも止められていたのです。宮様のご迷惑になるから訪れないようにと。」
「そうか、師の君が。」
やはり師の君は師匠と呼ぶにふさわしいと裕樹は胸が熱くなった。
「ですがその…。」
好美はもじもじとしながら中々その先を言おうとしない。
「何だ、早く。」
気が短い裕樹は好美の態度が気に入らない。
「用がなくて退屈だから来たのか?」
「いえ、そういうわけでは!」
そのような失礼なことではと好美が慌てる。
「じゃあ、何だ?」
「宮様はどうお過ごしかと心配で…参りました。」
「僕が?」
決死の面持ちの好美からの、思いがけない言葉に裕樹は呆気にとられた。
「僕がどうして?」
「東宮妃様があのようなことになられて、宮様が穏やかでいらっしゃるはずないですから。」
「ああ…。」
確かにそうだがと裕樹は言いかけたが、それを好美に見せるのは気が引けた。
「別に僕は…。」
「宮様が東宮妃様をお慕いされているのはよく存じておりますし。」
「僕が琴子を?琴子が僕を慕っているんだ。」
「失礼しました。はい、左様でございました。」
答えながらも好美は裕樹の本心を知っている。裕樹が琴子を慕っていたことを何度も目にしている。そして琴子も実の弟のように可愛がっていたことも。二人は実の姉弟のようだった。
「…お前も大体の事情は知っているのだろう。」
裕樹が好美に尋ねると、好美は頷いた。
「でも、事実は噂通りではございません。」
「ん?」
「欅宮様に東宮妃さまがされたということ、私は全然信じられません。信じておりません。」
好美は激しい口調で言った。
「宮様も信じていらっしゃいませんよね?」
「当たり前だ!」
好美が言い終わると同時に裕樹も言い返した。それを聞き好美はニッコリと笑った。その笑みに偽りは感じられなかった。
「宮様、大丈夫です。絶対に東宮妃様はお戻りになります。」
「うん…そうだ。絶対そうだ。」
裕樹が一番聞きたかった言葉を好美が言ってくれた。それだけで裕樹の心は満たされた。

「宮様、春也様がおいででございます。」
「何だって?」
好美だけじゃなく春也まで来たと、裕樹は驚いた。
「宮様、ご機嫌…。」
「うるわしいわけがない」と好美にした返答と同じことを裕樹が口にしようとした時、
「…うるわしいはずありませんね。」
と先に春也に言われたので、言いかけようと開けた口を裕樹は渋々閉じた。それを見て好美がクスッと笑ったのは聞き逃さなかった。
「何だ、お前。ここに来ていいのか?」
好美同様春也も、しばらく裕樹の元へ来ることを控えていた。春也は琴子の後見人である貴族の親類なので立場的にもっとまずいものだったからである。
「別に宮様の御不興をかって出入り禁止になっていたわけではありませんよ。」
変わらぬ調子で春也が言い返す。ああ、この言葉の応酬が気持ちいいと裕樹は懐かしくなった。
「そろそろご機嫌うかがいに行かないと、また宮様があちらこちらに八つ当たりをしているだろうなと思いまして。」
「してないし!」
「そうでしたか。被害が出る前に食い止められてよかったです。」
「被害も出さないし!お前、その…許可は得たのか?」
「どこからですか?」
相変わらず飄々としている春也である。
「親。」
「親?誰の?」
「お前のだよ!」
「ああ、宮様のご迷惑になるからと叱られましたが説得して。」
「僕の迷惑?」
好美の親と同じことを言うのだなと裕樹は思った。
「僕の迷惑というか…お前や親の出世の妨げになるんじゃないか?」
好美と違って、男である春也は今後出世していくのである。その将来を裕樹は気遣った。
「出世を望むのならば、宮様にお仕えしませんよ?」
何を今更と春也が答えた。
「もし私が出世をしたいと願うならば、欅宮様に今頃へーこらへーこらしてますって。」
カラカラと春也が笑った。つられて好美も笑い始めた。
「出世したければ私の両親だって今ごろ欅宮様にへーこらへーこらしてますよ。でも父も叔父も面白くなくて屋敷に籠ってますからね。」
「そうなのか…。」
「ただ、私がお側へうかがうと宮様のお気持ちを考えるとご迷惑になるだろうということで大人しくしてたのです。でもそろそろ行かないと宮様が手が付けられないことになるだろうと。」
「ならないよ!」
真っ赤にして反論する裕樹に春也と好美はとうとう声を上げて笑った。怒っていた裕樹も笑い始めた。
二人とも琴子を微塵も疑っていないことは同じであった。そして直樹のことも責めなかった。

ひとしきり話を楽しんだ後、好美を二人が門まで送ることにした。
「ま、わざわざ来てくれたから。僕は貸しは作らないのだ。」
そう言いつつ、裕樹が好美に感謝していることは明らかだった。
裕樹は供をつけなかったので、三人だけで歩いていた。一人の女官が裕樹の姿に気付き立ち止り頭を下げた。
「おい。」
そのまま裕樹が通り過ぎると思っていた女官、そして好美と春也は驚いた。
「お前…琴子…東宮妃の御殿に仕えていただろう?」
女官はハッとなり深く頭を下げ「左様でございます」と小声で答えた。
「見覚えがあっただけだ。行っていいぞ。」
女官は一礼すると裕樹たちと逆方向へ足早に去って行った。
「よく覚えていらっしゃいましたね。」
あれは琴子の側近くに仕えている女官ではなく、雑用を担当する女官であった。裕樹の目の前にいることはなかったはずだと春也が思っていると、
「一度僕にぶつかったことがある。」
と裕樹は答えた。
「手の甲に痣があったんだ。」
「ああ、なるほど。」
それならば記憶に残るだろうと、春也は納得した。

が、春也とは逆に今度は好美が首を傾げ考え込んでいた。
「何だ?どうした?」
裕樹が気遣うと好美は女官が去った方を見て、そして元に視線を戻した。
「あの女官は、東宮妃様の御殿にいたのですか?」
「そうだと言っただろ。」
裕樹の言葉に好美は更に首を傾げた。
「好美殿、どうしたのですか?」
また裕樹が怒りだす前にと、春也が訊ねた。
「欅宮様の御殿にお仕えしていて、東宮妃様の御殿へ変わったということはありますか?」
「そんなこと!」
「絶対にない!」
裕樹と春也が同時に否定した。
「あるわけがない。何を言ってるんだ、お前。」
「で、でも…あの女官は欅宮様の御殿にいたのを見たのです。」
「…え?」
一瞬呆気に取られた裕樹だが、「それはお前の見間違いだ」とすぐに言った。
「そもそも、お前がどうしてクソババアの所にいたんだ?」
「それは…迷ったのです。」
好美が恥ずかしそうに言った。
「私、まだ宮中に慣れていなくて。いつも迷ってしまって。今日も危うく王妃様の御殿へ行くところで。」
「まだ慣れていないのか。」
呆れる裕樹を「まあまあ」となだめながら、春也が続きを促した。
「前もそんなことがあって。それで見知らぬ御殿へ出てしまったのです。そうしたらあの女官ともう一人の女官が話している所を見ました。」
「本当に?」
裕樹が念を押すと、好美は頷いた。
「道を尋ねようと思って話が終わるのを待っていたのです。でも何だか尋ねる雰囲気じゃなくて。女官が通り過ぎた時、手の痣が見えました。」
懸命に話す好美であった。
「でも人違いということも…。」
「私も思いました。先ほど顔を見た時、あの時の女官だと思いました。でも顔をはっきりと覚えているかと問われると自信はなくて。宮様が痣の話をされて確信しました。あれは欅宮様の御殿にいた女官です。」
その目に嘘はなかった。
「なぜ琴子に仕える女官がクソババアのところにいたのだ?」
裕樹の呟きだけが、その場に響いたのだった。


関連記事
17:32  |  水面に映る蓮の花  |  CM(8)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2019.02.23(土) 19:06 |   |  【コメント編集】

好美ちゃん何か?ヒントになるよ❗やっぱりはめたな⁉️佑樹君、入江君に、暴いてもらいましようv-275
なおちゃん |  2019.02.23(土) 19:28 |  URL |  【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2019.02.23(土) 20:30 |   |  【コメント編集】

★待ってました~!!

水玉様、お久しぶりです!

そして17話ありがとうございます。

今年も、花粉が厳しい時期になりましたね。。。

そして、まだ、琴子ちゃんが苦境に立たされてる。

もう、本当に東宮直樹は何やってるんですかね(ꐦ°᷄д°᷅)

ヤキモキしてたら、なんとビックリ二の宮裕樹組から

有力情報!?

続きが楽しみです!!

今年も花粉症と上手に付き合いながらまた

続きをお願いいたします。

くれぐれもお体ご自愛くださいませ❤
六華 |  2019.02.23(土) 22:32 |  URL |  【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2019.02.24(日) 15:35 |   |  【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2019.02.24(日) 20:24 |   |  【コメント編集】

★管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 |  2019.02.24(日) 22:07 |   |  【コメント編集】

でもさ?いつかは、悪事は、ばれますよ、欅様v-40
なおちゃん |  2019.03.08(金) 12:19 |  URL |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

 | BLOGTOP |