日々草子 入江法律事務所 57
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

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ちょっと一息つけるため、明るいお話を。

☆☆☆☆☆






『ジャッジ・キラー』――裁判所内で彼はいつしかそう呼ばれるようになっていた。

「頼むから5人目にならないでくれよ。」
「大丈夫です!」
若い裁判官は胸を叩いた。5人目というのは、すでに4人の裁判官が退職しているのである。
「いいか。裁判官たる立場を忘れぬように。」
「分かっています。」
単独で受け持つ初めての裁判である。この裁判官が張り切るのも無理はなかった。



「先生、がんばってくださいね!」
同じころ、裁判所の法廷前で琴子はガッツポーズをしていた。
「今日もちゃんと作ってきました!」
と、またもや取りだしたのは、琴子の顔よりも大きい直樹の顔写真入りうちわである。
「大丈夫です。こうして胸より高い位置に掲げないというルールは…ああっ!!」
素早い動作で直樹は琴子からうちわをひったくり、膝でバキッと自分の顔を割った。
「先生、自分の顔にそんな酷いことを…。」
「お前はまったく!」
割れたうちわを琴子の胸に押し付け、直樹はにらんだ。
「でもそんなこと、想定内ですもんねえ。」
チッチッチッと指を左右に動かし、琴子はバッグの中に手を突っ込んだ。ゴソゴソと何かを引っ張り出す。
「ジャーン!!」
出て来たのは、ピンク色のポンポンだった。チアガールが持つものである。
「フレー!フレー!L・O・V・E・ナ・オ・キ!」
ポンポンを振って応援する琴子の手から、それをひったくったのは言うまでもなかった。

「まったく、婚約したからと言ってすっかり浮かれてますね。」
現れたのは、(自称)直樹のライバルの船津検事であった。
「何ですか、その小道具は。神聖な法廷をデートの場所と勘違いするのはやめていただきたい。」
クイッと嫌みに上げる眼鏡が船津の顔の上で光った。
「んまっ。デートだなんて思っていませんよ。」
ムッとなって琴子が反論する。
「別にこんな所でデートしなくても、どこでもできますもん。」
「じゃあ、弁護士をやめてデートしてきたらどうですか、浮かれポンチの入江くん。」
「先生、相手にしたらだめですよ。自分が意中の検察事務官にちっとも相手にされないからってひがんでいるだけです。」
「だ、誰がひがんでいると!」
「悔しかったら自分も浮かれポンチになってみればいいじゃないですか。」
「べえ」と舌を出す琴子と、「ムキーッ」と頭から湯気を出す船津。そんな二人を横に「付き合ってられねえ」と言い残し、直樹は法廷へ入って行った。

「起立。」
裁判官が入って来て、法廷内にいる全員が立った。すぐに着席すると、裁判官の目が直樹の前に止まった。
「弁護人。」
「はい?」
「その、机の上の物は裁判に必要とするものなのですか?」
「え?」
直樹は机の上を見た。琴子から奪ったポンポンが乗っている。どうりで先ほどから傍聴人の視線を感じると思った。
「失礼しました。」
直樹は鞄の中にそれを押し込んだ。
「お前のせいだ」とばかりに琴子を見た。すると琴子は口をパクパクと動かした。
「ドンマイ!」
「…誰のせいでこんな恥をかいていると!」
言い返したいのを堪え、直樹は正面を向いた。

今日の被告人の罪状は窃盗であった。国選で回って来たとはいえ、仕事は仕事。直樹は気を引き締める。
「被告人は○月×日に…。」」
船津の芝居がかった弁論が始まる。そのうち自分の世界に入って身振り手振りもつけてくるだろうと思うと、直樹はうんざりした。どうせ今回も自分が勝つ。
直樹は資料に目をやった。我ながら一度読んだだけで覚える頭脳が素晴らしい。船津の話を聞いていたら眠くなりそうなので、もう一度確認しておく。
「ったく、どうしてこんなことをするんだか。」
きっちりと反省しているところを裁判官に示さねばならない。資料のページをめくった直樹の指が止まった。
「ん?」
妻の名前がそこに出て来た。妻がいるのは知っている。弁護を引き受けた時、事務所にやって来た。ただそこでは琴子ともども「奥さん」と呼んでいたので名前は失念していた。
「こと子…?」
被告人の妻の名前は「こと子」といった。そう、「ことこ」である。
「ことこ…ことこ…。」
直樹は傍聴席に目をやった。琴子が口を手で押さえて欠伸をしているのが目に入った。直樹と目があった途端無理矢理口を閉じようとして舌を噛んだ。目に涙を浮かべているところが間抜けで可愛らしい。
その琴子から数人離れた所に、琴子よりやや年齢が高い、30代前半の女性がいる。それが被告人の妻であること子であった。やつれた様子で夫を心配しているのが痛々しい。
「あいつ…。」
直樹の目が被告人を厳しく捉えた。


「では弁護人…。」
最後まで裁判官に言わせず、直樹はすくっと立ち上がった。その迫力に裁判官が「ひぃっ」と悲鳴を上げかけた。
「…おい、お前。」
いきなりお前呼ばわりされた、ややガラの悪い被告人は「ああ?」と直樹を睨みあげた。が、直樹の眼光にたじろいだ。
「お前、何こんなチンケなことやってるんだ?え?」
もはやどちらが被告人か分からない状態であった。ゆらりと被告人の前に立つ直樹はダークな世界で生きているかのようである。
「いい年して、盗みなんてやるんじゃねえよ。」
「ベ、弁護人、言葉遣いは…。」
「裁判官!あのやり方はいかがかと!」
裁判官と船津が同時に声を上げる。が、直樹は無視した。
「何だ、この盗みは?お前、何がやりたいんだ?え?ちゃんと働けよ!」
直樹は座っている被告人の襟をつかんで立ち上がらせる。
「す、すみませんっ!!俺…いや僕が悪かったです!!」
「謝って済むのなら、警察はいらねえんだよ、おら!!」
もはや恐喝するヤ●ザである。
「弁護人!落ち着いて!」
オロオロとするだけの裁判官を直樹が相手にするわけがなかった。
「お前、奥さん泣かせて何やってるんだ?奥さんをあの奥さんを悲しませていいと思ってるのか?ああ?」
「も、もう二度と…。」
「口約束が信じられるか!」
「そ、それは検察であるぼ、僕のセリフでは…。」
「うるせえ、引っ込んでろ!!」
一喝された船津はヨロヨロと自分の席に座り込んだ。
「弁護人、口調を…。」
「エリートは引っ込んでろ!!」
直樹が裁判官に声を張り上げると、
「そうだ、そうだ!」
と琴子が野次を飛ばす。
「ああ…。」
野次を飛ばす傍聴人には退廷を命じていいのに、この若い、経験の浅い裁判官はそのような気力はなかった。自分は弁護人だけでなく傍聴人にまで馬鹿にされている。プライドは粉々に壊されてしまっていた。

「申し訳ありません!二度とこのようなことはいたしません!二度と妻も苦しめません!誓います!俺、いえ私の命をもって誓います!どうぞ、どうぞ許してくださぁぁぁぁぁい!!」
土下座して、許しを裁判官ではなく弁護士に乞う被告人を前に、直樹はハッと我に返った。
しまった、妻の名前が「ことこ」であることに気付いた途端、自分が弁護士であることを忘れてしまっていた。今更であるが、弁護士は被告人を「弁護」することが仕事であり「追及」することが仕事ではない。
直樹は、「ことこ」という名前の女性を苦しめる者は許せなかったのである。

「…ベ、弁護人?」
恐る恐る裁判官が直樹に声をかけた。被告人も土下座姿で直樹を見上げている。船津にいたっては口をポカンと開け、魂が抜けたかのような顔で視線が定まっていない。
「…このように、被告人は心底、心底反省をしております。なにとぞ、寛大な処分を求めることをお願いいたします。」
何とかまとめ上げ、直樹は席に戻った。傍聴席に目をやると琴子が今にもスタンディングオベーションをしそうになっている。直樹がそれを目で睨みつけると、慌てて手を引っ込め、浮かせた腰を椅子に落ちつけた。が、それでもガッツポーズをしてきた。
「まったく、あいつは。」
だがあれだから飽きないし、楽しい。やはり一生を共に過ごすのは琴子しかいないと、直樹はこんな場で、こんな状態で愛情を確認したのだった。



「…お世話になりました。」
数週間後、若い裁判官は辞表を出していた。
「本当に辞めてしまうのか?」
上司の言葉に裁判官は小さく頷いた。
「窃盗で…単独の裁判で…あんなに打ちのめされてしまったのです。僕は裁判官としてやっていく自信がありません。」
「ああ、五人目か…。」
引き止めても無駄だろう。見ると若いのに彼の髪には白髪が混じり始めている。
「マリー・アントワネットか、ホセ・メンドーサか。」
前者は革命の恐怖から白髪になった王妃、後者は死闘を繰り広げたボクシング漫画で主人公と死闘を繰り広げて白髪になった男である。
「またもやジャッジ・キラーの犠牲になったか。」
上司は深い溜息をついた。
『ジャッジ・キラー』-その意味は「裁判官殺し」である。五人の裁判官に辞める決意をさせた弁護士入江直樹は、いつからかそう呼ばれ恐れられるようになっていたーー。



「先生のおかげで、執行猶予が取れました。本当にありがとうございました!」
被告人の妻は泣いて喜んでいた。
「最初、先生が壊れてしまったかと思いましたが…。」
「それは…。」
「でも全て、夫を助けるためのお芝居だったんですよね。夫はすっかり反省して、もう二度とあんなことはしないと言ってくれました。私たち、やり直します。」
「それは…よかったですね。」
「お世話になりました」と何度も繰り返し、被告人の妻「こと子」は帰って行った。

「…なんか、気になる。」
コーヒーカップを下げながら、琴子は頬を膨らませていた。
「何だよ?」
「先生、あの奥さんの事、異常に気にしていませんか?」
「は?」
「法廷でも奥さんを泣かせてとか言ってたし。」
「何だよ、ヤキモチかよ?」
ニヤリと直樹が笑う。
「別に、そんなんじゃ!」
ムキになって言い返すが、顔にヤキモチと書いている琴子であった。
「ったく、お前、今度の事件の資料読んでないな。」
自分のことは棚に上げ、直樹は資料を琴子に渡した。
「読みましたよ、パラパラパラっと…。」
琴子はもう終わったのにとブツブツ言いながらページをめくる。
「奥さんについて書いてあるところ、見ろよ。」
「また奥さん…もう…ん?」
琴子の目が丸くなった。
「奥さん…え?『ことこ』っていう名前?え?え?」
琴子が資料と直樹の顔を見比べる。
「…お前と同じ名前だから、つい感情移入しちまったんだよ。」
「同じ名前って、先生…。」
「やだ、もう」と琴子は資料で直樹をバンバンと照れながら叩いた。
そう、被告人の妻は「こと子」という名前だったのである。
「やっぱり俺も浮かれポンチになってるのかな?」
「…好きですよ、浮かれポンチの先生も。」
ウフフと笑う琴子に直樹は「コーヒー」と頼み、次の事件の資料を手に取った。
――どうか、今度は同じ名前が出てきませんように。
そう願う直樹の顔には「ジャッジ・キラー」の面影はどこにもなかった。



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