日々草子 水面に映る蓮の花 8
FC2ブログ

プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者

現在の閲覧者数:

御訪問ありがとうございます

このブログについてのお願い

当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ

 

最新記事






「晴れてよかった。」
しっかりと絵の道具を背負った裕樹が飛び跳ねるように歩いていた。
「本当に。数日前はどしゃぶりでどうなるかと思いましたもの。」
出かける当日も雨が降ったらどうしようと心配していた裕樹に、琴子は一緒にてるてる坊主を作ろうと声をかけ、部屋中にそれをぶら下げたのだった。おかげでこの日は雲一つない晴天となった。
「やはり僕の日頃の行いが良かったこともあるんだな。」
頷く裕樹に、琴子と桔梗はぷっと噴き出した。
「さて、どこへ行こうか。」
「宮様、町中を抜けると小高い場所がございます。そこから見下ろす風景はいかがでしょう?」
そう提案したのは鴨狩であった。裕樹たちの護衛を兼ねて今日の供をしていた。
「それはいいな。よし、行こう。」
スタスタと歩く裕樹だが、時々足を止めては「あれは何だ」と琴子達に訊ねる。市場など見たことがない裕樹にとって、町の中は興味深いものであふれていた。
「あちらはお肉を売っているお店です。」
「あちらはお米。」
琴子と桔梗が代わる代わる答える。そのたびに「ほう」と裕樹は感心した。そして店先へ足を運ぶ。
「坊ちゃん、今日は良い肉が入ってるよ。」
「坊ちゃん?」
そのような呼び方をされたこともなければ、両親と兄以外に敬語なしで声をかけられたことのない裕樹は一瞬、戸惑った。
「どうだい?ほら、ほら!」
裕福な家の息子という服装の裕樹をいい客だと思った店主が肉の塊を押しつけるようにしてくる。
「そ、それは…。」
「今日はいいわ。また今度お願いするわね。」
困惑した裕樹を慣れた調子で救ったのは琴子だった。
「分かった。」
店主はあっさりと引き下がった。そして、
「姉と弟で買い物か。楽しいだろうね。」
と、明るく笑った。
「ええ、そうよ。それじゃあね。」
琴子は「さあ」と裕樹を促し、その場を離れた。

「琴子はこういう場所に慣れているんだな。」
裕樹が驚いたようにその顔を仰いだ。
「ついこの間まで、桔梗と一緒に来てましたから。」
「はい。姫様とご一緒に買い物を。」
「そうか。」
琴子が宮中に上がるまで、その実家は裕福とはいえないものだった。使用人も最低限しか置く余裕がなく、姫である琴子自ら買い物に出ていたのである。
「裕樹様、あちらは裕樹様のお好きなお店だと思いますよ。」
「どこだ?」
琴子が教えた先は書店であった。
「うわあ、書物がたくさんあるな!」
本好きの裕樹はたちまち夢中になった。店先で立ち読みということも初めてであろう。その楽しそうな様子を、琴子が眺める。そしてそんな琴子を桔梗が少し心配そうに見つめた。

「…まさか、鴨狩殿が一緒に来られるとは思いませんでした。」
琴子に聞こえぬよう距離を取りながら、桔梗が鴨狩に話しかけた。
「王妃様直々のご命令だ。私がお側にいた方がお二人も気兼ねなく楽しめるだろうと。」
「それはその通りですね。」
お忍びの外出とはいえ、王の二ノ宮と東宮妃である。万が一のことがあってはならぬと護衛がつくとは思っていたが、気心の知れぬ人間であれば緊張を強いられると桔梗は心配していたのだった。
「私の姿をご覧になった時、東宮妃様のご様子が少し…。」
朝、鴨狩が裕樹を連れて雀殿にやって来た時、琴子は困ったような顔だった。
「東宮様と今、距離を置いていらっしゃるので…鴨狩殿にも会いづらかったのでしょう。」
「最近、東宮様は忙しくしていらっしゃる。その中でも東宮妃様とのお時間を作ろうとされているのだが…。」
頭痛という理由で断って以来、直樹からの招きも訪れもない状態であった。
「あれほど仲睦まじくいらしたのに。」
鴨狩も理由は分からないと首を振った。
「欅宮様に何か言われたか?」
「直接言われたわけではないのですが…前の東宮妃様の存在を思い知らされたようで。」
「率直に申すと、前の東宮妃様とは比較もできないほど、東宮妃様は愛されておいでだが。」
「それでも、姫様と私は前の東宮妃様のことを存じ上げております。あの方が一つの欠点もない貴婦人でいらしたことは間違いない事実。それを突きつけられて気分が沈んでおいでなのです。」
「確かに完璧な方だった。」
それは鴨狩も認めるしかなかった。
二人がそんな会話をしていると、突然琴子が書店へ入った。何事かと桔梗と鴨狩も慌てて後を追いかけた。

「これと、これ。あとこれが欲しい。」
それは古書であった。
「母上からお小遣いをいただいてきたから、買えるはずだ。」
店主から提示された金額をそのまま払おうとした裕樹を、
「お待ち下さい。」
と琴子が止めた。
「その値段は高いです。店主、もう少し安くならないかしら?」
「え?」
一見貴族の姉弟にまさか値切られると思っていなかったのだろう。店主は目を白黒させた。
「し、しかし…。」
「お願い、もう少し。せめてこれくらい。」
琴子が右手を広げた。
「5分!?それは無理だ。せめてこれくらいだ!」
店主が三本の指を立てた。
「5分の値引きじゃだめ?」
「勘弁してくれよ。3分の値引きで頼む。」
「しょうがないわね…じゃあ、それでいいわ。」
店主とのやりとりをぽかんと口を開けて眺めていた裕樹は、我に返って財布を取り出したのだった。

「…5分、安くなればよかったな。」
買い物を終え裕樹がポツリと呟いた。
「せっかく琴子が頑張ってくれたのに。」
「ま、裕樹様。」
琴子は笑った。
「5分の値切りは少々無理がありましたから。」
「え?」
「値切るこつは、本当に払いたい値段より少し安い金額を提示することなのですよ。この書物は3分の値切りで丁度いいと私も思いました。でも、その通り言ったら店主は値切らなかったでしょう。だからあえて多めの5分を提示したのです。おかげで願ったとおりの金額で買うことがかないました。」
「…たくましい。」
裕樹は琴子の意外な姿にただただ、感心するばかりである。


「東宮妃様は値切られるのがお上手だ。」
感心したのは鴨狩も一緒だった。
「ええ、それはもう。」
桔梗が胸を張る。
「行きつけの市場では姫様は"値切り娘”としてその名を轟かせておいででしたからね。」
「なるほど。」
「それにしても、町に出られると姫様は生き生きとしていらっしゃる…。」
思わず桔梗が呟くほど、裕樹に町中を案内する琴子は明るかった。

だが、それも完全な明るさではないと桔梗が知ったのは、琴子が店先で飾り物を眺めていた時だった。
「なあ、鴨狩、桔梗。」
「はい、宮様。」
女性の飾り物に興味が皆無の裕樹が二人の所へやって来た。
「さきほど、書物を値切った琴子はその…かっこよかったと思わぬか?」
滅多に人を誉めない裕樹が、照れくさそうに言うのを二人は微笑ましく思った。
「左様でございますね、宮様。」
鴨狩が頷く。
「それでこのことを兄上にお伝えしようと琴子に言ったんだ。そうしたら…絶対黙っておくようにときつく言われた。」
「え?」
「兄上にお伝えしたら、きっと嬉しいと思われるだろうに。でも琴子は絶対言うなって。あんな怖い琴子、初めてだ。」
「東宮妃様がそう仰ったのですか?」
「うん…。」
元気なく頷いた後、裕樹は鴨狩と桔梗の顔を交互に見やって言った。
「値切るということは恥じる行為なのか?人に言ってはいけないものなのか?僕には分からない。」

「…姫様は、ご自分が裕福なお育ちでないことを気にしていらっしゃいます。だから宮様にそのように仰ったのでしょう。」
再び琴子と一緒に歩き出した裕樹の背中を見ながら、桔梗が悲しそうに呟いた。
「私は恥じるべきことではないと思うが。」
「私も同じ考えでございます。でも、欅宮様から事あるごとに…。」
「ああ。」
桔梗がみなまで言わずとも、鴨狩は分かった。貧しき育ち、大泉家のような大貴族の出ではない琴子を欅宮は事あるごとに馬鹿にしているに違いない。
「姫様も恥じていらっしゃるわけではございません。きっと、ご自分の出自で東宮様が辛い思いをされていると心配あそばしてのことなのです。」
「だと私も思う。そして東宮様は東宮妃様を恥じてなどいない。それは間違いない。」
しかし、いくら鴨狩がそう言っても直樹本人が言わねば意味がないだろう。いや、直樹が言ってくれたとしても琴子の心は晴れるのだろうか。それは二人には分からなかった。



午前中裕樹が一枚の絵を仕上げた後、四人は弁当を広げた。
「うまい!桔梗は料理が本当に上手だな!」
「恐れ入ります。」
「外で食べると、よりいっそうおいしくなりますな!」
鴨狩も興奮して食べている。
「また、来たいなあ。」
「王妃様にお許しをいただいて、来ましょう。」
「うん。そうだ、今度は兄上も一緒に!」
「兄上」という裕樹の言葉に、琴子の表情が翳ったのを桔梗と鴨狩は見逃さなかった。



その頃直樹は、僅かにできた時間を診療所で過ごしていた。
「入江殿。」
声をかけてきたのは、診療所での直樹の先輩にあたる浪江だった。入江というのは診療所での直樹の名字であった。
「香について、その後どうなっていますか?」
「香…。」
「診察室で使う香ですが。」
「ああ」と直樹は思い出した。琴子と距離ができて以来、すっかり忘れていた。
「…お疲れですか、東宮様。」
直樹の正体を診療所で唯一知る浪江が、言葉を改めてきた。
「いいえ、申し訳ござらぬ。」
直樹はあくまで後輩の立場を貫いた。
「診察室と病室を大人と子供に分けることを提案したのは入江殿でしょう。」
浪江が元の先輩に戻り笑った。
「以前試しに焚いた香が評判よかったゆえ、子供用の診察室に子供が好きそうな香をという話になったのでしたね。」
「…そうでしたね。」
しまった、そこまで琴子に話していなかったことを直樹は今更気づいた。
「奥方様が調合の名人ということでしたが。」
ここでは東宮妃も奥方と呼ばれている。
「はい。もう少し待ってくれませんか?」
「構いません。きっと子供が喜ぶ香が診察室に漂うと信じております。」
何も疑うことなく、浪江は診察室へと戻って行った。



「うーむ…やはり僕は天才だな。」
小高い丘から見える町の様子の下書きを終えた裕樹は満足げに微笑んだ。
「どうだろう、この筆運びは。困ったな、上手すぎる。」
「はい、お上手ですな。」
独り言に対し、突然聞き慣れぬ声の返答があって裕樹は振り返った。
「伸び伸びと書いておいでですな。」
年の頃、父よりは若いであろう。中年の男性が裕樹の絵を見下ろしていた。
「あ、あの…。」
「うん、お上手だ。」
ニコニコと誉める男性を前に、裕樹は顔が赤くなった。


「あれは…。」
突然現れた男性に、離れた所から護衛していた鴨狩が腰の刀に手をやった時である。
「待って、鴨狩。」
裕樹の邪魔をしないよう、鴨狩と桔梗と一緒にいた琴子がそれを止めた。
「少し、待ってみて。怪しい人ではないみたい。」


「おや、続きは描かれないのですか?」
「…お世辞は結構です。」
裕樹は俯いてしまった。
「お世辞?」
「僕は上手ではありません。猫を描いたら犬と言われるし。コウノトリは変な鳥になるし。」
自分が上手ではないことを裕樹は知っていた。他人に誉められるとそれを知らされたようで辛くなった。
「いやいや、そんなことはありませんぞ。何より、この絵からは楽しさが伝わって来ます。」
「楽しさ?」
「はい。絵を描くのが楽しくてたまらない。その気持ちがこの絵から伝わってくるのです。ですからこの絵は素敵な絵です。そのような絵を描くことができるからお上手と言いました。」
男性はが本心から言っているということが、裕樹に分かった。
「…ありがとうございます。」
だから、素直に礼を言うことができた。
「あの…。」
画板を置いて裕樹は立ち上がり、ニコニコと笑っている男性を見た。
「はい?」
「絵…絵を描かれる方でいらっしゃいますか?」
「描く…ええ、趣味としていたものが今は生活の糧になっております。」
「絵師でいらっしゃるのですか。」
自分では気づいていなかったが、裕樹は自然と敬語を使っていた。
「何と申しますか、本業で食べられないために副業として絵描きを始めたのですが今ではこちらが主となってしまいました。」
「お恥ずかしい」と笑う男性を改めて見ると、着古した衣装に身を包んでいる。清潔感こそ保っているが生活にゆとりがあるとは思えなかった。
名前を尋ねようとして、裕樹は口を一旦閉じた。いつもは二の宮という身分柄、相手の名前を先に聞いているのが当たり前となっているがそれが今の場にふさわしくないと分かったのだ。
「僕は…裕樹と申します。」
まずは自分から名乗った。それは初めてのことだったかもしれない。
「ほう。裕樹殿とおっしゃいますか?差支えなければ姓を教えていただけますかな?」
「姓…。」
王族である裕樹には姓がない。裕樹は口をつぐんでしまった。
「あ、仰りたくなければ結構。」
さして気にしないとばかりに、男性が笑った。
「…入江と申します。」
困った裕樹の背後から声が聞こえた。
「入江裕樹、でございます。」
声の主は琴子だった。裕樹がこの男性に並みならぬ関心を抱いていることを察し、直樹が診療所で使っている姓を口にして助けたのだった。
「そちらさまは?」
「申し遅れました。こちらの義姉でございます。」
琴子は答えると、裕樹に笑いかけた。
「姉上でいらっしゃいますか。弟御の絵を拝見いたしておりました。私は佐川と申します。」
「佐川様でいらっしゃいますか。」
「おっと」と佐川が声を突然上げた。
「しまった、そろそろ画商が絵を取りにくる刻限だった。」
「有名な絵師でいらっしゃいますか。」
「いやいや。まあ依頼を受けて描いている程度です。」
手を振って否定すると「では、機会がありましたらまたお会いしましょう」と言って、佐川はその場から去って行った。

「佐川」と裕樹は忘れぬよう、何度もその名を繰り返し、その背中をしっかりと目に焼き付けたのだった。




関連記事

コメント

琴子姫が早く元気になりますように

更新ありがとうございます。
水玉さんが苦労されて作られていらっしゃると思うので急かせるのは申し訳なく思うのですが、毎日毎日今日は更新されているかなと気が急いてしまうほど楽しみにしてます。
欅宮のせいで琴子姫がこんなにも萎縮してしまってかわいそうで仕方がありません。早く元気になってほしいと思っています。
ところで絵師の佐川様は好美ちゃんのお父さんですか?これから好美ちゃんが出てくるのでしょうか?ますます楽しみになってきました。
続き期待しています。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

 BLOG TOP