日々草子 水面に映る蓮の花 7
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

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直樹に追い出された楠は、欅宮の前で震えていた。
「…それで、おめおめと戻ってきたのか。」
欅宮が怒鳴ることはなかった。が、その静かな声は明らかに楠を責めていたし、怒りの度合いも大きいことを示していた。
「申し訳ございませぬ。」
楠はそう繰り返すしかなかった。
「ただいま、楠様の書物を雀殿が届けてまいりました。」
柘榴が書物を抱えた女官を連れ、ドサッと楠の前にそれを置いた。楠はまるでそれが目を汚す物であるかのように、素早くまとめ風呂敷に包んだ。
欅宮はその様子をただ、じっと見ていた。

「あ、あの…。」
風呂敷包みを背後に隠した楠が、消えそうな声をかけた。
「…それを持って、去れ。」
「け、欅宮様?」
「姿を見たくはない。去れ。」
「欅宮様、あの…夫の…夫のことは…。」
「去れと申しておるのが聞こえぬのか。二度と言わせるな!」
楠は書物を胸に抱き、転がるように部屋を出て行った。

「楠様は御夫君の出世と引き換えに、東宮妃様の講義を引き受けられたのでしたね。」
柘榴が欅宮に話しかけた。
「宮様、その件はどうなさるおつもりですか?」
「下っ端の学者など、私の知ったことはない。」
「宮中の学問を必要とする部署へ入れると喜んでいたのですが。」
「一生、家庭教師をしているがよい。役立たずは必要ない。」
これで楠の夫の出世の道は断たれたかと、柘榴はほんの少し彼女に同情した。が、すぐに目の前の主人の様子を気にし始めた。
「宮様、いかがなさいました?」
先日の王妃の挨拶の時とは違い、今回も東宮にしてやられたというのに欅宮の様子は落ち着いている。脇息によりかかり、どこか遠くを見ているかのようである。
「宮様?」
「まあ、ある程度はあの娘を苦しめることに成功しただろう。」
欅宮は冷たい笑みを浮かべた。
「前の東宮妃と散々比較したのだ。落ち込むのに十分だろう。」
「前の東宮妃様は完璧でいらっしゃいました。敵う者などおりませぬ。」
「身の程知らずな者に物事を理解させるのは大変なものよ。」
ホホホと意地悪く欅宮は笑った。



「まだ、そんなものを読んでいるのか?」
あの騒動から数日経過したというのに、琴子はまだ講義で使っていた書物を読んでいた。
「直樹様。」
「ったく、こんな小難しいものを。」
琴子から書物を取り上げ、直樹は「やれやれ」と言った。
「あの…直樹様。」
「ん?」
「その…この間、楠殿に仰ったことなのですけれど。」
「楠?ああ、お前には俺が教えると言ったことか。」
「はい。」
琴子は学問を続けることを望んでいた。直樹が教えてくれるという言葉に内心喜んでいた。
「別の書物を持ってきた。」
直樹は新しい書物を琴子に渡した。
「これは?」
「学問を身につけることは俺も賛成だ。まずは基礎的なことから始めよう。」
「基礎…ですか?」
それは楠から教えを受けていたものより遥かに内容が簡易な書物であった。厚さも薄い。
「お前は宮中のしきたりも学んでいる。同時に学問を身につけることは大変だろう。器用な性質ではないからな。まずは基礎から学んでいくのが一番いい方法だと思う。」
楠の書物で学び続けられると思っていた琴子はがっかりした。直樹が教えてくれれば理解も早いと思っていたのだ。
「…こちらの書物で学び続けることはできませんか。」
珍しく琴子が自分の意見に意を唱えたことに、直樹は驚いた。
「琴子にはまだ難しいよ。」
「そんなこと…直樹様が教えて下されば…。」
「この間講義を聞いていたが、基礎が分かっていないからこの書物の理解が難しいんだ。だからゆっくりと学び始めよう。」
直樹の優しさだと琴子にはよく分かった。が、その言葉が今日は琴子をなぜか傷つける。
「琴子?」
黙り込んだ琴子の顔を、直樹が心配そうにのぞき込んだ。
「前の東宮妃様は…。」
「前の?」
直樹の表情が変わった。なぜ琴子がその名を出すのか。
「前の東宮妃様は、この書物を8歳の頃から学ばれていたと…楠殿が…。」
「ああ、前の東宮妃の家庭教師だったか。」
そんなことかと直樹は表情を和らげた。
「私は8歳ではありません。大人なのですからこの書物でも…。」
琴子の抗議に直樹はクスッと笑った。
「そりゃそうだ。」
「ですから。」
「いいか?前の東宮妃は生まれた時から宮中に入ることを期待されていた。だから大泉が宮中のしきたり、学問、琴や刺繍などのたしなみを幼い頃より叩きこまれて育ったんだ。特別なんだ。」
「特別…ですか。」
それが「特別頭がいい」という意味に琴子には聞こえた。
「私と前の東宮妃様は…違いますか?」
「そりゃそうだ。」
琴子が聞いた「違い」は、妃としてのふさわしさのことだった。が、直樹がとらえた「違い」は内面のものだった。だから直樹は違うと答えた。しかし、琴子は自分が東宮妃として否定されたような気がした。

「そうだ、色々あったから診療所の香については先で構わないからな。」
「…はい。」
あれほど楽しみだった香の調合が、今ではちっとも琴子の胸を躍らせることはなかった。

欅宮の企みはその思惑どおり、琴子を苦しめていたのである。



楠が去って喜んだ人物はもう一人いた。
「ほうら、これは自信作だ。」
「まあ、可愛らしい猫ですこと。」
「…犬だ。」
相変わらず、上手とはいえない絵を裕樹が毎日持って来た。裕樹が来た時は琴子の心も少し軽くなっていた。
「裕樹様の絵は、本当に見る側の気持ちを明るくして下さいますね。」
お世辞ではなく、本音であった。
「そうか?」
「はい。裕樹様がどれほど絵がお好きか、それが良く伝わります。」
琴子が褒めると嬉しそうな裕樹であるが、今日は少し悲しそうな顔をした。
「どうされました?」
裕樹の好物の餅菓子を運んで来た桔梗が訊ねた。
「絵の師が…合わない。」
「まあ。」
琴子と桔梗は顔を見合わせ、心配した。
「今の絵の師は、もっとよく見て描け、もっと上手にとしか言わない。確かにその通りだと分かるのだが。」
琴子は裕樹の次の言葉を、ゆっくりと待った。
「…楽しくない。絵を描くことがつまらなくなりそうだ。」
そう言うと、裕樹はパクッと餅菓子をかじった。



「どうしても技術面の上達を促しますからね、絵の師は。」
琴子とお茶を楽しみながら、王妃は溜息をついた。
「私は裕樹様が楽しんで描かれることが一番だと思うのですが、そういうものではないのでしょうか。」
「ええ、私も同じ考えですよ。あの子が絵師になりたいと言うのならば技術面は大切ですけれど。そうではないのなら、趣味の一環として楽しんでほしいという思いが一番です。」
「裕樹様が絵をお嫌いになるのではないかと心配です、義母上様。」
「心配してくれてありがとう、姫や。」
「裕樹様にも、直樹様にとっての医師長様のように人生の師となられるお方が現れるといいいのですが。」
「本当に…。」
裕樹のことを心から心配している琴子に、王妃は感謝した。
「先日の学問の騒動、聞きました。苦労をかけましたね。」
「とんでもございません。私が至らないばかりにご心配をおかけして申し訳ございません。」
「…東宮と仲良くしていますか?」
王妃には、琴子の元気のなさも気がかりであった。直樹と何かあったのではないか。
「はい、義母上様。」
琴子は王妃を心配させまいと笑顔を作った。
本当はあれから直樹との間に何か溝ができているような気がする。前の東宮妃のことを口にして機嫌を損ねてしまったのかもしれない。いや、それは当然だと反省しているのだが、どうしても心から前の東宮妃の存在が消えてくれないのである。


「ああ、そうだわ。」
王妃が声を上げた。
「姫、お願いがあるのです。」
「私で出来ることなら何でも仰って下さいませ。」
「裕樹を宮中の外へ連れ出してもらえませんか。」
「裕樹様を外へ?」
突然の王妃の申し出に、琴子は驚きを隠せなかった。
「ええ。あの子も絵の師のことで気分が塞いでいるようです。気分転換に外へ写生へ連れ出してくれませぬか。」
「私がお供してよろしいのですか?」
「もちろんですとも。姫だからこそお願いするのです。わがままな子で迷惑をかけるでしょうけれど。」
裕樹の気分転換だけでなく、琴子にとっての気分転換にもなればという王妃の気持ちだった。しがらみの多い宮中、さらに欅宮という存在から少しでも琴子が解放されたらと願っていた。



「僕が宮中の外へ出られるのか!」
その日の夕方、王妃の提案を裕樹に伝えたところ、大喜びであった。
「はい。色々な場所で写生をなさいませ。」
「琴子も一緒か?」
「はい、私と桔梗がお供させていただきます。」
琴子も一緒と言われ、ますます顔が輝く裕樹であった。
「当日は私がお弁当を作ります。」
「桔梗の弁当か!餅菓子も、餅菓子も作ってくれるか?」
「もちろんでございます。他には何かございますか?」
桔梗の問いに、裕樹は「あれも…いや、あちらの方が…」と頭の中で好物を想像して口にする。その様子が子供らしく、琴子と桔梗は笑った。

「東宮妃様、東宮様のお使いが…。」
三人が盛り上がっているところに、女官がやって来た。この刻限にやって来た使いの目的は、今宵共に過ごそうという直樹からの誘いである。
「兄上の使いか。」
その深い意味を知らない裕樹が無邪気な声を上げた。が、琴子の表情はなぜか鬱々としたものになったのを桔梗は見逃さなかった。
「…少し頭が痛むから、と伝えて。」
琴子が女官に返事をした。女官は「はい」と返事をし下がった。
「頭が痛いのか?琴子、大丈夫か?」
先ほどまで楽しく話していたのにと、裕樹が心配する。
「大丈夫です、大したことはありません。」
しまった、裕樹がいたかと琴子は慌てて取り繕った。
「そうか?そうだ、兄上に診ていただいたらどうだ?」
「ちょっと待て」と下がった女官を呼び戻そうとした裕樹を、
「大丈夫でございます、裕樹様。お薬がございますから。」
と桔梗が止めた。
「東宮様のお手を煩わせることはありませんから。」
琴子が言うと「分かった」と裕樹は頷いた。
「町に出る日まで治してくれよ?」
「はい、裕樹様。」
琴子の穏やかな言葉に、裕樹は安堵した表情を浮かべた。



「…先ほどはありがとうね、桔梗。」
裕樹が帰った後、琴子は桔梗に礼を言った。
「裕樹様にいらぬ心配をかけるところだったわ。」
「姫様…東宮様と何かございましたか?」
先日から琴子の様子がおかしいことはもちろん、桔梗も気づいていた。しかし、仮病を使ってまで直樹を避けることをするとは思いもよらなかった。
「…私を妃にされたことでいらぬ苦労をされている。」
「まあ、何を仰います。」
桔梗が否定した。
「そのようなことは決してございません。東宮様の御寵愛が深いことはまごうことなき事実でございますのに。」
「直樹様にふさわしい女人になりたいと思うのは高望みなのかしら?」
「そんなことはございません。十分、今のままで姫様は東宮様にふさわしいお方でございますよ。」
そう言ってくれるのは桔梗だけだろう、琴子はそう思うと心がますます塞ぐのであった。




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