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2018.05.14 (Mon)

試作を重ねる後輩


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「忙しい中、悪いな。」
後輩がいるのは久しぶりのパンダイ本社の社長室。というか親父さんの会社。
「お前から依頼されたものが出来上がったんでな。」
ここはおもちゃメーカーのはず。一体どんな「おもちゃ」をこの息子は依頼したのやら。
「これだ。」
親父さんが机の上に出したのは、何だかおもちゃの鉄砲のようなもの。というかおもちゃの鉄砲じゃないか、これ?
「水鉄砲ですか?」
黙っているという約束を今日も僕は破ってしまった。
「最近の水鉄砲って割とリアルにできてますよね?」
途端に「はあ」と大きなため息をつく後輩。
「直樹がそんなものをわざわざ、依頼するわけないだろ?」
無愛想な息子とは正反対に、親父さんはこんな僕にも愛想よく話をしてくれる。
「親父。」
そんな愛想のいい父親を止める無粋な息子。
「あ、そうだった。彼の存在は無視する約束だったな。すまん、すまん。」
そんな堂々と無視をすると言われると切なくなるじゃないですか、親父さん。

「水鉄砲を医者が何に使うっていうんです?」
後輩が独り言のように口にする。
「何って、そりゃあ琴子ちゃんと水鉄砲プレイ…うぐっ!!」
最後まで言わせないよう、後輩が水鉄砲を僕の口へ押し込んだ。く、苦しい!!
「直樹、そんなにいじめないように。」
ああ、親父さんは神様です。
「出来の悪い人間には話をするだけ無駄な時間なんだ。」
うわあ、冷徹な一流企業の経営者らしいコメント。

「それは直樹が手術に使うものなんだ。」
親父さんが僕に説明をしてくれた。
「これを?どうやって?」
「ええと…どうだっけ?」
親父さんが息子を見る。え?どうやって使うかも分からないのに作ったんですか?親父さん?
「つまり…。」
ああだこうだと、そりゃあもう至極面倒臭そうに後輩は説明した。うん、僕も医者の端くれだから一応意味は分かったよ。でもさ、でも…。
「何か、どっかで聞いたことがある使い方のような?ちなみにこの道具に名前とかついているの?」
「スナイパです。」
「ふうん、スナイパね。スナイパ?スナイ…パ?」
やっぱ、どっかで聞いたことがある。
「…スナイプってのが、どっかのドラマで出て来たような。」
確かこんな感じ。見た目おもちゃみたいだけど、手術に使うんだってドラマ、小説でなかった?
「あっちはスナイプです。これはスナイパ。」
「いやいや、それパクリ!!パクリでしょ!!」
「どこが?」
「スナイプとスナイパ、面白い恋人と白い恋人みたいなもんじゃない?恋人みたく裁判起こされるよ?」
「そこは手を回しておいたから大丈夫。」
親父さんがVサインを出してきた。うわあ、どんな手を。
「まだ試作の段階だから、気になる箇所があったらどんどん言ってくれ。」
「分かってる。」
そう言って、後輩は懐から分厚い茶封筒を出して親父さんの前に置いた。いつもの倍は入ってるな。
「助かるよ。これで母さんと温泉に出かけられる。」
いや、普通にこの企業を経営していたって温泉に行けるでしょ?



というわけで試作を重ねた結果、後輩の手に合うスナイ…パは手術を重ねていった。まあ、多額の報酬と引き替えにね。これは保険外診療だから、っていうか後輩の手術はいつだって保険外診療だけど。

「ねえねえ、入江。」
ある日のこと、僕は我慢できずに後輩に言った。
「あのさ、あのさ…そのスナイ…パって、僕にも使わせてくれないかな?」
外科医って結構新しいもの好きなんだよね。だから新しいシステムとか導入されてもすぐにマスターしちゃうんだけど、こういう道具にも興味津々。
「だってさ、これ使えば誰でも手術できちゃうんだろ?」
「それはスナイパの話でしょう。これは違います。」
「ええ!そこは一緒なんじゃないの?」
「だから違うものだと説明したはずですが。」
「でもさ、でもさ。ねえ、お願い!一度使わせて!」
後輩の白衣にまとわりついて僕は頼み込んだ。やがて後輩は深いため息をついて「分かりました」と言った。
「じゃ、マニュアルをあとでデータで送るので。」
「うん、ちゃんと読んでおくね!」
やったあ!新しい道具が使えるんだもんね!僕はウキウキして、後輩がマニュアルを送ってくるのを待った。

ピロリン。
お、届いた、届いた。僕はパソコンをクリックして目当てものを開く…。
「ちっちぇな、おい!!!」
そのマニュアルはやたら小さな文字がびっしりと詰まっているものだった。
「さてはあいつ、文字を小さくして枚数を減らすというケチケチ作戦を実行したな?」
ったく、一度の治療に数千万を要求しているくせにけちん坊だな。
「ま、いいや。プリントアウトしちゃおうっと。」
新しいものは好きだけどアナログも嫌いじゃないんだよね、僕。本は断然紙で読むタイプ。こういうのもページをめくる感覚が好きだから紙がいい。
「プリントアウトっと!!」



「西垣先生、困るんですよね!!」
「すみません…。」
数時間後、僕の前に仁王立ちしているのは病院の事務長だった。
「いくら病院の備品だからって限度ってものがあるでしょ!」
「…そ、そんなに枚数が必要だと知らなかったんですう。」
入江のマニュアルは数百ページに及ぶものだった。
「プリンタを占領していると他の先生方から苦情が出ているんです。」
「すみません。」
「まったく、経費削減という言葉をご存知ないんですか?何のために病院の文書がデジタルに移行していると?」
「おっしゃるとおりです…。」
「これは限度を逸しているので、後で用紙代、トナー代を請求させていただきますから!」
「…はあい。」
分厚いマニュアルを前に、僕はすっかりしょげていた。


そのマニュアルを必死で頭にたたき込んだ。まったく、あの後輩用だから無駄がないというか、凡人には分かりにくい。
「やれやれ…。」
読み終えてマスターしたのは、手術前日だった。
「ま、これで大丈夫だろ。」
医者になっただけに僕だって頭の回転は早い。理解もバッチリ。
「あ、西垣先生。」
「おや、琴子ちゃん。」
琴子ちゃんが医局にやって来た。
「あの、これを西垣先生に届けろって入江くんが。」
琴子ちゃんが渡したのはUSBメモリだった。
「何、これ?」
「えっと…マニュアルの改訂版だそうです。そう言えば分かるからって。」
「げっ!!」
やっと読み終えたってのに、改訂版かよ!!
「あ、あのさ。あいつ、何か他に言ってた?」
「ええと、改訂といっても大した変更はないから、読まなくてもいいけれどって。」
「あ、そうなんだ。」
ホッと胸を撫で下ろす僕。ならいいや。あいつがそう言うなら大丈夫だろ。
「琴子ちゃん、明日の予定は?」
「はい。日勤で午前中は病棟で午後は1時から仮眠室業務です。」
仮眠室業務って、それ、あいつの相手だろ?何しれっと仕事っぽく言ってるのさ。



というわけで、午後にスナイパを使った僕の手術が開始された。
「それじゃよろしく。」
「よろしくお願いします。」
助手は船津くん、看護師は桔梗くんと鴨狩くん。うーん、あいつの仲間だらけ。
つまりスナイパを知っているのはこの三人だけってことね。

「じゃ、スナイパを。」
開始後、いよいよスナイパを使う時がやって来た。
「はい、スナイパです。」
桔梗くんが渡す。あれ?結構ずっしりとしてるな。こんなに重かったっけ?
「…何じゃ、こりゃあ!!!!!」
桔梗くんが渡したものを見て、僕は某俳優のごとく叫んだ。
「何ってスナイパですよ。」
こともなげに鴨狩くんが話す。
「いや、これ僕の知ってるスナイパじゃない!」
だってこれ、これは…どう見たってあいつご愛用のアーマライトM16じゃないか!!
「僕が知ってるスナイパは、もっと白くて、もっと軽くて、水鉄砲みたいな見た目だった!」
「改良されたんですよ。」
船津くんが言う。
「そうです。入江先生が使ううちにどんどん改良していってこの形になりました。」
「いつ!?」
「昨日です。」
「昨日って…そんな直前にこんなに変わるの!?」
あまりに違いすぎるビフォーアフタ-。
「西垣先生、琴子さんから改訂版マニュアル届いたでしょ?」
「ちゃんとそこに書いてあったはずですよ?」
船津くんと桔梗くんが口々に僕を責める。
「だって琴子ちゃん、大した変更はないって…だから…。」
「琴子は入江先生目線でしか物事を見ていないから。」
「入江先生にとっては大した変更ではないんですけれど。」
まるで僕が一人おかしいかのように冷静な三人。

とにかくやるしかない…。
「ええと…。」
確か入江はこうやっていつもこいつを担いでいたような…見よう見まねで僕はアーマライト、じゃなくてスナイパを構えてみた。
「あ、西垣先生。それってハニカム構造ですからライト気をつけて。」
「ハニカム?何、それ?」
「説明している時間ないんで。」
「なら言わないでよ!」
ええと…あれ?見えない?何も見えない?スコープってここじゃないの?え?どこ?

「…ったく、やはりこんなことだろうと思った。」
そこへ救世主のごとく現れたのは後輩だった。後ろにいるのは、またもや生まれたての仔鹿ちゃんな琴子ちゃん。そんな彼女にサッと席を準備する桔梗くん。琴子ちゃんはヨレヨレ状態で椅子に座った。
「邪魔。」
手を汚さぬよう、後輩は僕を足蹴にする。
「貸して下さい。」
と言いつつ、僕からスナイパを奪ってチャチャチャと手術を進めていった…。


「自分の実力を過信したでしょう?」
手術終了後、マスク姿で僕を冷たく見下ろす後輩に僕は何も言えなかった。
「金魚、いや魚のフンのごとく俺の回りを付いて回ったのにスコープの覗き方すら身に付いていなかったんですね。」
うっ!!悔しいけれど何も言えない。
「あれは試作を重ねていくって知っていましたよね?マニュアルも読まずに凡人、いや人間以下が使いこなせると?」
「そこまで言わなくても…。」
「フン」と鼻を鳴らしたあと、後輩はマスクを捨てて手術室を出て行った。後からヨタヨタとついていく琴子ちゃん。
というか、琴子ちゃん、何でここにいたの?いる意味あった?



「まったく、君という奴は。」
そして僕は今日も院長室。
「プリンタの無駄遣い、手術の邪魔、もうどうしていいか分からないよ。」
「いや、あれはかなりイレギュラーといいますか。」
「問答無用。」
院長は「ん」と手を差し出した。僕は渋々、ポイントカードを渡す。それに院長は勢いよく、ペンペンペンとドクロスタンプを押していった。
「え?何でこんなに?」
「今日はポイントアップデーだから。」
「いつ決まったんですか?」
「今。というか僕の気分。」
あっというまに溜まっていくポイント…。
「ていうか、5つ溜まってるし!!」
「そういういことで減給ね。」
あと用紙代とトナー代も併せてよろしくと院長が残酷な宣告をする。
「ちゃんと医者らしくしなさいよ。」
「はあい…。」
僕はぐったりとして院長室を後にしたのだった。




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 |  2018.05.15(Tue) 16:56 |   |  【コメント編集】

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 |  2018.05.19(Sat) 02:06 |   |  【コメント編集】

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