日々草子 Nurse X 5
FC2ブログ


Nurse X 5

2017年も『日々草子』をご訪問下さり、ありがとうございました。
中々更新できないにもかかわらず、見捨てずにいて下さり本当にありがとうございます。
年末ということで、おふざけをしてみました。笑っていただければ幸いです。
来年、2018年もどうぞよろしくお願いいたします。

☆☆☆☆☆






これは一匹狼の看護師の話である。常に人手の足りない看護師。看護系大学の数は増えているにもかかわらず、すぐに退職していくのはその激務のため。その危機的な医療現場の穴埋めに現れたのがフリーランス…すなわち、一匹狼のナースである。たとえば、この女。
群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、正規な手段で取得したライセンスとその度胸だけが彼女の武器だ。 看護師、入江琴子。またの名を、ナースX。”

(某ドラマのテーマが流れる中、Xの文字を抱える琴子登場。)



カツカツカツ…白衣からすらりと伸びた足に行きかう人々の視線が集まる。
「綺麗な足…。」
「すごいな、あれだけ自慢できる足があるなんて。」
羨望の眼差しを受ける。

「失礼します。」
「ああ、待っていた…って、何だ、その格好は!!」
「何か問題でも?」
ここ斗南大付属病院の人事を一手に引き受けている大蛇森と西垣。二人が待つ部屋に入って来たのは、入江看護師紹介所の所長である入江直樹である。
「問題ありまくりだ!」
「ズボンはどうした、ズボンは!」
入江直樹の白衣の下は、なぜか半ズボンである。ハーフパンツではない、半ズボンであることをここに強調する。
「この話の元ネタの主人公はミニスカートだったなと思い出したもので。だから一応真似しておくかと。」
「いや、真似しなくていいよ!」
年齢が近いせいか、人一倍直樹に対抗心を燃やしている西垣が怒鳴る。
「どうせなら琴子ちゃんにミニスカートを…。」
西垣に最後まで言わせず、直樹が大蛇森が座る机をバンッと叩いた。
「いたしません。」
「…分かってるよ。」
言ってみただけじゃんと、ブツブツと文句を西垣は言った。
「ん?」
大蛇森が部屋の外が騒がしいことに気付き、自ら入口のドアを開けた。
「きゃあ!!」
そこには、看護師、いやそれだけじゃなく医師、検査技師、事務職員から食堂スタッフから…とにかく病院で働く全ての職種の女子たちが集まっているではないか。
「君たち、何をしてるんだ!」
「だって、あんまり綺麗な足だから。」
「少しでも長く拝みたくて。」
まるでハーメルンの笛吹きがごとく、入江直樹の足につられて女子たちがついてきたのだった。
「各々の業務に直ちに戻りたまえ!!」
「キャーッ」と悲鳴をあげつつ、女子たちは散って行った。

「ったく!」
面白くないと大蛇森が席に戻ると、
「ご用の向きは?」
といつの間に応接のソファに座り、その美しく長い脚を組んだ直樹が訊いた。
「ああ、君の所のチンチクリンに手術室に入ってもらおうと思ってね。」
「それはいつものことでは。」
「うん、そうだけど。だが今回は西垣くんの手術に入ってもらう。」
大蛇森の言葉に西垣が「フフン」と胸を反らせた。
「いいだろう?」
「まあ、報酬さえきっちりと払ってもらえれば。」
「分かってるよ。」
まったく守銭奴めと西垣が呟く中、直樹は半ズボン姿で颯爽と部屋を出て行った。

「まあまあ、西垣くん。今回は押さえて。」
「いいですけれどね。」
「昨日、院長に言われただろ?」
「…でしたね。」
昨日、二人は入江看護師紹介所のぼったくり、いや報酬の高さを院長に訴えていた。院長から一言物申してもらおうという魂胆からである。
しかし、院長はこう言った。
「まあ、いいじゃないか。その使えない看護師一人分の値段で、超使える医師を雇ったも同然なんだろう?」
使えない看護師、入江琴子のフォローに入江直樹がやってくることを院長は前向きにとらえていた。
「よくあるじゃないか。二つセットで一万円。実際は全く使えない、ただ同然のものを組み合わせているだけって。そういう手法なんだろう。」
「そういうものですかねえ?」
院長にそう言われると二人も引き下がるしかなかった。
「まあ、ちょっと色をつけておいたらどうだね?」
「色?」
「そう。使えない看護師が喜びそうなことをするんだよ。そうすりゃ、使える医師も考えを変えるかもしれないぞ。」

「失礼します。お呼びでしょうか?」
次にやってきたのは、入江琴子であった。
「ああ、君には次に西垣先生の手術に入ってもらう。」
「はい、分かりました。」
琴子はニッコリと笑った。
「西垣先生、よろしくお願いします。」
「よろしくね、琴子ちゃん。」
女を前にするとだらしなく鼻の下が伸びる西垣に「オホン」と大蛇森が咳払いをする。
「そこで、派遣の君にちょっとばかし、プレゼントを贈ることになった。」
「プレゼント?」
「これ、どうぞ。」
西垣が琴子に封筒を渡した。中身は大蛇森と西垣がポケットから用意したお金である。
琴子に御褒美という名のお金を渡せば、がめつい入江直樹も少しは丸くなるだろうと、院長のアイディアを実行したのである。

「あら…。」
封筒の中身を見て、琴子は驚いた。
「これ…。」
「いや、いいんだ。遠慮しなくて。」
西垣が微笑んだ。
「フリーのナースの立場では色々世間を渡るのも大変だろう?だからね…。」
琴子は直樹と違いがめつくない。きっと遠慮するに違いない。
「これ、受け取れません。ちゃんと報酬はいただいておりますから。」
「いや、いいんだ。その代わり手術はよろしくね。」
という会話を西垣は想像したのだが。

「いえ、その…。」
「何か?」
「…受け取れません。」
「いや、いいんだよ。本当に遠慮しなくても。」
ほら、来たと西垣がほくそ笑んだ。想像通りである。
「だってフリーのナースは…。」
「すみません、帯封されていないお金は受け取るなって言われていて。」
「…え?」
想像を裏切る言葉に、西垣、そして大蛇森の目が点となった。
「お、帯封?」
「はい。帯封されているお金しか受け取らなくていいってうちの所長が。」
琴子は申し訳なさそうに、封筒を大蛇森の机の上に置いた。
「帯封されているお金」すなわち、100万円以上…。
「いや、本家本元の、大門だって10万円以上なら受け取るんだぞ!!」
「でもそういう規則なんで。」
西垣と大蛇森は同時に「あの守銭奴!」と直樹の顔を思い浮かべた。

「…じゃあ、とにかく今度の手術よろしくね。」
「はい、がんばります!」
「せいぜい、今夜の“DoctorX”でも見て勉強したまえ。」
琴子を見送った二人は、ぐったりと疲れ果てていた。



ということで、手術当日である。
「では、これから×××(適当な病名をお入れ下さい)の手術を始めます。よろしく!」
「よろしくお願いします。」
西垣を中心に手術が開始された。琴子ももちろんいる。
「大丈夫だろうな、あのチンチクリン…。」
見学室から大蛇森が不安そうに見ている。まあ、西垣も腕はいいから大丈夫だろう。

「では、観音開きで進めるよ。」
西垣が琴子に確認をした。
「はい、観音開きですね。」
お、勉強してきたかと西垣が微笑んだ。なんだかんだ、やることはやってくれるんだと思いきや、
「で、次はそぎ切りですね!」
「へ?」
手にしていた器具を西垣は落としそうになった。
「そぎ切り?」
「はい。観音開き、そして次はそぎ切りで切り分ける。ですよね?その後は…マヨネーズ?それともお塩とお砂糖とお水につけますか?」
「臓器切り分けてどうするの!!」
西垣の叫び声が手術室に響き渡った。
「だってえ…。」
「おい、チンチクリン!お前、何を勉強して来たんだ!」
たまらずマイクで大蛇森が突っ込む。
「ちゃんと勉強してきました!言われた通りテレビ見て!」
「大門が臓器を切り分けていたか!」
「あ、それは見てません。」
平然と答える琴子に、「は?」と西垣と大蛇森の声がシンクロした。
「すみません、裏番組の土井先生見てました!」
「土井?」
ドラマの裏で何か、医療ドキュメントでもやっていたのかと西垣が考える。
「どこの先生?」
「きょうの料理の先生です。」
「きょうの料理、きょうの料理…って、料理番組!?」
「タッタカタカタカ…♪」というあのテーマ曲が西垣の脳裏に流れた。
「何でそれ見てるの!」
「だって、ドラマは手術シーンが怖くて。」
「今、それを言うか、この場で!」
開かれた患者の体を顎で示しながら、西垣が叫んだ。
「君、看護師でしょう?」
「でも先生、ドラマの手術シーンの方がリアルなんですよ。色とかすごく鮮やかだし!」
「そりゃ多少は演出してるだろうけど。」
「うち、8Kのテレビで色鮮やかなんですよね。」
「しれっとお金持ちアピール、ありがとうね。」
まだ手術序盤だというのに、すでに西垣は疲労困憊となっていた。

疲れ切った手術室に、ウィーンという音が響いたのはその時だった。
「入江くん!」
やってきたのは手術着の入江直樹であった。
「…さすがに手術着は半ズボンじゃないか。」
そんな嫌みを言う元気はまだ西垣に残っていたらしい。しかし、それを相手にせず直樹は手術台の前に立った。
「あなたに琴子は使えない。」
「使える奴がいたら会いたいね!」
「ここにいる。」
そして直樹は琴子の目を見つめて言った。
「琴子。お前が今手がけているのは手術だ。鶏の胸肉の調理じゃない。」
「入江くん!」
「大丈夫、俺がいる。」
「はい!」

「…何でそんな当たり前の会話を交わすんだ。」
上から大蛇森が呆れた声を投げかけて来た。その声に反応するかのように、直樹が大蛇森を見上げる。
「俺、失敗しないので。」
すかさず西垣が言った。
「僕だって失敗しない!」
そして琴子も負けじと叫んだ。
「私は失敗するかも!」
大蛇森はマイクを握り締め、叫んだ。
「お前ら、医者と看護師が、手術室で失敗失敗連呼するんじゃねえ!!!!!」



「…まあ、無事に終わってよかったよ。」
西垣がソファに倒れ込んでいた。
「結局、入江の奴に全ていいところを持って行かれました。」
「むしろ、終わったことが奇跡だよ。」
決して難しい手術じゃないというのに、なぜこんなに大変だったのか。大蛇森も疲れてソファに倒れ込んでいた。

「失礼します。」
いつの間にかスーツに着替えた直樹が部屋に入って来た。これも半ズボンではなかった。
「請求書です。」
「早いお仕事だね。」
渋々大蛇森が請求書を開く。
「さ、35億!?」
そこにははっきりと「35億円」と書かれていた。
「今年の流行に合わせちゃった?」
「流行なんて関係ないです。」
では振り込みよろしくと、直樹が背を向けた。
「ちょっと待て!こんな金額は無理だ!」
叫ぶ大蛇森に、直樹は振り返り言った。
「…5千万で。」
「やっぱり流行に合わせてきた」と西垣が呟いた。

「そうだ、これは少しばかりのお品です。」
金額に決着がついたところで、直樹がいつものごとく箱をテーブルに置いた。
「また匂いのきついもんじゃないだろうな?」
「大丈夫です。」
嫌なら受け取らなくてもという直樹に、いや、この間は本物のメロンだったと思い出し二人は受け取ることにした。



「何ですかね?」
「さあな。」
大蛇森が恐る恐る箱を開けた。そこには…。
「丸鶏!!」
クリスマス時期にしか見かけないような、丸鶏がそこにあった。もちろん、料理前の生肉状態である。しかも。
「おい、半額シールが貼ってあるぞ!」
「せめて正規の値段で買って来い!」
丸鶏を前にギャーギャー騒ぐ二人。
落ち着いたところで、西垣は大蛇森に訊いた。
「観音開きで行きますか?」
「…胸肉はマヨネーズにつけるとしっとりするんだよね。」
今夜は二人でチキンパーティーだと、慰め合ったのだった。




関連記事

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

あはは、クルスマス

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する