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2017.09.14 (Thu)

アタリ?それとも…? 6

間が空いてしまって申し訳ございませんでした。
体が気温差に追いつかない、もしや夏バテ(秋バテ?)かもという状態が続いてしまって。七分袖を着たら次の日は暑い、半袖。翌日は七分袖なんて日が多くて。
先日えまさんに「年のせいか体が言うことをきかん」と愚痴ってきたところです。
そんなときは気分を変えて更新しようかと思ったのですが、いやいや、こういう時に書くのはあれだ、夜中に手紙を書いて失敗するパターンと同じになるかもと止めていました。

※タイトル間違えてました!すみません!!

☆☆☆☆☆




【More】






その日、勤務を終えた天美がロッカールームに入ると同期の一人が着替えていた。
「…お疲れ様。」
声をかけてきたその同期は、いつだったか琴子を馬鹿にした集団にいた菅井だった。
「お疲れ様。」
天美は返事だけをして、自分のロッカーを開けた。真後ろが菅井のロッカーなので早くその場を立ち去りたかった。

「…あのさ。」
ところが、菅井が更に声をかけてきた。
「入江さんに泣かされたんだって?」
こいつは気を遣うということをしないのかと思いながら、違う科にまで噂が流れているのかとため息をつく天美であった。
「入江さん、結構有名だから。」
なるほど、だから噂があっという間に広がるのかと納得する天美であった。
「そうだけど、何か?」
泣いたことは事実なので仕方がない。天美はそれ以上文句があるのかと菅井を睨んだ。
「ふうん、そうなんだ。」
あれだけ偉そうな自分が泣かされた、しかも馬鹿にしていた琴子に。そりゃあ菅井にとって格好のネタだろうと相手にするのもうんざりしてくる。
「じゃ、渡辺さんが間違っていたんだね。」
「え?」
てっきり「偉そうにしてるから」と嫌味を言ってくるかと思っていたのに意外な言葉に天美は菅井を見つめた。
「だって入江さんが叱ったんでしょ?あの入江さんが。」
「あの入江さんって、どういう意味?」
その先を聞こうとした天美であるが、「お疲れ様です」と他の看護師がゾロゾロとやって来てしまった。
「早く着替えて、出よう。」
菅井は戸惑う天美を促した。


二人は病院の敷地内のベンチに座った。
「入江さんってあんまり叱らないイメージだから。」
菅井が口を開いた。
「だから叱る時って本当に間違っている時なんだろうなって思ってたから。」
歩きながら菅井が話すのを、天美は黙って聞いていた。
「で、叱られると結構ダメージ大きいだろうなって。当たりでしょ?」
「…まあ、ね。」
違う科の菅井が分かっていて、どうして同じ科の自分が分からなかったのか。
「入江さんってさ、感情にまかせて叱らないでしょ?」
「感情にまかせて?」
「うちの科にいるんだけどね。まあ、何が気に入らないのかガミガミとわめく先輩。そりゃ、私も悪いけれどそこまで言わなくてもいいじゃないって。動きが悪いことを叱っているのに、数日前のことをネチネチと繰り返すし。それ、その日に注意されましたって言い返したいけれどそんなこと言ったら散々な目に遭うことは分かっているから我慢するしかないんだよね。」
「ふうん…。」
「でも入江さんってそいういうことないでしょ?」
「…うん。」
「入江さんに限らず桔梗さんもそうだろうね。外科ってそういう人多くてうらやましい。」
まあ、他に注意されるようなことはしてないのだけれどと言い返したいのを天美は堪えた。せっかく菅井が話してくれているのだからここは素直に拝聴しよう。
「そういう入江さんに叱られると、そりゃあ落ち込むよね。だから最近、元気なかったんでしょ。」
天美はまたもや驚いて菅井を見た。
「何で分かるの?」
「だってずっと見ていた…あ、いや。変な意味じゃなくて!」
焦る菅井に、つい天美の口元が綻んだ。
「へえ、渡辺さん、笑うんだ。」
「一応、人間なので。」
「そりゃそうでしょう。そういう人だから何となく見ていたのよ。いいよね、優秀な人は私みたいに叱られないんだろうなって。」
その天美が泣かされたと聞いた時は、逆じゃないのかとやはり菅井も思ったという。
「でも間違いないっていうし。渡辺さんも認めたし、ねえ?」
「…間違いないけれど。」
「入江さんに何で叱られたの?」
またもや率直な菅井の問いかけに、天美は戸惑う。
「ネタにしてみんなで笑おうとでも?」
「笑えるネタなわけ?」
言葉の割には菅井の顔は真剣だった。
「実は…。」
思い切って、天美は菅井に打ち明けた。

「そりゃあ叱られるわ!!!」
話を聞いた菅井は大声を上げた。
「あんた、勉強ができるって思ってたけど…それだけなんだね!!」
とうとう「あんた」まで格下げとなってしまった。
「そりゃあ入江さん、叱って当然だし。」
「いや、叱られたわけじゃなくて。」
「へ?」
「その…失望されたというか。」
「うん、するね。普通の人だったらする。」
またもやズバッと菅井が言う。が、いつしかそれは天美にとって心地いいものとなっていた。
「よくできたよね。というか、何の気持ちもなかったわけ?ちょっと、ちょっと。さっきあんた、自分のこと一応人間とか言ってたけど撤回しなよ。」
「そこまで?」
「そこまで。そんなんじゃロボットに看護された方がずっとまし。」
「そっかあ。」
「どうしてダメか、自分で分かってるの?」
「…あんまり。」
これまた菅井の口がぽかんと開いた。
「じゃあ、何でそういうことできたわけ?尿バッグぶら下げるとかさ。」
「だってここ、病院じゃない。みんな患者なわけだし、みんなパジャマだし、みんなすっぴんだし、みんな色々下げて…。」
「好きでそういうことしてると思う?」
菅井が天美を険しい顔で見た。
「患者さんが、好きでここにいると?」
「そんなわけないじゃない。」
「あなたは病人です、病人だからボサボサの頭で歩くんですって言えと?」
「いや、言わないけれど。」
「あんたはそう言ってるも同然のことをしたんだよ?分かる?」
「…。」
「患者になっても人間は人間。当たり前だけどね。むしろ元気な人よりも気を遣わないといけないわけよ。あのさ、介護施設でメイクサービスをすると利用者さんが明るくなったって話を聞かない?そういうものと一緒じゃないの?」
菅井にズバズバと言われ、天美はようやく自分が間違っていたことに気づいた。

「ああ、入江さんの下にいて、何でそういうことに気づかないかな!」
「入江さんってその方面にすごいの?」
「すごいっていうか…入江さんって患者さんに人気あるじゃない。それってただニコニコしているだけじゃないと思うよ。心配りとかすごいんじゃないの?」
「確かにそうみたいだけど。」
「だけど?」
「でもそのせいで勤務が終わらないというか…要領が悪いような…送り迎えとか自分でしちゃうから…。」
「それでさ、あんたに迷惑をかけてるわけ?」
菅井がビシッと天美に言った。
「入江さんの仕事が遅いから、あんたが尻ぬぐいをしているの?」
「そんなこと…ないよ。」
「でしょ?あの人、そういう人じゃないもんね。ああ、環境がうらやましい!送迎なんていくらでもするから、代わってよ。」
「送迎、好きなの?」
「患者さんとおしゃべりできるじゃない。」
「患者さんとおしゃべり、好きなの?」
「うん。」
菅井が大きく頷いた。

「渡辺さん、どうして看護師になろうと思ったの?」
ここまで話を聞いた菅井が疑問をぶつけてきた。
「…人の役に立ちたかったから。」
「それだけで看護師?」
「…うん。」
何となく歯切れの悪い返事をする天美だった。
「人の役に立つ仕事なら他にもいっぱいあるけどね。渡辺さん、勉強出来るんだから。」
「でも看護師になりたくて。」
「ふうん。」
菅井はよく分からんという顔をした。

「菅井さんは?」
今度は天美が菅井に質問をした。
「人のお世話をするのが好きだから…って、何よ、その顔。」
意外だと天美が目を丸くしているのに、菅井が不快感を顔に出した。
「だって入江先生がいいとか騒いでいたから。てっきり医者と結婚したくてこの仕事に就いたのかと。」
「そんな甘い理由でできるほど、この仕事楽じゃないでしょ。」
確かにイケメンは好きだが、それくらいの息抜きをしないとやっていけないと菅井は言った。
「それなのに、エステとかにいっちゃうの?」
自分よりずっと看護師に向いているのにと素直に天美は残念がった。
「エステ?ああ、あれは鬱憤晴らしただけ。」
ケタケタと菅井が笑った。
「せっかく国家試験受かって大学病院に就職できたんだからまだ辞めないわよ。」
「そうなんだ。」
「まあ、あの時は本気だったけどね。」
「でも」と菅井は続ける。
「あの時、渡辺さんに言われて考えたんだよね。努力もしないでって。確かにそうだなと。やってる子は勤務終わった後とか休みとかちゃんと勉強してるもんね。」
「あの時は言い過ぎた…ごめんなさい。」
自分もそれほど威張れる人間じゃないことを、今では天美もよく分かっていた。
「それに、この仕事が嫌で辞めたいわけじゃないから。仕事は好き。患者さんと触れあうことは好き。それなのに先輩が嫌だからって辞めるのは悔しいなって。」
「うん、そうだよ。」
「仕事が嫌いなわけじゃないんだよね。先輩の顔色をうかがいながら仕事をすることが嫌いなんだよね。患者さんより先輩のことを気にするのが嫌になっていたんだよ、あの時は。」
自己分析がすごいなあと、天美は菅井を尊敬の眼差しで見つめる。自分に足りないものを菅井は持っている。

「…菅井さんと話をして、入江さんがどうしてああいう顔をしたのか改めて分かった。」
「そう?」
「うん。入江さんをすごく傷つけてしまったんだ…。」
「一番入江さんを見下していたのは自分だってことに気づいたと。」
「うん。」
新人の分際で先輩の仕事ぶりに口を出すことが間違っているのに。それをして当然と思っていた自分が恥ずかしかった。
「渡辺さん、入江さんのこと好きなんだね。」
菅井が面白そうに言った。
「だから、食堂で入江さんの悪口大会になったときにあんなに怒ったんでしょ?」
「それ、入江先生にも言われた。」
ここまで来ると、天美もそれを認めるしかなかった。
「入江先生は怖いよねえ。奥さんにべた惚れだから。」
食堂での一件を思い出し、二人はクスッと同時に笑った。
「あれは私たちが悪かったんだけど。」
「でも菅井さんは中心にはいなかったよね。」
琴子の悪口を言っていたのは別の同期だった。菅井はエステに転職と言っていたが、琴子の悪口は言っていなかったと天美は記憶している。
「でも連帯責任だよ。止めなかったわけだし。妬みって恐ろしいわ。女の集団ってそういうのは嫌よね。だから渡辺さん、つるまないんだ?」
「まあ…そうだけど。」
「渡辺さんもそうだし入江さんもそうだし。人って見た目だけで決めつけるのは勿体ないよね。」
「菅井さんもね。」
「そりゃどうも。」
意外と自分たちは気が合うのではないだろうか。そんなことを二人は同時に思っていた。



「あの子、ずっと立ってるね。」
話をひとしきり終えたところで、菅井が犬を連れて立っている少年に気づいた。
「犬の散歩コースなのかな。」
病院は大学構内にあり、一般人も散歩していることが多い。犬を連れて歩いている人も珍しくない。
すると、少年が手を上げた。見上げるその視線の先を菅井と天美は辿った。
「ああ、友達が入院しているのか。」
少年が見ていたのは渡り廊下だった。そこには同じ年頃の少年が…と、天美が気づいた。
「慎一くん!?」
慎一がヒラヒラと手を振っている。が、その顔は元気がやはりない。

しばらく手を振った後、少年は犬を促し病院を出て行った。慎一の姿も窓から消えていた。
「犬を連れているから中に入れないわけか…なるほど。」
一人頷く菅井の側で、天美が立ち上がった。
「どうしたの?」
「ごめん…ええと、話を聞いてくれてありがとう。」
「あ、うん。いや、別にお礼を言われるほどじゃ…。」
「ちょっと、行ってくる。」
「え?行くって?ちょっと?」
菅井の声は天美に聞こえていなかった。ただ、今、あの少年を逃すわけにはいかないという思いしか天美にはなかった。



「入江さん。」
翌日、天美は琴子に声をかけた。
「どうしたの?」
ここ最近、ぎこちなかった天美とは違う様子に、琴子は驚きつつ平然を装おうと努力しながら返事をした。
「あの、慎一くんのことなんですけれど。」
「慎一くん?ああ、あの子。」
「実は…。」
昨日分かったことを天美は琴子に話した。琴子は「え、そうなの?」と驚いた。
「それで、入江先生にお願いしたいんです。」
「そうだね。」
「それじゃあ」と琴子は立ち上がり、医局へ行こうとした。
「…。」
ところが琴子は動かなかった。
「入江さん?」
どうしたのだろうかと、天美が不安になって顔をのぞき込んだ。すると琴子はストンと元の席に腰を下ろしてしまった。
「入江さん?」
「渡辺さんが行って。」
「え?」
琴子はニッコリと笑って繰り返した。
「渡辺さんが入江先生の所へ行って、話してきて。」
「でも…。」
「だって渡辺さんの考えたことでしょう?看護計画の一つとして渡辺さんが話すべき。」
毅然と琴子が天美に言った。
「ですが、私は新人ですので…。」
「関係ないわ。新人でもベテランでもいい考えなら実行する価値はあると思う。入江先生はそういうことで話を聞かない先生じゃないから。」
「分かりました。」
琴子に背中を押され、天美は医局へ向かった。



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 |  2017.09.14(Thu) 14:56 |   |  【コメント編集】

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 |  2017.09.14(Thu) 15:24 |   |  【コメント編集】

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 |  2017.09.14(Thu) 17:29 |   |  【コメント編集】

琴子ちゃんは看護師だけど?私の場合は介護士なんですが中には勘違いの介護士いますよね、看護も介護も同じ人とかかわる大事な仕事気配り心配りて大事なんですよね、琴子ちゃんがただにこにこしてるわけじゃないことも、天美さんも少しはわかってかな?仕事に戸惑いて最初はだれでも有るけどあって当たり前なんですよね。
なおちゃん |  2017.09.16(Sat) 18:44 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2017.09.20(Wed) 21:47 |   |  【コメント編集】

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