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2017.08.08 (Tue)

吾輩は猫である 7


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吾輩は猫である。

「ニャー。」
「あ、ゴンザエモン!」
まーくんは予想通り、ハンモックで揺れていた。
「まーくん、今はギャングだからね。」
そう話すまーくんは、恐らくおもちゃのおじいちゃんから借りたであろう帽子を目深にかぶり、おばあちゃんから借りたサングラスをかけている。
どういうわけかまーくんは、ハンモックに揺れるとギャングになる傾向がある。

「ニャー。」
「ん?あ、これ?」
ハンモックの傍らには見慣れないぬいぐるみがあった。
「これね、こっこちゃん。ひいおじいちゃんが置くってくれたの。」
それはニワトリのぬいぐるみだった。
「ひいおじいちゃんのおうちにいるこっこちゃんと同じニワトリさんなんだよ。」
まーくんはこっこちゃんをムギュッとほっぺにくっつけニコッと笑った。
…まーくん、ギャングはぬいぐるみを側に置かないと思うが。

「まーくん…あ、ゴンちゃん!」
そこへ現れたのはまーくんママだ。ほう、珍しい。今日は吾輩の名前を覚えている。
「そろそろお出かけの時間ですよ。」
「あ、そっか。」
「ニャー。」
そうそう。そろそろ準備しておくれ。
「ゴンちゃんも迎えに来てくれたでしょう?」
「そうだね。ありがと、ゴンザエモン。」
「ニャー。」
口を動かす度にずり落ちるサングラスを押さえながら、まーくんはハンモックから下りた。
「ワン!」
分かってる、おぬしも一緒だろう、チビよ。



「お邪魔しまあす。」
まーくんとまーくんママ、そしてまーくんのおばあちゃんが向かったのは吾輩が下僕と共に住む家だ。
「まあまあ、ようこそ。」
「いつもうちのゴンザエモンがお世話になってますね。」
下僕夫婦が招待したのである。吾輩は下僕妻の懐に飛び込んだ。
「今日、まーくんが来てくれるっていったらね、ゴンザエモン、いつも嫌がるお風呂にすんなりと入ったのよ。」
「そうなの?」
当たり前である。客人を迎えるにあたって当然のマナーである。
「うちに来る編集なんて、懐いてくれないと嘆いているのになあ。」
だって編集とやらは下僕夫をいつも苦しめているではないか。奴らが来ると下僕夫は「どこかへ消えたい」と頭を抱えているのを吾輩はちゃんと見ている。
「お仕事は大丈夫ですの?」
「ええ、昨日締め切りで一段落ついたところですの。」
「でもあの人気作家さんが、ゴンちゃんのご主人様だったなんて。」
主人ではなく下僕だよ、まーくんママ。
そうそう、その下僕は一応作家という職業についている。
「待ちきれなくて、ゴンザエモンは迎えに行ったのねえ。」
「ニャー。」
ま、そういうことだ。
というか、このどこか放っておけないまーくんママがちゃんと吾輩の家に来られるかが心配だった…でもまーくんとおばあちゃん、チビが一緒だから心配なかったか。
「チビくん、大きいなあ。」
下僕夫が言うと「ワン!」と挨拶をするチビである。

「うわあ、おもちゃがいっぱい!」
リビングの片隅にある吾輩の陣地を見てまーくんが声を上げた。
「うちは夫婦二人きりでしょう?ついゴンザエモンを甘やかしてしまうのよねえ。」
「すごい、すごい!」
「まーくん、これでゴンザエモンと遊んでくれる?」
「はあい!」
自慢じゃないが、吾輩の陣地はなかなかの充実ぶりだ。何せ下僕夫がちょいちょいおもちゃを買ってくるからな。
「ゴンザエモン、おいで」
早速猫じゃらしを吾輩へ向けるまーくん。もう、そんなことをされたら相手をしないわけにいかないではないか。

「ゴンちゃんのお名前はどこからつけられたのですか?」
まーくんのおばあちゃんが訊ねる。
「ああ、それは僕が直山賞を受賞したときの作品の主人公からです。」
「まあ、それでは記念すべき作品からですわね。ゴンちゃん、大事にされていることがそこから分かりますわ。」
「なおやま?ゴンザエモンの名字?」
猫じゃらしを動かすまーくんの手が止まった。
「違うよ、まーくん。ええとね、おじさんが前にもらった賞のお名前。」
「賞をもらったの?」
「そう。」
「すごいねえ。」
「そうかい?うれしいなあ。」
可愛いまーくんに褒められて、まんざらでもない下僕夫である。
「まーくん、プリンを召し上がれ。」
下僕妻がプリンを運んで来た。途端に飛んで行くまーくん。

「本当にまーくんにいつも遊んでもらえて、ゴンザエモンも最近はスリムになってきたんですよ。」
「子供だから加減を知らないことが心配なんですけれど。」
まーくんママが母親らしいことを口にする。その隣でまーくんはプリンを無言で頬張っている。
「あんまりゴンちゃんを疲れさせないようにって言っているんですけれど。」
「まあ、そんな心配はご無用です。本当に感謝しているんですよ。」
「そうそう。私が締め切り前だと相手をしてやれないから。」
「あら、あなたは締め切り前でもゴンザエモンと遊んでいるじゃありませんか。だから引き離すのに私がどれほど苦労をしているか。」
「ゴンザエモンと遊んでいると物語が浮かんでくるんだよ。」
「現実逃避も兼ねているのでしょう?」
下僕妻が苦笑している。
「私たちが相手をしてやれないと、ゴンザエモンはまーくんの所へ行っているんですわ。だからこれからも仲良くしてくれる?」
「いいよ!」
まーくんが返事をすると、傍らのチビも「ワン」と吠えた。
「チビちゃんもありがとうね。ゴンザエモンをよろしくね。」
…何だか吾輩が子供みたいじゃないか。

「あれ?」
再び吾輩と遊び始めたまーくんが、リビングの片隅に目を止めた。
「くまちゃんのご本だ!」
タタタとそこへ駆け寄るまーくん。吾輩とチビも後を追いかける。
「くまちゃんとケーキ、くまちゃんとハイキング…全部ある!まーくんも全部持ってる!」
「まーくん、くまちゃんのご本好きなの?」
下僕妻がやってきた。
「大好き!新しいご本が出るとパパが買ってくれるんだよ。」
「まあ、そうなの。」
「うん。あれれ?」
まーくんはそのうちの一冊を手に取った。
「くまちゃんとさかなつり…?あれ、これ、まーくん持ってないなあ。」
首を傾げるまーくん。そんなまーくんを下僕妻が笑顔で見ている。
「買うの忘れちゃったかなあ?」
「そのご本はね、まだ本屋さんに出ていないのよ。」
「え?なんでじゃあこのおうちにあるの?」
「そのご本は、もうすぐ本屋さんに出ますってことでおうちに来たの。」
「どして?」
「もしかして…。」
やってきたまーくんママが、本と下僕妻を見比べる。すると下僕妻は頷いた。
「ええ、私が作者です。」
「さくしゃ?」
「くまちゃんのご本を書いているのはね、おばさんなのよ。」
「ええ!?」
これにはまーくんだけじゃなく、まーくんママもおばあちゃんも驚いている。
あれ?吾輩、まーくんに言ってなかった?」

「おばさんが書いたの?」
「ええ、そうなの。いつも読んでくれてありがとうね。」
「そうなんだ!!」
まーくんの目がキラキラと輝き出した。
「すごいねえ、こんなご本が書けるんだあ。」
「ありがとう。」
「…俺より尊敬されているなあ。」
下僕夫がポツリと呟くと、大人達が笑った。
「仕方ないでしょう。あなたもまーくんが読んでくれる本を書いたら?」
「うーん、子供向けかあ。そっちは君に任せるよ。」
「先生の小説はうちの男性陣が大好きなんですよ。」
「そうなんです。四人で読み終えた感想を言い合っていて。」
「…ま、それでよしとするか。」
下僕夫が言うと、また笑いが起きた。

「まーくん、おばさんのお部屋を見に来る?」
「行く!」
吾輩もと、下僕妻の足下にすり寄る。
「はいはい、ゴンザエモンも一緒ね。」
下僕妻は吾輩を抱き上げた。

「すごおい!」
下僕妻の仕事部屋はまーくんの大好きなくまちゃんであふれている。
「お話と絵の両方を描かれるんですね。」
まーくんママが感心している。
「あ、エプロンくまちゃん!」
「これは消防士のくまちゃん!」
壁にかけられている絵を指さして興奮するまーくん。
「まーくん、好きなくまちゃんをプレゼントしましょうか。」
「いえいえ、そんな。」
まーくんママが遠慮する。
「いいんですよ。こんなに好きでいてくれるの」ですもの。ぜひ。」
そうだそうだ。まーくん大喜びだ。

「どのくまちゃんにしようかなあ。」
壁にかけられているたくさんのくまちゃんを見比べるまーくん。
「ドクターくまちゃん!」
…なぜそれを選ぶ!!
「ドクターくまちゃんがいい?」
「うん、パパとおんなじお医者さんだから!」
…ここに来ても、あの悪魔を忘れないまーくん。
「そっかあ。それじゃあ、今外すわね。」
…違うのを選んでほしかったなあ。

「おうちにこんなにご本があるのに、まーくん、ゴンザエモンにくまちゃんのご本読んであげてたよ。」
リビングに戻ってしょんぼりするまーくん。
いいよ、いいよ。まーくんの可愛い声で読む本は格別だから。
「今度からお医者さんのご本を読んであげるね!」
「ニャッ!」
やめて!!
「パパがくれたご本があるから、今度来た時は…うーんと、心臓のところ!」
やだ!
「写真もあるからわかりやすいよ!」
絶対やだ!
「そうだ!この前ね、お医者さんのテレビをね、パパに録画してもらったの!それも一緒に見ようね!」
まーくん、実は吾輩を嫌ってる?


ということで、まーくんが帰る時間がやってきた。
「色々いただいて、ありがとうございました。」
「今度はうちにもぜひ。主人たちが待っていますから。」
「ええ、ぜひ。」
「ああ、これをどうぞ。」
下僕夫が差し出したのは、こちらも次期に出る小説、四冊。
「お宅の男性陣へどうぞ。」
「まあ、大喜びですわ!!」
ちなみにまーくんの両手には、今度出るくまちゃんのご本とドクターくまちゃんの絵がしっかりと抱えられていた。
「またね、ゴンザエモン。」
「ニャー。」
また来てね、まーくん。




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