日々草子 続々・リップサービス

続々・リップサービス

ちょっと合間にコメディを入れてみます。

☆☆☆☆☆







君たちは医療ドラマというものを見たことがあるだろうか?
え?僕?勿論、見るよ。主役より僕の方がイケメンだなあってね。
ま、そんなことを考えるのは他にもいるわけで…。

「西垣くんは、コードレッドってドラマ、見たことある?」
僕に話しかけてきたのは、脳外科部長の太山先生だ。
「はい、録画してます。結構リアルですよね。」
「うん、そうだよね。」
「ところで」と太山先生はニヤッと笑った。
「…あのさ、とうとう僕の時代が来たと思わない?」
「は?太山先生の時代と仰いますと?」
「もう、西垣先生ったら。」
「この、この」と僕の腕を肘でつく太山先生。名は体を表すとばかりに、こちらの先生はなかなかの巨漢。僕の細身の体がぐらつく。
「ほら、あのドラマの主役さ、何科の先生だっけ?」
「主役…川Pですよね?」
川Pとは、主演俳優のニックネームね。
「ええと、ああ、そうでした。川Pは脳外科の医者でしたね!」
「そう、僕と一緒!」
太山先生はムフフと笑った。
「やっと時代が僕に追いついたんだよね。脳外科って地味だからドラマの主役にならなくて。ほら、“私、失敗しませんから”のドラマだて主人公外科医だし。」
ていうか、そのドラマの主人公は脳も何でも切りまくってるから科は超越してると思うけど。
「そうですね!」
勿論、僕はそんなことおくびにも出さずに、ご機嫌を取る。これぞサラリーマン医者の辛いところさ。
それにしても、この太山先生といい、大蛇森先生といい、脳外科の先生達は何で変人揃いなんだろう。お互いの脳を手術しあった方がいいんじゃないって言いたくなるキャラクター揃いだよね。

「しかも僕と似てるしね。」
「似ている?」
「もう、西垣ちゃんったら」
「この、この」とまたもや肘をツンツンされる。
「ほら、僕と川P、似てない?」
「…え?」
ええと…霊長類ってところが?
「似てると思ってたんだよね。顔が小さいところとか、クールな感じとか。」
「…そう…ですね。」
「ようやく僕の時代が来たんじゃなあい?」
太山先生、アニメキャラに似ている「ハクション」って呼ばれてるんだけど…ま、ここは調子を合わせておかねば。
「ですね!いやあ、斗南の川Pとはまさに太山先生のこと!」
「いやあ、そうかい?」
「ええ、そうですとも!ねえ!」
僕は側を通りかかった看護師を呼び止めた。
「…は?」
顔を上げた看護師を見て、僕は悲鳴を上げそうになった。
「何がですか?」
「こ、琴子ちゃん!」
何てこったい!どうしてまた、こういう状況に居合わせるのが琴子ちゃんなんだ!
この病院は琴子ちゃんしか看護師がいないのかっていうくらいの遭遇率じゃないか!

「何がですか、西垣先生。」
うう…ここは無視して通り過ぎて欲しかった…。しかも琴子ちゃん、夜勤明けだよな?
「ええと…ふ、太山先生がほら…人気者に似ているって話を…ね?」
「人気者?」
疲れ切った顔を琴子ちゃんは太山先生に向ける。
「ハク…。」
「川Pね!川Pだよ、琴子ちゃん!」
僕は琴子ちゃんに答えを言わせないよう、叫んだ。
「川P…。」
どうしよう、また琴子ちゃんがピカソの絵に出てくる女の人の顔になったら!ここは琴子ちゃん、今までの事例を学ぼうよ!

「…そうですか。」
「はあ!」と琴子ちゃんは大きなため息をついた。あれ、ピカソにならないぞ?琴子ちゃん、大人になった?成長してくれた?
「…可哀想に。」
「可哀想?」
あれれ?琴子ちゃんから意外な言葉が出て来たぞ。
「太山先生、お宅に鏡がないんですねえ…。」
「鏡?」
太山先生が首を傾げた。
「いや、太山先生、鏡くらい買いましょうよ!」
「こ、琴子ちゃん…。」
「もうちょっと自分自身を見つめた方がいいですよ?そりゃあ正視できないことはたくさんありますけれど、いくらなんでも川P?そりゃないわあ。」
何だか琴子ちゃん、やさぐれているようだけど…。
「川Pの顔、よく見て下さい。小さいでしょ?ね?似ているなんて暴言、川Pファンに土下座しても許してもらえないレベルですよ?」
…しまった。思い出した。昨夜の病棟はちょっとした戦場だったと。ブラック琴子ちゃんになっても無理はないレベルの忙しさだったと…。
こんなことなら、ピカソ琴子ちゃんになってくれた方がずっとマシだった…。

「あ、あのね君…。」
「いや、そもそもあのドラマ、ドクターヘリ出て来ますよね?太山先生、へりに乗れます?」
「の、乗れるよ!」
「でも先生が乗ったら…どれくらいの医療機材を下ろすことになりますかねえ?」
しみじみと毒を吐く琴子ちゃん。まるで笑顔で手榴弾を投げつけているかのような光景だ。
そういえば、『漆と夜勤明けの看護師には触れてはいけない』って田舎のばあちゃんが言っていた気がする。ああ、忘れていた。
「それに太山先生、川Pみたいにへりまで全力疾走できます?無理でしょ?」
「うう…。」
「ということで、失礼します。」
とりあえずお辞儀ですってばかりに、ぺこりと頭を下げ、琴子ちゃんはスタコラサッサと行ってしまった。
後に残されたのは気まずい僕と…。

「…彼女は確か、入江先生の奥さんだったね?」
めっちゃ不機嫌になった太山先生だ。
「は、はあ。」
「ちょっと入江先生と話をしてこようかね…。」
ユラリと巨体を医局へ向ける太山先生。僕もついて行く。

しかし、入江は医局ではなく食堂にいた。
「入江先生!」
コーヒーを飲んでいた入江の前に立つ太山先生。その怒り様に食堂にいる職員達が何事かと視線を向けてくる。
「何でしょうか?」
「さきほど、君の奥さんと話をしたのだが。」
「はい。」
「…この僕に土下座をしてどうとか言い放ったんだが。」
「というか、土下座を要求されることを妻にしたのですか?」
入江の目がキラリと光った。
「あ…いや…。」
その眼光にたじろぐ太山先生。
そうだ、入江も当直明けだった。しかも、琴子ちゃんが戦場なみだったということは、こいつも当然同じわけで…。
「何をしたんです?」
「そ、その…。」
「早く言ってもらえますか?」
「ええと…ぼ、僕がね…その…似ているかって聞いたら…。」
「ああ、ドラマの話ですか?」
この要領を得ない話し方から、入江は全てを理解したらしい。
「ドラマに出ている脳外科医役の役者と顔が似ているかと妻に聞いたんですか。」
めちゃくちゃ不機嫌オーラ、ドス黒い何かを全身から発している入江。ああ、ブラック琴子ちゃんなんて可愛いもんだった。
もはや今の入江、地獄の使者、二代目閻魔大王。
「…はい。」
その恐ろしさに、太山先生がすっかり小さくなっている。
「はあ!」と入江は大きな溜息をついた。こういういところ、琴子ちゃんと一緒。夫婦って似るんだね。
「くだらない。」
「だ、だって…。」
「そもそも、医者に顔なんて必要ないでしょう?」
うわあ、お前にだけは言われたくないわ。
「まあ、分かりました。妻の不始末は夫の不始末ということで。」
すごい態度だな、お前。妻が笑顔で手榴弾なら、夫は手榴弾の千本ノックって感じだよ。
「とりあえず、今回は俺よりも太山先生の顔がいいということにしておきましょう。」
どういう流れでそんなことに!?
「川Pまでは無理でも、俺より顔がいいってことならいいですよね、太山先生。」
入江の声は静かな食堂に響き渡った。

「入江先生より顔がいい…?」
「あのハクションが?」
「どの面下げて?」

周囲の職員達の目が明らかにそう言っていた。うっ…完全にやばい雰囲気。
「…新しい形のパワハラじゃない?」
誰かが口にする。
「ぱ、パワハラ!?」
上に立つ人間がもっとも恐れる言葉に、太山先生が怯え出す。
「いや、そんなことはない!君が、君が一番だ!入江先生!」
「じゃあ妻の不始末も…。」
「あんなの不始末じゃない!君の奥さんは正しかった!間違っていたのはこの僕だ!」
「なら、そういうことで。」
「それじゃ失礼します」とペコリと心のこもっていないお辞儀をして去る入江。こういうところも夫婦そっくりだ。

「…西垣くん。」
「は、はい。」
太山先生がクルリと巨体を僕へ向けた。
「君が僕を持ち上げたからこんな目に遭うんじゃないか!」
「ええ!?」
「もう君に話をした僕が馬鹿だった!」
プリプリと怒って食堂を出て行く太山先生。
「…とんだとばっちりじゃないか!」
僕はサラリーマンとして一生懸命太鼓持ちをしたのに、どうして反抗したあの夫婦が無傷で、僕がこんなにボロボロにされるんだ!

教訓
『漆と夜勤明けの入江夫妻には触れてはいけない』by西垣




☆☆☆☆☆
ドラマを見ていて思いついたネタでした。
あのドラマ、1と2はちょっと辛くて見てなかったのだけど3は今のところ大丈夫そう…。



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あはは!とんだとばっちりですね西垣先生気の毒。v-8
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水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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