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2017.06.03 (Sat)

猫神家の一族 21

更新が空いてしまい、申し訳ありませんでした。

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直樹の言葉に、一同は何が何だか分からないという顔をした。
「ちょ、ちょっと待って下さい、入江さん。」
困惑の顔を刑事は直樹に向けた。
「鬼頭祥平が鴨狩啓太だと?」
「はい。」
直樹は確信を持って頷いた。
「二人は途中で入れ替わっていたという意味ですか?」
「違います。鬼頭祥平と鴨狩啓太は同一人物、つまりイコールで結ばれるのです。」
「はて、どういうことですかな?」
やはり意味が分からない刑事だった。そして琴子も同様だった。

「まずは一連の事件から説明しましょう。と言っても、あくまで僕の推理ですから100%真実かどうかは分かりません。」

直樹が話を始めると、全員が一字一句を聞き逃すまいという真剣な表情で耳を傾けた。
「事の発端は、この猫神家の当主である猫神桃太郎氏が亡くなったところから始まります。一代で身代を築き上げただけに、しっかりとした遺言書を残していた。それを開封する時期まで言い残して。」
それは皆が知っていることだったので、何も反応はない。
「しかし、それをこっそりと読んだ人物がいる。それが雉子さん、あなたなのです。」
直樹がその顔を向けても、雉子はやはり顔色一つ変えずに座ったままだった。
「大蛇森弁護士をそそのかして、遺言書を持ち出させたのでしょう。しかし後ろめたいこともありじっくりと読むことはなかった。が、はっきりと見たのは相原琴子という名前。彼女が猫神の財産を独り占めすると勘違いして、彼女の命を奪おうと考えた。それであの車の事故が起こったのです。」
やはり自分は命を狙われていた、しかも目の前にいる雉子に。琴子は今更恐ろしさを感じ背筋を震わせた。
「が、公開された遺言書は琴子一人が相続するための条件があった。西垣東馬、池沢金之助、鴨狩啓太、この三人のいずれかと結婚すること。それができない場合は桃太郎氏の庶子である鬼頭祥平が相続すると。そこで雉子さんは琴子の命を奪わずとも自分の息子と結婚させれば財産を受け取れると分かったわけです。」
だから琴子はあれ以上狙われることはなかったのである。

「しかし、琴子が狙われたことで危機を感じた人物がいます。遺言書を見せた張本人の大蛇森弁護士です。彼は良心の呵責に堪え切れず、あなたに遺言書を見せたことを警察に申し出ようとした。それを止めるため、あなたは彼を手にかけた。」
「大蛇森弁護士を手にかけたのは、雉子さんだったのですか!」
刑事が疑って悪かったという顔を琴子に向けた。琴子は「ほうら」とばかりに見返す。
「猫神家は薬品関係の企業もあります。その辺りから毒を入手したのでしょう。大蛇森弁護士が吸う煙草に混入させて…あとはご存知のとおりです。」
「大蛇森弁護士まであんたが…何て恐ろしい!」
猿子が妹を睨む。しかし、それでも雉子は平然としている。そこが恐ろしい。

「では、次の金之助も雉子さんが?」
刑事が直樹に尋ねると、
「そうです。金之助は単に啓太が琴子と結婚するためには邪魔な存在だったからでしょう。金之助が琴子に本気で想いを寄せていたことは周知の事実ですからね。」
「庭の築山の上に首を乗せて口に団子を入れたのは?」
「猫神家に伝わる「山」「川」「団子」の掛け軸を思わせるように仕組んだのです。その掛け軸を思い出せば、一度桃太郎氏が渡した相手、鬼頭さちを思い出させるために。犯人は鬼頭さちであると思わせるためにね。もっとも他にも理由はあるかと思いますが。」
「他にも理由とは?」
「それは今はまだ置いておきましょう。」
刑事の問いを直樹はやんわりと制して次へ話を進める。

「じゃあうちの東馬も邪魔だから雉子に殺されたということなの?」
それまで黙って話を聞いていた犬子が直樹を問い詰めた。
「邪魔であることが一つの動機ではあるでしょうね。琴子の婿候補であることは間違いないですし、あなたも息子さんをけしかけていたでしょう?」
直樹に睨まれ、犬子は言葉を失った。
「ただ、東馬は金之助と違って琴子と結婚したいという感情はなかった。が、三人の中で一番優秀で見た目もいいことは事実。啓太の強敵であることは間違いない。」
「それで東馬を殺したのか!あんたは!」
犬子が掴みかかろうとするのを、構えていた警察官たちが止めに入った。それでも雉子は微動だにしなかった。
「しかし、その優秀さが、東馬の命を縮めることになったのですよ。」
「どういうことですか?」
「東馬は、とある事実を偶然にも目撃してしまったのです。」
「事実といいますと?」
「先ほど言った、鴨狩啓太と鬼頭祥平が同一人物ということです。」

「ちょっと待って下さい、入江さん。」
刑事が直樹の話を止めた。
「思い出して下さい。鬼頭祥平らしき人物がこの町の旅館に出入りしていたことを。あの人物はどういうことになるのです?」
「復員兵の格好をした男ですね。」
「はい。」
「その正体を、東馬は見てしまったのです。」
「目撃したというのは、それなのですか?」
「はい。謎の復員兵が泊まっていた宿がどのような宿だったかを刑事さんはご存知でしょう?」
「それは古ぼけて、爺さんも耄碌しかかっていて、客もおらず…。」
「そこを東馬は女性との密会に使っていたのです。」
「何ですと!!」
「偽名を使ってね。そういう宿は密会にもってこいですから。」
「それで?そこで目撃したのは…。」
「復員兵の格好をほどいた鴨狩啓太です。」
「啓太さんが!」
東馬があの宿を使っていたことは知っていたことだが、そこで啓太を目撃していたとは。直樹から何も聞かされていなかったので驚く琴子である。

「啓太さんが復員兵の正体ということですか、入江さん。」
「ああ、そうだ。彼はここの離れで日々を過ごし、そしてあの宿に復員兵の格好をして向かった。爺さんはあの通りだし、見られずにこの屋敷と宿を行き来することは難しいことではなかっただろう。」
「でもどうして啓太さんがそこまで?」
やはり意味が分からない琴子である。もっともそれは刑事も犬子や猿子も同じであった。
「それは後から話す。とにかく、啓太がそういうことをしていることを偶然目撃した東馬は、その行動の理由に疑問を抱きました。当然のことです。が、彼は頭が良かったため、もしかしてという一つの仮説を立ち上げた。」
「仮説?」
「はい。その仮説を立証するために東京へ行ったのです。」
「何のために東京に?」
「啓太の父親に話を聞くためです。しかし、啓太の父親は東馬に会おうとはしなかった。猫神一族の人間と付き合いたくなかったからです。ゆえに東馬は事実を確認できずにここに戻ることになった。」
このことは直樹が鴨狩氏から聞いたので事実であった。
「そこで東馬は思い切った行動に出ます。自分の立てた仮説に基づいた推理を雉子さんにぶつけたのです。」
一同は雉子を見た。
「…それで東馬は殺されたということなの?」
震える声で犬子は雉子に尋ねた。
「…。」
雉子は何も答えなかった。
「言いなさいよ、雉子!」
猿子が立ち上がり雉子の襟を掴みあげた。
「あんた、何人殺したら気が済むの、この鬼!鬼!」
やはり警察官が止めたので、それ以上猿子が暴れることはなかった。

それでも雉子は表情が変わらなかった。もう観念しているということなのだろうか。琴子にはその真意は分からない。

「最初に話した通り、これは雉子さん一人でできることではありません。」
直樹が雉子を見ながら話す。
「その共犯者が鬼頭祥平、イコール鴨狩啓太ということでしたね。」
刑事が言うと「そうです」と直樹が頷く。
「母と息子で犯したということで…。」
「違います!」
ここで初めて、雉子が声を荒げた。その声色に皆が驚く。
「息子は…息子は関係ありません!私が全部一人でやったのです!」
雉子が叫ぶように言っている中、廊下を誰かが足音を立てて走って来た。その音は大広間の前で止まった。
そして足音の主が中に入って来た。と瞬く間に直樹にとびかかる。
「啓太!!」
雉子が息子の名を呼んだ。
「俺が、俺がやったんだ!!お袋じゃない!!」
覆面を被った啓太が直樹にまたがり、その顔を殴りつけた。
「入江さん!!」
琴子が直樹を助けようとする。が、啓太は直樹の襟を掴み叫び続けた。
「俺だ!俺が全部やったことだ!!」
「違う!!」
直樹は啓太を殴り返した。毒をあおって体力が落ちていたため、啓太の体は簡単に直樹から離れ、転がった。

「…私がすべてやりました。こう見えても力はあるのです。」
啓太を介抱しながら、雉子が直樹を見上げた。
「お袋!」
「お前は黙っていなさい!」
雉子は息子を叱りつけた。
「入江さん、私が全部やりました。」
「そんなこと、信じると思いますか?」
直樹は雉子に悲しげな目を向けた。
「金之助と東馬、二人をあんな目に遭わせるためにはあなたの力では不可能です。啓太が関わっているのでしょう?」
雉子は項垂れた。その母を見る覆面からわずかに見られる啓太の目は気遣いの色が浮かんでいた。

「入江さん。」
しばらくして、琴子が直樹の名を呼んだ。
「啓太さんは復員兵の真似をしてまで、捜査を混乱させようとしたのですか?」
「いい質問だ。」
啓太に殴られて切った唇を気にしながら、直樹が琴子を見た。
「そこが、この事件の奥底にあるものなんだ。」
「奥底にあるもの?」
「雉子さんはお前と啓太を結婚させようとするためだけに、この事件を起こしたわけじゃないんだ。」
「他に理由があるのですか?」
刑事は目を見張った。
「ええ。」
直樹はお互いをいたわりあっているかのような母と息子を見た。
「啓太は雉子さんの実子ではありません。」
「となると?」
「養子です。しかも、雉子さんは啓太を、鬼頭祥平、すなわち鬼頭さちの息子だと知った上で養子にしたのです。」
「何ですって!」
犬子と猿子がそんなことをするなんてと、とても信じられないという顔を妹に向けた。





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 |  2017.06.03(Sat) 19:35 |   |  【コメント編集】

★No title

待ってました!でも話はまだつずくのですね?面白くなってきた、入江君と琴子ちゃんの恋の行方も気になります。v-26
なおちゃん |  2017.06.03(Sat) 19:46 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2017.06.03(Sat) 20:37 |   |  【コメント編集】

★No title

わぁ~ 犬神家と猫神家のお話の違いがはっきりしてきましたね
続きがわからなくて、楽しみです
 |  2017.06.04(Sun) 17:33 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2017.06.05(Mon) 00:41 |   |  【コメント編集】

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