日々草子 猫神家の一族 20

猫神家の一族 20






それからすぐに直樹と琴子は斗南市へ舞い戻った。
向かう汽車の中で、琴子はひたすら啓太の無事を願っていた。直樹は自分の迂闊さを悔やんでいた。
「…まさか、彼があんな行動に出るとは。」
悔しそうな直樹の言葉に、琴子が顔を上げた。
「迂闊だった。お前を守ることだけしか俺の頭にはなく、彼のことを失念していた。」
普段の状況であれば、直樹のこの台詞に琴子はどれほど感激したか。しかし、今の琴子はそんな気分になるわけもなく、入江家ですっかり楽しいひとときを過ごしていた自分を責めるだけだった。

「ああ、入江さん。」
一晩かかって猫神家に到着した二人を、刑事たちが出迎えた。
「啓太さんは一命を取り留めましたよ。」
この言葉に、張り詰めていた糸がほどけた琴子は「よかった…」とその場に座り込んだ。
「毒をあおって自殺を図ったのですが、幸い発見が早かったのですぐに胃を洗浄して手当をしました。」
病院には入院せず、離れにて寝ているという。
「そして、こちらが遺書です。」
刑事が見せてくれた遺書を、直樹と琴子はのぞき込んだ。そこには、一連の事件の犯人は自分であること、猫神家の財産がほしいだけのことだった、しかし罪の意識にさいなまれたため自分の命で償うとあった。
「償うならば事件を起こさなければいいだけの話だと思いますが。だが動機ももっともですしなあ。」
あまりに単純だと思うが、ライバル達を殺して自分が財産を手にするということも分かる。
「しかし、これではこいつが狙われた理由にならないでしょう?」
直樹は隣にいる琴子を見た。
「琴子と結婚しなければ、猫神家の財産は手に入らないわけですから。」
「ではこうは考えられませんか?琴子さんを狙ったのは鬼頭祥平であり、東馬さん、金之助さんは啓太さんが殺したと。」
「大蛇森弁護士は?」
直樹の問に刑事は、
「大蛇森弁護士…それは…。」
言い淀むと、琴子をチラリと見る。琴子は「いや、そんなことしませんって!」とブンブンと手を振った。
「こいつが大蛇森弁護士殺害犯人だったら、とんだ名演技ですよ。ずっと側にいた俺をも騙し続けたわけですから。」
「入江さんを騙すなんて、そんな!」
決死の表情で直樹に訴える琴子。
「俺をずっと騙せたのならば、お前、今すぐに映画会社の門を叩いてこい。名女優になれるぜ。」
「女優なんてとんでもない!」
「演技力は置いておいて、顔が原節子並みじゃないと。」
思わず刑事が本音を出すと、
「ああ?」
と、琴子が睨み付けた。「いやはや冗談、冗談」と刑事がたじろぐ。
「まあ冗談はさておき。とにかくこいつは誰も手にかけていませんから。」
直樹のハッキリとした言い方に、琴子が力強く頷いた。
「では誰なんです?鴨狩啓太が犯人で一応逮捕ということでいいでしょう?」
とにかく警察は早く事件を解決ということにしたいことが見え見えだった。直樹はそのあさはかな考え方に内心呆れつつ、
「真犯人を発表します。大広間に全員集めて下さい。」
と宣言した。
「真犯人!?」
これには琴子と刑事が同時に声を上げた。
「真犯人が入江さんには分かっているのですか?」
「はい。」
刑事の問いに直樹は自信たっぷりに頷く。

やがて事件の関係者が大広間に集められた。直樹、琴子、犬子、猿子、そして啓太の側にずっといたいとごねていたが強引に連れてこられた雉子である。
犬子と猿子は久しぶりに姿を見せることになった。その姿はすっかりやつれており、琴子は見るのが痛々しかった。
が、その根性はまったく変わっていないことがすぐに判明した。
バシッ!!
という、音が大広間に響いた。犬子が雉子の頬を叩いたのである。
「犬子さん!」
刑事達が止める間もなかった。
「あんたの息子が、うちの東馬を!この殺人鬼!!」
「そうよ!うちの金之助をよくも!」
猿子が雉子の襟を締め上げる。刑事達がさすがに止めに入る。前回の猿子の騒ぎを覚えているだけに、猫神家に集まっていた刑事や警官の全てが猿子の動きを封じることに全力を注いだ。その結果、何とか暴力沙汰だけは免れた。

「入江さん、本当にあの三人を集めてよかったのですか?」
又騒ぎが起きるのではと危惧する刑事に「ええ」と直樹は顔色一つ変えない。
それは雉子も同様だった。息子を殺人鬼呼ばわりされているというのに、反論もせずに平然と座っている。息子が自分がやったと認めているから観念しているのだろうか。その表情からはまったく分からなかった。

「一連の事件は同一人物によるものです。」
直樹が口を開いた。
「そして、それは鴨狩啓太氏ではありません。」
「はあ?」と犬子と猿子が異論の声を上げた。
「だって自分がやったと遺書を書いていたのでしょう?」
「やっていないのに、自殺をするわけがない。」
二人は直樹を疑いの目で見つめる。その眼光の恐ろしさに直樹の隣にいる琴子は背筋が震えた。
「それは誰なのですか?」
刑事が直樹に尋ねた。
「やはり鬼頭祥平ですか?」
そうだ、その男が残っていたと犬子、猿子、そして琴子が思い出した。
「そうなると、啓太さんは自殺に見せかけて殺されかけたことになる。」
刑事の言葉を「いいえ」と直樹が否定した。
「啓太氏は自殺を図ったことは間違いないです。」
「ほうらごらんなさい。やっぱりあの男が犯人なんだわ。」
猿子が雉子を睨んだ。そして今すぐに離れに行き、息子の仇を取ろうとする猿子を止めるがごとく、直樹が言った。
「犯人は、猫神雉子さん、あなたです。」
この言葉に、全員が息をのんだ。

「雉子おば様が犯人…?」
直樹の言葉に皆が沈黙した後、最初に口を開いたのは琴子だった。
「雉子さんが…どういうことです?」
刑事も驚いて直樹を見る。
「雉子さんが犯人…息子の啓太さんに財産を独り占めさせるため。確かに納得のできる動機です。しかし入江さん。」
刑事が直樹に詰め寄った。
「金之助さんは築山の上に首を突き出すように殺され、東馬さんは湖に沈められた。二人とも年齢相応の体格をしていました。大の男二人もそんな風に動かせることが雉子さんに出来るとは思えません。」
さすがにその点は気づいたかと、直樹は刑事に感心した。
「ええ、ですから共犯者がいるのです。」
「共犯者!」
それは誰かと、皆の視線が直樹に一斉に注がれた。
「…鬼頭祥平です。」
「あの男が見つかったのですか!」
次から次へと出てくる衝撃の事実に、皆は驚きの連続であった。
「でもそうなると、やはりおかしいですよ。雉子さんにとっては鬼頭祥平は邪魔な存在でしょう。」
刑事がまた疑問を口にする。
「うまいこと鬼頭祥平とやらに話を持ちかけて、うちの息子達を消した後はその男もこの世から葬り去る予定だったのでしょうよ。この女ならそれくらいやりかねないわ。」
血が繋がった姉妹のものとは思えないことを、犬子は平気で口走る。
「それで入江さん。鬼頭祥平はどこに?まさか、犬子さんの言うとおりこの世にもういないなんてことは…。」
「この世に存在していますよ。」
「入江さんは、鬼頭祥平さんの居場所をご存知なのですか?」
琴子が聞くと「ああ」と直樹が返事をした。
「どちらにいるのですか?」
「すぐそこに。」
「そこ!?」
琴子は周囲を見回した。その勢いは屋敷の床下まで見に行くのではというほどであった。
「ずっと俺たちの側にいたんだよ。」
「入江さんの側…じゃあ、私たちの側ということですか?」
「そういうこと。」
これには、刑事や犬子、猿子も目を飛び出さんばかりの表情であった。が、雉子は相変わらず表情に変化はなかった。
「どこにいたというのです、入江さん?」
刑事はごくりと唾を飲み込んだ。
「…離れに寝ていますよ。」
「離れって…寝ているのは…啓太さんでは?」
唇を震わせ訊ねる琴子に、直樹ははっきりと告げた。
「そう。離れに寝ている鴨狩啓太。彼こそが鬼頭祥平だ。」




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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
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