日々草子 猫神家の一族 19

猫神家の一族 19

お気遣いのコメントありがとうございました!
皆さまの励ましで、このお話のゴールも見えてきました。
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直樹は、目の前に座っている鴨狩氏の顔をまじまじと見た。面食いの雉子が選んだだけに年齢を重ねた今でも結構な美男子である。
「何か?」
自分の顔に何かついているかと鴨狩氏が気にすると、
「いえ、男ぶりのいいお顔だと思いまして。」
と直樹は笑顔で答えた。
「何をおっしゃる。入江さんの方がずっと男前ですよ。その証拠に、お茶を誰が出すかで女子社員たちが騒いでいました。今もそこに、お茶のお代わりを命じてくれないかと並んで待っていますよ。」
鴨狩氏はそう言うと葉巻を口にくわえる。

「ところで、雉子はどんな感じですか?」
「どんな感じとおっしゃいますと?」
「別れてから二十年以上経ちます。どんな性格になっています?」
「性格…まあ、あの姉にしてこの妹かという感じですかね。」
率直な直樹の返答に鴨狩氏はアハハと豪快に笑った。
「先ほども言ったとおり、事件はこちらでも報道されています。莫大な財産の相続人に指名された美しき令嬢をめぐって、あの三姉妹が欲深な争いを繰り広げているんでしょうな。」
「美しき令嬢?」
「新聞にそうありましたよ。か弱き美しい令嬢の心を射止めるのは三人のうち誰かと。」
「か弱き美しき令嬢…。」
直樹の頭に、自分の寝込みを襲った琴子が浮かんだ。あれがか弱き美しき令嬢ならば、世のほとんどの女性はそう表現されてもおかしくないだろう。なるほど、新聞というものは事実をよく確認せず、読者の興味を引くためには嘘八百並べるものらしい。
「もっとも、そのうちの二人は争奪戦から抜ける結果となったが。」
事件の深刻さを思い出したのか、鴨狩氏の表情が暗くなった。
「今思うと、あの時東馬くんに会っておけばよかったのかなとも思います。自分が会っていたらあんなことにならなかったかもしれない。申し訳ないことをしました。」
その罪滅ぼしといっては何だが、今回直樹が何を訊ねても答えられる範囲ならば答えると鴨狩氏は言ってくれた。もっともそれは直樹が入江財閥の御曹司であることも考慮してのことかもしれないが。

「信じてもらえないかもしれませんが、雉子も昔はあんな性格じゃなかったのですよ。」
鴨狩氏が元妻のことを話す。直樹は猫神の元秘書だった人間が雉子は大人しかったと言っていたことを思い出した。
「私に一目惚れしたといい、父の桃太郎氏に頼んで私との縁談を調えさせたんです。雉子は特に美人ではありませんが、姉二人に比べたら大人しかったし。猫神の事業に携わることもできるなら男として仕事のやりがいもあると思って結婚しました。」
「雉子さんは性格が変わったのですか?」
鴨狩氏は頷いた。
「事件を調査する上で、桃太郎氏の醜聞についてもお聞きでしょう?」
「はい。鬼頭さちさんのことですよね?」
「そうです。突如として現れたその女性、そして間に男子をもうけたという知らせが入りました。」
「その折、三姉妹でさちさんを追い出したと聞きました。」
「三姉妹で追い出す、まあそれは間違ってはいませんけれど。」
葉巻を置き、鴨狩氏は膝の上で手を組んだ。
「元夫ということで一応、彼女を庇うようなことをしますが、雉子はどちらかというと巻き込まれた感じなのです。」
「巻き込まれた?」
「ええ。鬼頭さちさんのことが知らされたときも雉子は別に関係ないという感じでした。」
「本当ですか?」
「はい。だけど犬子さんと猿子さん、あの二人は違って。財産が全部もっていかれると騒いで、雉子も妹なのだから来いと。雉子はおとなしかったので姉たちに逆らえなかったのです。」
「…おとなしくなくても、あの二人に逆らえる人間はそういないと思います。」
「ハハハ、仰るとおり。雉子が行かなかったらうちをぶっ壊しかねない二人ですからね。それで姉たちに追従して結果として、鬼頭親子を追い出したわけです。まあ、雉子も姉二人を止める事ができず、自分も加担したわけですから同罪ではありますが。」
それから雉子の性格がおとなしいものから変わっていったという。
そこまでの話を聞き、直樹は自分が抱いている考えをおもいきって鴨狩氏に聞いた。これが東京に来た目的であった。
「そこまで…。」
直樹の洞察力に鴨狩氏は大層驚いた――。



翌日、直樹は琴子を連れ出した。
「昨日はお袋の相手をしてくれて、ありがとう。」
面と向かってお礼を言われた琴子は、ポッと赤くなった。
「いいえ、私もとても楽しかったので。」
「そうか。」
二人が向かった先は、雑司ヶ谷のお寺だった。
「あ、ここって、ええと…。」
何と読むのだったかと琴子が思い出そうとすると、すかさず直樹から、
「きじもじん」
と返ってくる。
「ここがそうなんですね。」
「江戸三大鬼子母神のうちの一つだけどな。」
「女性が多いみたいですね。」
参拝者は女性が目立った。
「子宝の神様だしな。あと安産と子育て。」
「なるほど。雉子おば様も啓太さんを無事に出産できるようにとお願いしたのでしょうね。」
だから今でもあのように信心深いのだろうと琴子は思った。それを直樹が複雑な顔で聞いていることも気づかずに。
「大事な啓太さんが、無事に戻ってきたけれどあのお顔だし。今でも手を合わせる気持ちが分かりますね。」
「…かもな。」
「私も啓太さんが事件に巻き込まれないよう、雉子おば様が悲しむことがないようにお祈りしようっと。」
素直な琴子は、鬼子母神に手を合わせ目を閉じた。隣で直樹も一応手を合わせながら、琴子はどうして啓太をそこまで思うのか、ただ優しさからなのかと、なぜか不安になった。
そして琴子がなかなか目を開けそうもないので、直樹は静かにその場を離れた。

「あら?入江さん?」
お参りを終えると、隣に直樹の姿はなかった。
「入江さーん」と呼びながら探すと、直樹が社務所から出てきた。
「どうしたんですか?」
てててっと駆け寄ると、「雉子さんが寄進したかどうか確認をね」という返事だった。
「ああ、毎年熱心に寄進されていますから。」
「そうみたいだな。確認がとれた。」
なぜそこまで調べるのだろうと琴子は不思議だった。直樹もその顔に気づいているが、今は何も答えなかった。
「鬼子母神って、たくさんの子供を食べちゃって、それでお釈迦様に怒られて…。」
「自分の末っ子を隠されて、お前が食べた子供の親の気持ちを知れって言われて改心した。」
「たくさん反省したのでしょうね。自分がどれほど悪いことをしたかって。」
何の気なしに言う琴子。直樹はハッとなってその顔を見た。
「神様になっても、自分が食べちゃった子供、その親の苦しみをずっと背負い続けたのでしょうね。」
「ずっと背負い続けた…。」
「それも辛いことだっただろう」と鬼子母神に思いを馳せる琴子に、
「…お前、すごいな。」
と、直樹が声をかけた。
「へ?」
突然の直樹の言葉に、琴子は間抜けな声を上げた。
「す、すごいって?」
「いや、俺なんかは由来を聞いてああ、そういう話かと納得するだけだが、お前はその背後までちゃんと考えるんだなって。」
「いや、背後を考えるなんて大それたことは。」
褒められて琴子は照れた。
琴子の言葉で、直樹は今までまだ確信が持てなかったことをようやく公にする自信がついたのだった。


二人が入江家に戻ると、紀子が血相を変えてやってきた。
「二人とも、今電報が!」
「電報?」
猫神家の事件を扱う警察からだという。そこには、
「カモガリケイタ、ジガイヲハカル、スグモドレ」
とあった。
「しまった!」
「啓太さんが自害!」
憤慨する直樹の側で、琴子は真っ青になったのだった。琴子の熱心な祈りを、鬼子母神は聞き届けてくれなかったのだろうか――。







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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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