日々草子 猫神家の一族 18

猫神家の一族 18

先日更新が空いてしまった理由なのです、あじさいハンター以外にももう一つ…。
花粉症が終わりかけ喜ぶ→風邪を引き、振り出しに戻る→治りかけたところに黄砂アタック→くしゃみと鼻をかむことでギックリ腰になる(今ここ)。
今回の腰痛はなかなか範囲が広くて…でも少しずつよくなってきたので、頑張ります!
去年、お待たせしてしまったことが本当に申し訳なかったので!今でも心が痛んでいるのです。

☆☆☆☆☆










翌日も直樹は琴子を置いて、どこかに出かけようとしていた。
「私も一緒に行ってはだめですか?」
直樹が猫神家の事件について色々調べて回っていることは琴子も察しがついていた。
「できれば、お袋の相手をしてくれないか?」
直樹はそう言った。
「お前のことが気に入ったみたいだし、いつも日中は一人なんだ。だから話し相手になってくれると助かるのだが。」
そう言われると断ることができない琴子であった。

もっとも、紀子と話すことはとても楽しいことだった。母親を早くに亡くした琴子にとっては母というものはこのように優しい人なのだろうかと実感するような相手だった。
紀子も猫神家の事件は東京でも報道されていたから大変な状況に琴子が置かれていることは知っていたため、この入江家にいる間はたっぷりと寛いでもらおうと色々気を遣ってくれた。
昼食を一緒に作って食べる、そのような些細なことは猫神家ではなかったことであった。
しかし、そのような二人の時間に邪魔が入ることになった。百貨店の外商が、重樹の会社関係への贈り物を選んでもらおうと訪ねて来たのである。
「ごめんなさいね、琴子ちゃん。」
「いいえ、私は大丈夫です。」
同じ邸内だというのに、まるで遠くへ離れるかのように紀子は出て行った。

一人になった琴子は、居間でそのまま本を読むことにした。あれから裕樹に探してもらった本物のシャーロック・ホームズである。
「あ、ワトソンって書いてある。」
確かにホームズの名前はワトソンだった。そして彼の職業が「軍医」とある箇所を見て溜息をついた。紀子との他愛のない会話でも、軍医については出てこなかった。昨日の寂しそうな直樹の背中は何を意味しているのか。

「どうだ、本物は全然違うだろ。」
学校から戻った裕樹が、琴子の膝の上に置かれた本を見てニヤリと笑った。
「何だ、全然進んでないんだ。お前の頭じゃ難しすぎるか。やっぱりシャックリがちょうどいいか。」
「裕樹くん…。」
自分の前に座った裕樹を琴子は見つめる。
「…昨日、私、言ってしまったの。」
「何を?自分が馬鹿だということを?」
「…入江さんはもうお医者様に戻られないのですかって。」
琴子をからかっていた裕樹の顔が途端に真面目なものへと変化した。
「私、すごく失礼なことをしてしまったわね。」
「…まあ、お前だったら平気だと思うけど。」
琴子の前に置かれていたクッキーを一つ口へ裕樹は放り込んだ。
「お袋と僕があんな態度を見せたから、お前を不安にさせたわけだしな。」
「もしかして、何かの理由で医師免許を剥奪されたとか?」
「は?」
「ひょっとしたら、医大に通ったとご家族には話しているけど実は合格してなくて、通っている振りをしていただけ?」
「だから、どうしてお兄ちゃんを無免許医師にしたがるんだよ。」
怒りつつも、琴子のとんでもない想像に裕樹の心がほぐれた。
「ま、お前になら話してもいいか。」
「いや、無理にとは…。」
「いいよ、知りたいと思うのは当然だし、お兄ちゃんを無免許のニセ医者扱いしてほしくないしな。」
裕樹はもう一枚クッキーを頬張ると、話を始めた。

「お兄ちゃんは医者になりたくてなったんだ。それについては親父もお袋も反対していない。むしろ自分の好きな道に進むことを歓迎していたよ。それで医者になった。」
入江財閥の後継者としての道を捨てることにはなるが、それについては家族はこだわらなかったのだという。
「だけどあの時代だろ?お兄ちゃんは軍医として赴任することになって行っちゃった。」
入江家は直樹の無事をとにかく祈り続けたという。終戦を迎えても戻ってこなく、もしや戦死したかもと一時は覚悟した。
「だけど、無事に戻ってきた。そりゃあみんな大喜びだった。」
琴子にもそれは手に取るように分かった。
「で、しばらくは体を休めるとして。ある日親父が何の気なしに口にしたんだ。“これからも医者として生きていくんだろう?”って。そうしたらお兄ちゃん…。」
その様子を思い出したのか、裕樹の顔が歪んだ。
「“俺の前で軍医だ、医者だと言わないでくれ!”って、すごい剣幕で。親父もお袋も僕もびっくりしちゃって。お兄ちゃん、今まで怒鳴るなんてことなかった。それも親父に怒鳴るなんて。」
裕樹は膝に置いた両手を握りしめた。その拳が震えている。
「でもすぐに親父に謝ったんだ。だけど部屋に閉じこもっちゃって。親父は呆然とするし、お袋は泣いちゃうし。戦争から戻って元気がなかったことは確かだった。でもあんなに夢中になって勉強していた医者という言葉を嫌うなんて信じられなくて。親父は戦地でよほど辛い目に遭ったんだろうって。だからしばらくそっとしておいた方がいいって。それからうちでは軍医やら医者やらという言葉は禁句になった。」

「…入江さん、昨日お見合い写真を見て、お父様のお仕事を手伝うなら考えようかって。」
「見合いをするかどうかは別として、僕たち家族はお兄ちゃんが医者をやめて親父の仕事を手伝っても構わないと思っている。それがお兄ちゃんのためになるなら。」
とにかく直樹の好きなようにやらせようという考えは、今も昔も変わっていないという。
「その件から、お兄ちゃんは口数が減ったんだ。元々多いほうではなかたけれどそれ以上に。大丈夫だろうか、まさか命を絶つなんてことはと心配していたときに、お前からの連絡があったというわけ。」
裕樹は琴子の顔を見た。
「親父の知り合いの娘が困っているということで何とかしてあげたい。そうだ、お兄ちゃんに頼もうって話になったんだ。お兄ちゃんは頭がいいし運動神経もある。それに自分の存在が誰かのためになるということを実感してもらえれば、生きる希望も出てくるんじゃないかって…って、おい!!」
裕樹の声が最後に大きくなったのは、琴子が大きな目から涙をボロボロ零しているからだった。
「わ、私…何も知らないで何て酷いことを。そんなに入江さんが辛い状況なのに…お医者様に戻らないのかとか。ご家族が耐えていらしたのに!」
ぐすっぐすっと琴子がしゃくり上げる。
「軍医さんとお話したから軍医でーすって名乗ったなんて言っちゃった…。ううん、そんなことより、裕樹くんに申し訳ない。」
「僕?どうしてさ?」
「だってご家族が秘密にしていらしたことを無理矢理聞くようなことをしてしまって…辛いことを思い出させてしまって。」
「あ、いや。それは僕が自分から話そうと思ったからで。お前が気に病む必要は何一つないし。」
「ごめんなさい…。」
家族の事情に立ち入ったことをしてしまったことを琴子は悔やんでいた。それは裕樹にも分かっていた。それにしても、他人のためにこんなに涙をこぼせるとは。まあ、琴子が直樹に特別な感情を抱いていることは間違いないと思うが、そうなると何でも知りたいとずかずかと家の中に踏み込んでくる人間も多いだろうに、琴子という女は。
「大丈夫だよ。お前だから話したんだから。」
裕樹は必死に慰める。目の前で女性に泣かれることは初めてでどうしていいか分からない。
「ほら、紅茶。ミルクティーだぞ。あたたかいぞ。」
裕樹はカップを琴子の手に握らせる。琴子はコクンと飲む。
「よし、ほうらクッキーがあるからな。あ、これはアーモンドが載っているやつ。こっちはイチゴジャムだ。おいしそうだなあ。どっちがいい?」
「…イチゴジャム。」
「そうか、そうか。じゃあいっぱい食べような。」
女性の扱いに慣れていない裕樹は、まるで幼児を扱うように琴子を慰めたのだった。



裕樹が琴子を必死で慰めている頃、直樹はとある会社の一室にいた。昨日、琴子に言われたことも気になるが本来の目的を果たさないと東京に戻った意味がない。
通された応接室で待っていると、一人の年輩の男性が入って来た。
「入江さんですか?」
「はい、私が入江直樹と申します。本日はお忙しい中お時間を頂きありがとうございます。」
「お父様の名刺をご持参されたとなると、会わないわけにいかないでしょう。」
にこやかに男性は言い、直樹に座るよう勧めると自分も座った。
「鴨狩啓太さんのお父様でいらっしゃいますよね?」
「え?どうしてそれを?」
直樹が面会しているのは啓太の父、この会社の重役をしている鴨狩氏であった。
「入江財閥の仕事関係でいらっしゃったのでは?」
「すみません。実は私は今、猫神家の事件について調べておりまして。」
「猫神…。」
その名を聞いた途端、笑顔だった鴨狩氏の表情が一変した。
「あの家に起きている事件は私も知っています。東京でも報道されておりますし、皆が財産の行方を気にしていますからね。」
直樹は自分の親の友人の関係で、猫神家と関わりを持った事を簡潔に説明した。

「西垣東馬さんもあなたに面会にいらっしゃいましたよね?」
「西垣?ああ、雉子の一番上の姉の息子。ええ、来ましたよ。でも断りました。」
「断った?」
「もうあの家、猫神家には関わりたくないんです。入江会長の名刺をお持ちでお通ししてしまいましたが、まさかあなたもあの家のことでいらしたとは。」
何の権限も持っていない自分が一流企業の重役を務める啓太の父に会うために、直樹は父の名前を借りたのだった。勿論、父に了承を得てのことであった。





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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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