日々草子 猫神家の一族 13

猫神家の一族 13






一民間人である直樹に頼りきっているとはいえ、一応警察もその能力を発揮したらしい。
鬼頭さち、その息子の祥平について調べ上げて来た。
が、その結果はがっかりさせるものであった。

「鬼頭さちは亡くなっていたというわけですか。」
「さようです。」
猫神一族に誰よりも復讐心を抱いていると思われていた鬼頭さちはこの世の人間ではもはやないという。
「こちらを追い出されて、暮らしに困窮したのでしょうな。ここから離れた遠い村にて胸を病んで亡くなったそうです。」
「それは事実なのでしょうか?」
戦争があったため、事実が錯綜している可能性もあると直樹は思っていた。
「はい、事実です。」
しかし刑事の答えは直樹が望んだものではなかった。
「赤子を抱え、何かしら事情があって辺鄙な場所まで流れてきたのだろうと近所の者たちが同情してくれたそうです。さちが亡くなった際は、墓まで建ててくれたとか。もっとも建てるという程の立派なものではありませんが。そこも確認してきました。寺の住職にも確認して、確かにさちの葬儀をあげたと証言も取れております。」
そこまではっきりしているのならば事実だろうと、直樹も納得するしかなかった。
「さちさんの…祥平さんは?」
黙って話を聞いていた琴子が刑事に尋ねた。
「さちは自分が食べるだけで精一杯で。その貧しさといったら例えようもないほどだったと。私らもさちが暮らした家を見てきましたが、とても人間が住むような家、いや家とも呼べない小屋といいますか。そこで子供を食べさせるのはとても無理だと、さちは泣く泣く子供を手放したそうです。」
「どこへ?どこへ祥平さんを?」
琴子が刑事をせっついた。
「それが分からんのです。祥平の居場所は私たちも懸命に探しましたが、そこまで知っている者はおらず。さちは子供を手放してすぐ病に伏せって亡くなりました。まだ祥平も赤子だったでしょうから葬儀に顔を出す事も、いや母親が亡くなったことも知らなかったでしょうなあ。」
祥平は啓太とほぼ同年齢だというので、恐らく出征して戦死した可能性もあるのではと刑事は話した。
「日本におっても、空襲でやられている可能性もありましょうし。」
ただ、この一連の事件の犯人ははやり鬼頭祥平が有力だと思うのでその行方は捜し続けると刑事は言った。



鬼頭さちが亡くなっていたことが判明し、祥平が母の恨みを晴らすために猫神家を襲っているという疑いは濃厚になる一方だった。
それを聞いているのかどうか知らないが、もし祥平が犯人だったら命を狙われかねないというのに東馬の出歩きはやむどころか、ますます激しくなるばかりだった。

「最後に顔を見たのは、鬼頭さちさんの話をしたときだから…もうどれくらいになるかしら?」
指を折って琴子は日数を数える。
「大丈夫かしら、東馬さん…。」
家に寄りつかずどこを歩いているのかと、琴子は心配でならない。
「啓太さんも、全然姿を見せなくなって…。」
元々啓太は離れから姿を滅多に見せないが、直樹との一件以来、こちらもご無沙汰である。
琴子が不安な毎日を過ごしている中、刑事達がまた新しい情報を直樹へ運んで来た。

「町のはずれにそれはもう、古い旅館といいますか宿といいますか、そういうのがあるんですが。」
半分寝ぼけているような老人がやっている宿の話を刑事が始めた。それを聞きながら、直樹は最初に自分が泊まったあの旅館よりさらに古い宿があるのかと思ったが、それは顔には出さないでいた。
「いや、私らもまだ営業していると思っていなかったので調べていなかったのですが、この際足を運んでみるかと思って行ってみたら、怪しい客がいたというではありませんか。」
「怪しい客?」
「復員兵の姿をして、目だけを出して後は覆面…ま、どこかの誰かさんのようですが。そんな男が泊まっていたというのです。」
耄碌しかかっている老人に根気よく話を聞いてみたところ、その男が宿泊をした辺りと金之助が殺された時期がかぶっているというではないか。
「その男が鬼頭祥平だというのですね?」
「はい。」
直樹の問に、刑事は自信満々に答えた。
「それで、その男は今どこに?」
「それが突然出て行ったというのです。」
宿泊している間も出たり入ったり、食事など出せない素泊まりの宿、いるのは耄碌しかかっている老人一人。誰の目にも触れずに宿を出て行くことは簡単だという。ある日の朝、老人が部屋に入ったら、宿泊料金が布団の上に置かれその姿はなかったそうだ。
「今探しておりますが、絶対鬼頭祥平ですよ!やはり犯人は鬼頭祥平だった!」
何としてでも捕まえると刑事達が意気込んで猫神家を出て行った。

「入江さん、何を考えていらっしゃるんですか?」
刑事達の話は朗報といえば朗報ではないか。犯人はもう分かりかけているというのに、直樹の顔は曇ったままで琴子はそれが気になった。

「何だかすっきりしない。」
「入江さんは犯人が鬼頭祥平さんだと思っていないと?」
「いや、そこまでは言えない。が、この事件はそんなに単純でいいのかと気になって仕方がない。」
琴子から見たら十分、複雑怪奇な事件であるが、頭のいい直樹は違う考えなのだろうかと思う。
「…祥平さんが逃げているとしたら、東馬さんは大丈夫なのかしら。」
啓太は離れにいる。側には母雉子がいるのだからまだ大丈夫だろうと琴子は思っていた。
「東馬さんは女遊びか?」
「そうみたいです。でも数日前に一度戻ってきたみたいで。犬子おばさまが叱っている声が私の部屋まで聞こえてきましたから。」
「女で不安を紛らわせているのかな。」
「…入江さんまで変なこと、おっしゃらないで。」
琴子が頬を膨らませる。
「男なんてみんな同じさ。」
「そんなの嫌だわ。」
ますます頬を膨らませる琴子を見て、直樹はクスッと笑ったのだった。



それから数日後の朝のことである。
「入江さん!入江さん!」
まだ朝食前だというのに、琴子が直樹のいる客間に飛び込んで来た。
「何だよ、騒々しい。」
まだ起きる時間でもないというのにと一応眉をしかめた直樹であるが、琴子の姿を見て眠気が一気に吹っ飛んだ。
「お前…その格好…。」
琴子は寝巻き姿で、ベッドから起きていない直樹にまたがった。端から見たら琴子が直樹の寝込みを襲うかのようである。
「お前、一応嫁入り前なんだから!」
「そんなことより!今、電話…電話が!」
「電話?」
「警察からです。また、また死体が!!」
琴子の叫ぶような声を聞くなり、直樹はベッドから飛び出した。



「入江さん、こちらです。」
すっかり馴染みとなった警察の面々が、その湖の畔にいた。直樹は重い足取りで彼らの方へ向かう。
「遺体は?」
「あちらです。」
刑事が示したのは、湖のど真ん中である。そこから何か長いものが二本出ていた。
「よく見えないでしょうからこれを使って下さい。」
刑事が双眼鏡を渡した。直樹はそれを目に当てた。はっきりと目的のものが見えた。それは人間の両足だった。足が湖面から天を示すようにまっすぐに出ているではないか。
「…琴子を連れて来るなと仰った意味が分かりました。」
「なかなか勇敢なお嬢さんのようですが、さすがにこれはショックでしょうからな。」

しばらくその様子が検分された後、いよいよ足が引っ張られることとなった。
「せえの!」というかけ声とともに、足が引っ張り上げられた。どうやら足だけのバラバラ死体ではなかったらしく、胴体、頭もついているらしい。が、藻にからまって誰のものかは判別できない。
「入江さんは後から…。」
やはり直樹でも見せるのは酷だろうと気遣った刑事であったが、
「いや、俺も見せてもらいます。医者なので平気ですから。」
と直樹が平然と答えると、
「ああ、そうでしたな。」
と納得した。
湖から引き出された遺体がボートに乗せられ、湖畔まで到着した。顔にこびりついた藻や泥が落とされていくのを、直樹は見つめていた。
「これは…。」
明らかになった顔を見て直樹は愕然となった。湖に沈められていたのは、西垣東馬だった。その口には団子が押し込まれていた。
「金之助は山と団子。そして東馬さんは川と団子ということか?」
湖を川に見立てた仕業かと直樹が考えるそばで、東馬は担架に乗せられ運ばれていった。







☆☆☆☆☆
この場面さえ書ければもう思い残すことはない…。




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りょうママさん、ありがとうございます。

12話からのコメントありがとうございます。
イリコトワールドを入れないと、皆さまが読んでくれないのではという不安と、書いていて私がコメディ部分を書かないとつまらないのということで。
琴子ちゃん、もう無我夢中で入江さんに跨がったんでしょうね。これが金ちゃんだったらもう危ないの何の。
そりゃあ琴子ちゃん、こんなの目撃したらもう眠れないでしょう。卒倒しちゃったかも。
有名なシーンにムフフと思ったのは私も一緒です。いやあ、書けてよかった!!
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Author:水玉
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