2017'03.31 (Fri)

猫神家の一族 10

~花粉症友の会通信~
そろそろマスク人口が減って来た気がするのは私だけでしょうか?
そういう私は、先日薬をもらいに耳鼻科へ行きました。
その日は普段より鼻が少し通っていて「ああ、パンパンにふさがった状態で来たかった…」と思いながら診察を受けたら、
「重症ですね。」
と医者に言われたのですが…。これで重症ならパンパンにふさがっている時は何と言われるのか試したかった気も。

外務省のゴルゴ読んできたけど、すごい世話好きで雄弁でびっくらこいたよ(笑)
邦人保護なんて、俺の仕事じゃないと絶対断るはずなんだけど~。

☆☆☆☆☆☆



【More】






金之助から逃れようと、琴子は身をよじった。が、金之助に肩を強く押さえられ動くこともままならなかった。
「金ちゃん、離して!」
「いやや!」
その否定も今まで金之助から聞かれたことのないほどの強い口調で、琴子は怯える。こんな金之助を見たことがない。
「金ちゃん、嫌だ!」
唯一、金之助の力が及んでいない下半身、両足を琴子は懸命に動かした。左右に、上下にバタバタと動かす。が、それでも金之助が琴子を押さえつける力を弱めることはない。
「金ちゃん!!」
とにかくこの場から逃れなければと、琴子は足を動かし続けた。

「痛ええ!」
金之助の悲鳴が聞こえた。と、同時に琴子を押さえつけていた力が一気に抜けた。それから間もなくドシンという鈍い、大きな音が琴子の部屋に響いた。
何事かと、琴子は金之助に手を入れられそうになった襟元を押さえながら、恐る恐るベッドの上に起き上がった。
うっすらと灯りがともった中、金之助と思しき塊が壁の側にあるのが見えた。その側にいるのは…。

「…見損なったぞ。」
それは直樹だった。琴子は鳥目のため、表情は見てとれなかった。が、その声から直樹が怒っていることは分かった。そしてその言葉が金之助に向けられていることも。
直樹は無言でうずくまっている金之助を立たせた。そしてその顔を殴りつけた。金之助はまたもや壁に派手にぶつかった。
それでも足りないのか、直樹は金之助の側に進みまた無理矢理立たせる。
「こんな卑怯なことをするなんてな!」
また殴ろうと、直樹が拳を上げる。
「入江さん!やめてえ!!」
琴子の悲痛な叫びに、直樹の手が止まった。
「入江さん、お願い。もう…もうやめて。」
震える琴子の声に、直樹はまだ殴り足りないという顔であったが渋々拳を下ろした。金之助の体からも手を離したので、そのまま金之助は下に倒れ込んだ。

「…俺は…俺はこうでもしないと琴子を手に入れられん。」
明るくなった部屋で、唇の端から流れた血をぬぐうこともせず、金之助が口を開いた。
「仕方ないやろ…俺は東馬のように頭もよくなければ顔だってようない。啓太だって、今はあんなもん被っているけど、素顔は男前や。それに加えて最近はこいつが琴子の周りをうろちょろしよる。」
自分を睨みつけている直樹に、金之助は顎をしゃくった。
「こんな奴らの中で、俺が琴子を手に入れるなんて難しい話やないか…。」
落胆しきった金之助に、琴子もかける言葉がない。
「琴子が爺さんの金を受け取るから、琴子と結婚したいわけやない。爺さんが死ぬ前からずっと俺は琴子が好きや。嫁さんになってほしい。その気持ちは東馬にも啓太にも、こいつにも負けん。爺さんの金かて、びた一文いらん。でも琴子は…琴子は欲しい!」
「だからといって力づくは犯罪だぞ。」
直樹の声色は怖いままだった。
「分かってる、それはよう分かってる。でも…でも…何もせんで琴子が他の男のもんになるのを黙って指くわえて見ているなんて。」
「そんなことしたら、余計琴子に嫌われることは分かっているだろ。」
直樹の言葉に、金之助は少し間を置いた後、コクリと頷いた。

「…金ちゃん、もうこういうことは絶対しないでね?」
気持ちが落ち着いた琴子が、優しく金之助に声をかけた。
「琴子…許してくれるんか。」
「…今回だけは、ね。」
とりあえず何もなかったことだし、こうして直樹も助けに来てくれたことだし、琴子は金之助をこれ以上責めることはしなかった。それに自分のことをここまで想ってくれるなんて。
「すまんかった、琴子。」
金之助は手をついて、頭を下げた。
「…お前、自分が思ってるほどダメな男じゃないと思うぞ。」
直樹が少し声を和らげた。
「え?」
「前に聞かせてくれた話、俺は正直、あの話に感動したし、お前を見直した。」
「ほんまか?」
「ああ。」
何の話だろうと琴子は知りたかったが、今は聞くべき時ではないだろうと分かっていたので黙っていた。
「街の女たちもお前のことは優しくて頼りになるって言ってたし。」
「ほんまに?」
「ああ。顔はともかく、性格は悪くないって。」
「顔はともかくは余計や!」
怪我をした顔を真っ赤にして抗議する金之助。ようやくいつもの金之助に戻ったようである。
「だから二度とするなよ。琴子の信頼を裏切るな。」
「…分かった。」
今度は直樹の言うことを素直に聞き入れた金之助は、静かに琴子の部屋を出て行った。



「入江さん、どうしてここに?」
騒ぎを聞きつけてと考えたいところだが、広大な猫神家の屋敷。琴子の部屋は犬子たちの部屋からも使用人の部屋からも離れているところにある。おかげで今夜の騒ぎも気づかれることはなさそうだが、その中で直樹が駆けつけてきたことが不思議だった。
「この間の、金之助の様子を見て近々取り返しのつかないことをしそうだなと思っていたんだ。」
琴子の顔を見ようとした直樹だったが、その視線をおもいきり外す。
「入江さん?」
「…襟元。」
「え?」
「襟。」
目をそらしたまま、直樹が苛々しながら言った。
「ああ!」
先ほど金之助に乱された襟がまた、はだけていたことに漸く琴子は気づいた。豊かではないが一応存在する胸の谷間が見えており琴子はベッドの上に置いていたガウンを急いで羽織った。
「…とにかく、あいつはお前への気持ちが強い。だから何かしでかすんじゃないかと用心して見ていた。今夜のあいつはおかしかった。お前を何度も見てそわそわしていた。だからもしやと思って、お前の部屋の近くに隠れて見張っていた。」
直樹は不寝番をしてくれていたのだ。
「そうしたら、やはり金之助がここにやってきた。それでもあいつを最後まで信じていたんだが、物音とお前の声が聞こえたから飛び込んだ。」
「そうだったんですか…。」
直樹がそこまでして自分を守ってくれたとは。琴子は感謝の言葉を口にしようとしたが、うまくそれを表現できずに口をパクパクとさせるだけだった。

「本当にありがとうございました。」
部屋を出て行く直樹にペコリと頭を下げることが、琴子には精一杯だった。
「なるべく鍵をかけておいた方がいいかもな。」
「でも、鍵をかけていなかったから入江さんが入ってくることができたから。」
「確かにそうだけど。」
そう言われると、鍵をかけていなかったことが幸いだったとも思える。
「それに、金ちゃんも私が嫌だって言えば無理なことは…。」
「甘い。」
ズバリと直樹が厳しく言った。
「お前、甘いよ。もうちょっと危機を持て。」
確かに言われる通りだと琴子は思った。
「ごめんなさい。せっかく入江さんが助けてくれたのに…。」
その好意を無にするようなことを口にするなんてと琴子が詫びると、
「俺のしたことはどうでもいい。お前はもうちょっと、男を疑うべきだ。」
と、琴子が考えていたことと違うことを直樹が口にする。
「いいか。男なんて欲望が爆発したらもう自分を抑えることができないんだ。」
「そう…なんですか?」
「そうなんだよ。あそこまでいったら相手が泣こうが喚こうが聞こえない。自分の欲望を遂げるためのただの獣だ。獣になった男は女の声なんて聞こえない。そういうもんだ、覚えておけ。」
「はい。」
男性というものは怖いのだなと、琴子は顔を青くした。そんな中、ふと思った。直樹も同じなのだろうか?
「おやすみ。」
少し脅し過ぎたかと反省した直樹は、琴子の頭をポンポンと叩いて部屋を出て行った。


琴子の部屋を出て、自分の部屋へ向かいながら直樹は視線を後ろから感じていた。が、あえて気付かぬふりをしてサッと廊下の角を曲がった。
ほどなくして、直樹は唐突に顔を出した。
「何か用か?」
本人には悪いが、夜中、薄暗い廊下で目にするとちょっと怖いものを感じる。直樹を後ろから追いかけていた視線の主は、啓太だった。
「話があるなら昼にしてくれたら嬉しいのだが。」
「…。」
直樹の言葉に、啓太は黙ったままだった。ゴムマスクのせいで表情はやはり分からない。ただ、隙間から見えている目がじっと直樹を睨んでいる。
「まさかとは思うが、お前まで琴子を襲うつもりだったとか?」
「そんなことはしない。」
ゴムマスクのためくぐもってはいたが、はっきりとした声が聞こえた。
「…喋れるんだな。」
直樹はつい、思ったことを口にした。
「馬鹿にしてるのか?」
「いや、そういうつもりじゃない。喉までそれで覆っているから声を発することも難しいのかと考えていた。誤解させて悪かった。」
「いいや。」
素直に直樹が謝るので、啓太も拍子抜けしたようで肩に入っていた力が抜けて行くのが見えた。
「じゃあ、何の用だ?」
「…琴子のこと、どう思っているんだ?」
金之助よりもこの男の方が厄介かもしれないな、と直樹は思った。すぐに愚かな行動に出た金之助より、こちらの方が行動は読めないかもしれない。
「どうって?」
「お前、琴子と一緒になって爺さんの遺産を手に入れるつもりなのか?」
「悪いが、俺はそこまで金に困っていない。」
財産目当てに琴子と協力していると啓太は思っているのか。
「お前こそ、沈黙を守っているのはなぜだ?」
喋ることができるのに、強欲な母のいいなりになっている啓太。それが直樹には不思議である。
が、啓太はそれに答えることなく直樹に背を向けてその場を去って行った。



それから数日、金之助は屋敷に姿を見せなかった。
琴子に乱暴をはたらこうとしたことが恥ずかしくなったのだろう、いくら琴子が許して呉れたとはいえ、顔を合わせにくいのだろう。
が、意外な形で金之助は姿を見せることになった。

ある日の早朝のこと。今までの事をゆっくりと頭の中で整理しようと直樹は庭に出た。
猫神家の人間や琴子はまだ起きてくる時間ではない。が、使用人たちはもう働き始めていた。
「おはようございます。」
屋敷同様に広い庭の手入れをする使用人にすれ違いざま挨拶を受け、直樹が庭に設えられた東屋へ行こうと足を向けた時だった。
「うわああああああああ!!」
絶叫という文字がふさわしい叫び声に、直樹の脳裏から考えていたことが全て吹っ飛んだ。
何事かと直樹は急いで声が聞こえた方へ向かった。
「どうしました!?」
そこでは、先ほど直樹と挨拶をしたばかりの使用人が真っ青、いや真っ白な顔で腰を抜かしていた。
「しっかりしろ!」
「あ、あ、あれ…あれ…!!」
その初老の使用人の男が、震える指を突き出していた。直樹はその指先を目でたどった。
「あれは!」
直樹の目が大きく見開かれた。そこは庭に造られた山であった。その山の上に首が突き出されていた。
「金之助!」
金之助が山の上に顔を乗せていた。その口には団子が詰められていた。
「なぜこんなことに…。」
呟く直樹の腕の中で、使用人がとうとう恐怖に耐えきれずに気を失ってしまった。




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 | 2017年03月31日(金) 22:49 |  | コメント編集

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 | 2017年04月01日(土) 17:21 |  | コメント編集

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