日々草子 猫神家の一族 8

猫神家の一族 8









直樹と琴子が謎を追いかけていることを、東馬は面白そうに見ていた。
「琴子ちゃんだけだったら探偵ごっこと笑えるけれど、こちらの御曹司が一緒だとそうは思えないし。」
結構まじめに大蛇森殺人事件の謎を追いかけているのかと、東馬は直樹に問いかけた。
「謎というか、とりあえずこいつに頼まれて来たわけですから。」
関わった以上、最後まで見届けたいと直樹が言うと「やっぱりナイトだ」とニヤニヤと東馬は笑う。
「まあ、いいさ。好きにやりなよ。この陰惨な屋敷をぶっ壊してくれたら僕としたら願ったり叶ったりさ。」
とりあえず、東馬は自分にできることならば何でも協力すると言ってくれた。
「では、早速ですが。」
念のために、鬼頭祥平について直樹は東馬に尋ねた。が、予想通り東馬は知らないとのことだった。
「爺さんの遺産がいくかもしれない男だろ?隠し子かなんかじゃないの?」
「その辺り、詳しい事情を知っていそうな人は?」
「詳しい事情ねえ。」
「できれば猫神家についても知っている人に話を聞きたいのですけれど。」
「うーん」と考えていた東馬が、「そうだ」と手を叩いた。
「あそこに行ってみたらいい。あそこ。」
「どこですか?」
「猫神会さ。」
東馬が話したところによると、「猫神会」というのは猫神家の財産や色々な手続きなど、当主である桃太郎に代わって管理をしている財団法人のようなものらしい。
「そこの会長が、ずっと爺さんの秘書をしていた人なんだ。あの人なら知っているかもね。」
ということで、直樹と琴子は猫神会の本部へと行くことになった。

本部は斗南市の中央、役所の近くのビルの中にあった。
「そうですか、あなたが旦那様の恩人の曾孫様で。」
桃太郎の秘書をしていた田中は、まずは琴子の顔をしみじみと見つめた。
「あの、私、桃太郎のおじいさまの持っていらした曾祖母の写真を見つけてしまいまして。」
申し訳なさそうに琴子が話した。
「いやいや、見つけたのがあなた様でしたら旦那様も喜ばれたでしょう。」
と、田中は怒るどころか喜んでくれた。

「旦那様は琴子様のひいおばあさまをずっと慕われていらっしゃいました。よほど受けた優しさを忘れられなかったのでしょう。それで旦那様は生涯独身を貫かれたのです。」
「まあ…。」
自分の曾祖母をそこまで一途に想ってくれたのかと、琴子は感激した。が、そうなると疑問もわく。
「あの、その…言いにくいのですが…。」
何と訊ねたらいいのだろうかと、琴子が困ると、
「一人の女性を愛していたのに、どうして三人も妾がいるのかっていうことが訊きたいんだろ?」
と、これまた直樹が無作法に口にした。
「いや、そんな率直に言わなくても。」
「図星じゃねえのか。」
「そうだけど。」
田中はそんな二人のやり取りに気を悪くする様子もなく、
「まあ、そこは男という生き物ゆえですからな。」
と答えた。
「男が数十年も女なしで…まあ、難しいところでしょう。」
「はあ。」
意味ありげな田中の言葉を琴子は理解できなかった。しかし、田中は構うことなく続けた。
「男としての欲望を満たすために迎えたのが、三人の女性。その女性がそろって娘を産みました。旦那様としては望んでもいないお子でした。それゆえ、以降その女性たちとの関係も冷め切ったものとなりました。」

「それで鬼頭祥平という方は?」
直樹が質問を変えた。
「ああ、そちらは。」
これまで何を聞いてもにこやかだった田中の表情に困惑が浮かぶ。
「…桃太郎氏のお子さんですか?」
「おとしだねということです。」
ズバリ尋ねる直樹に、田中は言いにくそうに答えた。

「確かに旦那様は琴子様のひいおばあさまを一途に愛していらっしゃいました。ですが、今から二十数年前でしたか。旦那様は一人の女性に惹かれたのです。それは親子ほど年齢が離れた間柄でしたが…私もその女性を見たことが数回ありましたが、どことなく写真の琴子様のひいおばあさまに似た方でした。」
その女性は鬼頭さちといったと、田中が付け加える。
「では、その人との間に生まれたのが。」
「はい、祥平様です。旦那様がようやく愛された女性が産んだ、しかも男のお子。それはもうお喜びで。これを機に鬼頭さち様を正式に妻として迎え、祥平様を後継者とすると公言するおつもりでした。しかし。」
「…三人の妾、いや娘たちが黙っていなかったわけですね。」
直樹の言葉に、田中は頷いた。
「すでにお妾さんたちは他界しお嬢様方も他家へ嫁がれておいででした。しかし、旦那様が息子をなし、その母を妻として迎えようとしていると聞いた途端、お三方は実家へいらして…さち様と祥平様がどこぞへ消えたのはそれから間もなくのことでした。」
「随分と気性の激しいお三方のようですからね。」
「犬子様と猿子様はそうですね。雉子様は最初は大人しい方でしたけれど…お姉さま方に引きずられていくうちに、やはり母は違えど姉妹ですので似ていらっしゃるのでしょう。」
あの三人にはよほど手を焼いたのか、田中が苦笑する。何があって鬼頭母子は姿を消すことになったのか、想像はついているようだった。
「祥平さんは、今おいくつなんでしょう?」
琴子が質問すると、
「そうですな。東馬様、金之助様はもう生まれていらして…ああ、啓太様と同じくらいじゃないでしょうか。」
と、田中は答えた。
「…戦争の中、無事に生きのびていらしたらいいですね。」
「さようですな。そう思います。」
琴子の言葉に、田中はしみじみと言った。



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「もう一つ伺いたいのは、遺言書にあった三種の宝です。」
「ああ、それですか。」
田中は少し待つように言うと、別室へと消えた。戻って来た時はその手に三幅の掛け軸があった。
「絵ですか?」
まさか本物を見せてもらえるとは思っていなかったので、直樹と琴子は驚いた。
「そうです。こちらが猫神家の後継者が受け取ることになる三種の宝です。」
さほど有名な画家が描いたものではないが、一応桃太郎が大事にしていたのでと言いながら田中は手袋をはめて丸められていたそれを広げる。
「まず、こちらは“山”です。」
そのとおり、山が描かれていた。
「そして、“川”。」
こちらは川である。
「最後が…。」
田中が広げた絵を見て、直樹と琴子は「ん?」と同時に声を発してしまった。
「…おだんご?」
琴子が言う通り、三方に乗せられた団子の絵がそこにあった。
「山、川、団子。この絵が三種の宝です。」
「山、川、団子…。」
首を傾げる琴子。山と川はまだしもなぜ団子?
「旦那様の茶目っ気ですよ。」
田中は絵を片付けながら笑った。
「ご自身が桃太郎というお名前でしたから。」
「桃太郎の話に沿った絵を描かせたということですか。」
直樹の言葉に「ああ、そういうことか」と、ようやく琴子は理解した。

「こちらの宝はずっとこちらが保存を?」
「いいえ、一度外に出ております。旦那様が祥平様へお渡しになったのです。が、お二人がいなくなった後、また戻ってきて。」
鬼頭さちは桃太郎から受け取った宝を置いて、息子と共に姿を消したということだった。



「ねえ、入江さん。」
猫神会からの帰途、琴子が直樹に尋ねた。
「男という生き物だから、お妾さんをってお話、意味が分からないのですけれど。」
「ああ、あれか。」
やはり分かっていなかったかと、直樹は琴子を見た。
「ま、箱入り娘には理解できないことだな。」
「箱入り娘…まっ、それはそうですけれど。」
育ちがいい、おしとやかという意味にとらえた琴子はポッと赤くなり満更でもない顔をした。
「ああ、悪い。訂正するわ。」
そんな琴子を見て直樹が口にする。
「お前は箱に入っても、箱から手足を突き出して暴れる女だった。悪い、悪い。」
「そんなことしません!」
「まあ、男には耐えられない時もあるんだよ。」
「厠のお話?」
「似たようなもんだ。」
全然分からない琴子が眉をよせ「うーむ」と唸る。それを見て、直樹はクスッと笑った。

「でも、桃太郎のおじいさま、ひいおばあさまをずっと慕って下さったのは嬉しいですけれど…ようやく結婚したいと思える方と出会えたのに、お気の毒。」
娘たちに猛反対され、鬼頭母子は自分の元から去った。そして最期は曾祖母の面影を抱いて生涯を終えた。資産家としては大成功したのだろうが、一人の男としては寂しい生涯だったのではと、琴子は胸が痛んだ。
「あの三婆たちの気持ちもわからないでもないけれどな。」
東馬がいつか語ったとおりだったと直樹は思った。
「犬、猿、雉なんて名前の付け方、どう考えてもやっつけ気分じゃないか?」
いくら子供など必要なかったとはいえ、生まれてきたからには慈しんでやればよかったのに。琴子ほど、直樹は桃太郎に同情はできなかった。だからといってあの三婆の行動は常軌を逸しているが。


 
二人が猫神家に到着すると、屋敷内が何やら慌ただしかった。何事だろうと思っていると、
「琴子、どこへ行ってたんや。」
と、このところ留守がちな金之助が出て来た。
「金ちゃん、何かあったの?」
「ん?おかんと犬子おばはんがな、証明するんやて。」
「証明って何を?」
「啓太が本物の啓太かどうかって。」
「ええ!?」
どうやって証明するんだと考える琴子。

そこへ大蛇森殺人の捜査担当の刑事も現れた。
「こちらの犬子夫人にぜひ証人にと頼まれまして。」
まあ事件の手がかりになればということで、同席するとのことだった。
そこで直樹はその場を離れ、刑事に捜査の状況を聞くことにした。

「なあ、琴子。」
「なあに?」
今までのおちゃらけな表情を一変させた金之助が琴子を見つめた。
「最近、あの男と一緒にいるんやな。」
「え?ああ、そうね。」
「…お前、あの男に何かあるんか?」
「え?何かって一体…。」
琴子はこんな金之助を見たことがなかった。いつも笑って面白いことをたくさん言ってくれる金之助なのに。
「…あの男を、どう思っているんや?」
「どうって…そんな別に…。」
琴子は金之助から目をそらした。が、金之助は逃げようとさせまいと壁に琴子を追い詰める。
「金ちゃん、どうしたの?」
「琴子、俺はな…俺は…。」
と言いかけた金之助の体が突然前のめりになり、琴子の傍の壁に顔面が押し付けられた。

「おい、お前のおふくろさんが探しているぞ。」
金之助の頭を壁へ押し付けたのは、戻って来た直樹だった。
「何をするんや…!」
「金之助、ここにいたの?」
金之助の直樹への抗議は、猿子の声に消された。
「早く広間へ行きなさい。」
恰好悪いところを琴子に見せたくなかったせいもあり、金之助は珍しく母に言われたとおり大広間へ行った。

「琴子さん。」
猿子、そして犬子が登場した。
「あなた、最近そちらの入江様と行動を共にしているそうね。」
「は、はい。」
犬子と猿子に睨まれ琴子はすっかり怯えてしまった。まるでヒグマに狙われた子ウサギのようである。
「あなた、ご自分が嫁入り前の身だと分かっていて?」
犬子が厳しく追及する。
「あなたはうちの東馬の嫁になる身なのですよ。それなのに他の男性とふらふらと。」
「犬子おばさま、私はまだ…。」
「そうよ。犬子姉さん。琴子さんは金之助の嫁になるんですからね。」
「猿子おばさま、それも!」
子ウサギ琴子が必死に抗うが、ヒグマの迫力にはかないそうもなかった。
「入江様、あなた様もいくら大金持ちのご子息だからといって、琴子さんを連れ回すのはいかがかと。」
ヒグマその1、いや犬子が今度は矛先を直樹へ向けて来た。まずは猫神の遺産を確保したいところ。そのためにはたとえ大金持ちの息子であっても邪魔者は邪魔者だと、犬子も猿子も考えるようになっていた。
「犬子おばさま、入江さんは私がお願いして一緒に…。」
「場合によっては、出て行っていただくことも考えますので。」
ヒグマその2、猿子もそこは姉に追従した。
「待ってください、おばさま方。入江さんは…入江さんは…。」
子ウサギ琴子が弁明しようとした時である。

「いやいや、奥様方。入江さんにはいてもらった方がいいですぞ。」
刑事がのんきにやって来たではないか。
「どういうことですの?宅の問題は家族で解決いたします。部外者に口を挟んでいただかなくても。」
犬子がキッと刑事を睨む。
「いや、こちらの入江さん。確かに東京の大会社のご子息ですが、それだけじゃないようで。」
「何ですか?」
「あの名探偵、銀田一稲助の弟子なんだそうで。」
「銀田一?どちら様ですか?」
犬子も猿子もその名を知らないようだった。
「名探偵です。六ツ墓村とか、死霊島とかの事件を解決している名探偵の銀田一稲助。その弟子とは。とにかく、入江さんに手伝っていただければ大蛇森弁護士の事件についても解決できるかと。」
大蛇森の事件については、琴子や自分たちが疑われていることは分かっている。それを解決してくれれば琴子と息子の結婚もうまくいくだろう。
「そうことなら」とヒグマ2頭、いや犬子と猿子はあっさりと引き下がり、大広間に戻って行った。

「入江さん、そんなすごい探偵さんのお弟子さんだったのですか?」
早く教えてくれればいいのにと、琴子が羨望の眼差しを直樹へ向けた。
「いいや。」
「え?」
直樹の返答に、琴子が驚いた。
「だって今、刑事さんが…。」
「大蛇森弁護士を発見した時に、色々素性を訊かれたんだよ。その時に銀田一の名前をちょっと出したらあっちが勘違いして。」
「勘違い?」
「そういえば銀田一稲助氏…って言いかけたら、勝手に弟子だったのかと言うから。ま、勘違いさせておけばこちらも動きやすいだろうから、放置しておくことにした。」
「本当はどういう関係なんですか?銀田一さんと。」
「銀田一さんと話をしたことがあるって言おうとしただけだ。」
「探偵のお仕事について?」
「まさか。とあるパーティーで顔を合わせて、あちらが俺が持っていた料理がうまそうだというから、あっちにありますよって教えてあげただけ。」
「まったく探偵と関係のない話題だったんですね…。」
それでは話をした内にも入らないのでは思う琴子である。それにしても、刑事まで騙して堂々としている直樹はすごい。

「おい、俺らも行くぞ。」
「ああ、待って!」
大広間へ向かう直樹の後を、琴子はパタパタと追いかけたのだった。

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shirokoさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。
続けてのコメントありがとうございます。

金ちゃん、イケメン揃いの従兄弟たち、そしてナイトに負けじと実力行使に…。
琴子ちゃんに嫌われなくてよかったけれど。琴子ちゃんじゃなかったら大騒動になっていたことでしょう。
確かに、東馬は琴子ちゃんを襲うことはありませんよね。女の人には優しいからそういう手荒な真似はしないと思います。
入江くん、間に合うといいのですが!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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