日々草子 猫神家の一族 4

猫神家の一族 4

久しぶりに続きものを書いていますが、楽しくてたまらないかも~!
思い切って書いてみてよかった♪
そして、結末の分かっているお話なんてつまらないと思われる方がいらしたら、ごめんなさい。
☆☆☆☆☆







雉子の息子啓太が戻って一日おいた日、いよいよ猫神桃太郎の遺言書が公開されることになった。
「啓太さん、疲れているからもう少し休んでからの方がいいような気もするのですけれど。」
密かに琴子は心配したのだが、雉子がとにかくこういった問題を早く片付けないと啓太もゆっくり休めないと主張したためであった。

この日直樹を出迎えた琴子に、いつもの明るさはなかった。やはり緊張しているのだろう。
「啓太さんと会ったのか?」
琴子は首を横に振った。
「戻ったのも遅かったですし、離れたお部屋で雉子おばさまと過ごしていらしたから。」
琴子だけではなく、犬子、猿子、それぞれの息子たちも対面していないのだという。

遺言書が公開される部屋は、屋敷の和室の大広間であった。当主桃太郎の代理人ということで上座に大蛇森の席が用意され、向かって右側に犬子、猿子、雉子と姉妹の順番の席、左側に東馬、金之助、啓太の席が用意されていた。
「私はこちらなんです。」
琴子の席は、それは離れた場所にぽつんと用意されていた。故人の指示とはいえ、猫神家と血縁関係のない琴子がそこにいること自体おかしなことだという三姉妹の考えによってのことらしい。
「琴子ちゃん、何なら僕の隣に座るかい?」
「何を言うてるんや、琴子は俺の隣や。」
東馬と金之助がやって来て、琴子を気遣う。
「東馬、何をおかしなことを言っているの。」
犬子が息子を睨んだ。猿子も金之助を注意している。
「ああ、入江様のお席はあちらです。」
一族の所に、何と直樹の席が用意されていた。
「入江グループのご子息を末席になんてとんでもないことですから。」
「よかった、入江さん、どうぞあちらに。」
自分が招いた直樹が粗略な扱いを受けることに耐えられなかった琴子はホッとした。
しかし、直樹の答えは、
「いいえ、僕も琴子さんの隣で結構です。」
というもので、これには犬子と猿子が驚いた。
「そんな。」
「当たり前です。故人と面識のある琴子さんがこの席で、全く面識のない、いわば押し掛けている立場の僕があのような席に座るなんてどう考えてもおかしいですから。」
その言い方は犬子と猿子を黙らせるに十分、迫力のあるものだった。

「入江さん…私のことはどうぞ気にしないで。」
四人が各々の席へ着いた後、琴子が小さな声で直樹に話しかけた。
「俺は猫神家に招待されてこの場にいるのではなく、お前の依頼を受けてこの場にいるんだ。お前より前に出るつもりはない。」
「いや、もう十分前に出ているような」と思わず言いかけた琴子であるが、なんだかそれは直樹の励ましのように聞こえたので黙った。それと同時に嬉しさと心強さがあふれて来た。
「しかし、三婆はそろわないな。」
「確かに、ちょっと遅いですね。」
てっきり三人そろってやってくるかと思ったのに。

大広間に大蛇森弁護士が姿を見せた。が、この日はやはり特別な日ということだからか直樹にちょっかいを出すことも、琴子を威嚇することもなかった。

「遅くなってすみません。」
ようやく雉子が現れたのは、集合時間を15分過ぎたところだった。
「遅いわよ、雉子…え?」
叱りつけようとした猿子がその口を閉じた。いや猿子だけではなく、犬子も東馬も、金之助も息をのんだ。
「啓…太さん?」
末席の末席にいる琴子が、絞り出すようにその名を呼んだ。隣の直樹も目を大きく見張っている。
雉子の後から現れたのは、男性だった。しかし、その顔は輪郭にぴっちりとそった灰色のゴムマスクに覆われていた。目、鼻の穴、口だけがくりぬかれているゴムマスク――。


「雉子、そちらが…。」
「はい、犬子姉さん。啓太です。」
「ど、どうしたの?その姿は?」
「戦争で顔に怪我を負ったのです。それでこのような姿をしております。啓太、皆様にご挨拶を。」
促された啓太は頭だけを下げた。しかし、それを受けた皆は挨拶を返すことも忘れ、ただただゴムマスクを見つめている。大蛇森もそうだった。

「…そちら、本当に啓太さん?」
皆の視線が声の主、猿子に動いた。
「おふくろ、何を言うてんや。」
金之助がとがめたが、
「だって顔が隠れて分からないんですもの。」
と猿子は続ける。
「そうね。他人に財産を取られることになったらかなわないわ。」
犬子もようやく、いつものがめつさを取り戻し始めた。

「酷い」と琴子が呟く声を直樹は聞いた。確かに酷い言いようだと直樹も思う。が、猫神家の多額の財産が関わったら甥の生還を喜ぶより、本人かどうかの確認の方が重要になるのかもしれない。
「何言ってるんだよ、好き好んでこんな恰好する人はいない。」
我が母ながら呆れると、東馬は溜息をついた。

「そうね。姉さんたちがそう思うのも無理はないわ。」
さすが雉子も、がめつい三姉妹の一人である。息子を疑われていることに何も抗議はしなかった。
「東馬さんや金之助さんがこうなったら、私だって同じことを言うでしょうよ。」
「そうでしょう?」
犬子の言葉に「わかりました」と雉子が傍らの息子を見た。
「啓太、そのゴムマスクを取って皆様にお前の顔を見せなさい。」
すると啓太は黙ってゴムマスクに手をかける。少しずつゴムマスクがめくれ、顎が見えた時「ひぃっ」という猿子の叫びが聞こえた。
そのゴムマスクの下に見えたのは、酷い傷だった。それ以上見るのは辛いほどである。

「わかった!もういいよ、啓太!」
東馬が叫びやめさせた。
「悪かった、啓太。」
「せや、すまん。」
そして東馬と啓太はそれぞれの母親に、
「謝れ、おふくろ。」
「酷いこと言うな、おかん。」
と睨んだ。しかし、息子たちに言われても母親たちは謝ることはなかった。
雉子は雉子で姉たちの性格をよく理解しているからか何も言わない。


「では…これより猫神桃太郎氏の遺言状を公開いたします。」
緊張している大蛇森の声が大広間に響き渡った。漸く本題である。
大蛇森は丁寧な手つきで、奉書包みの遺言書を開いた。
「一つ、猫神桃太郎の財産は次のようにする。」
ごくりと、三姉妹が唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。
「…相原琴子が西垣東馬、池沢金之助、鴨狩啓太のいずれかと結婚することを条件とし、猫神家の全財産の相続者の資格を証する三種の宝を得ることとする。」

「え?」と琴子は呟いた。今、自分の名前が呼ばれた気がしたが、前方に座っている犬子たちは何も声を出さない。だから気のせいだろう。

「一つ、相原琴子が死亡または三人のいずれとも結婚しなかった場合、全財産は鬼頭祥平に譲るものとする。以上。」

大蛇森が遺言状を読み終えた後も喋る者は誰ひとりいなかった。針が落ちる音すら聞こえるという静けさが、大広間を包んでいた。

「…ちょっと貸して。」
その静寂を破ったのは、犬子であった。
「は?」
「貸しなさい!」
犬子が大蛇森から遺言状をひったくった。そしてもう一度自分の目で読み返す。
「犬子姉さん、私にも!」
「猿子姉さん、私も見たいわ!」
猿子、雉子も引っ張りあうように遺言状を読んだ。
「…間違いない。相原琴子と書いてある。」
ワナワナと震える三姉妹は、大蛇森を睨んだ。蛇に睨まれた蛙のごとく、大蛇森は「ひぃ!」と悲鳴を上げる。
「これ、本物なんでしょうね?」
「も、もちろんです。そこに桃太郎さんの捺印が…。」
「犬子姉さん、筆跡はお父様のものだわ。」
「間違いないわ、悔しいけど本物よ。」
「こんなもん、認めるわけにいかないわ!!」
遺言書を破ろうとする三姉妹を「いけません!」と止める大蛇森。

大蛇森の次に三姉妹が狙いを定めたのは、もちろん琴子だった。
「どうして琴子さんが全財産を!?」
「ちょっと、あなた、お父様に何をしたの?」
つかつかと三姉妹が琴子に詰め寄った。琴子はやはり自分の名前を呼ばれたのは事実だったかと、ここで知る。
「いえ、そんな…そんな私も何が何だか…。」
桃太郎の書き間違いじゃないかと思いたいが、どうやらそうでもないらしい。
「あなた、もしかしてお父様の愛人じゃないでしょうね?」
「そんなことありません!」
「じゃあどうして、どうしてなの?」
犬子は琴子の襟をつかみ、猿子は琴子の腕をつかみ、雉子は琴子の足をつかむ。
「おば様方、落ち着いて下さい!」
このままでは殺されると、琴子は真っ青になった。
「おふくろ、やめろ!琴子ちゃんは何も悪くないだろう!」
「おかん、やめてくれ!琴子が死んでしまうやろうが!」
東馬と金之助が必死になって止めるが、母親たちは自分らより背の高い息子らを蹴飛ばした。啓太だけはゴムマスクをつけたまま、じっとその様子を見ていた。

「いい加減にしろ!」
今にも八つ裂きにされるのではという恐怖感から琴子を救ったのは、直樹の声だった。
「何も琴子一人に全財産をやると書いてあるわけじゃないだろうが!」
言いながら直樹は三姉妹の手を乱暴に琴子から払った。今まで礼儀正しい言葉づかいだった直樹とは違うそれに、さすがの三姉妹も一度は引き下がるしかなかった。
そして直樹は琴子を庇うように、三姉妹の前に立ち怒鳴った。
「あんたらの息子のどれかと結婚すれば琴子は財産を受け取ることになる。そう書いてあっただろうが。そんなことも覚えられないほどあんたらは耄碌してるのか!」

「…そうだったわ。」
まったく眼中になかった琴子の名前が遺言状に出て来たことですっかり逆上していたが、自分たちの息子の結婚することが条件なのだと、ようやく三姉妹は思い出した。
「それにしても、鬼頭の…あいつが出てくるなんて。」
「雉子!」
自分の呟きを猿子に注意された雉子はハッとなり口をつぐんだ。

「東馬、いらっしゃい。」
犬子は東馬を連れて大広間を出て行った。
「金之助、行くわよ。」
猿子も金之助を無理矢理引っ張り出て行く。
「啓太、行きましょう。」
雉子も同様だった。
そして大蛇森も疲れた様子で出て行った。
後に残されたのは琴子と直樹だけだった。

「あの…入江さん…。」
まるで暴漢に襲われたかのような姿の琴子が、泣きそうになりながら、いやもう泣きながら直樹を見上げた。
「私…私…どうしてこんなことに…。」
「お前が遺産相続に関わることになるとは予想していたが、まさかあの三婆、いや鬼婆立ちが指一本触れないように遺言書が書かれているとは、俺も思わなかった。」
「入江さんは私が関わっているって分かっていたんですか?」
「そうでもなきゃ、同席しろなんて言われないだろう。」
阿鼻叫喚となった遺言書の公開は、こうして一旦終了したのだった。





☆☆☆
第一関門、ゴムマスク、クリア!

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No title

💰に目がくらんでというか?もとからなのか、三姿たちは、腐ってるね?啓大のことも、琴子ちゃんのことも?琴子ちゃんの名前を聞いた途端すごかったですもんね。

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たこまるさん、ありがとうございます。

ありがとうございます~。
そうなんです、一番辛い時期なんです。でも書いて気を紛らわせているようなところです。
そしてご質問ありがとうございます。
どのような症状から大変になる?それはズバリ、点鼻薬に手が伸びた時ですね!!
あんまりやり過ぎると悪化するので気を付けてはいるのですが、これに手が伸びた時に「今年も鼻がつまる」と分かります。
レンコン、一番酷かった時に試しましたよ!!
回答が遅れてしまってすみません。

sayuさん、ありがとうございます。

犬神家世代!私、最近映画を見たんです、最初から最後まで。いつもあの、足のシーンしか見ていなかったもので(笑)
いやいや、sayuさんの心を掴んだだけで私はうれしいですよ!

とりぴょんさん、ありがとうございます。

ありがとうございます。
ワクワクが続くうちに、頑張って書いて行けたらいいなと思っています!
こちらこそ、読んで下さって嬉しいです!

shirokoさん、ありがとうございます。

いえいえ、こちらこそそんなに喜んでいただけるなんて!
ありがとうございます。
そうなんです、私も湖のシーンしか分からなくて原作読んで、映画見てああこういう話だったのかと。
だから無謀なチャレンジなんですよね。
色々おかしなところがあるかと思いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
入江くんと琴子ちゃんの関係もどうなるのでしょう?
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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