日々草子 猫神家の一族 3

猫神家の一族 3

コメントありがとうございます!
スタートダッシュが早い?のはいつものことなので、そのうち燃えつきてゴミとなって飛び散らぬよう頑張りますね。

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「入江さーん!」
最近は女中を通すこともなく、本人が直接やってくるようになった。
「あのですね、思い出したことがあるんですけれど…。」
「猿子さんの好物が何だとか、そういう情報はもう結構だ。」
直樹が斗南市に来てから5日が経とうとしていた。その間、琴子は少しでも猫神家に関する情報を直樹へ届けようと毎日旅館にやって来ていた。が、その情報はさして大事なものでもなく、そうしていくうちに直樹の口調もすっかりざっくばらんなものとなっていた。

「入江さん、退屈されていません?」
「全然。」
「東京より寂しい所ですよね?」
「だから余計に落ち着く。」
「そうですか。今日は湖でもご案内しようかと思ったのですが。」
「持ってきた本を読むから。」
「そうですか…。」
しゅんと落ち込む琴子。それに構うことなく本を開く直樹。琴子はじっとその様子を見ていた。本当に端正な顔立ちである。こんな綺麗な顔立ちの男性が現実にいるなんて今でも信じられない。
あまり邪魔をするのも悪いので、ここを出ていくかと琴子が思った時である。パタンと直樹が本を閉じ、立ち上がった。
「お出かけですか?」
「ああ。」
「どちらに」と琴子は訊こうとしたが、行動を監視しているようで相手に悪くなり「じゃあ、私は」と先に部屋を出て行こうとした。
「何だ、案内してくれるんじゃないのか。」
「へ?」
振り返った琴子の前で、直樹は外出の支度を始めている。
「…はい!」
嬉しくてぴょんぴょんと跳ねるかのように、琴子は「先に玄関で待ってますね!」と出て行った。



斗南市の中心にある湖はさほど大きくはないが、それでも景色としては壮大であった。
「晴れてよかった!」
帽子が風で飛ばされないよう押さえながら、琴子は笑顔を直樹に向けた。
湖の向こうには、これまた壮大な猫神家の屋敷が見えた。洋風と和風の建築が合わさった、この辺りではなかなかしゃれた建物である。
「啓太という息子は戻ったのか?」
「あ、今夜遅くに戻ってくるみたいです。雉子おばさまが今、迎えに行っているので。」
いよいよ猫神桃太郎の遺言状の公開も間近といったところである。
「おばさま方にお願いして、入江さんの同席もちゃんと許可をいただきましたから…ま、あの大蛇森弁護士の口添えのおかげでもありますけれど。」
その時のことを思い出したのか、琴子の顔が渋いものに変化したことを、直樹は見逃さなかった。

湖を眺めながらぺちゃくちゃとおしゃべりをする琴子、それに付き合う直樹の耳に「プップー」というクラクションが鳴り響いた。
「琴子ちゃん!」
「東馬さん!」
車から出て来たのは、くせ毛にメガネをかけた、直樹よりやや年上の男性だった。
「東京から、戻られたのですか?」
「ああ。まいったよ、ちょっとの別れだというのになかなか手放してくれなくて。モテる男はつらいよ。」
東馬ということは、あの神経質でやせ型の犬子の息子か。母に似ずこちらはかなり軽そうだと直樹は思った。
「そちらが、琴子ちゃんが東京から呼んだというナイトかな?」
東馬が興味深そうに、直樹を見た。
「そうです。こちら、入江直樹さん。入江さん、こちらがええと…。」
「雉子の息子、西垣東馬です。」
また琴子が犬子と雉子を間違える前に、東馬が直樹に握手を求めた。
「初めまして、入江直樹です。」
いちいちやることがキザだなと思いながら、直樹も握手に応じた。
「よかったら、市内を車でぐるりと回ってみるかい?」
「え?でも…。」
琴子は直樹を見やった。意外にも直樹は「お願いできますか」と応じたのだった。



「琴子ちゃん、またおふくろたちが酷いことを言ったんだろ?」
「いえ、そんなことは。」
「いいよ、庇わなくても。いつもごめんね。あの人たち、猫神家の財産にしか興味ないからさ。琴子ちゃんが暮らすことで財産が減ると思っているんだよ。そんなことないのに。」
東馬の言葉に嘘はないようだった。どうやら東馬は母親と性格は違うらしい。
「それに加えて、いい男を連れて来ちゃったからな。」
バックミラー越しに直樹の顔を見て、東馬が面白そうに笑う。
「どういうことですか?東馬さん?」
「あの三人、あの性格だろ?そりゃ夫婦仲がうまくいくわけなくて、皆逃げられた。自分たちの性格を棚に上げて離縁なんてみっともないことになったのは旦那、つまり僕らの父親のせいだと思い込んでいるんだ。と、そこまでは知ってるよね?」
「はあ…まあ…。」
やはり琴子は知っていたらしい。言わなくて申し訳ないという顔を直樹にチラリと見せた。もっとも、直樹は知っているわけだが。

「そんな性格のくせに、男の顔は高望だったんだよね。ま、僕を見れば一目瞭然だけどうちの父親を含め三人の旦那、いや元旦那か。それぞれ男前だったんだよ。」
確かに東馬は直樹ほどではないが男前に十分入る部類であった。直樹も東馬の顔を見る限り、父親はなかなかの男前だったと思った。
「その男前に逃げられたわけだから、男前を見ると怒りが湧いてくるのさ。だから琴子ちゃんのナイトを見て余計イライラして当たったんだよ。」
なるほど、道理で直樹を見ても全然態度が変わらなかったわけだと琴子は納得したのだった。

市内を一回りした後、お茶でも飲んで行けという東馬のすすめもあり車は猫神家の門をくぐった。
「普段は東京にいらっしゃるんですか?」
車を降りた東馬に直樹が訊ねた。
「うん。猫神の事業、東京の支店を一応任されている。これでも仕事は出来る方なんだぜ?君は普段は何を?探偵?」
「…そんなところです。」
「ふうん。」
男には興味がないのか、東馬はそれ以上訊ねなかった。

「琴子ぉ!!」
屋敷に入った三人の前に、新しい人物が登場した。「なるほど、これが猿子の息子か」と直樹は紹介されるまでもなく分かった。なぜなら、その男は男前だったという父親に似ることなく、猿顔であった。
「金ちゃん!金ちゃんも戻っていたのね!」
「当たり前やないかあ!琴子が心配で大阪から飛んできたんやでぇ!」
抱きつこうとするその金之助から、琴子は何とか身を避けた。
「西垣さんも、あの池沢さんも琴子さんと随分仲がいいんですね。」
「うん。子供の頃に時折、琴子ちゃんはここに遊びに来ていたんだ。爺さんの知り合いの曾孫さんということで。」
東馬は「まあまあ、落ち着け、金之助」と猿顔をなだめた。

「大丈夫か?あのババアらにいじめられとるとちゃうんか?」
「大丈夫よ、金ちゃん。」
お茶の席について発した金之助の言葉は、東馬のそれと同じだった。
「琴子は我慢強いからのう…苦労してるんじゃないかと俺は大阪で気が気でなかったで。」
「池沢さんは大阪に?」
「うん。でも僕と違ってあいつは事業はからっきしなんだ。名目だけ大阪の支店長だけど、本当のところは猿子おばさんから小遣いをもらって大阪で食べ歩いている。」
どうしようもない奴だと直樹は呆れた。絵に描いたような大金持ちのドラ息子か。

「琴子、そちらさんは?」
ひとしきり琴子との再会を喜んだ後、金之助はようやく見慣れない顔に気付いた。
「金ちゃん、こちらは入江直樹さん。私の父のお友達の息子さん。今回、私がお願いして桃太郎のおじいさまの遺言書のことで来ていただいたの。」
「琴子ちゃんを守るナイトらしいぜ。」
「東馬さん!さっきからそんなことを。入江さんに失礼です!」
琴子が顔を真っ赤にして抗議する。が、直樹は全く意に介さずという感じなので落胆したようだった。
「ナイト?何やねん、胡散臭いのう。」
猿之助、いや金之助は直樹をジロジロと観察する。
「まあええわ。俺は池沢金之助。」
「猿子おばさまの息子さんです。」
「琴子、どうして俺とババアの関係だけは間違えないねん?」
「そりゃ、それだけ似ていれば。」
「失礼な!こんな男前を見て何ちゅうことを言うねん、このドスケベ東馬!」
「悔しかったらモテてみろ、サル!」
ギャーギャーとわめく東馬と金之助である。


「騒がしいですよ、東馬。あら?またいらしていたの?」
騒ぎを聞きつけて来たのは、犬子だった。もちろん、猿子も一緒。雉子は先ほど啓太を迎えに出かけているということだったので、いない。
相変わらず直樹を胡散臭そうに見る犬子と猿子と正反対の、嬉しそうな声が続いた。
「ああ、入江さん!」
それは大蛇森弁護士だった。
「ちょうどよかった。私ちょっと調べたのですが。」
ちゃっかりと直樹と琴子の間に入ろうとしてくる大蛇森。そうはさせるかと、すかさず琴子が直樹にぴったりとくっついた。
「入江さん、もしかしてご実家は…あの入江グループでは?」
「ええ、そうです。」
「やっぱり、そうだったのか!」
直樹の返答に、東馬が頷いた。
「何となくそうかな、でも名字が同じだけかと思ってたけど。やっぱり入江グループの御曹司だったか。」
「入江グループ?」
不思議そうな顔をする琴子。もっともそれは琴子だけではなく、猫神の事業に関わっていない犬子、猿子、名前だけの金之助も同じ顔だった。
「何やねん、それは?」
「知らないのか。商社を中心に手広く事業を運営している大企業さ。そこを率いているのが…。」
「父です。」
「親族じゃなく、御曹司の中の御曹司だったか。なるほど、いい服を着ているわけだ。」
直樹の格好を見て頷く東馬。
「東馬、入江グループというのは猫神よりも大きいのですか?」
「うちなんてフッって吹けば飛ばされる存在ですよ、入江にとっては。」
「まあ…。」
「そんな…。」
東馬の言葉に、犬子と猿子の顔色が変わった。

「ええと入江様?」
態度が明らかに代わった犬子が直樹を見た。
「はい。」
「お姉さまか妹さまはいらっしゃって?」
「ちょっと犬子姉さん!何出しぬこうとするの?」
「おだまり、こういうのは長女の私からでしょう。」
「関係ないわ!」
犬子と猿子の姉妹喧嘩である。
「入江様、うちの金之助の方が男としては上ですよ。何といってもたくましさが違いますからね。女の尻なんて追っかけておりませんし。」
「宅の東馬がそれをしているとでも?ろくに仕事をしないどこぞの息子に言われたくないわ。」
「何ですって?」
「やめろ、おふくろ。」
「せや、みっともないで。」
「黙りなさい!」
息子たちを無視し、姉妹は直樹に期待の目を向けた。

「…残念ながら、姉も妹もおりません。弟が一人だけです。」
「まあ、そうですか。」
自分の息子と結婚させる女性がいなかったことに一度は落胆した姉妹だったが、そこで引き下がることはなかった。
「では入江様にお相手は?」
「え?」とこれには琴子が驚きの声を上げた。そういえば直樹が独身なのかどうかも知らない。
「おりません。ついでに申し上げると弟は年が離れておりまだ結婚する年齢ではありません。」
「ならば」と欲深な姉妹は考えをめぐらせる。
「どこぞの娘を養女にして嫁がせれば天下の入江と縁続きに。」
どこかにいい娘はいないかと今にも探しに出かけそうな姉妹に、直樹が言った。
「どんな女性を連れてきても、うちの母の眼鏡にかなうかどうかわかりませんけれどね。」
「え?」
「うちの母、女性を見る目はかなり厳しいものですから。母の好みに合う女性がはたしてこの世に存在するかどうか。」
「まあ、そんなに厳しいのですか。」
目の前に札束がぶら下がっているのに、それをむざむざと諦めるしかないのかと悔しがる犬子と猿子であった。

そして琴子はひっそりと落ち込んでいた。
「そんなに厳しいのか…じゃあ自分なんて無理だろう」と考えたところで、「いやどうして自分がそんなことを」と思っていた。


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大丈夫よ、琴子ちゃん

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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