日々草子 大蛇森の訪問

大蛇森の訪問

いい天気だ。散歩日和。
今日は世田谷まで足を延ばしてみた。
あれ?いつのまにか入江邸の前まで来てしまった…。

偶然、偶然。
別に今日は愛しの入江先生がお休みだから、家の周りをうろついていたら、先生が出てきて、「大蛇森先生、お茶でもいかがですか」なんて話しかけられないかなあなんて、決して考えていない。
でも出てこないかなあ…。

…また来てるよ、あいつ。
ストーカー・三流マジシャン・スネイク男。
どうせお兄ちゃんが出てこないかなあってウロウロしているんだろうな。
お生憎様。
お兄ちゃんは駅前の書店へ出かけたばかりだ。しばらくは戻ってこない。
あんまりうろつかれるようだったら、警察へ通報してやろうか…。
でも、あんなでもお兄ちゃんの職場の先輩だしな。
僕は二階の窓から眺めながら、そんなことを思っていたけど、
「え?おふくろ?」
玄関から出て行くおふくろの姿を見て、あわてて下へと降りて行った。

「うちに何か…?」
突然声をかけられて、僕は慌てて振り向いた。
あっ、入江先生のお母様ではないか。
格好からしてどこかへ外出するらしい。
これは、きちんとご挨拶しておく、絶交のチャンスだ。
「はじめまして。僕は斗南大病院で入江先生にお世話になっています大蛇森と申します。」
「まあ。息子たちがお世話になっております。」
別にチンチクリンを世話しているつもりは全くないけれど。

「おふくろ!」
僕は門までおふくろを追いかけたけれど、間に合わなかった…!
おふくろと三流マジシャンは挨拶を交わしているところだった。
「裕樹、こちらお兄ちゃんと琴子ちゃんがお世話になっているお医者様ですって。上がっていただいて。直にお兄ちゃんも帰ってくるでしょう?」
…一番恐れていた状態になってしまった。
こいつを家に上げるなんて、ライオンをリビングへ放し飼いにするくらい、恐ろしいのに。
「私、急いで買い物に出かけないと。琴子ちゃんをがっかりさせちゃうから。じゃ、裕樹、先生のお相手をしっかり頼むわね。」
そう言い残して、こいつの恐ろしさを知らないおふくろは出かけてしまった…。

「…どうぞ。」
裕樹くんが紅茶の入ったティーカップを出してくれた。
いい香りだ。若いのに、なかなかの気配り。さすが入江先生の弟さんだけある。
「素敵なティーカップですね。」
僕はサラッと褒める。こういう細かい点に気付かないとジェントルマンとは言えない。

「どうも。」
褒められてもな。
そのカップ、琴子が銀行の景品でもらってきたやつだし。
そしていい加減飽きたから、今日にでもチビのおもちゃへと下げようと思ってたんだけど。
あ、そういえばチビはどこへ行ったんだ?
それにしても、何で僕がこいつの相手をしなければいけないんだろう。
このまま居座られて、夕食とか一緒に食べる羽目になったらたまらないよ。
…あ、そうだ。

「先生、ちょっと僕、席をはずしますね。」
裕樹くんがにこやかに言って、席を立った。
「どうぞ。こちらはおかまいなく。」
僕もにこやかに返事をする。
そうして、裕樹くんはリビングを出て行った。

それにしても、外見も立派なお宅だと思ったけれど、中も立派だな。
落ち着いたいい雰囲気だ。
こんな素敵な雰囲気の中、入江先生と裕樹くんは育ってきたのかと思うと、何とも言えない。
あ、あそこに飾られているのは写真だろう。
入江先生の幼い頃の写真とか飾ってあるのかな?
僕は期待しながら写真が飾られている方へと歩み寄った。

…何だ、これは?
どれも、これも、全部、先生とチンチクリンの写真ばかりじゃないか!
結婚式の写真が多いな。
何でこんなに?
…ハハーン。分かったぞ。
きっと最初は、ここに入江家の歴史の写真の数々がきちんと並べられていたに違いない。
ところが、あのチンチクリンが嫁に来て、
「古い歴史なんて必要ないわ!これからは、私が歴史を作っていくのよ!」
とか何とか言っちゃって、飾られていた写真を全部処分して、自分たちの写真を並べまくったに違いない。
そう考えると、やたら趣味の悪いゴテゴテした写真立てに飾られているのもわかるな。
あのお母様なら、こんな少女趣味の物じゃなく、もっとシンプルで上品な物を選ぶに違いないし。

…そういえば、さっきも出かける時に、チンチクリンをがっかりさせるとか何とか言ってたっけ。
どうせ、あいつのことだ。
「毛糸のパンツを買ってこい。カシミア100%じゃなきゃだめだ。」
とか、命令したんだろう。本当に腹が立つ女だ。チンチクリンなんて、アクリル100%だって勿体ない!
しかし、本当に悪妻、悪嫁、悪ナースと、悪のフルコース祭りのような女だな。
こんな女を家族にさせられている入江家の面々を思うと、涙が出てくる…。

怖い奴だな…。
用を済まして戻ってきた僕の目に映ったのは、写真を見ながら、笑ったり、怒ったり、泣いたりしている三流マジシャンの姿だった。
あれは恐らく自分勝手に妄想しているんだろうな。
…琴子そっくり。
三流マジシャンといい、琴子といい、何でお兄ちゃんを慕うやつは妄想人間ばかりなんだろう?何だかお兄ちゃんが哀れに思えてきたよ。

本当はあいつから目を離したくなかったんだよな。
だって僕が目を離した隙に、洗面所へ入りこんでお兄ちゃんのバスタオルを盗んだり、またはお兄ちゃんの部屋へ忍び込んだりする可能性があるし。
そうだ。あいつを送り出す時は、きちんと門まで送り出さないと。
帰ったふりして、お兄ちゃんのベッドの下とか、部屋の天井裏とかに忍び込まれる可能性もあるしな。
…僕、江戸川乱歩の読み過ぎ?
それにしてもおふくろ、どこまでケーキを買いに行っているんだろう?
「今日は琴子ちゃんがお兄ちゃんへ初めておにぎりを作った記念日」とか何だか訳の分からないこと言って出かけて行ったけど…。

しばし僕と裕樹くんは、いろいろな会話を楽しんだ。
時計を見ると、そろそろ病院へ向かう時間だった。今日は夜勤だったんだ。
名残惜しいが、仕事は大切にしなければいけない。
「じゃ、今日はとても楽しかったよ。」
裕樹くんに感謝の気持ちを言った。
門まで見送りに来てくれるなんて、本当に何て育ちがいいんだろう!
入江先生に会えなかったのは残念だったけど。

三流マジシャンを追い返して、僕はリビングの隣に仕掛けた物を片付けに行った。
「結構おまじないもバカにできないんだな。」
僕はほうきを片付けながら、呟いた。
そう、『ほうきを逆さに立てると、長居する客が帰る』という言葉を思い出して、さっき抜け出した時、仕込んでおいたんだ。
あ、塩も撒いておくか。二度とあいつが家の中へ入ってこないように。
今日は何もないから、お兄ちゃんに怒られることもないよな。
あいつが関わると、いつもお兄ちゃんに怒られるんだから…。
そんなことを考えていると、
「ただいま。」
お兄ちゃんが帰ってきた。

「お帰り。あ、チビも一緒だったの?」
リビングへ入ってきたお兄ちゃんを出迎えて、僕はお兄ちゃんの隣にいるチビにちょっと驚いた。
「お前、どこに行ってたんだよ?」
チビを撫でながら僕が尋ねると、チビの代わりにお兄ちゃんが答えた。
「本屋を出ようとしたら、チビが入口にいたんだよ。何か俺を家に帰さないように、しきりにまとわりついてさ。しょうがないから公園とかあちこち散歩してたら、すっかり遅くなった。」
さすが僕の愛犬!
お兄ちゃんの危機を感じて、家から遠ざけてくれたのか!
すごいぞ、チビ!

ご褒美にチビの好物を用意しようとした僕の頭に、衝撃があった。
…え?
今日はお兄ちゃんに殴られる予定はないんだけど?
「…お前、こんな子供じみた真似して。」
お兄ちゃんが溜息をついた。
「え?」
僕が訳が分からず聞き返すと、お兄ちゃんは写真立てを黙って指さした。

…何だ、これ!
写真立ての中の琴子の顔には全て髭が描かれ、中には琴子の方へ矢印を引っ張って「チンチクリン」とか、写真立ての方へ矢印を引っ張って「趣味悪い写真立て」とか、くだらないイタズラがされていた。
…あいつか!
あいつの仕業か!
ちくしょう!やっぱりあいつから目を離すんじゃなかった!
「…琴子とオフクロに怒られるぞ。」
お兄ちゃんはそれだけ言い残して部屋へと戻ってしまった。

結局、あの三流マジシャンが関わると、僕はお兄ちゃんに怒られる羽目になるのかよ!


☆あとがき
すみません!
しばらく書かないとか言っておいて、書いてしまいました!
背水の陣とか言っておいて、はあ!?って感じで申し訳ないです(ーー;)
何か心機一転しようかなとか考えて、じゃ、やっぱりこれが明るい雰囲気に戻れるかなあと思い…(笑)一度だけってことで、大目に見ていただけると…
私にとっては久しぶりに書いたので、面白く書けているのか不安ですが、少しでも笑っていただけると嬉しいです。
久しぶりなのでやや暴走しすぎた感も…。
でも大蛇森に琴子をああだ、こうだと言わせるのは結構面白いです(笑)
…あとがきもまとまりなくなってるよ~

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comment

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水ちゃん、待ってましたぁ^^
大蛇森君、お久しぶりですこんばんは…です♪

とうとう、憧れの入江直樹宅にお邪魔してしまったなんて
なんつぅぅぅぅーーー^^;
写真に落書きって!
って、心の叫びで止めておきます^^
裕樹も大人になったなぁー☆

でも今回はチビに感動しました^^
さあやの実家にもチョコラブがいるので、思わず想い浮かべて
しまってジーーーン(涙)
動物ネタって映画もドラマも本も見れないのです。
もう、号泣!号泣!しちゃうんですぅ。
素敵SSをありがとうです♪

裕樹、気の毒に・・・。
入江くんも冷静に考えれば裕樹がそんなことする訳無いことわかるでしょうに・・・。
頭に血が上ったのね、最愛のワイフの写真汚されて、ぷぷぷ。

大蛇森シリーズ、衰え知らず!!!ブラボーv-425

水玉さん、おはようございます。大蛇森シリーズ再開ですね。しかし今回は裕樹君が犠牲者ですかぁ。部屋の写真はママが展示しているのを、知らないから琴子の顔にいたずらしたのですね。それを知ったら先生どんな表情をするのでしょう。見てみたいですね。ちびありがとう、入江君守ってくれて。裕樹はかわいそうなことになりましたが。本当にこのシリーズは楽しいです。辛いこともイヤなことも吹き飛ばしてくれます。ありがとうございます。

コメントありがとうございます

コメントありがとうございます♪

さあやさん
じゃ、『名犬ラッシー』とか、『忠犬ハチ公』でも泣いちゃうんだ~
一度、大蛇森を入江邸へ忍びこませてみたかったんです~

アリエルさん
ブラボーと言ってもらえて嬉しい♪
最近書いてないからね…笑
そのうち、調子も戻るかしら…?

Tiemさん
ありがとうございます。
嫌なことを吹き飛ばせてますか?
そう言っていただけるとうれしいです^^
あのウェディングの写真を見たら、彼は絶対嫉妬するだろうなあと(笑)
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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