日々草子 猫神家の一族 1

猫神家の一族 1

またお待たせしてしまうことになるかもしれませんが、とりあえず書いてみたいものができたのでUPしてみます。
更新が滞ってしまったらごめんなさい。
タイトルから分かるとおり、あの話を元ネタにしております。というかパロディです。
ゆる~い感じで読んでいただけると幸いです。

☆☆☆☆☆








斗南市――東京から離れたその地方都市に、莫大な財産を築いた一族が住んでいた。その名を猫神家という。猫神家の当主、猫神桃太郎は一代にて会社を興し、猫神財閥を築き上げた。
その猫神桃太郎が105歳の長寿を全うした昭和2×年、この物語は始まる…。


列車が出発したことを見届け、斗南駅の駅員はあくびをしながらホームを一応見回した。一応決まりなのでそうしているがこの駅に人が降りることはめったにない。この日もそうだろうと思っていた駅員だったが、欠伸をしたその口が大きく開けられたまま止まった。
列車がいなくなったホームに、何と人がいたのである。それだけでも珍しいことだが、その人物の姿かたちに駅員は目を奪われた。
「何とまあ…えらいええ男。」
同性ながら、駅員は見惚れてしまった。この辺りではあまり見られることのないパリッとした背広の上下に身を包んだその男はこの世に二人といないのではと思う美男子ぶりであった。
「一体、どこに用なんだか。まあ、都会から来るお客は大抵、猫神家のお客だろうけど。」
そうつぶやくと、駅員は駅舎へと戻った。

その美男子はホームを見回す。が、誰もいない。美男子はポケットから懐中時計を取り出し時間を確認した。確かにこの列車に乗ると手紙で知らせたはずなのだが。
美男子以外誰もいないホームに、新たな人物が登場したのはその時だった。
「ああ、もう汽車は出てしまったということは到着されているのね!」
息を切らせてやってきたのは、若い女性だった。濃紺のワンピースに長い髪の毛を垂らして女性は周囲を見回す。と、二人の視線が合った。
先に目をそらせたのは女性だった。その頬がほのかに赤く染まっている。

しばらくした後、女性は溜息をついた。
「どうしたのかしら?いらっしゃらないなんて…この列車じゃなかったのかしら?」
女性はハンドバッグから手紙を取り出し見つめる。それを確認し、美男子が声をかけた。
「失礼。」
「はい?」
女性が顔を上げた。
「もしや、相原琴子さんでしょうか?」
「ええ、そうですが…え?もしかして、あなたが?」
「入江直樹です。」
「まあ、そうでしたの!」
相原琴子は頬を再び染めた。
「遅れて申し訳ありません。」
「いいえ。」
二人は改札を出た。

「でもまさかこんなに素敵な方だなんて。」
迎えの車に乗り込もうとした時、琴子が言った。
「は?」
「いえ、もじゃもじゃ頭に着古した絣に薄汚れた袴の方だと思い込んでいたものですから。あ、でもこれは私じゃなく弁護士の先生がそう仰ったのですけれど。予想が外れて本当によかった!」
嬉しそうに言う琴子を前に、入江直樹も口を開いた。
「僕も驚きました。思い描いていた女性と違っていたもので。」
「といいますと?」
「助けを求めてくるのですから、さぞや儚げな女性かと思っていたら、丸太を山と積んだ大八車に轢かれても傷一つ負いそうもない頑丈な女性が登場したものですから。」
「大八車に轢かれても…傷一つ負わない…。」
そうつぶやく琴子の後ろを偶然にも、丸太を積んだ大八車がガラガラと大きな音を立てて通り過ぎていく…。

「あの、私の差し上げたお手紙で事情はご理解いただけたでしょうか?」
走る車の中で、琴子が直樹に訊ねた。
「一応、自分でも調べてきました。」
「そうですか…。」
「猫神家の噂は東京に住む僕の耳にも入っています。それくらいの財産家ですから。猫神家の当主桃太郎氏が亡くなられたのは確か三カ月前でしたね。」
「はい、そうです。」
「桃太郎氏は妻はいないが、母親違いの娘が三人。」
「そうです。犬子さん、猿子さん、雉子さんです。」
「それぞれ桃太郎氏が違う妾に産ませた娘たち。」
「はい。」
「そしてその娘にそれぞれ一人ずつ息子がいる。」
「はい、そうです。」
「そしてあなたの曾祖母が桃太郎氏と知り合いだったと。」
「そうなんです。それで私にもよくして下さって。」
「その桃太郎氏の遺言状が近日、公開されるんでしたね。」
「そうなのです。その席になぜか私も立ち会うようにとのご遺言がありました。でも私は親戚でもないし。一人では心細いし、怖くてたまらなくなったのです。それで父の言葉を思い出しました。」
「僕の父とあなたのお父君は竹馬の友だそうですね。」
「はい。何かあったら入江さんに相談に乗ってもらうようにと言われておりました。」
「そのお父君は今、海に出ていらっしゃるとか。その間、一人になってしまうあなたを桃太郎氏が心配してこちらで過ごすよう言ったということでしたね?」
ここで琴子はまた顔を赤くした。が、先ほど直樹を見た時と違い羞恥心から来る紅潮だった。
「その通りですが、色々ありまして。」
「色々?」
「お恥ずかしい話ですが、父は船を間違えてしまって。」
「間違えた?」
「うちの父、ふぐの料理店を経営しているのですが、ふぐを獲る船と間違えてその…マグロ漁船に乗り込んでしまって。」
「…どうやったら船を間違えるのですか?」
あんぐりと、直樹は口を開けた。
「私が聞きたいくらいです。」
それ以上は聞いてくれるなと、琴子は下を向いてしまった。直樹はやれやれとばかりに窓の外に目を向けた。

と、直樹はおかしなことになっていることに気付いた。窓の外を流れる景色がだんだん早くなって来ている。
「どうかしたのですか?」
琴子も気づいたのか、運転手に声をかけた。
「おかしい…ブレーキが利かなくて。」
一生懸命ブレーキを運転手は踏んでいるが、全然利かない。スピードはグングンと上がり運転手はハンドルをさばくことに必死の体である。
ここが田舎で対向車がないからよかったものの、都会だったらもう大事故となっていただろう。

しかし、田舎は田舎なりの恐ろしさがある。
「この先は急カーブで…。」
「湖に飛び込んでしまうわ!」
斗南市の中央に位置する湖が、目前に控えているのだった。
「失礼!」
後部座席から直樹が身を乗り出し、ハンドルに手を添える。が、それでもスピードは上がり続ける。
「頭を下げて、伏せろ!!」
琴子に怒鳴ると、直樹はハンドルを思いきり切った。
「キャーッ!!」
琴子の悲鳴が車内に響き渡った――。


車は何かにぶつかって、止まった。が、衝撃は想像より少なかった。
直樹に言われたように伏せていた琴子だったが、衝撃でどこかに体がぶつかったようだった。
恐る恐る目を開けると、直樹の顔がすぐそこにあった。こんなに間近に異性の顔を見つめたことのなかった琴子は、驚きのあまりに目をそらすことすらできなかった。
「僕はあなたのように大八車に轢かれても平気な人間ではないのですが。」
直樹が口を開いた。
「はい?」
「山積みの丸太と同じ重さをかけられても、丈夫な体ではないのです。」
そこで琴子は、初めて自分が直樹の体に抱きつくような体勢を取っていることに気付いた。
「…失礼な方ね!」
それが女性に言うことかと琴子はむくれながら、体を離す。
車は積み上げた藁に突っ込んだらしい。直樹のハンドルさばきのおかげのようだった。
「あなたが感じた恐ろしいことというのは当たっているのかもしれませんね。」
「…ええ。」
青ざめた琴子は、直樹の言葉に小さく頷いたのだった。



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紀子ママさん、ありがとうございます。

いえいえ、こちらこそ更新滞っているブログに来て下さって嬉しいです。
そう言っていただけると更新してよかった~と心底思えます!
いや、過去にスケキヨはあちこちに登場させてましたが(笑)、いよいよ本家本元にチャレンジ(笑)
いっそ書いてみようかと。
犬子、猿子、雉子の名前が浮かんだ途端、いけるかもと思っちゃいました。
私の中でも明智小五郎ですよ、入江くんは。スマートな探偵って感じですよね。
残念ながら下男は出ないのですが(色々書くと私が忘れそうだから(笑))、やはりあの名シーンの再現は書きたいです。
ええ、あれが書きたいからこそ浮かんだ話ですから!

りょうママさん、ありがとうございます。

毒舌の探偵です!
確かに、彼女らだったら大八車を跳ね返しそうですものね(笑)それなのに、琴子ちゃんまでひどい言われようで。
でもそれだけ、たくましさを感じたのかもしれませんね。
私、りょうママさんのコメントでちょっと閃いたかもしれません!ありがとうございます!
そうそう、琴子ちゃんのお父さん、ありえないドジですよね。いつ帰ってくるのか(笑)

たまちさん、ありがとうございます。

大金持ちの遺産というだけで、何も起こらないはずがありませんよね。
琴子ちゃん、こういう時は野生の勘がはたらくというか。
そうですよね、大八車に轢かれたら擦り傷くらい…いやいや、たまちさんもなかなか仰る(笑)
見た目をああだこうだと言われたから、つい言い返しちゃったんでしょうね。
いや、でも本当にか弱きお嬢様を想像していたから出た本音かも。
ドロドロは私には書けないので、コメディ要素を多めにしてみようと思います。

マロンさん、ありがとうございます。

いえいえ、こちらこそ来ていただけて嬉しいです。
マロンさんも大変でしょうに…今年も辛いです。そちらは特に多いと聞いて心配しております。
そうそう、仰る通りちょいちょいからませておりました(笑)そんなに好きという気はしてなかったんですが、何だか最近映画を見まして。それで原作読んでみて考えてみました。
桃太郎の娘の名前が浮かんだ時に、この話書けるかもと思えてきたんです。
そうそう、パロディでゆる~くなので肩の力を抜いて読んでいただけたらと思います!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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