日々草子 斗南一党 其の弐

斗南一党 其の弐

また間が空いてしまい申し訳ありません。前回のコメントもお返事できてなくてごめんなさい!
褒められて調子に乗って、カテゴリ作っちゃいました。
風邪やらインフルエンザやら、気を付けてお過ごし下さいね!

☆☆☆☆☆







ここは江戸を脅かす盗賊、斗南一党の隠れ家である。
「ほう、そんなに稼いでいるのか。」
「はい、お頭。」
「あこぎなやり方で稼いでいるので、泣いている者も数知れずといったところ。騙されて女房、娘を売られた者も少なくないといいます。」
「そいつはひでえ話だな…痛っ!」
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
小頭の渡辺、手下の啓太から報告を受けているのは泣く子も黙る頭の直樹。その直樹の顔がしかめられたのは、お琴のせいだった。
「大丈夫だ、続けろ。」
「はい。」
直樹はお琴の膝枕にて、耳かきをさせていた。が、不器用なお琴のこと、時折手元が狂い、直樹の耳に痛みが走るのである。

「それじゃ、ちょっと痛い目に遭ってもらうか。」
耳かきを終えた直樹が座り直すと、たちまち緊張感が辺りを包んだ。
今度のつとめ先は、荒い方法で稼いでいる賭場であった。
「おもと、お前にひと働きしてもらうぜ。」
「はい、お頭。」
おもとがうなじに手をやりながら、色っぽい視線を連中に向けた。
「あたしの手にかかれば…。」
「お頭!私も、私も!」
その雰囲気をぶち壊したのは、またもやお琴だった。
「私も働きます!いつもおもとちゃんばかりだと可哀想!」
「今回はお前はおとなしく、ここにいろ。」
「ええ、でも…。」
「大丈夫だ、本番は手伝ってもらうから。それにお前、壺振りできないだろ?」
「うう…。」
直樹が言うとおりだった。お琴は俯くしかできなかった。



それから一カ月ほど経った。
「どちらさんもよござんすね?では…ああっ!!」
縁側でお琴は壺とサイコロを手に、懸命に練習していた。が、やはり不器用なのが災いしてその指の隙間からサイコロがポロリと転がり、様にならない。
「どうしてお琴ちゃんは、あんなに一生懸命なんだろうねえ。」
気の毒になったのか小頭の渡辺が壺振りを教えてやるが、それでもできるようになる気配がない。
「大人しくしてもらうのが、俺たちにも一番なんですが…まあ、やる気だけが取り柄といいますか。」
啓太も困ったものだという顔をしている。お琴は二人が自分のことを話していることも気づかずに、「どちらさんも…ああ!!」と飽きることなく練習していた。

「小頭、啓太。」
そこに、久しぶりにおもとが姿を見せた。その筋の世界に生きる女といった髪の形に着崩した髪がなかなか似合っている。
「おう、おもと。」
「ある程度のことはつかめましたので、お頭に報告に…あら?お琴は何を?」
「一生懸命なんだよ、お琴ちゃんは。」
「まあ、それがいいところなんですけれどねえ。」
苦笑するおもとの所に、サイコロが転がってくる。
「おもとちゃん、どうしたらうまくできるのかしら?」
「まあまあ。間もなくあんたの出番が来るから。」
「そうなの?」
「ええ。」
お琴にサイコロを返すと、直樹に報告をしにおもとは姿を消した。



それから数日後の夜。
「小頭、なかなか似合ってますぜ。」
「啓太もね。」
ならず者といった格好の渡辺と啓太がお互いを褒めていた。とうとう、盗みに入る夜が来たのである。
その隣ではお琴もそれらしい髪に変えているのだが。
「何だか子供が背伸びをしているみたいだ…。」
どうもぴんと来ないのである。お琴も自覚があるのか、鏡を見てはあちこち直そうとするのだが、うまくいかないようで。
「おもとちゃんみたいにならない…。」
せめておもとがいてくれたらと思うのだが、今夜は賭場に詰めているのでそうもいかない。
「準備はできたか?」
「お頭!」
半纏を肩にかけ、腕を組み立つ直樹に皆が見惚れた。
「お頭…何だかおかしいんです。」
お琴が半ベソをかきながら直樹を見上げる。
「着崩そうとしても、だらしなくなっちゃって。」
「こればかりには俺たちにも手伝えないからなあ。」
女の着付けなど分からないと、渡辺と啓太がお手上げだと言うと、直樹はニヤッと笑った。
「何も正攻法でやる必要はないんだ。」
「はい?」
「お琴、こっちへ来い。俺がうまいことしてやる。」
「本当ですか!」
さすがお頭とお琴は弾む足取りで直樹の後を追いかけた…。



四半時(30分)後――。

「…正攻法でやる必要はない、ね。」
「お頭、単にお琴を…。」
上気した頬をさせ、お琴はぐったりと直樹にもたれていた。着崩し方もなかなか色っぽく、もたれたその様子はその筋の女そのもの。
「四半時でこんなふうにさせられるとは…。」
「さすがお頭。」
渡辺と啓太は感心しているのか何なのか。どちらにせよ、うまいこといったと思うしかない。



「どちらさんもよござんすね?」
片肌脱いで壺とサイコロを手に見回しているのは、おもとである。その背中には色鮮やかな刺青(もちろん絵であるが)。
「丁!」
「半!」
男たちが声を張り上げて、それぞれ賭けていく。なんとも賑やかな光景である。
その部屋から離れた所に、駆け込む一人の男がいた。
「何だと?挨拶に来た?」
そこにいたのは、この賭場を仕切る親分だった。初めての客がやってきたとの報告を受けたのである。
「どこの者だ?」
「南戸だとか…。」
「南戸?聞いたことないな。」
脂ぎった顔を光らせ、親分は唸った。
「結構持っているみたいでしたぜ?」
「そうか、じゃあ有り金全部置いていってもらうか。」
相手が金を持っていると聞いた途端、親分は通すよう命じた。


「ちょっくらごめんよ。遊ばせてもらうよ。」
その連中が現れると、先ほどまでざわついていた賭場が静まった。
「これは挨拶代わりだ。」
盆茣蓙に切餅一つ、二つを置いたのは、啓太である。その金額の多さに男たちから声が上がった。
「どちらさんもお手柔らかに。」
その啓太の隣で微笑むのは小頭の渡辺である。これはいい客が来たと、周囲は喜んだ。
が、その二人の後ろに控えている男に、周囲の目が自然といく。
「何だ?あの男前は?」
「しかも女連れかよ。」
女を侍らせて座る色男。しかし、その眼光は鋭く見ていると魂を持って行かれるかのよう。
「あれは相当の修羅場をくぐって来た野郎だ。」
「どこの縄張りのもんだ?大層な所の跡取りってところか?」
素人ではないことだけは分かる。直樹はそんな噂を耳にしながら、「ふう」と煙管から煙を吐く。

「丁!」
「半!」
威勢のいい啓太の声、そして穏やかだが隙のない渡辺の声。その声に導かれるかのように、サイコロはその通りの目が出る。
「何だ、一体!」
「ちくちょう、さっきまでのツキはどこへいった!」
悔しがる男たちをよそに、啓太と渡辺の前には金子がたちまち山となって積まれた。
「何者なんだ、あいつら。」
歯ぎしりをしている男たちを、煙管を手にした直樹が笑みを浮かべて見ている。その傍らにはお琴が座っている。
「すごい…あの二人。」
漸く意識がはっきりとしてきたお琴は、ただただ、渡辺たちのやり方に驚いていた。そのお琴を直樹がクスッと笑う。
お琴には言っていないが、これはおもとの技の一つなのである。
おもとにとって、サイコロを自分の都合のいい目を出して降るのは朝飯前であった。何の目を出すか、こっそりとおもとは渡辺たちに合図を送っているのである。勝つのは当たり前。

「何だと?奴らに全部持って行かれそうだと?」
別室で報告を受けた親分が立ち上がった。このままにしておくわけにはいかない。

「ちょっと稼ぎ過ぎたかな?」
片膝を立てた啓太が笑ったところで、
「ちょいとお客さん。」
と、親分の登場である。
「本丸のご登場ときたか。」
渡辺が呟いた。
「なかなか稼いでくれたようだねえ。」
親分はギロリと二人を睨むと、おもとに目を向けた。
「サイコロ、よこしな。」
おもとから無理矢理サイコロを奪うと、それを歯に当てる。が、サイコロは何ともない。
「いかさまじゃないのか…。」
「いやですよ、親分。あたしを信じて下さいましな。」
おもとが媚を売っても、親分は信用しない。

「どうです、そこの旦那。」
親分が声をかけたのは、渡辺たちの後ろに座る直樹だった。
「俺のことか?」
「わたしと一つ、勝負をしましょう。」
「おお!親分と!」
周りの男たちがざわめいた。
「…何を賭けるんだ?」
「もちろん、その金子全て。」
渡辺たちの前に積まれている金子を親分は見た。
「構わないが。」
直樹は手にしていた煙管をお琴へ渡した。そして渡辺と啓太の間に座り直す。
「では…。」
壺を手にしたおもとを、
「ちょっと待て!」
と、親分がその動きを止めた。
「壺振りはお前じゃない。」
「え?」
「旦那の大事な女に頼もうとしようか。」
親分が指名したのは、何とお琴だった。

「あ、あたし!?」
突然のことにお琴はびっくり仰天である。
「だってあたし…そんな…。」
「いやに素人のような話し方じゃねえか。」
親分の言葉に啓太と渡辺、そしておもとはビクッとなった。まずい、これでは自分たちの正体がばれかねない。しかし、お琴に壺を振らせるなんてこともできない。おもとだからこそ、この荒稼ぎができたというのに。
「いいだろう。」
しかし、直樹は何と承諾してしまった。
「おい、あっちへ行け。」
お琴に指図をする。
「で、でも…。」
そこで渡辺と啓太の出番である。
「姐さん!ここはびしっと!!」
「ね、姐さん?」
突然の呼ばれ方にお琴は目をぱちくりとさせた。
「そうですよ、姐さん、一つやって下さい!」
渡辺と啓太は、お琴の性格を知っていた。ここは…その気にさせるしかない。
「久しぶりです、姐さんの壺振り!」
「見られるなんて!姐さん!」
「姐さん、姐さん」と持ち上げる。お琴も段々とその気になってきた。
「姐さん…あたしが姐さん…。」
お琴の脳裏には、実物より色っぽい自分が浮かんでいる。
「しょうがないね。」
うなじに手をやりながら、すっかりそのつもりになったお琴がしなしなと、おもとの席についた。
お琴にはおもとのような技はない。しかし、あの直樹が言うなら何か考えがあるのだろう。渡辺と啓太は胸の内で勝利を願う。

「どちらさんも、よござんすね?」
このひと月、練習してきたセリフを口にするお琴。が、その心は緊張ではちきれんばかり。
「では!」
お琴は指にはさんだサイコロを壺へ入れようとした…が、やはりここでもポロリ。
「へ?」
この失敗には親分も目が点になる。
「どちらさんも、よござんすね。」
律儀にやり直すお琴。もう失敗は許せないと、サイコロを鷲掴みにし、壺の中へ放り投げた。なかなか豪快なやり方である。ゴロンゴロンとやや乱暴に壺を振る。
「半!」
最初に口を開いたのは親分だった。
「…丁。」
直樹が静かに告げた。
ああ、どうか丁が出ますようにと、お琴は「はあっ!」という素っ頓狂な掛け声と共に壺を開けた。
「…丁!!」
サイコロの目は丁だった。思わず歓声を上げそうになったお琴。その足をおもとがこっそりとつねると、「あ、そっか」と慌てて今の立場を思い出した。

「それじゃ、これはこちらの物ということだな。」
満足気に金子を引き寄せる直樹。そこに、
「待ちな!」
という親分の声が聞こえた。いつの間にか、親分はお琴を抱え、その顔に短刀を突き付けていた。青ざめた顔でお琴は直樹を見つめている。
「何の真似だ?」
「これ以上好き勝手にさせるわけにいかねえ。この乳臭い女に手を出されたくなかったら、おとなしくこちらの言うことを…。」
親分の言葉の途中で、直樹は盆茣蓙を思いきりひっくり返した。稼いだ金子があちらこちらに飛び散る。

「間違ってるんじゃねえのか?」
散らかった金子を拾い集める者たち、そして驚く親分とその手下の前に現れたのは、黒装束に身を包んだ男たちだった。
「お、お前らは…。」
「客を気持ちよく帰すのが、いい胴元じゃねえのか?」
いつの間にか親分の手からお琴は消えていた。
「もっとも、こっちはこんな端金はいらないけどな。」
「何?」
そこで親分は漸く気付いた。もしかして、この男たちの狙いは…。
「しまった!!」
叫ぶと同時に、手下がやってくる。
「親分!金が…隠していた金が全部消えています!」
「くそっ!!」
あこぎなやり方で稼いで隠しておいた金を全部盗まれた。それが最初からの狙いだったと気付いた親分であるが、もう遅い。その首根っこを直樹が掴んだ。
「命を取るなら、取れ!」
「俺たちは命は奪わない。」
「命は奪わない…もしかして、お前らは…斗南一党か!」
直樹は答えず、覆面の下でフッと笑っただけだった。



「また斗南一党か…。」
翌朝、現場を訪れた火盗改めの与力、西垣と船津は悔しがった。
「確かにこの賭場を仕切っていた奴は悪党だが、だからといって盗みはいけない。」
「そうですとも。」
二人が会話を交わしていると、バタバタと激しい足音が聞こえた。
「斗南…斗南の直樹は!直樹は!?」
「もうおりませぬ、長官。」
長官の大蛇森がまたもや、地団駄踏んで悔しがる。
「ああ、また、また会えなかった!」
「捕まえられなかったの間違いでは。」
「どうして、どうして私から逃げて行くのか、直樹!!」
「そりゃ、盗賊ですから。」
やっぱりそっちかよと、西垣と船津は上司を置いて場所を変える。
「またもや、このやり方か…。」
「斗南の直樹は、男が嫌いなのだろうか。」
そこでは、賭場を仕切っていた親分が一糸まとわぬ姿で、公衆の面前で吊り下げられていた。
親分はよほど恐ろしい目に遭ったのか、呆けた表情をしているのが哀れであった。



「さて、今回はご苦労だったね、おもと。」
「ありがとうございます、小頭。」
隠れ家では渡辺がおもとの労をねぎらっていた。
「それにしても、どうしてお頭はお琴に壺振りさせることに自信があったのでしょうか。」
おもとはそれが不思議だった。もし直樹の読みが外れたら…。
「それはお頭に聞いてみたんだよ。」
渡辺が言った。
「おかしらは、サイコロの目のでる確率が分かるらしい。」
「え?そんなこと、できるんですか?」
啓太が驚いて目をむく。
「お頭のここは俺たちとは違うんだよ。」
渡辺は笑いながら、コツコツと自分の頭を突いた。

「そのお頭とお琴は…。」
三人が天井を見上げると、ギシギシと音が聞こえる。
「今日もお盛んで。」
今回はずっと一緒にいたのにと、苦笑するのだった。



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プロフィール

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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