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2017.01.20 (Fri)

吾輩は猫である 6


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吾輩は猫である。
いつもは自由に外を出歩いている吾輩であるが、今日は狭苦しい所にいるのである。しかもそこは、時折揺れる。

「ゴンザエモンのおばちゃん!」
上から馴染みのある声が聞こえた。
「まーくん!」
そう、まーくんの声だ。というと、今吾輩がいるのはまーくんの家の前ということか。
今の吾輩は、外が一切見えないのである。
「こんにちは!」
「こんにちは、まーくん。」
相変わらず挨拶のできるいい子である。すっかり吾輩の下僕もまーくんの虜となっている。
「そこにいるの、ゴンザエモン?」
「そうなのよ。」
今、吾輩はキャリーに入っている。それを下僕が運んでいるのである。
「ゴンザエモン、病気なの?」
不安そうなまーくんの声。ああ、可哀想に。吾輩は病気ではない。だから心配せずともいい。

「こんにちは。」
「こんにちは。」
新たな人物が会話に加わった。あの声はまーくんのママだ。
「すみません、お出かけの所に真樹が声をかけてしまって。」
「まあ、いいえ。声をかけてもらえて嬉しいです。うちのゴンザエモンも久しぶりにまーくんの声が聞けて喜んでいます。」
「最近、ゴンちゃんが遊びに来ないと真樹が心配していたんですよ。」
おお、今年はようやくまーくんママ、吾輩の名前を覚えてくれた!
「風邪でも引いちゃったかしらって。」
「いいえ、違うんです。ゴンザエモン、まーくんに顔を見せましょうか。」
いや、いい!今のこの情けない姿を吾輩は見せたくない!

「ニャー!」
「まーくんに会いたくてたまらないのね。もうゴンザエモンったら。」
下僕のくせに、どうして吾輩の気持ちが分からないのだ!

せっかくだからと、まーくんのママ、そしてまーくんのおばあちゃんが声をかけてくれたので吾輩は下僕とまーくんの家にお邪魔することになった。
「ゴンザエモン!お怪我しちゃったんだね!」
キャリーから出た吾輩を見て、まーくんが声を上げる。
「まーくん、これ知ってるよ。傷をなめないようにつけるものでしょ?」
「そうなのよ、まーくん、よく知ってるわね。」
「エヘヘ。」
吾輩はエリザベスカラーというものを付けている。まーくんが言うとおり、傷をなめないためのものである。ああ、こんな姿をまーくんにだけは見られたくなかった。
「どうしてお怪我しちゃったの?」
「それがね、メスの猫ちゃんを追いかけて、塀の上から落ちてしまったようなの。」
そこまで言わなくてもいいのに!!何で詳しく説明するんだ、下僕!
「まったくゴンザエモンはメスに弱いのよね。」
「はあ」と溜息をつく下僕。オスに生まれたからには当たり前だろうが。
「それでまーくんの所に来られなかったんだね。」
よしよしと吾輩の頭を撫でるまーくん。そうなのだよ、吾輩は正月に一応、まーくんに挨拶に行ったのだが、それ以来ご無沙汰だった。

「うちの真樹がゴンちゃんを振り回しているから、疲れちゃって寝込んじゃったかと心配していたのですけれど。」
唯一、吾輩に優しい言葉をかけてくれるのはまーくんママだな。毎度同じことを思うが、どうしてこんな優しいまーくんママが、あの悪魔と結婚したのだろうか。
「まあ、いいえ。まーくんにはいつも感謝しているんですよ。」
下僕が笑う。
「まーくんが遊んでくれるようになって、本当にいい運動になっているんです。いつも獣医さんに太り気味だって言われていたのですが、この間は体がしまってきたと褒めてもらえて。まーくんのおかげだわ。」
そりゃあ、世界の平和を乱す悪役にされたり、ヒーローのまーくんの手下になったり、色々やらされれば痩せないのが不思議だ。

「獣医さんといえば、獣医さんの時間は大丈夫ですか?」
まーくんのおばあちゃんが時計を見た。
「ええ、そろそろ行きますね。お邪魔しちゃって。」
「呼び止めてしまってこちらこそすみません。」
「いいえ、まーくんに会えてゴンザエモンも少しは安心したでしょう。」
これから、傷の具合を診てもらうために悪魔その2の元へ行くのである(その1はもちろん、まーくんの父親である)。
「病院へ行くの?」
ああ、何てことだろうか。まーくんの目がキラキラと輝きだした!
「動物のお医者さん?」
「そうなの。」
「まーくんも行きたいな…。」
だめ!絶対だめ!
「いけません。遊びに行くんじゃないのよ。」
まーくんママが「めっ」と怖い顔をする。
それなのに、下僕が信じられないことを口にした。
「まーくん、一緒に来てくれる?」
「え!いいの?」
「まーくんが一緒だと、ゴンザエモンが大人しく診察を受けてくれるんじゃないかなって。」
吾輩はまーくんがおらずとも…。
「もう、いつも大変なんですよ。獣医さんも動物の看護師さんもこの子が逃げ回るからぜいぜい肩で息をするくらいで。本当に申し訳なくて。」
そんなことカミングアウトせんでいい!下僕、さっきから吾輩の名誉を傷つけてばかりじゃないか!
「でもお邪魔ですし。」
ああ、さすがまーくんママ。
「全然!」
だめだ、この下僕。
「まーくん、一緒に行く?」
「うん!」
「もう…しょうのない子。」
まーくんママが深い溜息をついたのだった。



「ゴンザエモン、すごくおとなしいね。」
悪魔の館にて、吾輩はキャリーから再び出され下僕の膝の上に乗せられている。
「だめなのよね。もう病院へ行く日は朝からしょげちゃって。」
この場所が好きだという、物好きな人間がいたらお目にかかりたい。
「まーくんは病院、好きだよ。」
…物好きな人間がいた。
「お薬の匂いがすると、落ち着くの。」
…前より一層、悪魔の色に染まりつつあるまーくんの魂。
「まーくんは本当にお医者さんになりたいのね。」
「うん!まーくんね、いっぱい病気の動物治してあげたいの!」
「そうかあ。まーくんならいいお医者さんになれるわ。」
下僕!まーくんを悪の道に引きずり込んでどうする!

「おや、入江さんちの子だよね、君は。」
悪魔とまーくんは顔見知りだった。
「チビは元気かい?」
「元気!」
ああ、チビもこの悪魔の館へ連れて来られているのか。
悪魔の部屋に入ったまーくんは、そこに置かれた、吾輩のようなか弱き者たちを痛めつけるための拷問器具(注・治療に使う機械や道具のこと)を前に、一層その目を輝かせていた。
ああ、もうまーくんは悪の道まっしぐら。誰も止められない…。

「ゴンザエモン、今日はおとなしいじゃないか。」
吾輩をしっかりと保定しようと構えていた悪魔やその手下が、拍子抜けしたような顔をする。
「今日はまーくんに付き添ってもらっているから、おとなしいんです。」
下僕が笑った。そりゃそうだ。まーくんにみっともない所を見せるわけにいかないからな。
「ゴンザエモンの前足、握ってもいい?」
まーくんが悪魔に訊く。
「そうすればゴンザエモン、怖くないと思うの。」
「そうだね、握っていてくれるかな?」
「はあい!」
まーくんが吾輩の前足をギュッと握る。
「大丈夫だよ、ゴンザエモン。まーくんがついてるからね。」
「ニャー…。」
まあ、いつもより安心するといえば嘘ではない。来てもらってよかったのかも…。


「頑張ったね、ゴンザエモン。」
結局悪魔に痛めつけられたことに変わりはなかったが、それでも少しはましだったかもしれない。
送りがてら、再び吾輩と下僕はまーくんの家を訪れた。
「本当におとなしくいい子にしてくれたわ。ありがとう、まーくん。」
まーくんに来てもらって正解だったと、微笑む下僕。
「邪魔しませんでしたか?」
まーくんママはやはりそこを心配する。
「とんでもない!本当に助けてもらいました。また病院へ行く時はお願いしようかしら?」
「いいよ!」
そう答えるまーくんの腕の中にはたくさんのパンフレットがある。
「動物のお医者さんのところでもらったの!」
悪魔の館に置かれていた、色々なパンフレットだ。悪魔になるための勉強に使うとまーくんが全部集めてきた。しかもまーくんの手が届かないところは、下僕が取ってやったのだ。
「まーくん、本当にいいお医者さんになるわね。」
「なる!」
ああ、下僕もすっかり悪の道へまーくんを引きずり込もうとしているではないか。どうして皆、まーくんを悪の道へ誘いたがるのか。

「ただいま。」
「パパ!」
そして本家本元の悪魔登場…。下僕と吾輩がリビングにいる理由をまーくんママに話してもらうと、
「そうでしたか。すみません、お世話になってしまって。」
と、下僕に言う悪魔。ふうん、一応挨拶はできるんだな。
「とんでもありません。本当にまーくんにはお世話になって。」
下僕の顔が少し赤くなったのを、吾輩は見逃さない。悪魔は人間界ではいい男という部類に入るらしい。ま、吾輩よりは劣るがな。
「見て、パパ!」
「獣医さんのところでもらってきたな?」
「うん!でもね、難しい漢字がいっぱいで読めないところもあるの。」
「どれどれ、ああ、そうだな。パパが教えてあげる。」
「うん!」
「よかったわね、まーくん。パパが教えてくれて。」
そう言うまーくんママ。いや、この優しいママに限ってそんなことを本心から思っているはずがない。悪魔の顔色をうかがって、渋々まーくんが悪魔の道へ進むことを認めているだけだ。そうに違いない。
「あと、真樹にお土産だぞ。」
「わあ!動物のお医者さんのご本!」
…ジーザス!なんてこった!悪魔の中の悪魔だな、お前!
「入江くん、この本どうしたの?」
「後輩の医者の弟が獣医なんだって。それで使わなくなった本があったらもらえないかって頼んだらくれたんだ。」
「まあ、まーくんのために?お兄ちゃん、やるじゃない!」
「真樹が喜ぶと思ってね。」
「ありがとう、パパ!」
「よかったわねえ、まーくん。いっぱいご本が揃って。」
まーくんのおばあちゃん、ママ、そして悪魔、更には下僕までまーくんが悪の道へとその背中を押していく…。

「まーくん、またゴンザエモンと遊んでね。」
「うん!ゴンザエモン、早くよくなって遊びにおいで。」
「うちにも来てね。」
「はあい!」



一週間後、ようやくあの邪魔の襟が取れた吾輩はまーくんの元を訪れた。なんだかんだ心配させたからな。
「ニャー。」
「ゴンザエモン!治ったの?」
「ニャー。」
まーくんの満面の笑み。ああ、これにかなうものはない。
「よかったね、チビ!」
「ワン!」
チビよ、再び今日から共にまーくんのお守をしようではないか。
「じゃ、遊ぼう!お医者さんごっこね!」
「ニャ?」
は?今、何と?
戸惑う吾輩をよそに、まーくんはワイシャツを着て、色々な道具を引っ張り出して来た。
「これ、この間もらったお勉強の本でしょ?あと動物のお医者さんの所にパソコンあったでしょ?まーくんも用意したよ!」
まーくんはノートパソコンを持ち出して来た。
「パパがね、カルテはパソコンだよって教えてくれたの。そしたら、裕樹お兄ちゃんがね、壊れちゃったからあげるって。」
ニコッとパソコンを広げるまーくん。ああ…あの悪魔兄弟!!
「じゃ、診察を始めまーす。ゴンザエモン、今日はどうしましたか?」
「ニャー…。」
やっと悪魔の館から解放されたのに、どうしてまた、悪魔の遊びに付き合わねばならないのか。
そんな吾輩の体をまーくんへと押すチビ。お前、まーくんが悪魔へなりつつあるのをこのまま見ていていいのか?
…仕方ない。色々世話になったし、これも子守りとしての務めだ。
「ふむふむ」と聴診器を当てるまーくん。そしてパソコンのキーボードをパチパチと叩き、パンフレットを広げ、悪魔からもらった本をじっと見つめる。
「よし!じゃあ手術しましょう!」
すぐに手術なんだな、相変わらず。
「麻酔はなしでします!」
まーくんよ…頼むから今年は手術に麻酔を使ってくれ。
ウキウキと手術の準備をするまーくんを見ながら、吾輩はまーくんの無麻酔手術信仰をどうにかして捨てさせる方法はないかと考える。

「まーくん、ボンタロウは病み上がりなのよ、大事にしてあげるのよ!」
「ママ、ゴンザエモンだよ。」
そしてまーくんママは、再び吾輩の名前を間違える。あの時の「ゴンちゃん」は幻だったのか…とほほ。
でもそれがまーくんママらしいから、許す!




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 |  2017.01.25(Wed) 09:23 |   |  【コメント編集】

★No title

可愛い、お話ですよね、まー君良かったね,ゴザエモンと、あえて、動物のお医者さんの道にマシグラて感じですね,入江君も、琴子ちゃんも、まー君も幸せそうで、寒い冬も、心が温まります。i-1
なおちゃん |  2017.01.25(Wed) 11:31 |  URL |  【コメント編集】

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