日々草子 君に花を捧ぐ 27

君に花を捧ぐ 27






あの礼拝堂での出来事から、早1ヶ月が過ぎようとしていた。
「今日あたり、イーリエ家とオーイズミ家が話し合いをなさっているでしょうか。」
「そうね…。」
自分の部屋でコトリーナはぼんやりと外を見ながら、モッティに返事をした。
「どうお話が進むか心配ですけれど。」
「…サヴォンヌ様のことを考えると、胸が痛いわ。」
「まあ、お嬢様!」
モッティが憤慨した。
「どうしてそんなこと気にするのですか?ナオキヴィッチ様のお気持ちはお嬢様に向いていることは間違いないですし。」
「でも、サヴォンヌ様は小さい頃からずっとナオキヴィッチ様のお嫁様になりたくて…。」
「だから?仕方ないじゃありませんか。ナオキヴィッチ様にその気がないんですもの。」
「モッティ。」
「それに、お嬢様のことはディヴィッド様も認めて下さっているんですよ?」
モッティはもちろん、礼拝堂での出来事を全て話してある。
コトリーナは手の中のロザリオを見つめた。
「私は、ナオキヴィッチ様のお体が元に戻ったことが何より嬉しいわ。それだけで十分だけど…。」
「欲がなさすぎます、お嬢様!」
腰に両手を当て、モッティが怖い顔をした。
「でもね、人を傷つけて自分が幸せになるのって複雑な気分よ。」
「お嬢様もいっぱい傷つきました。」
「モッティったら。」
コトリーナはロザリオを握りしめ、呟いた。
「どうかナオキヴィッチ様をお守り下さい。」



オーイズミ家では、ナオキヴィッチとイーリエ公爵が、オーイズミ侯爵と対峙していた。
「婚約を解消。本気かね?」
「本気です、侯爵。」
ナオキヴィッチは一歩も引かないという態度を見せていた。その体は若い力であふれ、ついこの間までの青白い顔色はそこになかった。
「サヴォンヌ嬢と結婚はできません。愛していないからです。」
「随分とはっきりと。」
「その方がお互いのためですから。」
「以前、そちらの縁者をうちの力で助けたことをお忘れのようだ。」
やはりその話を持ち出してきたかと、ナオキヴィッチは思った。しかしそれは予想の範囲内であった。
「オーイズミ家がお忘れのこともあるのですが。」
「何だって?」
オーイズミ侯爵の目が光った。
「当方が何を忘れていると言うのかね?」
ナオキヴィッチはテーブルの上に、ディヴィッドの日記を出した。
「ディヴィッド・イーリエ、イーリエ家の先祖の日記です。」
「ディヴィッド?確かオーイズミ家の娘を娶った?」
「そうです。オーイズミ家はその縁談を成立させるため、罪のない家を葬った。その事実をご存知ですか?」
「…君は物語を作って聞かせるつもりかね?」
「残念ながら事実です。」
はたしてオーイズミ侯爵は本当に知らないのか、それとも知らないふりをしているのか。
「この日記には、ディヴィッドに恋人がいたことが詳細に綴られています。しかし、その恋は突然終わりを告げたのです。」
「君は作家になれるね。」
オーイズミ侯爵は本気にしない。
「ディヴィッドの恋人に圧力をかけ、恋が再燃しないようその家を潰した。それをオーイズミ家がしたことなのです。この事実が世間に明らかになったらどうします?」
「その日記だけを証拠に?誰が信じると?」
「では、こちらはどうですかな。」
それまで黙っていたイーリエ公爵が、書類を出した。
「これは、歴史学者が保存していた当時の住民の話をまとめたものです。ここに、その辺りの話が詳細に書かれている。」
「所詮噂にすぎませんな。」
いくら歴史学者のお墨付きでも、いくらでも言い逃れができるというオーイズミ侯爵の態度であった。
しかし、ナオキヴィッチはさらなる武器を準備していた。

「では、こちらを。」
「また古ぼけた書物だな。」
「修道院の代々の院長がつけている日誌です。」
「修道院だと?」
「神に仕える方の綴ったものも、侯爵は証拠にならないと?」
しおりを挟んでおいたページを、慎重な手つきでナオキヴィッチは広げた。
「イーリエ家とオーイズミ家のかつての縁談は、ディヴィッドの出奔により破綻した。そうはっきりと記載されています。」
ナオキヴィッチは日誌をオーイズミ侯爵につきつけた。
「そして、当イーリエ家がこの修道院に代々寄付してきた理由でもあります。」
イーリエ家がずっとあの修道院に寄付をしてきた理由、それはディヴィッドが修道士となったことが理由だった。ディヴィッドの両親が、息子が失った恋人を思って生涯を過ごせるよう、寄付をしたことが発端だった。その理由は時代を経て忘れられていたが、今のイーリエ公爵の代にも寄付は続けられている。
「神の前で、はっきりとディヴィッドは言っています。いかがですか?」

いくら昔の話とはいえ、名門オーイズミ家の娘が夫に結婚式当日逃げられ、更に恥を隠すために一年後に死亡したことにした。そんな事実が世間に洩れたらどんなことになるか。
「…ではこちらからも条件を出そう。」
「条件ですか?」
オーイズミ家にそんな資格がとナオキヴィッチが厳しい顔をする。
「アイハーラ伯爵の令嬢の事件、これは当家は一切関係ないということにしてほしい。」
「何をおっしゃるのです!」
これにはナオキヴィッチは逆上した。自分の到着が遅かったら、コトリーナはどうなっていたか。
「あれは犯人たちが、こちらのメイドに頼まれたと供述していると聞いています。それなのに?」
「神に誓うが、わしはそんなこと、何一つ指示はしておらん!」
その剣幕に、ナオキヴィッチはそうなのだろうと分かった。が、だからといってその条件をのむことは無理だ。
「では、メイド、確かサラでしたか?サラについては?」
「サラも何一つ知らないと。」
「いけしゃあしゃあと!」
ナオキヴィッチは開いた口が塞がらなかった。
「…トカゲのしっぽ切りといったところですかな。」
興奮する息子を隣に、冷静にイーリエ公爵が言った。
「サラは無関係だ。サヴォンヌがサラを追い出さないでくれと泣いて頼むのだ。これ以上孫娘を傷つけたくはない。」
ナオキヴィッチは唇をかみしめた。

「…ならば、もう一つ当方から条件を出しましょう。それでよければ。」
イーリエ公爵の言葉に、ナオキヴィッチは驚いた。父は何を条件に出そうとするのだろうか?



話し合いを終え、オーイズミ家の玄関に出たナオキヴィッチは父に抗議した。
「コトリーナの件は納得できません。」
「分かっている。」
「ならばどうして?」
「あれ以上こじらせたら、事態はどうなると思う?」
イーリエ公爵が息子を見つめた。
「ありもしない噂を流される、その可能性だってあるんだぞ?」
「ありもしない噂…。」
「コトリーナ嬢が傷物になった、そんな不名誉な噂が流されたら?」
「あっ…。」
若さゆえ、そこまで考えていなかったナオキヴィッチだった。正義を追及することに無我夢中だった。
「いくら本当ではないとはいえ、噂というものは勝手に歩くものだ。事を大事にしたくない。それに、これについてはアイハーラ伯爵からも頼まれているのだ。」
「伯爵から?」
「ああ。幸いコトリーナ嬢は無事だった。だからもう何も望まないと。怖い思いをしたのだから、それ以上辛い目に遭わせることだけは避けたいと。」
その通りだった。もしあそこでナオキヴィッチが引かなかったら、どうなっていたか。
「ありがとうございます、父上。」
息子の肩を父は優しく叩き、言った。
「お前にはもう一仕事、残っているだろ?」



「嫌です、絶対嫌です!」
ナオキヴィッチは父を見送った後、再びオーイズミ家で今度はサヴォンヌと向き合っていた。
婚約を解消するにはサヴォンヌが承諾したら。オーイズミ侯爵はそう言い張ったからである。

「どうしてナオキヴィッチ様と結婚できないのですか?何で?」
「あなたを愛していません。」
ナオキヴィッチははっきりと告げた。
「ひどい!」
泣き崩れるサヴォンヌ。その体を支えるサラ。サラは自分に憎悪の目を向けたが、侯爵より釘を刺されているのか、何も言わなかった。こうしてサヴォンヌの側にいられるのだから言えまい。
「だってずっと…ずっと…。」
「それは事実ではなかったのです、サヴォンヌ嬢。」
幼い頃からの憧れを無惨に打ち砕くのは、ナオキヴィッチも心が痛いことであったが仕方がない。
「コトリーナ様を愛していらっしゃるのですか?」
「はい。」
ナオキヴィッチは立ち上がり、頭を下げた。
「あなたを傷つけてしまったことは事実です。殴るなり引っ掻くなり好きにして下さい。あなたの気が済むまで。」
「じゃあ、私と結婚して下さい。」
サヴォンヌは引き下がらなかった。
「私を愛していなくてもいいのです。私がお側にいたいのです。」
「そんな辛い生活を送るなんてできないでしょう?」
「できます!」
「…私に先祖と同じことをさせるおつもりですか?」
「…え?」
「あなたと結婚式を挙げた後、私はその足で修道院へ入ることになります。それでもよろしいのですか?」
「そんな…そんな…。」
あまりのショックに、サヴォンヌは気を失って倒れてしまったのである。

「ナオキヴィッチ様、お怨み申し上げます。」
目覚めた後、サヴォンヌは婚約解消を受け入れた。帰ろうとするナオキヴィッチにサラが恨み事を口にした。
「それはこちらのセリフだ。」
ナオキヴィッチはサラを睨んだ。
「助かったのをいいことに、また何か企んでみろ。今度は確実に息の根を止めるからな。」
その物言いはサラの背筋を震え上がらせるのに、十分だった。


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さすが!ナオキビッチ、コトリーナーを守る、最高、オーイズミサバンぬ❓権力を使う、きたない。本当の恋に生きる、二人を邪魔するなんて許せない。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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