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2016.12.05 (Mon)

君に花を捧ぐ 23

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アイハーラ伯爵が、領地を放置しておくわけにもいかないということで、自分の屋敷に戻ることになった。
「どうする?」
伯爵は娘に一緒に戻るかどうするか訊ねた。
「もう少し、こちらでお世話になろうと思います。」
ナオキヴィッチが吸血鬼から解放されるまで、せめてその目途がつくまではコトリーナはイーリエ家にいたかった。
「そうか…。」
父は無理に自分と一緒にとは言わなかった。サヴォンヌの登場にて、コトリーナが辛い思いをしていることは分かっていたから、本音は連れて帰りたかったが娘の意思を尊重することにした。
「いつでも戻っておいで。」
「はい、お父様。」
と、会話をしていると廊下をパタパタと走ってくる音が聞こえた。
「コトリーナ、帰るのか!」
「ユウキヴィッチ様。」
「まだコトリーナに教えたい遊びがいっぱいあるんだ。」
「私はもう少しこちらでお世話になります。」
「そうか…僕を置いて生意気に帰るつもりかと思ったぞ。」
安堵するユウキヴィッチに、思わず父と娘に笑みが浮かんだ。
「じゃあ、モッティも?」
「私もお嬢様とご一緒にこちらでお世話になります。」
「よかったあ。」
そして翌日、アイハーラ伯爵はイーリエ家を後にしたのだった。



ナオキヴィッチはあれから寝たり起きたりの状態であった。
「クレアさんの悲しみを癒すことができれば、ナオキヴィッチ様も…。」
そう思うコトリーナであるが、どうやって癒せばいいのかも分からない。
「今のイーリエ家の皆さまはとてもいい方たちですよってクレアさんにお話できればいいのでしょうけれど。」
モッティが言うと、
「クレアさんは自分より他人のことを考える方だったのでしょう?そんな方が、自分が恋をしたために家を潰されたら…それはもう苦しくて辛くて仕方ないんじゃないかしら?」
両親を死に追いやってしまったことが何より辛かったのだろうとコトリーナは推測した。
「私だって同じだもの。お父様が私のために苦しんでいらっしゃっる所を見るだけで…。」
「分かります。私もお嬢様がお辛い思いをしていらっしゃるのを見るのは何より辛いことですから。」
コトリーナは父に何かあったら、やはり誰かを恨まずにいられないだろうし、モッティはコトリーナに何かあったら誰かを恨むだろう。二人はクレアの気持ちが痛いほど分かった。
「それでもお嬢様は、どなたも恨まれることはしないでしょうけど。」
「そうかしら?」
「ええ、そう思います。」
「買いかぶり過ぎよ、モッティ。」
恥ずかしそうにコトリーナが笑った。


そしてある日のこと、コトリーナは庭に出てどうすればナオキヴィッチを救えるか、一人考えていた。
「コトリーナ様。」
「サヴォンヌ様。」
ナオキヴィッチを見舞いに来たサヴォンヌが、一人庭にやって来たのだった。
「ナオキヴィッチ様のお見舞いにいらしたのでは?」
「ええ、今お会いしてきました。」
これまで面会を拒んでいたナオキヴィッチであったが、さすがにこれ以上はまずいかと無理を押してサヴォンヌの見舞いを受け入れたのだった。
「すっかりやつれていらして…。」
「そうですね。」
サヴォンヌが心配するのも無理はなかった。朝、コーヒーを運ぶコトリーナの目にもそれは明らかだったのである。
「…ナオキヴィッチ様は、コトリーナ様にずいぶん心を開いていらっしゃるのですね。」
「え?」
突然そのようなことを言われ、コトリーナは驚いた。
「私、先ほどお会いして分かったのです。」
悲しげにサヴォンヌが言った。
「そのようなことは。」
「いいえ、私よりコトリーナ様のことを…。」
「そのようなことはありません、サヴォンヌ様。」
懸命に弁明するコトリーナであった。

しかし、サヴォンヌは思いもよらぬ言葉を次に発した。
「ずるいわ…コトリーナ様。」
「サヴォンヌ様?」
「ずるいです、コトリーナ様。幼い頃より知っている私より、ずっと短い期間で、ナオキヴィッチ様のお心を掴んでいらして!」
深窓の令嬢からそんな激しい物言いがでるとは。
「誤解です、サヴォンヌ様。」
「いいえ、ナオキヴィッチ様は私を少しも見て下さいません。分かるのです。」
「そんなことは。」
「ナオキヴィッチ様が療養にいらっしゃる前は私のことを見て下さっていました。でもお戻りになったら…あの方は私じゃない違う方をいつも思い描いているんですもの。」
「そんなことありません。だってナオキヴィッチ様は…私の屋敷にいらっしゃる折り、サヴォンヌ様の絵をお持ちでいらっしゃいましたのに。」
モッティからはその辺りの事情を聞かされていたが、あえて知らないふりをしてサヴォンヌの気持ちをなだめようとコトリーナは思った。
「…あれは私が命じたのです。」
「え?」
「ナオキヴィッチ様に私を忘れてほしくなくて…何だか胸騒ぎがして…だからサラに命じて、私の絵をナオキヴィッチ様の荷物へ入れるように。」
何と、あれはサラの独断ではなかったというのか。サヴォンヌがそこまで焦っていたとは。
サヴォンヌは恥を告白したかのように、顔を赤くしていた。
「おわかりでしょう?私がどれほどナオキヴィッチ様をお慕いしているか。私はずっと小さい頃からナオキヴィッチ様のお嫁様になることだけを考えて、様々なことを身につけてきたのです。そんな私から…。」
サヴォンヌの美しい顔に、涙が一滴ずつこぼれ出す。
「私からナオキヴィッチ様を奪わないで…!」
そう叫ぶと、サヴォンヌはどこかへ駆けて行ってしまった。
後に残されたコトリーナは、そのまま佇んでいた。



「…屋敷へ帰る?」
ナオキヴィッチに、コトリーナが屋敷へ帰ることを告げたのは翌朝のことだった。
「はい。父がやはり心配で。」
コーヒーを出しながら、コトリーナは努めて明るく言った。
「そうか…。」
ナオキヴィッチはそれ以上追及しなかった。これ以上、コトリーナを縛り付けておくことは辛かった。
このままだと、ディヴィッドとクレアのようになってしまうかもしれない。クレアと違って貴族であるコトリーナの家には、さすがにオーイズミ家も迂闊に手出しはしないだろうが、それでもどうなるか分からない。
それに、こうして自分はサヴォンヌと結婚しようとしているのに体を治すことだけ付き合わせるというのも自分勝手すぎる。
「今まで本当にありがとう。」
ナオキヴィッチから素直にその言葉が出た時、コトリーナを悲しみが襲った。引き止めようともしない。あのキスも優しさも、ナオキヴィッチにはただの気まぐれだったのだろうか。
いや、そんなふざけた真似をする人間ではないことはコトリーナが分かっていた。家に戻り、サヴォンヌと自分を見比べて、どちらがふさわしいか目が覚めたのだろう。
「ナオキヴィッチ様が元のお体に戻らないことが心残りで…ごめんなさい。」
「いいや、本当によくやってくれた。あとは自分で何とかするから気にしないでくれ。」
「はい。」
ナオキヴィッチがベッドから手を差し出した。コトリーナはしっかりとそれを握ったのだった。



「うそつき。まだしばらくいるっていったじゃないか。」
ナオキヴィッチと違って、こちらは素直に感情を露わにするユウキヴィッチであった。
「ごめんなさい、ユウキヴィッチ様。」
「うそつき、うそつき。僕は誰と遊べばいいんだよ。」
「サヴォンヌ様が遊んで下さいますよ。」
これ以上ユウキヴィッチに懐かれると、嫁いでくるサヴォンヌにも申し訳ない。サヴォンヌのあの美しい顔や心が、自分の存在のせいで苦しめていると知った以上、コトリーナはイーリエ家に滞在することはできなかった。

「ごめんなさい、本当に困った子で…。」
泣きわめきながらユウキヴィッチが自分の部屋に閉じこもった後、公爵夫人が謝った。
「いいえ、私が約束を破ったから。」
「コトリーナちゃん。」
公爵夫人は、何が原因でコトリーナが帰宅を決めたかうすうす感づいていた。
「本当に…辛い思いをさせてごめんなさい。」
「そんなことありません、ノーリー様。」
「コトリーナちゃんと過ごした日々はとても楽しくて…。」
それ以上、公爵夫人は泣いて話ができなかった。
「ナオキヴィッチのために尽くしてくれて、本当にありがとう。」
「ノーリー様。」
母のように、とても優しかった公爵夫人。ともに刺繍をし、おしゃべりを楽しんだことは一生忘れないだろう。願わくば、今後はサヴォンヌともそのような時間を楽しんでほしい。
二人は抱き合って別れを惜しんだのだった。



「コトリーナの馬鹿、もうあんな奴知らないんだから。」
コトリーナとモッティが帰ってから、ユウキヴィッチの機嫌はすこぶる悪かった。
この日もユウキヴィッチは不機嫌そうに、二階の廊下の手すりの間から両足を出し、ぶらぶらさせながら下を見ていた。
「あ、サヴォンヌ様だ。げっ、あのメイドも一緒か。」
コトリーナが去ってから、どういうわけかサヴォンヌがやってくる。
―― サヴォンヌ様が遊んで下さいますよ。
コトリーナの言葉が思い出された。はたして本当にそうなのだろうか。
ぶらぶらと足を揺らしていたら、靴がスポーンと抜け落ちてしまった。
「しまった!」
「きゃあ!!」
サヴォンヌの綺麗な髪に靴が見事に当たった。
「お嬢様!」
靴を手に、メイドのサラが恐ろしい顔で上を向いた。
「…まずい。」
仕方なく、ユウキヴィッチは下へ降りて行った。

「ごめんなさい。」
素直にユウキヴィッチはサヴォンヌに謝った。
「ユウキヴィッチ、お行儀の悪いことを!」
そして又母が叱る。
「ごめんなさい…。」
もし、落ちたのがコトリーナの頭だったらここで笑ってくれただろう。「ユウキヴィッチ様、お見事ですね」くらい言ってくれるかもしれない。
しかし、相手が悪かった。サヴォンヌは口元は笑っているが目は明らかに戸惑っていた。そして隣ではサラが怖い顔をしている。
――これでは遊んでもらうことは望めない。
ユウキヴィッチは靴を手にスタスタと自室へ逃げ帰ったのだった。



「そうだ!コトリーナに手紙を書こう!」
部屋に戻ったユウキヴィッチは、コトリーナに色々なことを書いて送ろうと考えた。
「便箋、便箋…あ!」
引き出しを探していたユウキヴィッチの手が止まった。
「忘れていた…。」
その額に汗が浮き出て来た。

「兄上、兄上。」
その晩、ユウキヴィッチは兄の部屋を訪れた。兄は昼間サヴォンヌの相手をしたのか疲れているようだった。
「どうした?」
「あのね、ええと…。」
ユウキヴィッチは兄の周辺を目で探した。
「何か欲しいものがあるのか?」
「いや、あの…前にコトリーナが僕に本をくれたんだ。」
「本?」
「うん、兄上もいたでしょ?絵がいっぱいある部屋で。コトリーナが突然押し付けて来た本。」
「ああ。」
あの日記のことかと、ナオキヴィッチは分かった。
「あれ、コトリーナが持って行っちゃったみたいだけど…。」
「ああ、そうだな、多分。」
あの日記はコトリーナに預けたままだった。おそらく持って行ってしまっただろう。
「読みたかったのか?」
「ううん、全然。だって海賊出てこないんだもん。」
「そうだな。」
ナオキヴィッチは笑った。
「いいの、コトリーナが持って行ったって分かれば。」
そう言うと、ユウキヴィッチはそそくさと兄の部屋を出て行った。



「お嬢様…まあ、またその日記を読んでいらっしゃるのですか?」
アイハーラ家に戻ったコトリーナは、ディヴィッドの日記を繰り返し読んでいた。
「何度読んでも、せつないわ。」
「そうでしょうけど…でも、もうよろしいのでは?」
モッティは溜息をついた。
「正直、ナオキヴィッチ様のお気持ちが残念でたまらないのです。結局お嬢様をどう思っていらしたのかと。」
「モッティ。」
「だってそうじゃありませんか。何だかお嬢様の気持ちを弄んだような。」
「モッティ。」
日記を閉じたコトリーナがモッティを悲しい目で見つめた。
「…そんな目で見ないで下さい。辛いです。」
「申し訳ありません」とモッティが謝ると、コトリーナは笑顔になって、
「何か用があったのではなくて?」
と訊ねた。
「ああ、そうでした。お手紙ですよ。」
「お手紙?」
それはユウキヴィッチからの手紙だった。
「ユウキヴィッチ様のようにナオキヴィッチ様が素直でいらしたら」と言いかけたモッティは、またコトリーナに睨まれて口をつぐんだ。

手紙にはイーリエ家の近況が綴られていた。ユウキヴィッチが家庭教師に褒められたことが中心を占めていたが。
「あら?何かもう一枚。」
手紙の他にもう一枚紙が入っている。
「何でございます?」
「さあ…。」
便箋とは違い、その紙は黄ばんでいた。痛めないようそっと開いた。
「…住所?」
そこに書かれていたのは、どこかの住所、それだけだった。
ユウキヴィッチの手紙を読むと、それはコトリーナが持ち帰った日記から落ちてしまったページだという。
「日記が古いものだから、自然とはがれてしまったのね。」
ユウキヴィッチは、自分は悪くない、そんな古い本を渡したコトリーナが悪い、文句も言えないのが面白くないと手紙に書いていた。
「遠回しにお嬢様がいなくて寂しいと書いていらっしゃいますね。」
これにはモッティも笑うしかなかった。

「お嬢様?」
コトリーナはじっと、手元の日記と、はがれたページを見比べていた。
「なぜこの住所が日記に書かれていたのかしら?」
「お嬢様ったら…。」
本当に人がいいのだからと、モッティは仕方ないとコトリーナに付き合うことを覚悟したのだった。







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 |  2016.12.05(Mon) 18:02 |   |  【コメント編集】

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 |  2016.12.06(Tue) 00:09 |   |  【コメント編集】

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 |  2016.12.06(Tue) 00:16 |   |  【コメント編集】

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 |  2016.12.06(Tue) 00:25 |   |  【コメント編集】

嫉妬、丸出しの、サバンぬお嬢さん、コトリーナーとは、えらい違い。
なおちゃん |  2016.12.06(Tue) 09:11 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2016.12.06(Tue) 16:01 |   |  【コメント編集】

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