日々草子 君に花を捧ぐ 17

君に花を捧ぐ 17

長い間お待たせしてすみませんでした!!

☆☆☆☆☆☆☆






吸血鬼であることが明らかになっただけでなく、もしかしたら吸血鬼に取り憑かれているだけかもしれない。それはナオキヴィッチの心に穏やかさを取り戻し始めた。ここ数日は夜出歩くことはなくなり、顔色もよくなってきたようだった。

「私たちに話してくれたように、ご両親にもお話してみてはどうでしょう?」
アイハーラ伯爵がナオキヴィッチに提案したのは、コトリーナがベッドから起き上がり、歩き回れるようになった頃だった。
「ずっと黙っていたのでしょう?」
「はい。」
もしかして自分は吸血鬼かもしれない。そのような恐ろしい事実を両親に告げられるわけがなかった。ナオキヴィッチが夜な夜な出歩いていたのも、その苦しみに耐えていたことが一因だったかもしれない。
「大丈夫です、ナオキヴィッチ様。」
心配するナオキヴィッチをコトリーナは励ました。
「私たちが付いています。ナオキヴィッチ様のお父様、お母様だってきっと分かって下さいます。」
コトリーナに笑顔でそう言われると、不思議と悪い方へ進まない気がしてくるナオキヴィッチであった。

早速ナオキヴィッチは全てを包み隠さず、両親に手紙を書いた。すぐに返事は届いた。
両親は息子がそのような体になっていたことに驚いた様子だった。が、病気ではなかったことにまずは安心したと書いてあった。息子の苦しみを分かってやれなかったことを詫びる文面に、ナオキヴィッチは胸を突かれた。イーリエ公爵はアイハーラ伯爵宛の手紙も出していた。息子が世話になったことに対する礼、そしてその心を救ってくれた礼が認められていた。
「両親がこちらに来たいと言っていますが。」
すぐに息子の顔を見たいという親心は、娘を持つアイハーラ伯爵にも痛いほど分かった。
「そのことなのだが。」
伯爵は同席していた医者の顔を見た。
「先日お話した都会の医者より返事が来ました。」
それはぜひとも、自分が力になりたいという心強い返事だったという。
「ですからご両親をおいでいただくより、ナオキヴィッチ様がお屋敷に戻られたらいかがでしょうか。」
幸い体も良くなって来ている。都会にて医者の相談を仰ぐべきではという意見だった。
そこでナオキヴィッチは再び両親にそのことを手紙で伝えた。両親はすぐに返事をよこし、ならばアイハーラ伯爵とコトリーナもぜひ来てほしいとのことだった。



「…何だかもうびっくりしちゃって。」
その晩、寝支度をしながらコトリーナはモッティに話した。
「まさか私までイーリエ公爵家にお邪魔するなんて。」
都会に出るもの初めてなのに、大貴族の屋敷に行くなんてとコトリーナは今から緊張していた。
「もちろん、モッティも一緒にね。」
「はい、お供いたしますとも。」
コトリーナの世話係として、モッティも付いて行くことが決まった。モッティとしては大事なお嬢様が都会の女に馬鹿にされないか守らねばと強い決意を抱いている。
「でも、私が行っていいのかしら?」
「だってご招待があったのですよ?」
「でも…。」
コトリーナが何を気にしているか、モッティはすぐに分かった。
「あのご令嬢のことですね?」
「ええ。」
とにかくナオキヴィッチの体を治すことが先決だと、コトリーナもあの令嬢について訊ねることはしなかった。ナオキヴィッチからも話す気配はない。
「あの方、ナオキヴィッチ様の婚約者なのではないかしら?」
「そんな、婚約者だなんて。」
「でも肖像画まで持って来ているのよ?」
「ナオキヴィッチ様はお嬢様を大切に想っておいでです。婚約者がいてそのようなふしだらなことをなさる方でしょうか?」
「都会の洗練されたご令嬢と違って、田舎の小娘が新鮮に見えただけとか?」
コトリーナはそう言いながら、ナオキヴィッチが贈ってくれた絵を見た。コトリーナだって、ナオキヴィッチがそのような遊びの相手に自分を選んだなんて考えたくない。
「そんな酷いことをされる方だと私は思いませんわ、お嬢様。」
そうあってほしいとモッティは願いを込めて、強く言った。
「でもね、モッティ。もしそうだとしたら、私はそれでも構わないわ。」
「それでと申しますと?」
「ナオキヴィッチ様には本当にお似合いの方とご結婚していただいて。私はその…田舎の思い出という感じに。」
本心を言えば、ナオキヴィッチの側にいられるのならば妾でも構わないとコトリーナはモッティに話した。
「まあ、そんなこと!」
「そうよね。妾だなんて奥様になられる方に失礼だもの…。」
「違います!お嬢様が妾だなんて何てこと!私が許しませんわ!」
「モッティ。でも本当にそれで十分なの。毎日会えなくてもたまに会いに来て下さるのならば…ううん、この考え方が奥様になられる方に失礼なんだわね。」
「違います!奥様になられる方のことなんて私の知ったことではありません。」
「モッティ、そんな!」
「とにかく、そんなこと考えちゃいけません!」
モッティは叱るようにコトリーナに言った。
「だめです、弱気になってはいけません。自信を持ちましょう、お嬢様!」
「…そうね。」
都会で何が待ち受けているのだろうか、コトリーナは不安を覚えずにいられなかった。



それから二週間後、村の医者や留守を預かる使用人たちに見送られ、コトリーナたちは都会へ向けて出発した。
一台の馬車にアイハーラ伯爵とナオキヴィッチ、もう一台にコトリーナとモッティと分乗した。
「ついにこの日がやってきてしまったわね。」
昨夜は緊張して眠れなかったコトリーナの目は赤かった。
「大丈夫です、お嬢様。」
そう励ますモッティも眠れなかった。
「ご挨拶は何度も練習した通りで大丈夫よね?」
「はい、お嬢様。」
イーリエ公爵夫妻、特に公爵夫人に失礼のないようにコトリーナはモッティを相手に何度も挨拶の練習をしてきた。身の回りの品も選びに選んだものを詰め込んだ。
「ああ…どうしましょう。詩を暗唱しろと言われたら?」
「詩ですか?」
「ええ、そうよ。教養を見せるために詩の一つや二つ暗唱しろとか公爵夫人に言われたら…。」
「いきなりですか?」
「わからないわ。だってあのナオキヴィッチ様のお母様ですもの。」
公爵夫人どころか公爵に、百科事典の何ページを読み上げろとか、ダンスを踊れとか言われるのではないかとコトリーナは気が気でない。
「お嬢様、それじゃ見世物じゃありませんか。」
「でも…。」
「大丈夫ですよ。」
「そう?」
「…多分。」
「モッティ!」
モッティにもイーリエ家がどのような家風か分からないので不安だらけなのである。



途中の休憩でコトリーナはおもいきってナオキヴィッチに公爵夫人のことを訊ねてみた。
「そうだな。料理や裁縫が上手だな。それが何より楽しいらしい。」
「おお…。」
自分の苦手なものが得意だなんて。コトリーナは倒れそうになる。
「人の好き嫌いがはっきりしているな。」
「はっきり?」
「気に入らない人間は気に入らないときっぱりしている。」
「ああ…。」
もう帰りたくなったコトリーナであった。もしかして到着した途端に帰れと言われるかもしれない。
「お嬢様…。」
モッティに支えられ、コトリーナはヨロヨロと馬車へ乗り込む。その姿にナオキヴィッチは訊いた。
「車酔いか?」
「…のようなものです。」
「大丈夫か?」
「…少し眠ります。」
「それがいい。」
優しいナオキヴィッチの気遣いもこの時のコトリーナには右から左へと流されていた。



「お嬢様、お嬢様。」
「…ん?」
本当に眠ってしまったコトリーナはモッティに起こされた。
「もしかして到着?」
「…分かりません。」
「どういうこと?」
コトリーナは窓の向こうを見た。塀が続いていて何も分からない。
「なあに?お城?」
「さあ…?」
「すごく大きな教会かしら?」
だとしたら寄り道して、自分が粗相しないようにと祈って行きたい気分でいっぱいである。
一体塀の向こうは何が広がっているのかと思っていると、それが途切れた。
「まあ!!」
コトリーナとモッティは同時に声を上げた。
そこに現れたのは重厚な門である。その向こうに見えたのはお城かと思うような大きな屋敷であった。
そして先を行く伯爵とナオキヴィッチの馬車が門の中へ入っていくではないか。
「もしや、ここが?」
自分たちの馬車も門の中へと入って行く。コトリーナとモッティは緊張した顔を見合わせた。

屋敷の大きな玄関の前には、使用人たちがズラリと並んでいた。
「お帰りなさいませ。」
彼らを代表して出迎えたのは執事だった。
「ただいま。」
ナオキヴィッチが挨拶する。そして伯爵、コトリーナ、モッティと続いた。
「ナオキヴィッチ。」
彼らの中央に姿を見せた男性がその名を呼んだ。
「お帰り、ナオキヴィッチ。」
「ただいま戻りました、父上。」
ナオキヴィッチより小柄でややふくよかなその男性は、優しい顔立ちでその笑顔を見ているだけで幸せな気分になるようだった。
「アイハーラ伯爵、この度は息子が大層世話になりました。」
「とんでもありません、公爵。」
「堅苦しい挨拶はそこまでにしましょうかな。」
「そうですね。」
イーリエ公爵とアイハーラ伯爵は相当親しいのか、そのような会話をしている。

「お帰りなさい、ナオキヴィッチ。」
「ただいま戻りました、母上。」
父の後ろから姿を見せたのは、美しい貴婦人だった。顔立ちがナオキヴィッチとよく似ている。
「ああ…辛かったでしょう。気づいてあげられなくてごめんなさい。」
「いいえ、母上。」
「私たちは親として失格だわ。」
「そのようなことはありません。こうして受け入れてくれたことが嬉しいです。」
「ナオキヴィッチ…。」
ナオキヴィッチは涙ぐむ母を優しく抱きしめた。それを見ているとコトリーナも涙が浮かぶ。
そして公爵夫人はアイハーラ伯爵に礼を丁寧に述べた後、その後ろに控えていたコトリーナを見た。途端にコトリーナの体が緊張で固まった。
「こちらのお嬢様が…。」
「娘のコトリーナです。」
父に促され、コトリーナは挨拶をした。
「はじめまして、公爵様、公爵夫人。コトリーナでございます。」
つっかえそうになりながらも、練習どおりに何とかコトリーナは挨拶をした。
「まあ…。」
何かもっと言うべきだったか、お日柄もよろしゅうとか、お天気で何よりとか、気の利いたことが言えない自分にコトリーナは焦る。
「何て可愛らしいお嬢様でしょう!」
「え?」とコトリーナは顔を上げた。前に公爵夫人がニコニコして立っている。
「ナオキヴィッチの手紙に書いてあって、どんなお嬢様かと楽しみで。とうとう会えると思ったら嬉しくて昨夜は眠れませんでしたのよ。想像以上に可愛らしいお嬢様だこと!」
こんな綺麗な女性に可愛いと褒められるなんてと、コトリーナは驚くばかりだった。
「さあ、長旅でお疲れでしょう。中に入りましょう。」
話はゆっくりとそこでと言われ、コトリーナはイーリエ家へ入ったのだった。



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tatさん、ありがとうございます。

ありがとうございます!
時にはモチベーションが上がらないこともありますが、こうして励ましていただけれると頑張れます!
いえいえ、続きが楽しみと言われるのが何より嬉しいです。

そうなんです。あそこに出てくる王妃様が好きで(笑)王妃様目当てで見ていたようなところがあります。
朝鮮王朝のあのドロドロ宮廷が好きなもので、いつかあんな話を書いてみたいと思っていたんです!

あおさん、ありがとうございます。

ありがとうございます~!!
まさか誕生日まで覚えていて下さったんなんて嬉しくて!!
実はあおさんからのコメント拝見した時に、今日だっけ?明日じゃなかった?とカレンダー確認したら…あおさん、大正解!!(笑)自分の誕生日を一日勘違いしていたぼけた私でした!
だからすごく嬉しかったです!本当にありがとうございます!!

ひかるさん、ありがとうございます。

ありがとうございます!
LALA展行かれたんですね~!私も少女漫画好きで、ああいう展覧会があると行きたくなります!大丈夫、私もオタクですから(笑)
イタキスファン歴長い方に読んでいただくと恥ずかしいのですが、そのままの入江くんだと仰っていただけてとても嬉しいです。
こちらこそ、これからも読んで下さいとお願いしたいくらいですよ!
コメントありがとうございました!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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