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2016.10.28 (Fri)

君に花を捧ぐ 15


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撃たれたコトリーナを見て、アイハーラ伯爵は今にも倒れそうになったし、他の使用人達も真っ青になった。
「早く医者を!」
コトリーナを抱いたまま部屋へ運ぶナオキヴィッチの声に弾かれ、すぐに医者を呼びに使用人の一人が飛んで行く。
「コトリーナ、一体どうしてこんなことに…。」
ベッドに寝かされた愛娘を前にする伯爵に、
「俺のせいです。」
と、ナオキヴィッチは絞り出すように言った。
伯爵は傍らに立つ、銃を抱えたモッティを見て、何が起きたかすぐに悟った。
「モッティ、それは私が預かろう。」
伯爵はモッティが持っていた銃を受け取る。
「これはケイの持ち物だな?」
「…はい、旦那様。」
モッティの返事を聞き、伯爵はそれを片付けに一旦、部屋を出た。

伯爵がコトリーナの元に戻ると、濡れたその服はモッティにより着替えさせられていた。見ると簡単な手当もしてあった。
「ナオキヴィッチ様が応急手当を。」
当のナオキヴィッチの姿がそこにはなかった。



「弾が貫通したのがよかった。」
診察した村の医者の言葉に、伯爵とモッティは「では」と期待の顔を向けた。
「撃たれたのは肩だし、助かるだろう。」
「よかった…。」
それまで気が張りつめていたモッティは、安堵して座り込んだ。
「応急手当をしたのもよかったな。モッティ、君が?」
医者の問いに、
「いいえ、ナオキヴィッチ様です。」
とモッティが答えた。
「ナオキヴィッチ様が?」
医者は驚いた。
「ナオキヴィッチ様は医者の素質もあるようですな。完璧な応急手当でした。」
しかし、その賞賛を聞く資格を持つ当の本人はいない。それで医者はナオキヴィッチの正体とコトリーナの怪我が関係していることを察したようだった。
「詳しいことは後で聞きましょう。」
とりあえず、今はコトリーナの治療に専念しなければ。
するとコトリーナの口から呻き声が漏れ始めた。
「お嬢様?」
「コトリーナ?」
その額には汗が浮いていた。医者がそっと手を置いた。
「ああ、熱が出て来た。傷のせいだ。」
雨に打たれたことも加わり、かなりの熱が出るだろうと医者は告げた。
「傷よりもこちらに気をつけねばなりません。」
撃たれて弱った体ゆえ、肺炎を起こす可能性があるという。
「それと傷が化膿しないよう気を配る必要もある。」
そこで医者はモッティに包帯の交換や看病の重要な点を教えることにした。
「君は頭がいいからすぐに覚えるだろう。」
「心してかかります、先生。」
勿論、医者も毎日診察に通うし、何かあったら夜中でもすぐに知らせてほしいと言った。



「ナオキヴィッチ殿。」
医者を見送った後、伯爵はナオキヴィッチの部屋を訪ねた。ナオキヴィッチは力なく、ベッドに腰を下ろしていた。
「コトリーナの怪我は大丈夫だ。」
伯爵の言葉を聞き、ナオキヴィッチが安堵の表情を浮かべた。
「君の応急手当を先生が褒めておられた。ありがとう。」
「とんでもありません。」
ナオキヴィッチがここに戻っていたのは、とてもコトリーナの傍にいる資格はないと思ってのことだった。
「改めて聞かせてほしい。何があったんだ?」
ケイに呼び出されたということはメイドから聞いていると伯爵が言うと、ナオキヴィッチは全てを話した。
「俺がケイを挑発したから、このような結果になったのです。」
自分一人で死のうとすればよかったのに、ケイにそうさせようと仕向けた。姑息な手段を使ったため、何の罪もないコトリーナをこのような目に遭わせてしまった。
「…なんとお詫びしていいか分かりません。俺を好意で預かって下さったというのに、ご令嬢をあのような目に遭わせてしまって。」
ナオキヴィッチは立ち上がり、伯爵に頭を下げた。

「いや、私もコトリーナにもっと早く、君のことを話しておくべきだったのかもしれない。」
「やはり伯爵は俺の正体に気づいていらしたんですね。」
ナオキヴィッチの言葉に伯爵は「ああ」と頷いた。
「どうしても信じられなかったから、医者と私だけの秘密にしておいたのだ。」
「モッティには一度見られているんです。」
「そのようだね。モッティはコトリーナを気遣って私に話してくれた。だがそれでもコトリーナにだけは話せなかった。しかし、それがまずかった。」
それをコトリーナに偶然聞かれてしまったのだと伯爵は話した。
「コトリーナは気が動転して、私たちが止める間もなく、屋敷を飛び出してしまった。」
「そうでしたか。」
自分の口から言わずに済んで良かったと思えばいいのか。しかしもっと早く言っていればコトリーナはこんなことにならなかったのかもしれない。
「このような時に申し訳ありませんが、すぐにこの屋敷を出ます。」
もうここにいられない。伯爵を始めとするアイハーラ家の人間もナオキヴィッチの顔など見たくないだろう。
「いや、それはまだ待ってくれ。」
驚いたことに伯爵がそれを止めた。
「私にも分からないが、君はまだこの屋敷にいてほしい。」
「しかし。」
ここで伯爵の表情が初めて和らいだ。
「どうしてだろうね。君が…その…。」
「はっきりと仰ってくださって結構です。」
「…吸血鬼だと分かった今でも、どうしても君を恐ろしい魔物だと思えないんだ。こうして二人きりでいても恐ろしくない。きっとコトリーナもそうなのだろう。」
これにはナオキヴィッチは驚いた。てっきり恐ろしがられていると思ったのに。
「だからこの屋敷にとどまってくれ。預かった責任もあるからね。」
そう言って、伯爵は部屋を出て行った。
後に残されたナオキヴィッチの胸の中に、温かいものが広がっていた。



翌朝、ナオキヴィッチの部屋にモッティがコーヒーを運んで来た。
「コトリーナについていなくていいのか?」
「薬が効いて眠っていらっしゃいますので。」
コトリーナは一晩中苦しそうにしていたが、ようやく痛み止めが聞いたのか今は寝息を立てているという。
「お嬢様、ずっとナオキヴィッチ様のお名前を譫言で。」
そう言うモッティは、今までと違ってどこか憑き物が落ちたかのようなさっぱりとした様子だった。
「だからナオキヴィッチ様のご様子をお伝えしたいと思って。それで私がコーヒーをお持ちしました。」
「そうか。」
コーヒーを受け取ったナオキヴィッチは、「モッティ」とその名を呼んだ。
「色々すまなかった。恐ろしい思いをさせて。」
自分の正体を知られていたことかと、モッティはすぐに分かった。あの夜、モッティが見ていたことにナオキヴィッチは気づいていた。
「…お気遣いなく。」
モッティは笑顔を見せた。
「こうして俺といるのも怖いだろう?」
「少し前でしたらそうだったと思います。」
「少し前?」
「今は不思議なことに恐ろしいと思いません。」
モッティは伯爵と同じことを口にした。
「お嬢様がご自分の命を投げ打ってでも救おうとされたナオキヴィッチ様ですから。そう思うと不思議なことに怖くないのです。」
「お前、正直な奴だな。」
思わずナオキヴィッチはクスッと笑った。
「たぶん腹が据わったのかもしれませんわ。」
「腹が据わった?」
「はい。もう吸血鬼だろうが狼男だろうが、お嬢様が大切に思う方でしたら私も心を込めてお仕えしようと。」
「なるほど。」
正体がばれていることで、ナオキヴィッチも肩の力が抜け始めていた。しかもこう明るく言われると、悩んでいたことが不思議に思えてくる。
「この屋敷に来てよかった。」
ナオキヴィッチから本音が漏れた。

「モッティ、一つ頼みがあるんだが。」
「はい?」
ある物を用意してほしいとナオキヴィッチはモッティに頼んだ。




それからコトリーナはベッドで苦しんだ。が、医者の懸命な治療とモッティの看護のおかげで、一週間後には大きな目をぱっちりと開けることができた。
「お嬢様!」
「コトリーナ!」
「お父様…モッティ…。」
一体自分はどうしてベッドにいるのか、一瞬分からなかったコトリーナであるが動かしたときに生じた傷の痛みで、すべて思い出した。
「ナオキヴィッチ様は?」
「お部屋で過ごしていらっしゃいますよ。」
「じゃあご無事なのね?」
「はい。」
まずはナオキヴィッチのことを心配するとは。伯爵とモッティはコトリーナのナオキヴィッチへの愛情を実感せずにいられなかった。


コトリーナの意識が戻ったことを、モッティがナオキヴィッチに報告した。ナオキヴィッチは静かに喜びをかみしめた。
「それで例の物は?」
「ちょうど仕上がったところだ。」
「ではお嬢様に早速。」
モッティはナオキヴィッチからそれを受け取ると、いそいそとコトリーナの部屋に戻った。

一度意識を取り戻したコトリーナであるが、まだ薬が効いているせいもありすぐに眠ってしまった。
目を覚ましたのは数時間後のことだった。
「お目覚めですか?」
「ええ。」
モッティがどこか楽しそうなことにコトリーナは気づいた。
「お嬢様、素敵なお見舞いが届いておりますよ。」
「お見舞い?」
少し首を動かすと、イーゼルの足が見えた。そこに置かれているものには白い布がかかっている。モッティがその布を勢いよく取った。
「まあ、何て綺麗な!」
そこには花瓶からこぼれんばかりに生けられている花の絵があった。
「お嬢様、画家のサインが見えますか?」
コトリーナに見えやすいようにモッティはイーゼルごと動かした。
「えっと…ナ…ナオキヴィッチ…え?」
絵の右下には確かに、ナオキヴィッチというサインが入っていた。
「まさか、これは…。」
「はい、ナオキヴィッチ様がお嬢様のために描かれたお花の絵でございますよ。」
「本当に?」
「ええ、本当ですとも。お嬢様はお花をお好きだけど、ご自身は触れることができない。だからせめて絵に描こうと仰って。」
「私のためにナオキヴィッチ様が?」
「お嬢様が一番喜ばれる者はお花だからと。」
目に涙をためて、コトリーナは呟いた。
「こんなに美しいお花を私は見たことがないわ…。」
自分のためにナオキヴィッチが描いてくれた、それだけでコトリーナは胸がいっぱいだった。



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 |  2016.10.28(Fri) 18:37 |   |  【コメント編集】

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 |  2016.10.28(Fri) 22:26 |   |  【コメント編集】

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 |  2016.10.29(Sat) 00:13 |   |  【コメント編集】

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 |  2016.10.29(Sat) 00:40 |   |  【コメント編集】

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 |  2016.10.29(Sat) 13:41 |   |  【コメント編集】

★マロンさん、ありがとうございます。

いつもコメントありがとうございます。
お返事がなかなかできなくてごめんなさい。

そうですね、もう完全にコトリーナちゃんにノックアウトされてますね!
ハッピーエンド…いや、すみません!
まだ少し、いや結構?続くという…いや~本当、もうここで終わらせてもいいかっていう(笑)
ケイは皆さん、もうどうでもいいかという感じなんですが一応その後を書きますよ(ちょっとだけだけど)
水玉 |  2016.10.29(Sat) 17:56 |  URL |  【コメント編集】

★紀子ママさん、ありがとうございます。

いつもコメントありがとうございます!
お返事がなかなかできなくてすみません!

紀子ママさんの更新待ってました!の言葉でもう書く気満々ですよ!
ありがとうございます!
そうそう、コトリーナちゃんが死んじゃったら今度は幽霊になって?って感じですよ。
もうこの話、ホラーになっちゃう。
フランケンシュタインでも好きでそうね…私のフランケンは怪物くんのフランケンなんですけど(笑)
本当はお花を摘みたいんでしょうが、それができないから絵です。
これは造花を作らせるかどうか迷ったんですけど。
水玉 |  2016.10.29(Sat) 17:58 |  URL |  【コメント編集】

★りょうママさん、ありがとうございます。

いつもコメントありがとうございます。
お返事がなかなかできなくてすみません。
完全無欠な吸血鬼だから(笑)応急手当もできちゃうんですよ!
そりゃあ屋敷中大騒ぎでしょう。
コトリーナちゃんのお父さんだけあって、心が広い。よかったね、ナオキヴィッチ!
永遠に枯れることのない花…うーん、何て素敵な言い方なんでしょうか、りょうママさん!
水玉 |  2016.10.29(Sat) 18:02 |  URL |  【コメント編集】

★ちっちぽっぽさん、ありがとうございます。

いつもコメントありがとうございます。
お返事なかなかできなくてすみません。
いや、タイトルをつけたときはこの場面はまったく考えてなくて!
別なことで考えていたんですが、皆さんにそう解釈してもらえて「よし、それでいこう!」と(笑)
何だか私以上に皆さん、本当に前向きに解釈してくれて書きやすいです!
そうそう、今まで一人で苦しんでいたでしょうからね。
いつも更新待っていて下さって嬉しいです!ありがとうございます。
水玉 |  2016.10.29(Sat) 18:03 |  URL |  【コメント編集】

★shirokoさん、ありがとうございます。

いつもコメントありがとうございます。
お返事なかなかできなくてすみません。
ナオキヴィッチのプレゼントですもの、それはもう完全ノックアウトでしょう!
みんなの目も温かくなったし、ナオキヴィッチも心穏やかに過ごせることでしょう。
そうそう、絵も何でもござれ~なんでしょうね!
完全無欠な吸血鬼(笑)
このまま吸血鬼でもいいんじゃないって感じ?
水玉 |  2016.10.29(Sat) 18:04 |  URL |  【コメント編集】

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