日々草子 君に花を捧ぐ 12

君に花を捧ぐ 12

少し前になりますが、アクセスカウンターが400万を超えました。
ご訪問下さる皆さまのおかげです、ありがとうございます。
400万を迎えるにあたって何かしようかなとも考えたのですが、リクエスト受け付けてもその通りの内容を書けるか自信がなかったので特に何のアクションもしませんでした。
が、数名の方がお知らせ下さいました。どなたも気づかないと思っていたのですごく嬉しかったです。ありがとうございます。
お礼を言うのが遅くなり申し訳ありませんでした。
気づいて下さっただけで本当、嬉しいです。

☆☆☆☆☆☆







突然のプロポーズにコトリーナは驚くばかりで、何も答えることができなかった。
そんなコトリーナの様子を察したケイは笑って、
「返事は急がなくて構わないよ。」
と言ってくれた。それは恐らく自分の申し入れを受けてくれるだろうという自信の表れでもあった。コトリーナの承諾を得て、二人でアイハーラ伯爵に報告したい。そう思ってケイは帰って行った。

ナオキヴィッチは二人の姿がそこからなくなっても立っていた。どうしてあの若者は、あんなに易々と結婚の二文字を口にできるのだろうか。そう思うだけで腹が立つ。自分はコトリーナに優しくすることすらできないというのに。
コトリーナはどう答えるだろうか…。



「まあ、本当でございますか!」
その晩、コトリーナからプロポーズの件を打ち明けられたモッティは驚いた。確かにケイはプロポーズすると言っていたが、まさかそれがこのような時に。
「誰にも話しちゃだめよ、モッティ。」
「はい、分かっておりますとも。」
コトリーナの寝支度を手伝いながらモッティは頷いた。
「それでお嬢様、どうお答えに?」
「どうって…。」
モッティに髪をとかしてもらいながら、コトリーナは鏡の中の自分を見つめた。子供のような顔、美人とはいえない顔。そんな自分をどうして妻にとケイは望んでくれたのだろうか。
「…ケイのこと、そういう風に考えたことなくて。」
無理もないとモッティは思った。幼馴染みで森を走り回っていた二人である。
「ケイ様はずっとお嬢様のことがお好きだったのですよ。」
「え、そうなの?」
「はい。見ていて分かりますもの。」
「いつも私の事からかっていたのに?」
「好きだからこそ、からかっていらしたんですよ。」
「そうかしら?」
そう言われてもとコトリーナは困った。好きだからからかう?
「それじゃあ…。」
「はい?」
「ううん、何でもない。」
それではナオキヴィッチはどうだろうか?好きだから意地悪なことを自分に言うとか?いや、そんなことはないとコトリーナは思った。ナオキヴィッチがそんな子供じみたことをする人間とは思えない。

「…モッティはどう思う?」
「どう、とは?」
「私、ケイとうまくやっていけるかしら?」
鏡の中で不安な顔を浮かべている女主人に、モッティは微笑んだ。
「お似合いだと思いますよ。」
そう、きっと誰もが認めてくれるはずだとモッティは思った。男らしいケイと可愛らしいコトリーナ。似合いの夫婦になるだろう。
だがモッティはコトリーナが違う男性を心に浮かべていることも分かっていた。だからコトリーナは困っているのだ。
しかしモッティはできればケイを選んでほしかった。ケイは人間だし、絶対にあのナオキヴィッチと一緒になるよりコトリーナは幸せになれるはず。
「結婚ってよく分からないわ。」
髪をとかし終えたコトリーナは子供のようにベッドにジャンプした。
「まあ、お嬢様ったら。」
「だってお母様は早くに亡くなられて、お父様はお一人だし。二人が揃って暮らしていたら実感もわいたかもしれないけれど。」
そうコトリーナが言うのも無理はないとモッティは思った。
「でも旦那様は奥様のこと、今でも愛しておいでですわ。」
「ええ、それは分かっているわ。」
「亡くなられてもあのように深い愛情を注ぐことができるなんて、素晴らしいご夫婦です。」
「亡くなっても…。」
コトリーナは想像してしまった。もしケイと結婚して、先立たれて…。
「…私、ケイのことを思って生きていけるのかしら?」
「まあ、お嬢様!いくら何でもその想像は!」
プロポーズされた夜に相手に先立たれたことを考えるなんてと、モッティは何て恐ろしいことをとコトリーナを止めた。
「ごめんなさい。でも話の流れで。」
コトリーナは笑った。
「ケイ、ごめんなさいね。」
両手を組み、ケイに謝罪をするコトリーナ。「まったく」とモッティは溜息をついた。

「ゆっくり考えられたらいかがでしょう。」
「そうね、そうするわ。」
挨拶をしてモッティは部屋を出て行った。薄暗い部屋のベッドの中で、コトリーナは考えた。結婚するということは、いつかケイとの間に子供ができるわけで。
「…何だか想像できないわ。」
とてもいい人だと分かっているし、ケイのことは好きだ、大好きだ。が、それは愛しているということなのだろうか。
「もしナオキヴィッチ様と結婚して…。」
途端に自分の顔が真っ赤になったことがコトリーナに分かった。
「暑いわ!」
かぶった布団を腰まで下ろして、手で顔を仰ぐ。
「ナオキヴィッチ様が夫になって…。」
それで先立たれたらと考えてみた。すると目から涙がこぼれる。それを想像しようとしただけで涙が止まらない。
「やだ、おかしいわ。」
想像もしないうちに涙が出るなんてと、コトリーナは手で涙を拭いた。



それかプロポーズの返事を急がせないと決めたのか、ケイは姿を見せなかった。
父は相変わらず村の騒ぎで医者と話し合い、更に頻繁に村娘たちが倒れるようになり、その様子を見に行ったりと忙しくしている。
「どうしよう…。」
コトリーナが庭のベンチに座って考えていたのは、プロポーズから10日経過した日だった。
いくら想像しても、自分がケイと夫婦になることが考えられないのである。
「私が子供だからよね、きっと。」
モッティはいい話だといってくれたし、心配することは何もない。望まれて嫁ぐのが女の幸せだというではないか。
が、夫婦になった自分たちを想像しようとすると、どういうわけか隣に立つのがナオキヴィッチなのである。コトリーナは何度もそれを消そうとするが、どうしてもナオキヴィッチになってしまう。

「…相変わらず間抜けな顔だな。」
「ナオキヴィッチ様!」
そんなコトリーナの前に、ナオキヴィッチが久々に姿を見せた。相変わらず青白い顔をしているのが気がかりであった。
「ご気分はいかがでしょうか。」
「あまりよくない。」
あのプロポーズを見てからというもの、外に出ることはなかった。朝も起きられない。
「お座りになりますか?」
「いや結構。」
不機嫌そのもののナオキヴィッチを前に、コトリーナはどうしたらいいか困り果てた。

「お前、嫁に行くんだろ?」
「え?」
突然の言葉にコトリーナは驚いた。
「なぜそのようなことを?」
「この前、あのケイとかいう男に結婚してくれって言われてただろ?」
「…見てたのですか?」
「通りかかったら、たまたま。」
まさかあの場面を見られていたなんて。コトリーナは恥ずかしさより哀しさを覚えた。
「…いいんじゃないのか。」
続いたナオキヴィッチの言葉に、コトリーナは更に驚いた。
「いいって?」
「お前みたいな跳ねっ返りのお節介娘を嫁になんて言ってくれるんだ。ありがたく受けるべきだってことだよ。」
「なっ!」
何て言いぐさかとコトリーナは腹が立った。が、同時に悲しみも感じずにいられなかった。
「お前には勿体ない男だけど、あいつがお前がいいって言ってるんだからありがたく受けろよ。」
「…そうですね。」
挑発されたかのようにも思えたが、言い返さないとまた泣きそうになるのでコトリーナは大きな目を開いてナオキヴィッチを見た。
「ナオキヴィッチ様だって決まったお相手いらっしゃいますものね。」
「…ああ。」
否定しなかった。やはりあの肖像画の美しい令嬢は決まった相手だったのだ。と同時に、コトリーナは拾ったハンカチを思い出した。

「…あんなおきれいな方がいらっしゃるのに、よくもまあ、破廉恥な行動ができますよね。」
「破廉恥?」
今度はナオキヴィッチが不快感を露わにした。
「何のことだ?」
「とぼけても無駄ですよ。私がさしあげたハンカチ、村で拾いました。」
コトリーナの言葉にナオキヴィッチは顔色を変えた。ハンカチ…落としたあのハンカチ。
「村の子が話してました。美人の姉を襲おうとしていた者が落としていったに違いないって。それってナオキヴィッチ様のことですよね?」
「…。」
ナオキヴィッチは何も答えなかった。詳しいことはまだコトリーナに知られていないらしい。
「…だから何だ?」
怒りを含んだ声をナオキヴィッチは発した。その恐ろしさにコトリーナは少しひるんだ。
「ハンカチ?は!あれがハンカチだ?雑巾だろ?雑巾をどこに使って捨てようが俺の勝手だ。」
「んま!!」
コトリーナの目が吊り上がった。何かを言い返そうとするコトリーナにナオキヴィッチが迫って来た。
「何を…。」
ベンチに仰向けになる形でのけぞるコトリーナの両脇に、ナオキヴィッチは両手をつきその顔を見下ろした。
「…何だよ、お前、もしかして妬いてるのか?」
「は?」
「あれか?お前も襲ってほしいか?うらやましいんだろ?」
「何ですって!」
「そんなに望むなら教えてやろうか?結婚したら何をするのか?この俺が…。」

バシンッ!!

コトリーナの手がナオキヴィッチの頬をおもいきり叩いていた。

「…あなたは最低な男だわ!!」
「何だと!」
「最低よ、本当に最低!」
ナオキヴィッチを置いて、コトリーナは屋敷の中へ走り去った。

「…本当、最低だな。」
これでいいのだと、ナオキヴィッチは打たれた頬に手を置いた。これでコトリーナは自分を憎む。そして自分はコトリーナを忘れることができる。
「正体をばらすことなく、俺はあいつの前から消えることができる…。」



「お嬢様、どうなさいました!」
部屋を掃除していたら泣きながらコトリーナが飛び込んで来て、モッティはオロオロするばかりであった。
「ひどいわ!あの人、最低!」
「あの人って…ナオキヴィッチ様?」
コトリーナは声を上げて泣いた。しばらくモッティはその様子を見守ることにした。

ひたすら泣いた後、コトリーナはモッティに一部始終を話した。
「あんな酷い方なんて知らなかった!最低よ!あの美しいご令嬢も可哀想!」
「…。」
モッティは全て理解していた。ナオキヴィッチはコトリーナを考えてわざとそのような振る舞いをしたのだ。
―― そうでないと、あの晩泣いたりされない。
いつかの夜、一人静かに涙を流していたナオキヴィッチ。あの美しい涙をモッティは忘れていなかった。
自分ではコトリーナを幸せにすることはできない、だから代わりにしてくれる男に託したのだ。そして自分を嫌うように。そうしないとコトリーナ…いやナオキヴィッチ自身が想いを振り払うことができないから。

「何て不器用な方なのでしょう…。」
小さな声で呟くモッティ。その声はコトリーナに届かない。
「あんな最低な男、もう関わりたくもない!」
コトリーナは叫ぶと、鏡台の引き出しからあのハンカチをとり出した。そしてそれを力いっぱいに引き裂いたのだった。



一晩泣き明かしたコトリーナは、翌朝モッティに告げた。
「…ケイのプロポーズ、受け入れるわ。」
それを聞いたモッティは心配した。
「お嬢様…。」
「自棄になっているわけじゃないわ。そんな気持ちで答えるのはケイに失礼だもの。」
コトリーナは不思議と落ち着いていた。
「私、ケイの側にいる。ずっと側にいて幸せな家庭を築くつもりよ。」
「お嬢様…。」
そうだ、それが一番だとモッティは自分を納得させた。これでいいのだ。

そんなコトリーナの気持ちが伝わったのか、その日の午後、ケイがアイハーラ家を訪れた。
「この前の返事なのだけど…。」
あれだけ自信があったのに、今日のケイは緊張していた。
「ケイ。」
コトリーナはニッコリと笑った。
「…ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」
「それじゃあ…。」
コトリーナの笑顔に、ケイは「ひゃっほう!」と飛び上がった。
「本当にいいんだな?受けてくれるんだな?」
「ええ。」
「やったあ!」とケイは飛び回る。その様子をコトリーナは微笑ましく見つめた。が、胸の奥がチクリとなぜか痛んだ。



コトリーナの父は留守だったため、挨拶は改めてということでケイはアイハーラ家を後にした。
浮かれて来た道を歩いていくと、ナオキヴィッチと出くわす。
「やあ、散歩ですか?」
「…ああ。」
相変わらずの愛想のなさだと思ったが、この日のケイは最高に気分が良かったのでさして気にしなかった。
「お体、早く良くなるといいですね。」
「…お気遣いなく。」
「失礼。」
もうこの男の存在に怯むこともないのだと、帽子を軽く上げてケイは軽やかな足取りで歩いて行った。

あの男の様子から見て、コトリーナはプロポーズを受けたのだろう。自分がそう仕向けたのに、ナオキヴィッチの中にどす黒いものが広がっていた。
これから先、自分ができなかったことをあのケイという男はコトリーナにする。花を捧げ、キスをして、毎日愛しているの言葉を…。

「くそっ!!」
ナオキヴィッチは庭に咲く花に触れた。たちまち花は枯れていく。次から次へとナオキヴィッチは花に触り全てを枯らした。そのあたり一帯の花が全て無残な姿と化した。
冷たい目でそれらを見下ろすナオキヴィッチであるが、その心は少しも晴れることなく屋敷内へと戻った。

「…何だ、あれは。」
それを見ていたのはケイだった。時計を忘れたことに気づき、後日でもいいのだがもう一度コトリーナの顔を見たくて戻って来たのだった。そこでナオキヴィッチの恐ろしい行動を目にしてしまった。
「あいつ…。」
今自分が目にしたのは幻じゃないのか。しかし枯れ果てた花々がそれは紛れもない事実だと語っている。
「あいつ…化け物だったのか!」
恐ろしさのあまり、腰を抜かしケイはガタガタと震えたのだった。


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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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