日々草子 君に花を捧ぐ 9

君に花を捧ぐ 9

すみません!
納涼祭り、9月15日までだと勘違いしてました!いえ、15日でも終わりそうもないのですが。
うちも延期です!

☆☆☆☆☆







この夜のコトリーナは美しかった。
「何だか肌を出し過ぎている気がするのだけれど。」
「そのようなことありませんよ。」
露わになったデコルテが気になるコトリーナであるが、下品な感じはない。モッティが気合いを入れて仕度をしただけのことはあった。
「…こういうところが、好きじゃないのかしら?」
「ナオキヴィッチ様のことでございますか?」
何気なく呟いた言葉を、モッティは聞き逃さなかった。
「…私が悪いのよね。あれは。」
いくら病人でも何を言っても許されるものではなかろうとあの時は思ったが、冷静になるとやはり自分が悪かったとコトリーナは思っていた。
「こちらには静養にいらしたのに、舞踏会に誘うなんて酷いことをしたわ。」
「…ナオキヴィッチ様も結構な言い方をされたと思いますけれど。」
話を聞いた時、それはコトリーナが手を上げるのも無理はなかろうとモッティは思った。
「ううん、私が浅はかだったわ。」
謝らねばと思ったが、その機会はなかなか得られなかった。手を上げた時点でナオキヴィッチは自分を軽蔑しているに違いない。今度話しかけて無視されたらもう立ち直れない。それを考えるだけで、ナオキヴィッチの部屋をノックする勇気はなかった。
「とにかく、今夜は楽しんでいらっしゃいませ。」
もちろん、モッティもコトリーナ付きのメイドとしてカモガーリ家へ付き添う。
「笑顔でいらっしゃらないと、ケイ様もがっかりされますよ。」
「そうね、せっかくのケイのお誘いだものね。」
気を取り直してコトリーナは、部屋を出た。

「おお、いつものお転婆娘はどこへいったやら。」
「まあ、お父様。」
玄関では父が見送ろうと待っていてくれた。
「うんうん、良く似合っている。本当ならば年頃のお前はもっとこういう格好をして出かけてもいいのだが。」
「お父様、こういう場は時折楽しむのがいいのです。」
田舎育ちのため、そういう機会を奪ってしまっていると父が気にしていることをコトリーナは知っていた。
「お父様にもご招待があったのに…。」
「すまないね。村の病を阻止する方法を考えたくて。」
「それなのに私が…。」
「ああ、いいんだ、いいんだ。お前は気にせず楽しんでおいで。モッティ、頼んだよ。」
「はい、旦那様。」
父は快くコトリーナを送り出したのだった。



「…出発したのですね。」
「これはナオキヴィッチ殿。」
いつの間に出て来たのか、ナオキヴィッチが階段から降りて来ていた。
「ご気分はいかがですかな?」
「今日はいいようです。」
「それは良かった。」
答えながらアイハーラ伯爵は、この美しい青年を見つめた。彼が舞踏会に出席したら大層な騒ぎになるだろうに。都ではそういう集いに頻繁に出ていただろうに、気の毒なことだと思う。

気分がいいというので話でもと、二人は書斎に入った。
「コトリーナ嬢は気立てのよいご令嬢ですね。」
思いがけず娘を褒められ、伯爵は嬉しさを素直に顔に出した。
「男手ひとつで育てているため、失礼な点もあることでしょう。」
「いえ、それはこちらの方です。」
不思議なことに、ナオキヴィッチはアイハーラ伯爵の前では素直な気分になった。
「体が思うように動かないため、イライラして当たってしまっても笑顔で接してくれます。」
「具合が悪いのですから無理もないことです。」
「ついコトリーナ嬢に甘えてしまって。」
「頼れるほどしっかりしている娘ならばいいのですが。」
体調がいいようなので、伯爵は軽く一杯でもと声をかけてみた。するとナオキヴィッチも頷いたので早速用意する。

「そろそろ嫁入り先を考えねばと思っていますが、やはり男親だと気が回らなくて。」
嫁入りと聞いて、ナオキヴィッチの頭にあのケイの顔が浮かんだ。手にしたグラスを思わず割るところだった。
「ナオキヴィッチ殿?」
具合でも悪くなったかと心配する伯爵に、
「…本当はお手元に置いておきたいのでは?」
と、ナオキヴィッチは美しい笑顔を向けた。
「あ、いや…そうですな。お見通しだったか。」
恥ずかしそうに伯爵は笑った。
この人のよい伯爵は、娘に思いを寄せている男がいることに気付いているのだろうか。親子そろってその辺りは鈍感なのではないかとナオキヴィッチは考えた。

「ナオキヴィッチ殿は…。」
「はい?」
「都ではさぞ、女性に人気があったのでは?」
ナオキヴィッチはクスッと笑った。
「家柄目当てで寄って来た女性はいました。」
「そん!ナオキヴィッチ殿のことはお父上の侯爵からうかがっております。頭脳明晰、運動は得意で…。」
「面白みのない息子だと嘆いていませんでしたか?」
「そのようなことは。」
婚約者はいないのだろうか。伯爵はついそのようなことを聞きたくなるのを堪えていた。もしいないのならば、このような青年が娘と一緒に…いや、それは望みすぎというものだ。

「村が大変だと。」
ナオキヴィッチは話題を変えた。
「え?ああ、お耳に届いていましたか。」
伯爵は机の上に積んだ本を一冊、手に取った。
「ナオキヴィッチ殿は博識でいらっしゃるとか。」
「買いかぶり過ぎです。」
「こういうものは信じますか?」
伯爵はその本をナオキヴィッチに渡した。表紙を見たナオキヴィッチは眉をひそめた。
「吸血鬼…?」
「そういうものがこの世に存在すると思いますかな?」
村で女性が倒れる理由に吸血鬼が関わっているとは口にせず、あくまで雑談のように伯爵は話を向けた。
「さあ、どうでしょうか。」
ナオキヴィッチは本をテーブルに置いた。
「やはり、こういう非科学的なものは存在しないでしょうな。」
「…わかりませんよ。」
ナオキヴィッチの意外な答えに、伯爵は「え?」と驚いた。
「幽霊だって見たという話もあります。幽霊がいるならば吸血鬼だって存在するかもしれません。」
「本当に…?」
「伯爵は吸血鬼をどういうものだとお考えですか?」
まさかナオキヴィッチがこのような話に乗ってくるとは思っていなかったので伯爵は驚きつつ、でも姿勢を正した。
「それは人の血を吸って命を得る、恐ろしい怪物では?」
「吸血鬼は本当に好きで血を吸っているんでしょうか?」
「好きで?」
「どうして自分はこのような体になってしまったのだろう、どうして人を苦しめてまで命を長らえねばならないのだろう、いつまでこのようなことをして生きなければいけないのだろうか。そのような苦しみを抱えている…そうは思いませんか?」
「吸血鬼がですか?」
ナオキヴィッチがあまりに語るもので、伯爵はどう反応していいか困惑していた。それに気付いたナオキヴィッチは、
「…失礼しました。本を読み過ぎた愚か者の戯言と聞き流して下さい。」
と、席を立ち書斎を出て行った。
「吸血鬼が、悲しい怪物だと?」
そのように考えたことはなかったと伯爵は目が覚める思いだった。



「ふう…。」
屋敷へ戻る馬車の中で、コトリーナは疲れた顔をしていた。
「お疲れですね、お嬢様。」
モッティが気遣うと、
「慣れない場は、ちょっとね。」
と困ったように笑った。
「ケイ様はとても嬉しそうでいらっしゃいましたね。」
大勢の前でコトリーナと踊るケイは誇らしげだった。
「でも、何回も足を踏んじゃったわ。」
ケイは笑ってくれたが、申し訳なかった。
「練習されれば、すぐに上手に踊れるようになれますとも。」
「そうかしら…?」
コトリーナの頭に浮かんでいたのはナオキヴィッチのことだった。ナオキヴィッチの相手の美しい令嬢は足など踏まないだろう。それは周囲の注目の的となっただろう。

「戻ったのか。」
信じられないことに、コトリーナの帰りをナオキヴィッチが待っていた。
「あ…ええと…戻りました。」
突然のことにコトリーナはしどろもどろとなってしまった。どうしてナオキヴィッチが?
玄関ホールでしばし二人は見つめ合った。
「この前は悪かった。」
「この前はごめんなさい。」
同時に二人から同じ言葉が出た。
「え…?」
聞き間違いかとコトリーナは、ナオキヴィッチを見た。見つめられナオキヴィッチは横を向いた。

「…お前、ダンスできるのか?」
横を向いたまま、ナオキヴィッチがぶっきらぼうに聞いてきた。
「…あんまり。」
恥ずかしそうにコトリーナは答えた。
「ダンスって難しい。」
「んなことだろうと思った。」
「ふう」とナオキヴィッチは溜息をついた。呆れられたとコトリーナは俯く。

「来いよ。」
ナオキヴィッチが突然、歩き出した。今の言葉は自分に向けられたのかと、コトリーナは確認の意味を持って傍らのモッティを見た。モッティが頷くと、急いで後を追った。
ナオキヴィッチは居間に入った。
「ほら。」
追いかけて来たコトリーナに手を差し出した。
「握手…?」
「馬鹿か。」
ナオキヴィッチは笑った。
「相手になってやる。」
「相手って?」
「へたくそなダンスの相手。」
と、ナオキヴィッチはコトリーナのドレス姿を見た。そして自分を見る。
「…普段着で悪いけどな。」
「いいえ!」
コトリーナはブンブンと頭を振った。
「正装だろうが普段着だろうが、全然気にしません!ええ、寝巻だって構いません。」
「いや、それはちょっと。」
「あの、本当に下手ですよ?」
「想像はついている。」
「足もいっぱい踏んじゃうかも。」
「覚悟している。」
ナオキヴィッチの言葉に、コトリーナはその手をナオキヴィッチの手に乗せた。
「行くぞ。」
二人はゆっくりと踊り始めた。

「痛え。」
「すみません。」
最初はこの二言ばかり繰り返されていたが、ナオキヴィッチのリードが上手なのか、ケイと踊った時よりもコトリーナは落ち着いて踊ることができるようになっていた。
「あら?」
そして居間の蓄音機から、曲が流れ始めた。誰がと顔を動かすと、モッティが目配せをして出て行くのが見えた。
―― いつまでもこうしていられたら。
二人、同じことを考えていた。



「…この間の。」
どれほどの時間が流れただろうか。踊るナオキヴィッチの口が開かれた。
「はい?」
「あの、肖像画の女性なんだが。」
「あ!」
突然のことに驚いたコトリーナは、これまで順調にステップを踏んでいたのにナオキヴィッチの足を踏んでしまった。更にバランスを崩して転ぶ。
「危ない!」
ナオキヴィッチは咄嗟にコトリーナを庇おうとした。が、そのまま転んでしまった。
「ナオキヴィッチ様、お怪我は?」
仰向けになったナオキヴィッチに覆いかぶさる形になってしまったコトリーナは、慌てて身を起こした。
「大丈夫だ。」
「ごめんなさい。」
せっかく素敵な時間だったのにと、コトリーナは悲しくなってしまった。やはり自分はだめなのだ。
「あの…。」
一緒に踊ってくれたのにとコトリーナは、ナオキヴィッチを見た。するとコトリーナの胸が高鳴った。ナオキヴィッチが、今までとは違った顔で自分を見ている。
「ナオキヴィッチ様…?」
どうしていいか分からないでいるコトリーナの頬に、ナオキヴィッチは手を伸ばした。されるがままのコトリーナ。ナオキヴィッチはその唇に、静かに自分の唇を重ねたーー。

一体何が起きたのか、コトリーナは分からなかった。
「…すまない。」
顔を離した後、ナオキヴィッチから漏れた言葉を耳にした途端、コトリーナの目から大粒の涙がこぼれた。コトリーナはたまらず、立ち上がり居間を走って出て行ってしまった。

「お嬢様!?」
二階にいたモッティは、突然走って来たコトリーナに驚いた。
「来ないで、一人にして!」
そう叫ぶとコトリーナは自室に入り、ドレスのままベッドに飛び込んだ。
何てことをしてしまったのか。ナオキヴィッチは婚約者がいるのに。それなのに二人きりで踊るなんて。何て、何てことをしたのか。コトリーナは声を殺して泣き続けた。

一体何があったというのか。一人にしてほしいと言われた以上部屋に入るわけにいかない。
事情をナオキヴィッチに訊ねるくらいしてもよかろう。モッティはとりあえず居間へ向かった。

―― どうして口づけなどしてしまったのだろうか。
一人残されたナオキヴィッチは何度も考えていた。今夜の美しいコトリーナに触れたかったのだろうか。それは間違いないだろう。しかし、まさか口づけまでするとは。
コトリーナは泣いていたではないか。あれほどコトリーナの好きな恋物語を読んだというのに、コトリーナが思い描いていたであろうロマンチックな場面を自分は作り出すことができなかったことが悲しい。
それだけではない。自分はコトリーナを幸せにすることができないのに。それなのにあの可愛らしい唇を奪ってしまったのだ。

―― 何て美しい…。
思わずモッティは心の中で呟いてしまった。
そこでは、ナオキヴィッチが一人静かに涙を流していた。その涙を流す美しい顔は、モッティが見とれるほどだったーー。


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壮の都より、こっち、読みたいで~す
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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