日々草子 台風の夜

台風の夜











強い風に揺れる木々。
「すごいね、チビ。」
リビングの窓にへばりつくようにして、真樹は外を眺めていた。
「台風が来てるんだって。だから今日はお外に出ちゃ、めっだよ。」
めっと真樹は傍らに寄り添うチビを見た。チビはコクリと頷いた。
「今日はまーくんとおうちで遊ぼうね。」
「ワン!」
「大丈夫だよ、まーくんがずっと一緒にいるから台風怖くないからね。」
「ワン!」
「まーくんがトイレに行く時も付いて来ていいからね。そうすればチビは怖くないもんね。」
「ワン!」
「今日はまーくんが行くところ、どこでも付いてきていいよ。」
「ワン!」

「…自分がチビに付いてきてほしいだけでしょうに。」
真樹の話を聞いていた琴子は紀子に笑いかけた。
「まったく、甘えん坊なんだから。」
「ううん、あの年頃の子にしてはしっかりしてるわ、琴子ちゃん。」
「そうですか?でも入江くんや裕樹くんはずっとしっかりしていたでしょう?」
「お兄ちゃんはともかく、裕樹なんてピーピー泣いてね。お兄ちゃん、お兄ちゃんとつきまとってたわ。今思うと、あの可愛らしさはどこへ行ったのかしらね。」
紀子は懐かしそうに思い出す。その裕樹は夏休みを利用して西日本へ旅行中だった。


さて、午後になり風が強まり、更に雨が加わった。
「うわあ…すごい。」
夕方だというのに、もう当たりは暗くなってしまった。真樹は窓にへばりついて少し怖そうにしている。
「お義母さん、入江くんから電話で今日は帰れそうもないそうです。」
琴子が受話器を元に戻しながら言った。
「当直の先生も電車が止まって来られないみたいで。人手が足りないから残るって。」
「あら、それは大変だわね。」
と紀子が答えた途端、また電話が鳴った。
「はい…ああ、あなた。ええ、ええ…分かりました。はい、こちらは大丈夫ですから。」
どうやら重樹も帰宅できないらしい。
「運転手さんにこんな嵐の中運転させるわけにいかないからって。かといって電車も止まっているし、今夜は会社に泊まるそうよ。」
「まあ。」
母と祖母の会話を、真樹はじっと聞いていた。
と、また電話が鳴った。
「はい、お父さん?うん、そうね、そうした方がいいわ。入江くんとお義父さんも向こうに泊まるって。うん、大丈夫。ありがとう、そっちも気をつけてね。」
「…相原さんも?」
「はい。お店は早々に閉めたそうですけど、やっぱり帰る手段がないって。金ちゃんたちと泊まるって。まあ、食べ物に困らないことだけは間違いないですね。」
「本当ね。」
クスクスと笑う琴子と紀子。

「パパとおじいちゃんたち、お泊まり?」
黙って聞いていた真樹が口を開いた。
「ええ、そうなの。帰ってくると危ないでしょ?」
琴子が言うと「そうだね」と真樹はまた外を見た。雨粒が窓を叩きつけ、もう何も見えなくなっている。

「我が家の男手はまーくんとチビだけね。」
紀子がフフフと笑った。
「おとこで?」
「男の人ってことですよ。」
真樹はチビを見た。
「まーくん、ママとおばあちゃんを守ってくれる?」
紀子の言葉に、
「まーくんが?」
「そう。まーくんが。」
「いいよ!…チビも一緒でしょ?」
「ええ、チビも一緒に。」
「わかった!」
真樹は大きく頷くと、胸を張った。
「わあ、まーくんとチビがいるとママたち、全然怖くない。」
琴子も調子を合わせると、更に真樹は胸を張った。

「じゃあ、武器を持ってくる!」
「武器?」
守る=武器ということかと分かったが、一体何を持ってくるのだろうか。トントンと階段を上がって行く真樹を琴子は見送った。

戻ってきた真樹の手には、おもちゃの刀が握られていた。
「これでね、怖い台風をえいってやっつけるの。」
おもちゃの刀を振り回す真樹。そして琴子に、
「ママ、これまーくんのここにつけて。」
と自分の腰を指した。腰にさすのはいいが、それだとひきずってしまうだろうと、琴子は真樹の背中に刀を背負わせる。
「おお!」
鏡に映った自分を見て、真樹は更に自信を深めたらしい。
「チビ、まーくんかっこいい?」
「ワン!」
「…形から入る所は、確かに私にそっくりかも。」
直樹がよくからかうことを、琴子は思った。
「はい、まーくん!じゃ、ポーズ!」
そして紀子はすかさずその姿をカメラにおさめる。真樹は飽きる事無くポーズを取る。
「ああ、入江くんがいなくてよかったかも。」
またお前にそっくりだ、何だとからかわれただろう。

「じゃ、まーくん見回りをしてくるね。」
すっかり祖母と母親を守っているつもりの真樹は家中を見回ることにした。
「チビも一緒に来ていいよ。」
もちろん、チビも連れて行く。
「ご飯はお握りにしておきましょうか。結構停電が増えているみたいだから。」
テレビニュースを見ながら、紀子が言った。いつこの辺りも停電になるか分からない。
そんなことでお握りを握り終えた時である。

バチンッ!

「あ、電気が消えた!」
琴子が声を上げた。
「琴子ちゃん、鳥目だから動いたらケガするからじっとしていて。」
紀子が準備していた懐中電灯のスイッチを入れた。ほのかな灯りがリビングの一角を照らした。
「まーくんは!?」
まさか階段でも下りているところではと、慌てて琴子はもう一本の懐中電灯を手にリビングを出た。
紀子が心配して待っていると、
「…いきなり電気、消えるんだもん。」
「そうね、怖かったわね。」
琴子の足にしがみついて半べそ状態の真樹が入ってきた。その姿を見て紀子は胸を撫で下ろす。二階の寝室が突然真っ暗になって驚いたという。
「電気消えなかったらまーくん、チビと一緒にちゃんと全部のお部屋見回りできたよ?」
「ええ、そうね。停電になったのが悪いわね。」
「うん。停電が悪いの…。」
ぐすっと言いながら、それでも背中の刀はしっかりと背負ったままの真樹である。

「わあ。なんか面白い!」
ランタンをテーブルの上において、三人と一頭は夕食を取った。いつもと違うその雰囲気が真樹には楽しいらしい。
「そうね、キャンプみたいね。」
紀子もどこか楽しげである。
「そうだわ。今度はみんなでキャンプに行きましょうか!」
「何するの?」
はむはむとお握りをかじりながら、真樹は訊ねた。
「みんなでテント立てて、うーんバンガローでもいいわね。ご飯作って星空を眺めながら食べるの。」
「チビも?チビも一緒?」
「もちろん!」
「キャンプ、行く!」
真樹の側でフードを食べていたチビも頷いた。
「やっぱりまーくんがいてくれると、台風来ていても明るいわね。」
「えへっ!」
背中の刀を揺らしながら真樹は照れた。



「あら、電気がついたわ!」
夕食後しばらくして、家の中が明るく照らされた。
「じゃあ、今のうちにお風呂に入りましょうか。」
「そうね。」
またいつ停電になるか分からない。
とりあえず琴子が真樹をお風呂に入れる。そして紀子が後に続いた。
と、電話が鳴った。
「はい、ああ、裕樹。ええ、こちらは大丈夫よ。停電があったけど。だって…。」
紀子はチビと遊んでいる真樹を見た。
「まーくんが守ってくれているから。」
その言葉に真樹はまた照れたのか、琴子に抱きついた。琴子はポンポンとその背中を叩く。

「ママ、お部屋に一緒に来て。」
今夜は全員で和室に布団を並べて休もうということになり、その支度を終えた時真樹が琴子に抱きついてきた。
「なあに?」
「まーくん、どうしてもここに持ってきたいの。」
途中で電気が消えた怖さがまだ消えていないのか、真樹は一人で行くのが怖いらしい。それも仕方ないかと、琴子は真樹の手を引いて二階へ上がった。

「あら、みんな連れてきたのね!」
和室に戻って来た真樹の腕には、箱に入ったぬいぐるみや人形がしっかり抱えられていた。
「だってくま子ちゃんたちも怖いでしょ?ここでまーくんたちと一緒!」
「そうね。その方がいいわ。まーくんは優しいわね。」
紀子は心からそう思った。

この番、枕元に人形たちと刀を並べた真樹を挟んで紀子と琴子、そしてチビは眠りについた。



翌朝は台風一過で快晴であった。
そして重樹、重雄と順に帰って来た。
「そうか、そうか。真樹がおばあちゃんとママを守ってくれたのか。」
「まーくんだけじゃないよ。チビも!」
「そうか、チビもご苦労さん。」
「ワン!」
重樹と重雄に頭を交互に撫でられ、チビも誇らしげである。
「この刀でね、台風もえいっ!てやっつけたんだよ。だから太陽が出たんだよ!」
「そうだな。真樹にえいっ!ってやられたら台風は逃げちゃうぞ。」
「真樹、強いなあ!」
祖父たちに褒めまくられ、真樹は喜びの絶頂である。

午後になると旅行から戻って来た裕樹も話を聞いて「すごいなあ!もう真樹がいれば安心だな!」と褒めてくれた。

そして夜。
「へえ、これは強そうだ。」
紀子が撮った、刀を背負った真樹の写真を見て直樹が頭を撫でた。
「すごいなあ、パパがいなくてもママたちを守ってくれたんだ。」
「うん!だって約束したでしょ?」
真樹は誇らしげに父に笑いかけた。
「パパと一緒に、まーくんはママを守るって。」
「…そうだな。」
一緒に暮らし始めた頃、確かにそう約束した。真樹を直樹は抱きしめた。
「でもね、パパ。」
「ん?」
真樹は琴子を見た。琴子はキッチンでコーヒーの準備をしている。
「…やっぱり、まーくん一人よりパパも一緒の方がいい。」
耳元でコソコソとささやく息子に、
「そっか。」
と直樹は笑いかけたのだった。





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可愛いね、まーくん

マロンさん、ありがとうございます。

台風大丈夫ですかというコメントのお返事を書きつつ、間もなくやってくる台風に戦々恐々といったところでしょうか(笑)
こちらは何だか涼しくて、今日は七分袖で過ごしております。
まーくん、頼りにされると頑張っちゃうんですね。まあ子供はみんなそうですけど。
確かに、琴子ちゃんたちがいなかったら紀子ママだけだった。あんな豪邸で一人でって想像しただけで怖いです。

たまちさん、ありがとうございます。

間もなく次の台風がやってくるようなのですが、どうなるんでしょうか。
上陸地点が予想できないって怖すぎる…。
外に出ちゃうと帰ってこれませんよね。いや、男たちが戻らずどうなるかと思いきや。
まーくん、奮闘してましたね。台風も子供にとってはイベントになるのでしょう。
そうそう、地球を守るとか、とりあえず闘うことが好きなんですよね。
確かに、琴子ちゃんには男のプライドがはたらいて弱音が出せなかったのかもしれません。
やっぱりパパがいた方が心強いですもんね!

りょうママさん、ありがとうございます。

おばあちゃんはさすがですよね。
うまいことまーくんを乗せて、台風で怯えないようにって。
でもまーくん、なかなか頑張りましたよ。刀背負って(笑)
琴子ちゃんも成長に目を細めたことでしょう。
キャンプは盛り上がりそうですよね~。
裕樹くんは一応、ゼミ旅行ってことで(笑)いやいや、奥手だし清く正しい男女交際をしていると私は信じています(笑)

りんさん、ありがとうございます。

まーくん、チビと本当に仲良しですよね。
チビもうまいことまーくんを立てているし。頼りにされるとはりきっちゃうところは琴子ちゃん譲りなんでしょう。
ダメ男入江くんの登場はもう少しお待ちを(笑)
可愛いまーくんを書くと、ダメ男の入江くんに気持ちを切り替えるのが難しいもので!

こっこ(*^^*)さん、ありがとうございます。

可愛いと言って下さりありがとうございます!!
背中の刀、書きながら思いついた割には自分でも上出来かと思っております。
思い浮かべていただけるといいなと思っていたので、伝わってとても嬉しかったです!

sabatoraさん、ありがとうございます。

お祭りということで、出張させてみました。
まーくん、可愛らしさが命なのでそう言っていただけると嬉しいです。
まだまだ人形が手離せないお年頃…(笑)
読み返しに行って下さるなんて最高です!
そうだ、高校生まーくん…あちらも書かなければ!
色々私が設定を忘れてしまってなかなか進められないのです、ごめんなさい!

shirokoさん、ありがとうございます。

男の子、戦うってキーワード好きですもんね。
まーくんも男の子ですし。おじいちゃんはヒーローもののおもちゃの総本山にいますしね!
そうなんです、琴子ちゃんのしっかりママぶりも書きたいのがこのシリーズなので。
危ないから背負いましょうって琴子ちゃんなら言うだろうなって。
気づいていただけて嬉しいです。
はむはむ大好き親子…(笑)でもはむはむするものが違うんですよね、まったく(笑)

なおちゃんさん、ありがとうございます。

可愛いと言って下さってうれしいです。
ありがとうございます~♪
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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