日々草子 吾輩は猫である 6

吾輩は猫である 6










吾輩は猫である。名前は…名乗るものでもない。

世間のちびっ子たちは夏休みに入った。ということで、吾輩も子守の時期である。
さて、今日は何をしているか…あ、いた!

「ゴンザエモン!」
だから大声で名前を呼ばなくていいのに。吾輩の子守相手は木々の間に下げたハンモックにいた。
「ワン!」
吾輩の子守仲間であるチビも一緒である。相変わらず働く犬じゃの。

「ニャー。」
「ゴンザエモン、今日のまーくんはハートボイルだから。」
ハートボイル?
何のこっちゃと思って、この家の天使であるまーくんを吾輩は見た。
なるほど、顔の半分を覆い尽くすサングラスをかけている。ハートボイルはハードボイルドのことだろう。
「だから近寄ると危ないよ。」
しゃべるたびにずり落ちるサングラスを上げながら、まーくんは吾輩を見た。
いや、ハードボイルドと言われても。サングラスはおそらくまーくんのおばあちゃん(これまた、なかなか派手なおばあちゃんなのだ)に借りたのだろう。そして麦わら帽子にクマのイラスト入りタンクトップ。そんな格好で気取られても…ま、可愛いからいいか。

「ボス、ジュースですよ。」
と、そこにおばあちゃんが登場。どうやらまーくんの行動にあわせて「ボス」と今日は呼んでいるらしい。
「ありがとう、おばあちゃん。」
またもやずり落ちるサングラスを押さえながら、まーくんはジュースを受け取りサイドテーブルに置いた。
「ボス、はいチーズ。」
そしてまーくんの可愛らしさを全てカメラにおさめると誓っているおばあちゃんが、レンズを向けるとボスまーくんは半分落ちているサングラス姿でピースする。随分マイルドなボスだな。

「さて、まーくんはお勉強の時間なのです。」
…勤勉なボスだ。
「よいしょっと」と、サイドテーブルから何やら厚い本を持つまーくん。その厚さ、何だか嫌な予感…。

「チビとゴンザエモンにも見せたげる。」
優しいまーくん(こんな時に優しさはいらないが)が、本を広げて見せてくれた。
「ニャー!」
やっぱり!何だか恐ろしい魔物の書だ!
「パパが貸してくれたの。これね、心臓。こっち、肝臓。こっちが…。」
ご丁寧に一つ一つ、写真を指して教えてくれるまーくん。しかも写真はカラーだ。いい、もういい!
「きれいな写真だよね…。」
そんな恐ろしいものをうっとりと眺めるまーくん、ああ、やっぱりまだ悪魔の手先になる夢は捨てていないらしい。
「この本は、すごく写真がいいってパパが教えてくれたの。まーくんも読んでいいよって。パパ、優しいから。」
こんな気持ち悪いもんを五歳児に見せるあの悪魔の手先、もはや魂だけでなく全身悪魔に捧げているんだな。

「ニャー。」
とても耐えられない吾輩は、もう一冊の本を見るようまーくんに勧めた。こちらはまーくんの大好きなクマが表紙の絵本だ。まーくん、五歳児は五歳児らしい本を読もうじゃないか。

「だめだよ、ゴンザエモン。まーくんは今、お勉強の時間なの。」
「邪魔しちゃだめでしょ」とめっと顔をしかめるまーくん。
「まーくんはね、メリメリつけるの。」
メリハリね。いや、まだつけなくてもいいよ。
吾輩はあきらめることなく、絵本を鼻でグイとまーくんへ押す。が、まーくんはまた「めっ」と言ったきり。あの恐ろしい本に夢中になってしまった。

「まーくん。」
次に現れたのは、まーくんのママだ。悪魔の手先と何故結婚したのかまったく分からない、優しいママである。
「…なあに?」
おかしい。まーくんもママが大好きなのに、ハンモックから身動き一つしない。目も合わせようとしない。さっきのおばあちゃんとは違う。

「まーくん。」
もう一度ママはまーくんを呼ぶと、本を持ったままのまーくんを抱き上げた。
「あーん!」
悲鳴を上げるまーくんに構わず、ママはゆさゆさとまーくんを揺り動かす。
ゴトン、ゴトン。
まーくんのタンクトップの中からトマトが二個、転がった。

「やっぱり!」
トマトを拾い、ママはまーくんを睨んだ。さっきまでの威勢はどこへやら、しょんぼりとなるまーくん。そしてチビもあわせてしょんぼり。
「もう、トマトまた隠して!」
「だって…トマトくんが…。」
「トマトくん、おうちへ帰りたいって泣いてます。」
「泣いてないもん。自然に帰りたいって。」
「言ってません。」
今度はママが「めっ」と顔をしかめた。ああ、親子だ。顔そっくり。

「心配しなくてもまーくんはこのトマト食べなくていいのよ。」
「え?何で?」
「明日、九州のひいおじいちゃんからトマトが届くから。」
「ひいおじいちゃんのトマト!まーくん、それなら食べるよ!」
まーくんが言うと、ママはニッコリと笑った。
ひいおじいちゃんは吾輩も一度顔を合わせたことがある。この家のおじいちゃんたちに負けないほど、まーくんを溺愛していた。
そして悪魔の手先の顔に皺を入れ、髪の毛を少なくしたかのような顔であった。悪魔の手先も髪はああなればいいのだ、似ろ、似ろ、似ろ~!!
「ドジエモンと仲良くするのよ?」
「ゴンザエモンだよ、ママ。」
そして今年の夏も名前を覚えてもらえない吾輩…もうあきらめた。



「ひいおじいちゃんのトマトはね、すごくおいしいの。まーくん、そのトマトだけ食べられるんだよ。」
ママが行った後、まーくんは嬉しそうに吾輩に報告してくれた。なるほど、新鮮なのだろう。
「真樹、ただいま。」
と、次にやってきたのは吾輩の天敵である。
「パパ!おかえりなさい!」
「お、サングラスかっこいいなあ。」
と誉めながら、手にしているカメラでパチリ。そしてまたポーズを取るまーくん。こういうのを見ると、あのおばあちゃんと悪魔の手先は親子だとしみじみ思う。

「パパ、今日もお薬のにおーい。」
と、まーくんは悪魔の手先に鼻を近づけクンクンさせる。
「まーくん、この匂い好き!」
息子に言われ、悪魔の手先は嬉しそうにその頭をなでる。吾輩は嫌いだけどね。
「ゴンザエモンも好きだよね?」
「ニャー…。」
ああ、嘘をついてしまった。まーくんが悲しまぬよう、返事をする何てけなげな吾輩。
「お前は本当に優しいな、ゴンザエモン。」
そんなこと言われても、その手で吾輩を撫でる以上信用できないけど。



その夜、一度家に戻った吾輩は夕食後、パトロールに出た。ま、可愛い新顔ちゃんがいないか見て回っているのだが。
さすがにこの時間はまーくんは家の中だろうな…と思いながら入江家の塀を歩いていると、まーくんがいたハンモックには悪魔の手先とまーくんのママが並んで座っていた。
なるほど、昼間まーくんの遊び場だったハンモックは、夜は夫婦のランデブーの場となると。

「本当にまーくんは味にうるさい子になったらどうすればいいかしら?」
「ひいじいちゃんのトマトしか食べないってやつか。」
悪魔の手先が笑う。これぞ本当の悪魔の微笑み…。
「大丈夫だよ。」
「どうして?」
「だって琴子の料理でプラマイゼロ。」
「もう!」
まーくんのママはあまり料理は得意じゃないらしい。が、そんなまーくんママのオムライスが、まーくんの一番の好物だということを吾輩は知っている。
「まーくん、お義父さんをお風呂で困らせてないかしら?」
立ち上がろうとするママを悪魔の手先が止める。
「大丈夫だよ、お袋がいるし。」
「でも。」
「お袋が言ったんだぜ?庭に二人ででてみたらって。」
「でもそれに甘えても。」
「いいじゃん。」
困るママに、半ば強引にキスする本当に悪魔…。

それから悪魔はママの髪に触ったり首に触ったりキスしたりを悪魔の所行を次々とやる。ママは困ったような顔をしているが、どこか悲しそうな気も…。

「また何か考えてるだろ?」
ママの両頬を両手ではさむ悪魔。
「うん…こんなに優しくされていいのかなって…。」
「過去は気にするなって言ったのに。本当にお前って…。」
と、またキスをする悪魔。
詳しいことは知らないが、どうも悪魔とママの間は色々あったらしい。まーくんもそれでよそに一人でお泊まりという、なかなかチャレンジャーなことをしたこともあるとか。
「…あの女の人、まーくん嫌い。」
とボソッと呟くのを吾輩も聞いたことあある。あの女の人とは誰なのか走らないが。まーくんが嫌うくらいだからよほどろくでなしなのだろう。吾輩も嫌いだ。まーくんをあんな顔をさせる人間は嫌いだ。

「入江くん、トラジロウが見てるじゃない。」
しまった、気づかれぬよう見ていたつもりだったが。
「ゴンザエモンだろ、いい加減覚えろよ。」
「そうね、ごめんね。」
いいです、ママさんなら間違えても許す。
「ニャー。」
「お前、猫のくせに邪魔するのか。」
笑う悪魔。猫だろうが何だろうが、悪魔に心は売らん。
「ニャー。」
これ以上は邪魔をせんよ。吾輩が去ろうとした時だ。
「パパ、ママ!」
パジャマ姿のまーくんが走ってきた。
「まーくん、虫に刺されるわよ。」
「大丈夫、あ、ゴンザエモンもいる!」
「ニャー。」
吾輩はまーくんにおやすみの挨拶をした。
「おやすみ、ゴンザエモン。また遊ぼうね。」
「おやすみなさい、ゴンちゃん。いつもまーくんと遊んでくれてありがとう。」
「おやすみ、ゴンザエモン。」

パジャマのまーくんの両手をしっかりとつないだ悪魔とママに見送られ、吾輩は家に戻ったのである。



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この、お話、かわいいね❓猫の、ゴエモン、の、名前を、覚えられない、琴子ちゃん、マー君も5歳に、なったんだね、入江君も、幸せそう、入江家も、幸せそうですね。

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マロンさん、ありがとうございます。

久々のまーくん、楽しんでいただけて何よりです♪
ゴンザエモン、入江家に対する突っ込みがすごいですよね。入江くんにだけ懐かない猫ちゃん…(笑)
まーくんへの愛情のほんの少し、向けてあげたらいいのに…。
入江家の夏休み、ほのぼの編です。
私も書いていて心が穏やかになりました~。

なおちゃんさん、ありがとうございます。

可愛いと言って下さって嬉しいです、ありがとうございます。
そうなんです、ゴンザエモンの名前、ずっと覚えられない琴子ちゃん。
このお話、短編は幸せたっぷりなんです♪

りょうママさん、ありがとうございます

まーくん、ハードボイルドに挑戦しつつ医学書を読むのに余念がないんです。
このギャップを楽しんでいただけたらいいなと思って。
もう悪魔なパパに洗脳されてますけれど、ゴンザエモンは一生懸命引き戻そうと頑張っているんです。
大人ぶっていたけど、ママの前ではまだ子供なんです♪
確かにゴンちゃんには悪魔なパパと天使のママが一緒にいる理由が分からないですよね~。
パパはママの前では悪魔になることもありますし(笑)

たまちさん、ありがとうございます。

お忙しい中読んで下さりありがとうございます♪
まーくんの言い間違いは五歳ならではですから。そこは琴子ちゃんと違う(笑)
猫もとうとうあきらめた琴子ちゃんの記憶力…でも覚えてもらえなくてもきっと琴子ママのことも大好きなんでしょう。
アハハ、まーくんボインになっていたんですか(笑)それは想像しただけで笑えます。でも服の中に隠すのは相変わらず。
そしてその点は琴子ママもすぐに分かるという。
もちろん、琴子ちゃんはキラキラになってますよ!覚えていて下さってありがとうございます。

sabatoraさん、ありがとうございます。

すっかりご無沙汰になってしまったまーくんです。
納涼祭ということで、久しぶりに登場してもらいました。もうちょっとこちらも更新できるといいのですが。
短編はほのぼのなんですよね。
またまーくん、ひょっこり顔を出して皆さんから可愛がってもらえるよう頑張りますね!

紀子ママさん、ありがとうございます。

アハハハ、紀子ママさんはまーくんの仲間!
そうなんです、ゴンザエモンから悪魔に見えても、本当にいいパパといい夫。
うん、あの女性が関わると評価が見事に下がるところは認めます(笑)
ゴンザエモン、まーくんのこと大好きなんですよね。だから毎日遊びに来るんでしょう。
まーくんはもちろん、大好きなことは間違いないです!

もかさん、ありがとうございます。

うわ~まーくんのこと褒めて下さりありがとうございます。
みなさんに可愛いといっていただけるように、小さい子ってどんな行動するかなって想像しながら書いているので嬉しいです!
そうだ、高校生まーくん…(笑)
こちらも頑張ります!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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