日々草子 君に花を捧ぐ 2

君に花を捧ぐ 2





元ネタだと飲むのはホットチョコレートなのだけれど。

☆☆☆☆☆







「花が傍にあると体調が悪くなる?」
「はい、そういう体質の方がいらっしゃるとどこかで聞いたことがございます。」
客人を迎えた初めての朝、コトリーナの髪をとかしながらモッティが言った。
「何でもくしゃみとか、咳が出て止まらない方もおいでのようですし、息苦しさを覚える方もおいでだとか。」
「まあ、お気の毒に。」
「はい、ですからナオキヴィッチ様もそういう体質でいらっしゃるのではないでしょうか。」
昨夜落ち込んで、そしてふて寝したコトリーナをなぐさめようと、モッティは説明した。
「…そうかもしれないわね。」
コトリーナは素直に反省した。
「体調が悪くてこちらにいらしたのに。私ったらそれも忘れて自分がしたいことだけを押し付けてしまったわ。」
ナオキヴィッチからしたら、迷惑この上ない振る舞いだったとコトリーナは心底申し訳なく思った。
「何て考えが浅はかだったのかしら。」
「落ち込まないで下さいませ。お嬢様はお客様を楽しませようと思ってなさったことなんですから。」
「でも…。」
「大丈夫でございますよ。ナオキヴィッチ様は昨日は旅のお疲れもあったのでしょうし。」
「私のこと、怒っていらっしゃるでしょう?」
「大丈夫です。あちら様も女性にちょっときつく言い過ぎたと思っていらっしゃいますよ。」
それが使用人であれ、助言を素直に受け入れるところがコトリーナのいいところであった。

モッティは慰めてくれたものの、それでも朝食の席で顔を合わせることにコトリーナはためらいがあった。でも顔を合わせたらすぐに謝ろうと思い、食堂に入った。まだ父もナオキヴィッチも席についていなかった。

「おはよう、コトリーナ。」
「おはようございます、お父様。」
しばらくして父が姿を見せた。
「おや、客人は?」
「まだみたいです。」
そろそろ姿を見せてもいい頃なのに。父はメイドを一人、ナオキヴィッチの部屋へ行かせた。
「もし具合がよくないようならば、部屋へ食事を運ばせてもいいしな。」
顔を合わせずに済むかもしれないと思うと、どこかホッとするコトリーナであった。

ほどなくして、困った顔をしたメイドが戻って来た。
「鍵がかかっていて、中に入れませんでした。」
「鍵ですって?」
父とコトリーナは顔を見合わせた。二人とも鍵をかけて休んだことなどない。
「それでお外から声をかけてみたら、一言”後から行く“と仰られて。」
「ああ、動けないわけじゃないんだな。」
父は安堵した。
「疲れているのだろう。先に私たちはいただくことにしようか。」
「はい、お父様。」
何だか用心深い人だと思いながら、コトリーナは朝食を取り始めた。

父が部屋に戻った後も、コトリーナは食堂でナオキヴィッチを待っていた。やはり昨日のことを謝るべきだと思ったからである。
「それにしても、いらっしゃらないわねえ。」
時計を見上げて、コトリーナは呟いた。一向に姿を見せる気配がない。
「ちょっと様子を見に行こうかしら。」
「でしたら私が。」
「ううん、大丈夫。」
モッティが行こうとするのを制して、コトリーナは二階へ上がった。そしてナオキヴィッチの部屋の前に到着して、まずドアに耳をつけた。
「お嬢様、何てことを。」
「別に変な音はしないみたいだけど。」
行儀が悪いと注意するモッティを無視し、部屋の中を伺おうとするコトリーナ。と、急にそのドアが開いた。
「きゃあ!」
もう少しでぶつかると寸での所で、コトリーナは避けた。
「…何か用か?」
着替えたナオキヴィッチが、尻もちをついているコトリーナを冷たく見下ろしていた。
「いえ、朝食の席にいらっしゃらないから心配になって…。」
「朝は苦手なんだ。」
「そうですか。」
ナオキヴィッチを見上げてコトリーナは、もしかしたら手を差し伸べてくれるのではないかと期待した。

「昨日は悪かった。」
「まあ、いいえ。私こそお節介をやいてしまって。」
「君のような美しいレディを前に、つい照れてしまって。」
「そんな。」
「さあ、手をどうぞ、マイレディ。」
「マイレディ…。」
「こんな素敵なレディと一緒に過ごせるなんて、最高だ。」
「私こそ嬉しゅうございます。」
そしてナオキヴィッチはコトリーナの手にキスをして…。


「お嬢様、お嬢様!」
「え?なあに?」
「妄想にふけって手を伸ばしている場合じゃございませんよ。」
「妄想って失礼な。」
「ほら、ナオキヴィッチ様はもうあちらに。」
「え?あらら?」
気づけば座り込んだコトリーナを放置し、ナオキヴィッチは廊下を進んでいるではないか。モッティの手を借りて立ち上がり、コトリーナは急いで後を追いかけた。



「あの、ちょっと。」
「何だ?」
階段の踊り場で、ナオキヴィッチは面倒くさそうに振り返った。
「ええと…鍵をかけていらっしゃるとか?」
「鍵?」
「お部屋に。」
「それが何か?」
「あの、ナオキヴィッチ様はお体の具合が悪くていらっしゃるのでしょう。できれば鍵はかけない方がよろしいかと。」
またお節介のくせが出たと、コトリーナは思った。が、口は止まらなかった。
「だって具合が悪い時、私たちが中に入れませんもの。ね?」
「つまり、夜這いをかけられないから開けておいてくれってことか。」
クスッと意地悪くナオキヴィッチは笑った。
「夜這い…何て破廉恥な!」
活発でも一応、深窓の令嬢であるコトリーナだった。さすがに顔を真っ赤にせずにいられない。
「ちょっと、そんなことするわけないでしょう!」
「どうだか。今だって俺の部屋をうかがっていたくせに。」
「あれは、降りていらっしゃらないから心配して。」
「貞操を守りたいので、鍵はかけることにする。」
「貞操ってあなたの台詞じゃないでしょう!」
もう何て人だろうか。コトリーナは夜這いではなく、戦いを挑みたい気分であるがモッティに抑えられ、何とか堪えた。



「ただいまお食事をご用意いたしますね。」
食堂に入り、モッティが準備をしようとするのをナオキヴィッチは手を上げて止めた。
「コーヒーだけで結構。」
「ええ?」
付いてきてしまったコトリーナが驚きの声を上げる。
「コーヒーって、それだけですか?」
「ああ。」
「じゃあ、たっぷりと用意を…。」
「いや、カップ一杯で結構。」
「それじゃお腹がもたない…」と言いかけてコトリーナはハッとなった。そうだった、口は達者のようだが、静養を必要とする人である。食欲もないのかもしれない。

「お前が淹れてきたのか。」
厨房に入り自ら準備してきたコトリーナを見て、ナオキヴィッチは明らかに不快な顔をした。
「お前って、もっと他に呼び方が…。」
大貴族のお坊ちゃまだから人を見下して生きてきたのだろうか。もう抗議しても無駄だとコトリーナも学んだので我慢することにして、カップをナオキヴィッチの前に置いた。
「変なものを入れていませんから、ご安心を!」
ナオキヴィッチはカップに口をつけた。一口飲んだ後、すぐに二口、三口と飲み干した。
「お気に召しまして?」
ふふんと胸を張ってみせるコトリーナを無視し、ナオキヴィッチは立ち上がった。本当にコーヒー一杯しかいらないようである。
「明日からも朝はこれだけで。」
どうやらコトリーナのコーヒーは口に合ったらしい。

「あの、ナオキヴィッチ様。」
戻ろうとするナオキヴィッチをコトリーナは呼び止めた。
「まだ何か用か?」
「昨日はごめんなさい。」
コトリーナは謝った。
「昨日?」
「お花がお好きじゃないのに押し付けようとしたりして。」
「別に謝らなくてもいい。」
「え?」
意外な言葉にコトリーナは驚いた。もしかして「俺も悪かった」と続くのだろうか。あら?コーヒーで心が柔らかくなったのかしら?

「どうせお前はこの先、毎日謝ることになるから。」
「…はい?」
更に意外な言葉に、コトリーナは眉を寄せた。
「おそらくお前は、性懲りもなく俺にお節介を焼き続けるだろう。その度に俺は機嫌を損ねる。そしてお前は謝る。その繰り返しになることは目に見えている。だから謝る必要はない。毎回謝られて俺は疲れるし迷惑だ。」
「ちょ、ちょっとそれは…。」
「頼むから静かにしていてくれ。俺の周りをうろちょろするな。以上。」
ナオキヴィッチは速足で食堂を出て行ってしまった。後に残されたコトリーナは最初ポカンとしてしまっていたが、徐々に怒りが込み上げてきた。
「な、何なの、あの人は!はあ?私がお節介を焼き続ける?焼くもんですか!勝手に静養でも何でもしてろっていうの!」
アッカンベーとコトリーナはナオキヴィッチが出て行った方へ舌を出した。



さて、その日の午後。
少し疲れが取れたのか、ナオキヴィッチは読書をしたいと言った。それで伯爵が図書室へ案内すると、書物に夢中になっていった。
その隙にと、客間の掃除が行われることになった。どうやらかなり気難しい客人のようなので、メイド頭であるモッティ自らが掃除を手掛けることにした。

「あら?」
ベッドの下を掃除していたモッティは奇妙な物を見つけた。
「どうして枯れた花がここに?」
突然使うことになった客間であるが、それでも前日、きちんと掃除はされている。モッティが目を光らせているため、メイドたちの手が緩むことはない。なのでゴミを放置していたということもないはずである。
掃除のために開け放たれたバルコニーにモッティは出た。気持ちのいい風が吹いている。その下を見ると、コトリーナが館に飾ろうと花を摘んでいた。
「枯れている花はないわよね…。」
手の中の朽ち果てた花と、庭で咲き誇る花を見比べる。部屋にどこかから飛んで来た?いや、花びらならまだしも、一応形をとどめている…。

「モッティ、どうしたの?」
令嬢らしからぬ大声で、コトリーナが呼びかけた。全くお嬢様は本当に天真爛漫なのだからとモッティは笑う。
「いいえ、お嬢様が楽しそうにしていらっしゃると思いまして。」
「ええ、お父様のお部屋に飾るのよ。ほら!」
「美しいこと!」
モッティはコトリーナに見えないよう、枯れた花を後ろに隠した。

「…騒々しいな、本当に。」
突然後ろから声をかけられ、モッティは震え上がった。いつの間に戻って来たのか、本を抱えナオキヴィッチが立っているではないか。
「あの…。」
ナオキヴィッチはモッティの手にある枯れた花を見つめた。
「俺が持ってきたトランクに入り込んでいただけだ。」
「え?」
思わずモッティは花とナオキヴィッチを見比べる。モッティはナオキヴィッチのトランクを見た。確かに開けた様子はあるようだが。
戸惑うモッティの手から、ナオキヴィッチはサッと花を奪った。そしてモッティが掃除したばかりのくず入れへ放り込む。モッティは何も言えずにそれを見ているだけだった。

「お掃除がまだ終わってなくて。」
「これで十分だ。」
「ですが。」
「休みたい、出て行ってくれ。」
「…かしこまりました。」
ナオキヴィッチの迫力にモッティは頭を下げ、掃除道具を手に出て行った。
そうか、トランクに入っていたのか。確かに、旅行を終えたらトランクはしまいこまれたままである。旅先で花を摘んでそのまま中に入れっぱなし…。
「…花は嫌いだと仰っていたはずなのに?」
どこかおかしくないか。モッティは考えた。が、それ以上考えない方がいいとも分かっていた。そうだ、ナオキヴィッチの言う通り、トランクに紛れ込んだのだろう。

「あ…。」
今までモッティがいたそこにナオキヴィッチの姿が見えた。窓をバタンと音を立て閉め、更にカーテンまで閉めきるのを見て、
「昼間だっていうのに、カーテンまで!本当に感じの悪い人だこと!」
と、今度はイーッと歯をコトリーナはむき出した。
この様子だと絶対モッティも無理矢理追い出したに違いない、今度は自分が慰めなければと、コトリーナは花を抱えて館へと急いだのだった。





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ほなみさん、ありがとうございます。

正解です!パチパチパチ~。もっとも途中でストーリー変わってくると思いますが。
何か拙い話からそんなに素敵な想像をしていただけて嬉しいです。
本当はドレスとか詳しく描写できたらいいんですけれど…でも想像力豊かなほなみさんに補完していただけるだけ、嬉しいです!
ありがとうございます!

マロンさん、ありがとうございます。

久しぶりにコーヒー出した気がします。いや、本当にそうかも。
歩み寄れる日は来るんでしょうかね…結構、毎回この仲の悪い二人を書くのが楽しくて。
やっぱり最初はツンツンして結ばれるっていうのは王道なんだな~と思います。
コメントいただけて嬉しいです。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

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