日々草子 君に花を捧ぐ 1

君に花を捧ぐ 1






遅ればせながら、私もお祭りに参加させていただくことになりました。
いや~ホラー縛りなの?え?ホラー読んだことないわ、どうしようと思って。
自分で全て考えることは早々にあきらめ、ホラー、ホラー、犬神家の一族?え?入江くんの両足を湖から出す?そうしたら佐清は誰にするんだ?
牡丹灯籠?四谷怪談?番町皿屋敷?
と、色々考えて下敷きにする話を何とか見つけてきました。図書館で借りてもきました。
それでソウさんにお伺いをたてたら「ホラーじゃなくとも夏のお話ならば…」と。
ええ!?夏縛り!!しまった、そういうことだったか!!オーマイガーッ!!
…ま、私にしてはちょっとだけ怖い感じのお話ということで。夏は関係なくてすみません。
そのうち、夏に関連した短編をちょいちょい出すことでお許しいただけたらと思います。
下敷きにしたお話が分かった方がもしいらしたら、鍵コメントでどうぞ♪勿論普通の感想もお待ちしております。
もちろん、連載中のお話もちゃんと忘れていないので。

☆☆☆☆☆








とある国の都から離れた、自然あふれる領地にその館は建っていた。

「モッティ、こういう本はお好きかしらね?」
問われたメイド頭のモッティは微笑んだ。
「お嬢様のお好きな本ですね、ええ、同じ年頃のお嬢さまでしたらきっと気に入られますとも。」
「そう?一緒に感想など話し合えたら素晴らしいわ。」
数冊の本を重ねているのは、この館の令嬢であるコトリーナ・アイハーラだった。

「嬉しいわ、ずっと同じ年頃のお友達が欲しくてたまらなかったの。」
コトリーナは父であるアイハーラ伯爵とずっとこの館で暮らしていた。母は幼き頃に亡くなっていた。

「同じ年頃といえば、カモガーリ家の若君様が夏になるとおいでになりますでしょ?」
「ああん、ケイは男の人じゃないの。ちょっと違うわ。」
アイハーラ家から少し離れた所には、カモガーリ伯爵家の別邸がある。カモガーリ家の若君は時折ふらりとやってきて、コトリーナとひと時を過ごすことがあった。
「確かにケイは年も近いし、小さい頃から一緒に遊んでいたし。」
「ええ、カブトムシやら何やらお二人で捕まえておいでで。」
「そうそう、でもやはり女性のお友達とは違うと思うの。」
「そりゃあそうでございます。」
「ケイは私を女性と思ってないしね。」
失礼だわと眉をひそめるコトリーナを見ながらモッティは「あちらは十分思っておいでのようですけど」と聞こえぬよう呟いた。

アイハーラ伯爵の領地は自然にあふれ、とても静かで過ごしやすいのだが周囲にコトリーナと共に時間を過ごすことのできる者がいないのが難点であった。そのため、コトリーナはモッティを始めとするメイドたちしか話し相手がいなく寂しさをいつも感じていたのである。

そんなアイハーラ家の元に客が訪れることになった。しかもコトリーナと同年代の貴族の令嬢だという。コトリーナが張り切って迎え入れる準備を始めたのは言うまでもなかった。

「そうだわ、この綺麗な絵もご令嬢のお部屋に飾りましょう。」
コトリーナは自分が好きな絵を持って、部屋を出た。そして数日前よりコトリーナが腕によりをかけて飾り付けた、令嬢のために準備された部屋へ向かった。

「よし、ここでいいわね。ああ、ますます美しい部屋になったわね。」
「ええ、本当に。」
コトリーナとモッティが女性好みの美しい部屋を満足そうに眺めていると、
「準備はできたかね、コトリーナ。」
と、父アイハーラ伯爵がやって来た。
「おお、これは可愛らしい部屋になった。」
「でしょう、お父様。」
「うんうん、きっと喜んでくれるだろう。」
「ねえ、お父様。」
コトリーナは父を見上げた。
「いらっしゃるイーリエ公爵様のご令嬢って、どんな方なのかしら?」
「うーん、私も会ったことはないんだがな。」
迎える客人は、この国の大貴族であるイーリエ公爵家の令嬢であった。
「大貴族様のご令嬢だと私を相手にして下さらないかしら?」
友達ができると喜んでいるコトリーナであったが、その日が近づくと不安になってくる。何せ都の中心で暮らす大貴族。いくらコトリーナが心を込めて飾り付けても「田舎くさい」と相手にしてくれなかったらどうしようか。

「なあに、心配することはない。」
アイハーラ伯爵は娘の心配を笑い飛ばした。
「イーリエ公爵と私はどういうわけか、気が合ってね。あちらは大貴族とは思えない気さくな方だ。朗らかでいつも笑みを絶やさず過ごしていらっしゃる。そんな公爵の令嬢の性格が悪いわけがない。」
「そう?」
「安心しなさい。きっとお前の心づくしも喜んでくれるはずだから。」
「よかったわ。私たち、いいお友達になれるわよね。」
「ああ。」
「嬉しいわ。一緒に刺繍をして過ごせるわね。」
「刺繍…?」
「ええ。だって私たち貴族の女性のたしなみですもの。」
「たしなみってお前、刺繍は…。」
「お嬢さま、布より自分の指に刺す回数の方が多いでしょう?」
「だから教えていただくの!」
ムキになったコトリーナにアイハーラ伯爵もモッティも笑ったのだった。

「ただコトリーナ、忘れてはいけないよ。ご令嬢がここで過ごす目的は…。」
「ええ、分かっているわ。静養のためでしょう?」
イーリエ公爵の令嬢はこのところ体の調子が優れないのだという。心配する公爵からその話を聞いたアイハーラ伯爵が「ならば我が館に」と招待したのだった。自然あふれるアイハーラ家で静養すれば気分もよくなると思ってのことだった。
「大丈夫、気をつけて様子を見守ります。」
「うん、頼んだよ。」




ということで、いよいよ客人の到着する日がやってきた。
「モッティ、リボンはこちらにして。」
「かしこまりました。」
「ドレスはあちらの、そう、それ。」
「はい、お嬢さま。」
朝からコトリーナはモッティをあちこち動き回らせ、準備に余念がなかった。第一印象は大切である。イーリエ公爵令嬢に気に入られたい一心だった。
「さあ、できましたよ。」
モッティに髪をといてもらい、リボンをつけ、ドレスを身にまとったコトリーナは隈無く全身を確認した。
「ドキドキしてきたわ。」
「大丈夫ですよ。今日のお嬢さまはとても木を蹴ってカブトムシを捕まえていた方に見えませんもの。」
「それは子供の頃の話!」
「もう!」とコトリーナはモッティを睨む。

到着の時刻は夕方になるという。それでもコトリーナは朝から部屋を見回し、花を飾り、少しでも曲がっている箇所があれば直すということを繰り返していた。

そして夕方。
「いらしたわ!」
部屋から外を見ていたコトリーナが声を上げた。一台の馬車がアイハーラ家への道をやってくる。コトリーナは部屋を飛び出した。
緊張しながらアイハーラ伯爵、コトリーナ、そしてモッティを始めとする使用人たちが玄関に顔をそろえる。やがて馬車がそこに止まった。

御者が扉を開けた。いよいよ令嬢が姿を見せると思うと、コトリーナの胸は高鳴った。
そして中から人が降り立った。

―― あら?

コトリーナは首を傾げた。馬車から姿を見せたのはドレスを着た令嬢ではなく、マントをまとった長身の若い男性だった。
コトリーナが隣に立つ父を見ると、父も首を傾げている様子だった。

「あの、ご令嬢はどちらに?」
前に立った男性にアイハーラ伯爵は訊ねた。
「ご令嬢?」
男性が怪訝な顔をする。
「イーリエ公爵のご令嬢です。遅れてご到着でしょうかな?」
「はて?」
男性は更に怪訝な顔をした。コトリーナはその男性の顔を見て思わず声を上げそうになった。
―― 何て美しいお顔なのかしら。
コトリーナが好んで読んだ数々の物語、その美しい挿絵に描かれていた王子様のようである。こんな美しい顔立ちの人間がこの世にいるなんて。

「私はナオキヴィッチ-・イーリエです。」
「え?」
顔に見とれていたコトリーナとアイハーラ伯爵は思わず声を出してしまった。
「ナオキヴィッチ・イーリエ…とおっしゃると。」
「ああ、わかったわ!」
父の疑問をよそにコトリーナが手をポンと叩いた。
「きっと男装の麗人という方なのね!」
「は?」
今度はナオキヴィッチ-・イーリエが声を出した。
「お父様、都にはいろいろな方がいらっしゃると聞くわ。きっと公爵様のお嬢様は男装がご趣味なのよ。」
「公爵様の…お嬢様?」
「ええ、あなたのことですわ。」
ナオキヴィッチはアイハーラ子爵を見て、
「こちらの女性は?」
と訊ねた。
「娘のコトリーナです。」
「娘?」
ナオキヴィッチはコトリーナを見た。
「はて、女装が趣味の息子さんで?」
「はあ?」
何を言ってるのだという顔を見事にコトリーナはした。
「わ、私のどこが男性だと?」
「アイハーラ伯爵家にいるのはご子息だと聞いてきたが。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。私は女性です。それに私だってイーリエ公爵家からいらっしゃるのはご令嬢だって!」
「何だと?」
ナオキヴィッチは心外だという顔をする。もっとも、それはコトリーナも同じだった。

「私はナオキヴィッチ・イーリエ。イーリエ公爵家の長男だ。」
「え?」
「イーリエ公爵に娘はいない。」
「嘘!」
「それにアイハーラ伯爵家もご子息しかいないと聞いていたが。」
「お父様、どういうこと?」
コトリーナは抗議の目を父に向けた。

「い、いや…そういえばはっきりとご令嬢と聞いたことはなかった…ような。」
「今頃何を仰るの?」
「だってうちが娘しかいないことは伝えてあったから。娘しかいない家に静養に来るということは、あちらも当然ご令嬢だと思って。」
「…母の策謀です。」
ナオキヴィッチは眉をひそめた。
「お母様?」
「私だって先方はご子息しかいないというから滞在させてもらうことに決めたのに…母はこのことを知って、わざと私に嘘をついたに違いない。」
「どうしてそんなことをお母様がなさるのです?」
「知るか。」
ナオキヴィッチは不機嫌そのものだった。そしてコトリーナは奈落の底に落とされた気分であった。
「私のお友達は一体どこに…。」
一緒に本を読み感想を話し合ったり、一緒に刺繍をしたり。想像していた夢のような世界がコトリーナの中でガラガラと音を立てて崩れていった。

色々誤解があるものの、とりあえずアイハーラ伯爵はこの若者を世話することに決めた。ナオキヴィッチもアイハーラ家に滞在することにした。

「伯爵、長旅で疲れてしまいました。休息したいのですが。」
「ああ、そうでしたな。」
相手は静養が必要な人間であることを伯爵は思い出した。
「コトリーナ、お部屋にご案内しなさい。」
「はい。」
同性の友人ではなかったが、こんな素敵な男性と過ごせるのは悪くない。コトリーナは「どうぞこちらに」とナオキヴィッチを館に案内した。
「ああ!!」
と、突然コトリーナが悲鳴を上げた。思わずナオキヴィッチが仰け反る。
「お部屋…女性がいらっしゃると思って…。」
「は?」
「ま、いいか。とりあえずご案内します。」
落ち着かない娘だと思いながら、ナオキヴィッチはコトリーナの後を歩いた。

「…落ち着かない…ですよね?」
その部屋はどこを取っても、ナオキヴィッチに不釣り合いであった。ヒラヒラとしたベッドカバー、薄桃色のカーテン、可愛らしい絵…。
「こういうお部屋が実は好きだということは…。」
「ない。」
「ですよね。」
分かってはいたとコトリーナは溜息をついた。
「お嬢様、別の客間にご案内を。」
モッティが助け船を出す。
「でもあちらは何も飾り付けがなくて…。」
「飾りなどなくて結構。」
ナオキヴィッチの迫力に、コトリーナは渋々別の客間を案内するのだった。



ナオキヴィッチを新たな客間へ案内した後一旦下がったコトリーナであったが、すぐにまた、そこを訪れた。
「あの、お夕食は…。」
「申し訳ないが疲れているため失礼させてもらう。」
「そうですか。」
見るとナオキヴィッチの顔色は青ざめている。相当疲れているようだ。
「お医者様をお呼びしましょうか。」
「結構。」
「では、せめてこちらを。」
コトリーナは飾り付けた客間から持ってきた、花瓶に生けた花を見せた。
「お花くらいだったら…。」
「いらない!!」
突然の怒鳴り声にコトリーナは思わず花瓶を落としそうになったが、何とか堪えた。
ナオキヴィッチはコトリーナが抱えている花を、それは恐ろしいものを見るかのように睨み付けている。
「花は大嫌いだ!すぐに遠ざけてくれ!」
「…すみません。」
泣きそうになるのを堪え、コトリーナはパタンとドアを閉めた。
「お嬢様…どうなさいまして?」
モッティの待つ自室に戻ったコトリーナは言った。
「あの人…大嫌い!!」
最悪な客人を迎えてしまったと、コトリーナは花瓶をモッティに押しつけベッドに体を投げ出したのだった。



その夜更け。
眠っていたナオキヴィッチは目を覚ました。ふと目をやると、ベッド下に花が一輪落ちていた。
夕刻、コトリーナが落としていったのだろう。
ナオキヴィッチはそれをそっと拾い上げる――手の中の花があっという間に枯れ果て、朽ちた花びらがボロボロと床にこぼれていく。ナオキヴィッチはそれを無言で見つめていた。

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マロンさん、ありがとうございます。

私もそんなに喜んでいただけて嬉しいです。
参観することに意義がある、なるほど!!笑
納涼祭、本当に楽しみですよね。他のサイト様のお話もすごく楽しくて!!
マロンさんのお好みに合うなら嬉しい限りです。
私もそれは知ってます!書きながら「似てるな」と思ってました。でもちょっと違うんだな(笑)
頑張って書いてみますね。

りょうママさん、ありがとうございます。

どっちも性別を違って教えられていたから、そりゃあびっくりしますよね。
お友達どころか、こんな人なら来なければよかったと思っているでしょう。
あ、りょうママさんもそのお話だと思ったんですね。
そうそう、触ったら花が枯れるというと思い浮かべますよね。
花が枯れるってのは原作にはないみたいんなんですけれど。
下敷きのお話、そんなに超有名じゃないのかもしれないです。
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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