日々草子 大蛇森の結婚

大蛇森の結婚

私がこんな話を書くのは、大抵疲れているとき…。
二つの番組を大蛇森先生にからめたいなと思っていたら、ちょうど昨日コメントで「スガシカオの曲に…」といただいたので!tさま、ありがとうございます。

☆☆☆☆☆








諸君、6月だ。そう、6月といえば。

「お忙しい所恐縮ですが、よろしくお願いいたします。」
「全然構わないよ、僕を選んでくれて光栄さ。」

僕の前で頭を深々と下げているのは、外科医の脇屋先生。
「ありがとうございます。大蛇森先生のスピーチ、とてもお上手だって評判なので。」
「いやいや、そんなことないよ。でも嬉しいねえ。」

僕は今、脇屋先生の結婚式のスピーチを頼まれたところだ。そう、6月といえばジューンブライド。脇屋先生は同じ斗南大病院の看護師と結婚する。

ま、スピーチは手術と並ぶ僕の得意分野さ。
スピーチは普段の脇屋先生のことをいくつか話して、少しジョークを交えて、上司として心からの言葉を述べればバッチリなのさ。
え?どこかの誰かが同じようなことを言っていたのを聞いたことがある?うん、それではその誰かもスピーチの達人だね。

「他にどなたを招待しているんだい?」
「ええと、西垣先生。そして入江先生と船津先生…。」
「入江先生!」
僕は脇屋先生の手をがっしりと握りしめた。
「大蛇森先生…?」
「そ、それは本当かい?」
「は、はい…だって入江先生と船津先生、僕の同期なので…。」
「トレービアーン!!」
僕は脇屋先生の手を握る力を更に強くした。
「そ、それじゃあ…入江先生と僕を同じテーブルにしてもらえるよね?」
「え?あ、ああ…でき…ます。」
「席も?」
「と、隣同士になるようしましょう…か?」
「頼んだよ、頼んだよ!」
バンバンと脇屋先生の背中を叩いて、僕は天を仰いだ。

ああ、入江先生と休みの日も顔を合わせることができるなんて。何て幸せなんだろう。
テーブルも一緒、席も隣。ムフフ、ムフフ!

************

テーブルの下で僕はそっと、隣の入江先生へ手を伸ばす。ただ先生の存在を感じるだけでよかったのに、僕の手を握る入江先生。
「入江先生…。」
入江先生はシッとウィンクする。片手は僕の手を握ったままだ。
いいんです、これだけでもう十分…他に望むものは何もない…。

「大蛇森先生。」
ざわめく会場内で入江先生のささやく声は僕の耳にしか届かない。
「いつか僕たちも…。」
そう言って先生は新郎新婦を見つめる。
「…はい。」
頬を染め、小さく頷く僕。
ええ、先生が望むならいつかバージンロードを共に歩きましょう。
先生がどうしてもと望むのならば、僕がウェディングドレスを着ます。桂由美のドレスをキャッシュで買えるくらいの蓄えは用意してあります。

「素敵です、大蛇森先生。」
「そんな…先生の方こそ。」
ベールを上げる先生。ゆっくりと近づく先生と僕の唇…。

************

ああ…想像しただけで腰が砕けそうだ。
やっぱりいい、ジューンブライド。
僕と入江先生の誓いのキス(キャッ、言っちゃった!)の場面はあれだ、僕がそのうち出演するであろう『情熱大陸』のエンディング、葉加瀬太郎のバイオリン曲に乗せて画面に映し出される。
おっと、その前にオープニングだ。
あの有名なテーマ曲に乗せて僕のアップと直筆サイン、ドーン!大丈夫、どんなにアップになっても、4Kテレビに映し出されても平気なくらい僕の肌は美しい。
1ヶ月放置されたカビだらけ、ヒビだらけの鏡餅のような誰かの顔と一緒にしないでくれたまえ。

うん、待てよ?『プロフェッショナル』もいいな。
オフの日に結婚式を挙げる僕と入江先生…うん、いいんじゃない?視聴率アップ、間違いなし。
あのスガシカオの歌声に乗せて『プロフェッショナルとは?』って字幕ドーン!
「そうですね…存在自体疎ましい、使えないナースをどう無視するかの一言じゃないでしょうか。」
思慮深く、しかし慈愛の笑みを忘れることなく答える名医な僕。

…いやいや、違うだろ。なんで全国放送であのチンチクリンの存在を僕の口からアピールしないといけないんだ?

「そうですね…自分の持てる技術を惜しむことなく、後輩たちに伝えていく。それが多くの患者を救うことになります。」

うん、これだ!これで、その後輩の一人と結婚する僕の映像を流すと。名医と性的少数派の存在、同時にアピールすること成功!よっしゃあ!!

それにしても、うっかりチンチクリンを考えてしまうなんて。まったく、僕の心のどこにでも忍び込んでくる、カビのような女だ。
「チンチクリンと風呂場のカビはしつこい」とはよくいったもんだよ。カビキラーのように、チンチクリンキラーも誰か発明してくれないかね?
根こそぎ退治…無理だな。あいつ、風呂の扉のパッキンの奥底まで生えているように、入江先生の体の奥底まで絡みついていそうだ。
ブルル…想像しただけで健康に悪すぎる!


「ええ、私でいいの?」
と、またあのダミ声だ…チッ!!
「うん、琴子にお願いできたらなって。」
「嬉しいなあ、結婚式のスピーチなんて。」

結婚式のスピーチ?まさか…僕は声がする方を見た。
…間違いない、チンチクリンと一緒にいるのは脇屋先生と結婚する看護師だ。
おいおい、あんなチンチクリンにスピーチ頼むって、お前、破談にしたいのか?自ら結婚生活を暗黒スタートにするつもりなのか?

「頑張るね!」
「お願いね!」

本当、遠慮ってもんを知らないんだ。とことん面の皮の厚い奴だよ。その面の皮の厚さ、アメリカ大統領専用車のドアと同じ厚さに違いない。

「私ね、高校時代の友達の結婚式もスピーチしたことあるんだ。」
「へえ、頼もしいなあ!」
その友達、絶対離婚したろう?え?

チンチクリンレベルのスピーチなんて想像つく。
「切れる」「別れる」などの忌み言葉を山のごとく使い、「ええ、結婚生活に大切なものに三つの袋がありまして」とかくだらねえことを言って、最後は黒田節で締めたに違いない。ったく、どこの親父だよ!

「やっぱり受けたのはインドネシア人のことわざね。」
「インドネシア人?」

何だ、それ。インドネシア人のことわざ?

「面白そう、ねえ、試しに一つ言ってみてよ!」
「そう、それじゃあねえ…。」
コホンとわざとらしく咳払いをするチンチクリン。

「“トイレのサボったリングと大蛇森先生は手の施しようがない”」

「おい、お前!!」
たまらず僕はチンチクリンの前に飛び出した。「ひゃあ!」と逃げていく脇屋先生の花嫁。
「何だ、そのことわざ!どうしてこの僕がインドネシア人にそんな扱いを受けないといけないんだ!」
「やだ、立ち聞きですか?」
ひるむことなく僕を睨むチンチクリン。
「それに何だ、トイレのサボったリング?失礼にも程があるだろうが!」
「だってそれと同じくらいしつこいんですもん。」
「この僕はお前を風呂場のカビ程度にとどめてやっているのに!」
「はあ!?私が風呂場のカビですってえ?失礼なのはそっちじゃないですか!」
ギャーギャーと騒ぐチンチクリン。
「大体サボったリングなんて、こまめに掃除していれば出ない代物だ。」
「カビだってそうでしょうが!」
「僕の家はカビもリングもない!」
「うちだってありませんよ!」
「君自体が環境破壊の元だ!」
「その言葉そっくりお返しします!」

全く、早くこの女から入江先生を救わないと!



ということで、結婚式当日となった。
チンチクリンもスピーチの列に連なっていることは気にくわないが、入江先生の隣に座れるとならば…あれ?

「な、何で先生があっちに?」
オーマイガーッ!!入江先生が…僕の隣に座って…テーブルの下で僕の指に絡ませてくるはずの入江先生が…違うテーブルどころか、チンチクリンの隣に座っているじゃないか!!

僕は新郎をキッと睨んだ。脇屋先生は「すみません、すみません」と口をパクパクさせて僕に謝っていた。

「入江先生、ナースたちと同じテーブルなんですね。」
「うん、あれ、入江が希望したらしいぜ。」
傷心の僕がいながら、そんな話を無情にする船津と西垣。
「ったく、こんな時でも奥さんと離れたくないってか?」
「なんだかんだ、入江先生って琴子さんにゾッコン…うわっ!」
睨む僕にようやく気づいた船津は慌てて口を手で押さえた。
違う…そんなきれいなもんじゃない。
入江先生はあれだ、責任感が強いから、いくら同じ戸籍に名前を連ねているだけの関係とはいえ、あの野獣チンチクリンを野放しにすることに耐えられなかっただけなんだ、そうに違いない。
誰か本当にあの野獣…いや狂犬チンチクリンを捕獲してくれ!
今すぐ狂犬ワクチンを打ちに行かせようか、いや、もう狂犬だから手遅れか。
とにかく、入江先生に自由を~!



大蛇森先生は恨めしげに睨んでくる、琴子は隣で試験前の学生のごとくブツブツ呟いている。
ったく、まだインドネシア人のことわざにこだわってるのかよ。もう、それはいいって。
俺が琴子の隣の席を頼んだのは、別に琴子への愛情云々じゃない。
…琴子の友達の時の悪夢を再現したくなかっただけだ。こいつ、俺が見張っとかないと緊張から逃れようと酒ガバガバ飲みかねねえからな。
と、言っているそばから!

「やめておけ!」
「だ、だってえ!緊張しちゃって!」
「落ち着け、インドネシア人が泣くぞ!」
「そ、そうだね。」
そしてまた、ブツブツ言い出す琴子。
ったく…まあ、一生懸命な所は何年経っても、可愛いけどな。





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壮の都じゃなく、よかったです、だって、あれじゃ?せっかく、楽しみに、読んでても読めないし、完全に、あきらめてます、是非に、パスワードなくっても、読めるもの、お願いします。

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

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