日々草子 新妻の企画

新妻の企画

九州の地震、お見舞い申し上げます。
九州の方は本当に大変で心休まる時がないと思います。

ブログのアクセス解析を見ると、今回被害の大きかった熊本と大分からも足を運んで下さっている方がいらっしゃいます。その方たちが落ち着いて、また思い出してこちらに足を運んで下さって「水玉、あの時こんなくだらない話書いてたのか。」と笑っていただける時が来ることを、心より祈っております。

☆☆☆☆☆










「い・り・え・く・ん、そんなに急いで新妻ちゃんとデートかな?」
仕事を定時で切り上げ帰る準備をする後輩を、西垣がニヤニヤしながら眺めた。
「違います。今日は寄る所があるんで。」
「愛人?」
くだらないことを口にする先輩の相手をせず、入江直樹は立ち上がった。
「ねえ、どこ?どこ?どこに寄るの?」
「ったく、自分が夜勤だからってからまないでもらえます?」
鬱陶しいと西垣の手を乱暴に払いながら直樹は答えた。
「大使館です。」
「トンブリ王国大使館?何、また新妻ちゃん、怒って大使館に行ってるの?」
「いえ、今日は大事な会議があるので。」
「会議?何?何?」
「トンブリ王室について、アドバイスを求められているんです。」
「へえ!面白そう、僕も行きたかったな。」
うらやましそうに見る西垣を背に直樹は急いで夕日新聞社を出た。



「入江くん、こっち、こっち!」
トンブリ王国大使館の会議室では、琴子が笑顔で直樹を待っていた。
「お仕事、お疲れ様。ごめんね、寄ってもらっちゃって。」
「いや、大丈夫。」
トンブリ王国の王女を妻にした以上、できることは協力したいと直樹は考えている。
ただ、一介の日本国民である自分にアドバイスができるのだろうか。しかも王室という重要な事柄について。

「入江様、本日はお越し下さりありがとうございます。」
そこへ現れたのは、ショートカットにメガネをかけた、いかにも「デキる」という若い女性であった。しかもなかなかの美人である。
「初めまして、入江様。私、トンブリ王室の広報担当のギンダ・ラ・ニツケと申します。」
「ギンダ・ラ・ニツケ…。」
ああ、そうだ、トンブリ国民の名前はこのパターンだったと直樹は思い出した。
「入江くん、ギンダはすごく優秀なのよ。名門トンブリ大学を一番で卒業したんだから。」
どうやら琴子はこの銀だら、違う、ギンダと親しいのか腕を組んでいる。
「卒業後はアメリカ留学してたのよね?」
「はい、それで王女様のご結婚の際はトンブリを留守にしていたものですからお式に出席できず申し訳ありませんでした。」
「ううん、そんなこと、気にしないで。」
ああ、だから初対面なのかと直樹は納得した。

「ギンダはね、私の家庭教師もしてくれていたのよ。」
「それは…さぞや苦労したことでしょうね。」
直樹が言うと、
「いえ、とんでもございません。王女様の家庭教師を務めさせていただいたことは光栄でしたし、忍耐を学び、更に分かりやすい教え方も習得することができました。」
とギンダがニッコリと笑った。
「おかげでアメリカでは三歳の子供に社会情勢を理解させることまでできました。」
「それはすごい!」
「これもすべて、王女様の家庭教師の経験の賜物です。」
「分かります。」
「…なんか、全然こっちは喜べないんですけど。」
どうも馬鹿にされているようで琴子は口を尖らせた。

「でも王女様、本当に立派な奥様におなりで。」
ギンダがメガネの奥の涙をぬぐった。
「今日もこんなにお買い物を。」
「買い物?」
直樹は振り返った。会議室の片隅にトイレットペーパーとティッシュペーパーが置かれているではないか。
「…そこのドラッグストアでね、底値だったの。」
両手の人差し指をツンツンさせながら、琴子が言った。これを持って電車に乗るのかと、直樹は溜息をついた。

さて、時間も限られていることだし会議を始めようということになった。
「では、トンブリ王室についての会議を始めます。」
ギンダの言葉に琴子がパチパチと手を叩く。
「トンブリ王室も開かれた王室とならねばなりません。国民との距離を縮めるためには何が必要か。」
結構真剣な内容だ、自分に何ができるだろうかと直樹は考えながらスクリーンを見た。ギンダが作成した資料がそこに映し出されている。

「そこで、考えたものがこちらです!」
満を持してとばかりにギンダがパソコンを操作した。スクリーンに文字が大きく映し出された。
「わあ!!」
「…は?」
琴子の歓声と直樹の冷めた声が同時に出た。

「入江直樹様ファンイベントの開催です!」
ギンダの声がひときわ大きくなった。
「素晴らしい、素晴らしいわギンダ!!」
琴子の拍手もひときわ大きくなる。
「ありがとうございます。トンブリ王国にて今一番人気は誰か、それは入江直樹様に他なりません!」
ギンダがかなり乗ってきている。琴子は大きく頷く。直樹の顔は固まる。

「ごらんください、こちらが入江直樹様ファンクラブの会員数の推移です。」
パッと画面が変わった。そこには左から右にグングン伸びている棒グラフがある。
「その人数は増える一方。おかげさまでファンクラブの会費収入も増えております。そこでお礼を兼ね、イベントを開催し、王室への親しみを持ってもらおうと!」
「はい、はい、はい!」
琴子が手を挙げた。「はい、王女様」と教師のようにギンダが指す。
「私も、私もそのイベントに参加してもいいんでしょ?」
「何でお前が!」
「はい、王女様にはVIPのボックス席をご用意いたしております。」
直樹の声を無視しギンダが答えると、
「ええ、嫌よ!ボックス席なんてステージから遠くて見えないもん!」
と琴子が膨れた。
「しかし、通常の席はファンクラブ会員が…。」
「私も会員よ!ほら!」
琴子がギンダに名刺大のカードを示した。
「まあ、本当に!」
それは琴子の名前が入った、入江直樹ファンクラブの会員証であった。
「日本からお一人、入会申し込みがあったと聞いておりましたがまさか、王女様だったとは。」
「そうよ、ファンクラブ設立ってニュースが入った時すぐに入会したんだから…痛い!」
誇らしげな琴子の耳を、直樹が引っ張った。
「…何で毎日一緒にいるのに、こんなもんに入会するんだ、おい!」
「だ、だって」と琴子が耳をさすりながら直樹を見つめた。
「だってファンクラブの子たちが知っていて、妻の私が知らない入江くんなんて考えられないんだもん!」
「は?」
「だから、私は入江くんの全てを知りたいの!知っていなきゃ嫌なの!」
「わけわかんねえ。」
「もういいわよ!ギンダ、続き、続き!」
頬を膨らませながら、琴子はギンダに続きを促した。

「ええと…では、まず入江様のトンブリ王国への入国から。」
「入国?」
直樹の眉がピクリと動いた。
「はい。まず、こちらを。」
パッと画面が変わった。そこには飛行機、前にはタラップ。
「何でモノクロ?」
画像がなぜかモノクロなのが直樹は気になる。それにしてもどこかで見たような?
「こちらを降りる際、入江様には法被を着ていただきます。このような形で。」
するとタラップの上に人が出てきた。顔は直樹、しかも異様に大きいことで顔だけ貼り付けたことがバレバレ。そして体は法被。その法被に直樹は見覚えがあった。いや、自分の顔以外、見たことがある。
「…今、俺の頭の中に『HELP』が流れている。」
直樹は顔を手で覆った。まさしく気持ちもヘルプといったところ。
「ご安心ください、法被はこちらでご用意いたします。」
直樹が法被を自分で用意しなければいけないことを心配しているのかと思っているギンダが、見当違いのことを言う。

「それで、空港に入ったら大勢のファンが待ち構えております。入江様はそこでメガネとマフラーを身につけて下さい。そして両手を胸の前で交差させて、こんな感じで。」
ギンダがやると、直樹は「ああ…」と更に項垂れた。
「あなたは私の家族ですとか、サランヘヨとか言えと?」
「その通り!さすが入江様、素晴らしい!」
「入江くん、すごーい!」
琴子とギンダに褒められてもちっとも喜べない直樹である。

「さて、会場に到着、いよいよイベントの始まりです。」
「うわあ、ワクワクするね、入江くん!」
頬を紅潮させる琴子とは正反対に、直樹の顔色は青くなっている。
「まず、客席から入場していただきます。」
そしてギンダの口は絶好調である。
「もちろん、歌を歌いながら!」
「歌!?」
何の歌を歌えと?と直樹は目をむいた。
「曲は『大地讃頌』です!」
「はあ!?」
「『大地讃頌』を歌いながら、入江様はファンと触れ合っていただく…。」
「ちょっと待ったあ!!」
琴子が手を挙げ立ち上がった。
「それはまずいわ、ギンダ!」
「琴子…。」
さすがに歌はおかしいだろうと分かってくれたかと、直樹は琴子を見つめた。
「だってその歌、合唱よ?入江くんはバスだから一人で歌ったらおかしいわ!」
「おい、そっちかよ!」
直樹は期待した自分が馬鹿だったと思った。
「では王女様がソプラノを。私がアルトを担当ということで。」
「でもテノールが足りないわ。」
「そうですね、テノールか…。」
「お父様にお願いしましょう!」
「それはいいですね。国王陛下、入江様、そして王女様と私、ええ、4人そろってますね。」
「ちょっと待て!」
今度は直樹が手を挙げた。
「おい、それじゃファミリーコンサートじゃねえか。」
「え?あら、そうね。」
琴子が頷いた。
「変だろ、ファンイベントなのに。」
「そうでした、考え直す必要がありますね。」
ギンダが頷き、
「さすが入江くん!やっぱり入江くんに参加してもらって正解ね。」
と琴子が喜んだ。
「ったく、お前らは詰めが甘いんだよ。」
と言いかけた直樹がハッと我に返った。
「ちょっと待て、何で俺が率先してイベント計画したような流れに?」
危ない、危ない。うっかり琴子とギンダのペースに乗せられていた。
「これがトンブリズムか?」
そんな造語までいつの間にか直樹は造り出していた。


「では気を取り直して。イベント内容について。まず七連火の輪をバク転にて披露していただきます。」
「はあ!?」
「そして空中歩行!ワイヤーアクションは欠かせませんね。」
直樹の声はギンダに聞こえていないらしい。次から次へと話が進んでいく。
「空中で何回転…うーん、多ければ多いほどいいかと。」
「いや、できねえし。」
「大丈夫です、私のコネでこういうイベントに強い方に太鼓判をいただいておりますから。」
「コネ?強い方?」
「はい、相談したら『You、全然大丈夫だよ!』と答えて下さったので!」
そんな人とよくコネがあったものだと感心しそうになりながら直樹は「いやいや、そういう問題じゃなく!」と頭を振った。
「そしてあれは外せません。トンブリ坂ミニマラソン!!」
「うわあ!!入江くんの応援しなくっちゃ!!」
「俺を殺す気か!!」
直樹が叫んだ。

「そうそう、衣装も重要ですね。」
ギンダは思い出したという顔をした。
「入江くんが一番かっこよく見える衣装にしてね。」
琴子が期待のまなざしを向けると、
「はい。お任せを。」
とギンダが自信たっぷりに笑った。
「以前、肉のドレスというものを考案した有名人がいましたよね?それを参考に肉のパンツということで。」
「ええ!」
琴子が顔をしかめた。
「肉のパンツだなんて…そんなもの履いた後にお風呂に入ったら油だらけになっちゃうじゃない。」
「心配するのは風呂の湯か!」
直樹が琴子を睨んだ。
「大丈夫です。そこで考案したのがこちらです!」
パッとまた画面が変わった。さすがに直樹の顔は貼り付けられていないが、肉のパンツを付けた体があった。
「肉に見えるけど、違います。そこで入江様が一言、『安心してください、プリントですから』と!」
「んなもん、絶対履かねえからな!!」
とうとう、耐えに耐えていた直樹の怒りが爆発した。

「…ギンダさん。」
「はい?」
ギンダはキョトンとした顔で直樹を見た。
「あなたはよく日本をご存知のようだ。ああ、それはもう来日したスターの様子から日本のアイドル事情まで、すべて。」
「おほめにあずかり光栄です。」
「そんな日本通のあなたでしたら、ご存知ですよね、この言葉を。」
「はい?」
「…パクリという言葉です。」
まったく、ここまでよくパクったものだと直樹は呆れていた。
「ええ!もちろん!」
ギンダが言った。
「存じております。こう使うんですよね。」
胸を張ってギンダは言った。
「パクったっていいじゃないか、にんげんだもの。」
「みつをに謝れ!」
思わず直樹の口調が乱暴になった。
「違うわ、ギンダ。こう使うのよ。」
琴子がチッチッと指を振って言った。
「パクリこそクールジャパン!」
「お前は日本の全てに謝れ!」
琴子を怒鳴る直樹。
「そもそもお前は覚えたクールジャパンって言葉をどこかで使おうと狙っていただけだろうが!」

しかし直樹の怒りにも怯えることなく、琴子とギンダは更に話を続けていた。
「もう、トンブリズムは俺の手に負えねえ。」
直樹は諦めの境地で二人が盛り上がるのを眺めた。

「グッズはどうする?」
「もちろん、うちわとペンライトは用意します。ペンライトは入江様の勤務先とお名前を組み合わせて、海に沈む夕日をデザインしてこんな感じで。」
「やーん、素敵!さすがギンダ!最高!」
盛り上がったところで琴子が「ねえ、ギンダ」と声をかけた。
「その…グッズの売り上げって少しばかり、入江くんの所に入らないかしら?」
「入江様のところといいますと、王女様のところということで?」
「そうなの、そうなの。」
「王女様、生活が苦しいんですか?」
「ううん、そんなことないけど。でもね、ほら。来月ファンクラブの更新なのよ。年会費とかかかるし、振込手数料も海外だからお高いから、その足しになれば嬉しいなあって…痛いっ!」
またもや琴子の耳が直樹に引っ張られた。
「退会しろ!今すぐ退会しろ!そうすれば年会費も振込手数料も不要だ。トイレットペーパーを底値で買っても無意味だろうが!!」
まったく、何か賢い奥さん、節約上手だ。これ以上の無駄遣いは存在しない。


その後、何とかギンダと琴子を説得し、直樹のイベント計画は消えることとなった。
「やっぱり盛りだくさんすぎたのかしらね?」
「お前ら、俺を何だと思ってるんだ。」
担いできたトイレットペーパーをドサッと置いて、直樹は我が家に腰を下ろした。
「だってかっこいい入江くんをみんな見たいだろうし…。」
琴子もティッシュをドサッと置いて、直樹の隣に座る。
「でも、やっぱりかっこいい入江くんは私だけのものでいてほしいなあ。」
琴子は直樹の腕をギュッと抱きしめた。
「誰にも見せたくないんだもん。贅沢だって分かってるけど。」
「ったく…。」
やれやれと直樹は溜息をついた。
「そんな風に思っている亭主に、火の輪くぐりにマラソンにパンツ一丁と、何をさせる気だったんだか。」
「ああん、でも入江くんは何をやってもかっこいいわ。トイレットペーパーぶら下げても、まるでモデルさんみたいだもん。すれ違う人、みんな見とれてたの知らないの?」
「そりゃあスーツで5つも担いでいれば何事かと振り返るだろうよ。」
安いからって買いすぎなんだと直樹が睨むと、「エヘヘ」と琴子が笑った。まったくこの笑顔にはかなわないと直樹は表情を緩めた。そしてそのまま琴子の耳に口を近づけ、何かを囁いた。
「…俺のファンはお前一人で十分だよ。」
「…本当?」
返事の代わりに直樹はその可愛い口にキスをする。
そして言った。
「今夜はお前にしか見せない、とっておきの俺を見せるから楽しみにしてな。」
琴子の頭をポンポンと叩くと、直樹はバスルームへ向かったのだった。

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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