日々草子 イリエアン・クリスマス 上

イリエアン・クリスマス 上






「真っ赤なお鼻のトナカイさんは~♪」
コトリーナの明るい歌声がナオキヴィッチの執務室に朝から響いていた。
「完成!見て見て、王子様!」
「ジャーン」という声と共にコトリーナが見せたのは飾りつけられたクリスマスツリーであった。
「ったく、いくつ飾れば気が済むんだよ。」
「いいじゃないですか、クリスマスなんですもん。」
この部屋の他にも二人の居間、寝室にツリーは飾られている。全てコトリーナの手によるものである。すでに王宮の大広間に立派なツリーが構えられているのだからそれで十分だとナオキヴィッチは思うのだが、妻はそれでは物足りないらしい。
「これで王子様の寂しい執務室も華やかになりましたね。」
「寂しい執務室で悪かったな。」
一言余計だと思いつつも、はしゃぐコトリーナを見るのは悪い気分ではない。

「クリスマスといえば、私の出番ですしね。」
「は?」
「まさか」とナオキヴィッチはペンを止めた。
「まさか、お前…また無謀なことを…。」
「クリスマス、それはパティシエが一年で一番輝く時です!」
両手を広げクルリとコトリーナは一回転した。やはりとナオキヴィッチは額に手を当て俯いた。
「今こそ、この腕を奮う時!いざクリスマス!」
広げていた両手を天へ突き出すコトリーナ。
「奮う腕もないくせに。」
「え?」
「クリスマスケーキはヨシヤに頼んでいるだろ?お前がすべきことは何もないはず。」
「そんなことありませんよ?ヨシヤくんにお願いしたのはお義父様たちと食べるケーキ。私たち二人のケーキは注文していません。」
「二人のケーキ?」
「はい!」
冗談じゃないとナオキヴィッチは青ざめた。甘いものが苦手で家族で食べるケーキもうまいこといってコトリーナに自分のものを食べさせるつもりだったのに、二人のケーキだと?
「修行してきた腕をふるって最高のスウィートなケーキをお届けします、こうご期待!」
「クリスマスにスイーツテロ攻撃か…。」
「ん?」
「いや、そんな張り切らなくても…。」
「あ、いけない。そろそろ出かける準備しなくちゃ。」
暖炉の上の時計を見てコトリーナは慌てた。
「出かけるのか?」
「はい。ヨシヤくんのお店の手伝いです。」
「また?」
「さっきも言ったでしょう?クリスマスはパティシエの書き入れ時なんですよ。弟子として手伝いに行かないと。それにヨシヤくんの作る様子を見て勉強できるし。」
どこの国の未来の王妃がケーキ屋の手伝いをするのか。だがそんなことコトリーナには何の問題もないのである。



「それじゃあ、こちらはお願いするわね、コトリーナちゃん。」
「はあい、任せて下さいね!」
「値段とよく出るお釣りの額の一覧はこちらね。」
「わあ、すごく助かります!」
手伝いといっても、コトリーナの真の腕を知っているヨシヤ夫婦がケーキ作りをさせるわけがなかった。コトリーナに頼んだのは店番である。予約のケーキ作りにてんてこ舞いのヨシヤであるが、通常営業を休むわけにいかない。ヨシヤの妻もケーキ作りの手伝いがある。そこでコトリーナに頼むことになったというわけだった。
「でもトシヤのお守までお願いしちゃって悪いねえ。」
連日の疲れで目の下に作ったクマが痛々しいヨシヤが厨房から出てきた。
「そんなこと全然。それよりヨシヤくん、大丈夫?」
「ああ。ここを乗り切れば少し楽になるしね。」
「王宮のケーキも私が作った方が…。」
「いやいやいや!!」
「バブバブバブ!!」
ヨシヤと妻、そしてコトリーナにおぶわれているトシヤが同時に声を上げた。
「そんな、コトリーナちゃんが作ったらどんな…あ、いや、妃殿下に作っていただくなんて!」
「そうよ、コトリーナちゃん!ここのお手伝いだけでも本当、助かっているのよ?」
「そう?」
「バブゥ!」
「ほら、トシヤもコトリーナちゃんと店番できて喜んでるからさ。」
「そう?私も嬉しいわ、トシヤくんとお店番できて。」
「ばぶぅ!」とトシヤが声を上げた。赤ん坊にしてすでに父親の店の将来を案じているかのようである…。



「いらっしゃいませ!」
コトリーナがトシヤと店番を始めて一時間後、若い男性客が一人で姿を見せた。菓子店に男性客は珍しい。
「え、ええと…おすすめとかありますか?」
平凡を描いたような顔をした男性客が少し恥ずかしそうに訊ねる。
「どれもおいしいですよ!」
それでもコトリーナは自分が特に好きなクッキーを教えた。
「じゃあ、それにしようかな?」
「ありがとうございます!」
コトリーナは嬉々としてクッキーを袋に入れた。
「はい、お釣りです。ありがとうございました!」
買い物を終えてもその男性は店を出ようとしなかった。
「その子、可愛いですね。」
「まあ、ありがとうございます。」
自分の子ではないが、友人の子を褒められて素直に嬉しかったコトリーナは礼を言った。
「またどうぞ」という声に見送られ、男性客は店を出てきた。

「時々あの子、店で手伝いをしているんだよな、よかった、やっと会えた。」
コトリーナから渡されたクッキーを男性はギュッと抱きしめる。実はコトリーナに密かに想いを寄せていたのであった。
「そっか、子供抱えて苦労しているんだろう。僕が支えてあげたいものだ。」
そうつぶやくと男性は名残惜しそうに店を振り返りながら、家路についた。



「…何が子供抱えて苦労している、だ?」
男性が帰って行くのを苦々しい思いで見ているのは、身を隠していたナオキヴィッチであった。コトリーナの張り切りぶりが心配で、何か騒動を起こさないかこっそり様子を見に来た…というのは本人が自分に言い聞かせている言い訳であり、実のところはコトリーナのおやつが食べられなくて面白くなくて来てしまったのである。
「ったく、あんな貧相な顔して勝手なことを。」
舌打ちしたところで、慌ててナオキヴィッチは物陰に身をひそめた。コトリーナが店から出てきたのである。
「ほうらトシヤちゃん、お外の空気を吸いましょうね。」
「ばぶぅ。」
背中のトシヤを揺らしながらコトリーナが話す。が、ナオキヴィッチはその姿に目が点になった。
「あいつ…何て恰好をしているんだ!」
ナオキヴィッチが仰天するのも無理はない。コトリーナは頭にサンタクロースの帽子、そして真っ赤なサンタ服、しかもミニスカートだったのである。
「ドレスはどうした、ドレスは!!」
コトリーナに聞こえないよう、口をパクパクさせるナオキヴィッチ。そんな夫の視線に気づくことなく、コトリーナとトシヤは店内へ入って行った。



一度王宮へ戻ったナオキヴィッチであったが、コトリーナが帰る時間を見計らいまたもやこっそりヨシヤの店にやってきた。
「失礼。」
「すみません、もう今日は店は終わりで…あれ?」
片づけをしていたヨシヤは驚いた。
「以前、お会いしたことが…。」
以前、コトリーナと浮気しているとか何とか言って自分を締め上げてきた、見目麗しい若者ではないか。
「あ、あの…。」
「コトリーナちゃんなら、もう決まった人はいるんですよ!」
こういう時強いのは女性である。ヨシヤの妻が夫を庇うように前に出てきた。
「だからあなたがいくらうちのを誤解したって無駄なんですから!」
「誤解はそちらの方だ。」
ヨシヤの妻の迫力に負けまいと、ナオキヴィッチは冷静に言った。
「そういう用件じゃなく。」
「じゃ、どういうご用件で?」
あれだけ騒いでおきながらとヨシヤの妻は疑いの目を向けたままである。
「…俺はこの国の風紀委員会のメンバーだ。」
「風紀…委員会?」
自分で言いながらもっと他にましな言い方はなかったのかとナオキヴィッチは自己嫌悪に陥った。見てみろ、トシヤ夫婦は明らかに疑っている。
「本当だ、ほら。」
口にしてしまったものはもう仕方ないと、ナオキヴィッチはチラリと王室の紋章を見せた。
「まあ…確かに。」
さすが王宮出入りパティシエ。紋章を見てすぐに分かったらしい。

「それで風紀委員の方が何か?」
もしや王宮に行く時の格好に問題がと夫婦は不安になった。
「先ほどの女店員についてだが。」
「え?」
ドキリとするヨシヤ夫婦。もしやコトリーナがここに来ていることで問題が発生したのだろうか?風紀委員ならばコトリーナの顔も分かっているのだろうか?
「な、何か?」
「あの格好はいかがなものか。」
ナオキヴィッチは厳しく言った。
「あんなに足を出して、あのようなはしたない恰好をさせるのが、この店の方針なのか?」
「あれは違うんです。」
トシヤが真っ青になって否定した。
「すみません、元は私が悪いのです。」
「主の趣味だと?」
妻がいて何てことをコトリーナにさせるのだと、ナオキヴィッチの目が光る。場合によっては牢獄へ…。
「そうじゃなくて。私の注文ミスだったんです。」
「ミス?」
ナオキヴィッチはヨシヤの妻を見た。
「ええ、そうなんです。あれ、実はうちの亭主が着るつもりで注文したんです。」
「お前が?」
「はい。でも寝不足でボーッとしていたせいで注文番号を間違えて書いちゃって。それでミニスカートが来ちゃったんです。」
「取り換えようと思ったんです。でもコトリーナちゃんがだったら自分が着るからって。うちの亭主の仕事を増やす必要はないからって。優しい子なんです。」
「優しさにも程がある…。」
「え?」
「あ、いや。事情はどうであれ、あの格好は我が国の風紀を乱す。もっと露出の少ないものを着せるように。」
「は、はい!分かりました!」
ヨシヤ夫婦は深々と頭を下げ、風紀委員のナオキヴィッチを見送った。



「おい、そろそろ休むぞ。」
「え?あら、もうこんな時間。」
居間で読書をしていたナオキヴィッチが妻を見た。コトリーナはずっとスケッチブックに向かっていた。
「ったく、人の世話がお前は本当に好きなんだな。」
「だってヨシヤくんにはお世話になっていますもん。」
「他人の亭主の世話もいいけどさ。」
ナオキヴィッチがコトリーナの隣に座った。そしてその小さな顎に手を添え自分の方をを向かせた。
「自分の亭主の世話も忘れないでくれよ?」
「王子様…。」
二人はそのままキスをする。いい雰囲気になった、寒空に立たされた礼をしてもらわねばとナオキヴィッチがコトリーナを寝室へ誘おうとした時である。
「ごめんなさい、もう少し私はやることがあるので。」
「…あ?」
「ほら、これです。」
コトリーナが抱えていたスケッチブックを見せた。そこにはお世辞にも上手とはいえないケーキの絵が描かれている。
「クリスマスケーキ!どんなものにするかまだ考えがまとまらなくて!」
「そんなの適当…。」
「年に一度のパティシエの腕を自慢する時です。納得のいくものを考えたいの!」
そしてコトリーナはまたスケッチブックに向かい、ああでもない、こうでもないと唸りだした。
「…それじゃ、お先に。」
ここで「あまり無理するな」と頬にキスでもすればいい夫だろうが、それはできないのがナオキヴィッチの弱い所であった。





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ナオキヴィッチ……いい加減……コトリーナの旦那さんとして、トシヤ夫婦の前にあらやれたら?
いかかですか?
と思いましたが………
あれほどの騒動を起こしたから……無理っぽいですね………
あ~また、風紀って…次から次えと…ナオキヴィッチ王子…コトリーナが心配なのは解りますとも…
職務放棄して…コトリーナに付きっきりでケーキ作りしてみたら?どうでしょう?
案外、いい刺激になんのでわ?

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メリークリスマスe-489

はしゃぐコトリーナの可愛い絵を思い浮かべ、私も嬉しくなりました♪

ヨシヤくんのお店のお手伝いで構ってもらえなくて様子を見に来たナオキヴィッチ♪
慌てて物陰に身をひそめるナオキヴィッチ(笑)
真っ赤なミニスカートのサンタ姿のコトリーナを見て、目が点・口をパクパクさせるナオキヴィッチ(笑)
~~~愛嬌のあるパンツ王子様最高!!!(爆)
見目麗しい風紀委員のナオキヴィッチとヨシヤ夫婦の絶妙な(?)やり取り♪(爆)
クスクス♪ニコニコ拝読しました♪
昨晩拝見してそれからずーとニコニコしていました。
そして、様子を見に来たナオキヴィッチから、琴子ちゃんが家出した時の木陰から様子を見ていた入江くんを、ヨシヤくんの店番をするコトリーナから、お会計62万の琴子ちゃんを思い出し、一人で笑っていました^^

コトリーナが一生懸命作る二人のケーキの出来栄えは~?~♪
こちらもあちらも続き楽しみいっぱいです。
ありがとうございます。感謝。

*このシーズン思い出す水玉さんのロッキング。
これから本格的に寒くなりますが、お体気を付けてお過ごしください。

メリークリスマスe-489

はしゃぐコトリーナの可愛い絵を思い浮かべ、私も嬉しくなりました♪

ヨシヤくんのお店のお手伝いで構ってもらえなくて様子を見に来たナオキヴィッチ♪
慌てて物陰に身をひそめるナオキヴィッチ(笑)
真っ赤なミニスカートのサンタ姿のコトリーナを見て、目が点・口をパクパクさせるナオキヴィッチ(笑)
~~~愛嬌のある王子様最高!!!(爆)
見目麗しい風紀委員のナオキヴィッチとヨシヤ夫婦の絶妙な(?)やり取り♪(爆)
クスクス♪ニコニコ拝読しました♪
昨晩拝見して、それからずーとニコニコしていました。
そして、様子を見に来たナオキヴィッチから、琴子ちゃんが家出した時の木陰から様子を見ていた入江くんを、ヨシヤくんの店番をするコトリーナから、お会計62万の琴子ちゃんを思い出し、一人で笑っていました^^

コトリーナが一生懸命作る二人のケーキの出来栄えは~?~♪
こちらもあちらも続き楽しみいっぱいです。
ありがとうございます。感謝。

*このシーズン思い出す水玉さんのロッキング。
これから本格的に寒くなりますが、お体気を付けてお過ごしください。

パンツ太字の文が不正とされたと思い再度投稿しました(笑)

大好きな、コトリーナシリーズですね?優しい、コトリーナー、その、コトリーナに、振り回されてる、ナオキビッチ,かわいい。

なおちゃんさん、ありがとうございます。

大好きと仰っていただけて嬉しいです!ありがとうございます。
コトリーナちゃんに振り回されているナオキヴィッチ、可愛いですよね。私もなかなか可愛い所あるなと思いながら書いてました!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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