日々草子 Mr.Mystery 2

Mr.Mystery 2






相原家はゴテゴテとした造りではなく、静かな日本建築のたたずまいであった。
門をくぐると、そこには日本庭園が広がっていた。おそらく主の好みなのだろう。入江直樹はそこを一人歩いて屋敷へ向かう。と、男の声が聞こえて来た。

「だから、宝の中身を知っているんだろう?」
「何度も申し上げますが、存じ上げておりません。」
怒鳴っているのは若い男。そして相手はおそらく女中だろう。何度も同じ質問をされているのか、女中はほとほと困り果てたといった様子である。

「…何か?」
直樹の視線に気づいた男が睨んで来た。
「君は?」
つかつかと直樹に近づいて来た男、なるほどこれが琴子に言い寄っている人物かと直樹は判断する。
「入江様、お迎えが遅くなり申し訳ございません。」
そこへやって来たのは相原家の家令であった。
「入江?一体何者だ?」
男はジロジロと直樹を見回す。家令の後に琴子が慌ててやって来た。
「いり…。」
琴子が「入江先生」と呼ぼうとする間を与えることなく、
「私も琴子さんの相手の候補者です。」
と直樹は名乗った。
「何をふざけたことを。」
男はフンと鼻で直樹を笑った。
「なるほど、相原家が令嬢の婿を探していると聞きつけてやって来たのか?」
「ええ。」
直樹はあっさりと認めた。
「財産目当てだな。」
「心外ですね。私は琴子さんを見初め、相原氏にお願いしていたのです。仕事で地方に出ており遅くなり、あなたに一歩遅れを取ってしまいましたが。」
「琴子さんを見初めた?どこで?」
「斗南女学校に通われていた時に。一人で歩いていた姿が気になって。私も当時学生でしたので登校の際すれ違っていたのです。」
直樹がそう話している時、琴子の頬が少し赤くなった。が、誰もそれには気づかなかった。
「…ふん。」
直樹の返答が完璧であったため、男は顔を背けた。そしてその場を離れようとしたところ、
「あの。」
と、琴子が呼び止めた。
「はい?」
琴子の前になると、途端に古河禰の表情が変わる。何とまあ分かりやすい男だと直樹が思っていると、
「あの、宝物なのですが…。」
と琴子が口を開いた。
「宝物が何かというのは、本当に父しか知らないのです。私も知りません。家令や女中たちも知らないのです。だから、どうか無理な質問はしないでいただけますでしょうか。」
いかにも勇気を振り絞ってという琴子の様子だった。ところどころ声が震えている。が、それはきっぱりとしたものだった。
「まあ、琴子さんがそうおっしゃるならば。」
渋々といった体で古河禰は相原家を出て行った。琴子が「ふう」と大きな溜息をついた。

「お嬢様…。」
古河禰に問い詰められていた女中が心配そうに琴子に寄る。
「ごめんなさいね、私のために嫌な思いをさせてしまって。」
「いいえ、そんなことは。それであの、こちらは本当に?」
女中は琴子の傍に立っている直樹を見上げた。
「ああ、こちらの方については私が説明をします。」
他の使用人たちも集めてと家令は女中と共に屋敷へと戻って行った。

「入江先生。」
二人きりになったところで、琴子が直樹を見た。
「ああ、私があなたを見初めた云々は芝居です。」
あっさりと直樹が告げる。
「それは…分かっていますが。」
「探偵と言うと不審がられますからね。あなたの婿候補にしておいた方が色々やり易いかと。」
「はい。それよりも。」
「はい?」
「私が斗南女学校で一人で通学していたなんて、そこまで調べることができたのですか?」
琴子が聞きたかったのはそこだった。
「いいえ、それは調べておりません。」
「え?」
「単純な推理です。」
「推理?」
「まず、あなたは私の事務所に一人で現れた。あなたほどの名家の令嬢であれば普通、誰か付いてくるのが普通です。しかしあなたはそうではなかった。しかもそうすることに慣れていた。ということは、普段からあなたは一人で行動している。」
「…ええ、その通りです。」
琴子は驚いて目を見張った。
「ということは、学校も他の名家の令嬢のように車で通学などしていないはず。ということは徒歩通学。この家から徒歩で通学できる学校、令嬢が集まる女学校に絞ると斗南女学校。違いますか?」
「…すごいわ。」
さすが名探偵だと琴子は拍手した。
「ま、推理と呼べるほどのものではありませんがね。」
「ところで」と直樹は話題を変えた。
「先ほどの男性があなたの婿候補ですね?」
「はい。」
「古河禰…。」
「古河禰望夫(こがね・もちお)様です。」
琴子がその男に好感を抱いていないことは一目瞭然であった。



お茶をすることもなく、直樹は屋敷内の案内を琴子に頼んだ。琴子は快く引き受けた。
応接間、家族の居間と順番に辿っていく。いずれの部屋も豪華な装飾品などはなく、いたって質素な造りであった。
「こちらが私の部屋です。」
琴子の部屋も例外ではなく、つつましやかな雰囲気である。
「こちらが母の部屋です。」
寝台と鏡台、そしてテーブルと椅子が置かれているだけの質素な部屋であった。
「相原氏はお仕事で地方にお出かけとか?」
「ええ。」
「ご母堂もご一緒ですか?」
「母は亡くなりました。」
「え?」と直樹は琴子を振り返った。
「このような部屋があるからいると思いますよね?」
おかしいでしょうと言わんばかりに琴子がクスッと笑う。
「私が幼い頃です。父の仕事が成功して、この屋敷を建てて、さあこれから苦労をかけた分幸せにするぞと張り切った所でしたから。私も勿論悲しかったですが、父の嘆きはもっと大きくて。」
寝台の傍にはおもちゃの箱があった。
「起きることができなくなった母の傍で、私はこのおもちゃで遊んでおりました。仕事が終わったら父もこの部屋で。あの頃はここが居間のようなものでした。」
なつかしそうに、琴子は箱からおもちゃを取り出す。人形、粘土、絵描き帳といった類。
「母が亡くなった時は私が一生懸命父を慰めていたらしいのですが覚えていなくて。」
「…すみません。」 
「え?」
絵描き帳を懐かしそうにめくっていた琴子の手が止まり、その大きな目が直樹を見つめた。
「心ないことを言いました。」
「心ないこと?」
「ご母堂がお亡くなりになっていたことを知らずに…。」
「まあ、そんな」と琴子は笑った。
「私も申しておりませんでしたし、先生は何気なく口にされたことですもの。どうぞ気にしないで下さい。」
次の部屋へと琴子は絵描き帳を元に戻したのだった。



「父の書斎です。」
最後に琴子が案内したのは父重雄の書斎であった。屋敷に合った、普通の書斎である。
「そして、あちらが金庫です。」
「宝が入っているのですね。」
「はい」と琴子は頷いた。金庫は重雄の机の傍にある。
「あまり大きくありませんね。」
「ええ。」
「中に何があるかを知っているのは相原氏だけと?」
「はい。私もまさかこの中に宝があるなんて初めて聞いたくらいです。」
直樹は金庫を様々な角度から眺める。琴子は緊張しながらそれを見ていた。
「鍵はどなたが?」
「私です。」
と、琴子が襟の中に手を入れる。そこから鎖を引っ張り出した。その先には鍵が下がっていた。
「父が出張に出る際、私に預けて行ったのです。」
「よほどあなたは信頼されていらっしゃるようですね。」
「というより、古河禰様が無理なことを家の者に言うだろうと。私相手ではさすがに無茶なことはしないだろうと思ったのでしょう。」
いくら何でも琴子を押し倒して鍵を奪うことはしないだろうということらしい。



その後、直樹は琴子から古河禰という男について話を聞くことにした。
「まあ…お名前のとおり、そこそこのお金持ちでいらっしゃるみたいで。」
父の仕事関係の伝手をたどって結婚を持ちかけてきたのだという。
「色々贈り物などしてくださいますが…。」
「あなたの趣味に合わないようですね。」
直樹の言葉は当たったようで琴子は「なぜ?」という顔をした。
「あなたのお部屋の一画に、明らかにあなたのご趣味ではない飾り物がありました。おそらく、あれが贈り物では?」
「ええ、その通りです。せっかくいただいたものだし、一応飾っておかないと悪いかなと。」
「随分と気を遣っておいでで。」
「…もし、古河禰様が宝の中身を当てたら、こうして一生気を遣っていくのですよね。」
「はあ」と琴子はまたもや深い溜息をついたのだった。



琴子に見送られ、直樹は屋敷を後にした。すると門のところで家令が待っていた。
「お気をつけて。」
「…このお屋敷の皆さんは、琴子お嬢様を大切にしていらっしゃるようですね。」
直樹の言葉に「それはもう」と家令は大きく頷いた。
「私どもを家族のように思って下さいますし。体調を崩したら親身にお世話してくださいます。皆、本当にいいお家にご奉公できたと思っております。」
「だから」と家令はグイと直樹に近寄った。
「どうか、お嬢様をお助け下さいませ。何卒、名探偵の入江様に宝物の中身を当てて下さいますように。」
「努力はしましょう。」
それだけ言うと直樹は門を出たのだった。



「あの方、探偵の先生でいらしたんですねえ。」
応接間で片付けをしながら琴子に話しかけているのは、あの古河禰に困らせられていた女中だった。
「ええ、そうよ。」
「残念ですわ。お嬢様のお婿様になっていただけたらいいのに。」
宝の中身を当てても結婚しないことを知り、心底女中は残念がっていた。
「何ということを」と言う琴子であるが、その頬はまた赤くなっている。
「だって背も高いしお顔はとても綺麗で。それに…。」
と女中は声を潜めた。
「…古河禰様より頭はずっと良さそう。」
「それは私も同意するけれど。」
残念だ、残念だと繰り返す女中を見ながら、それでも嘘でも通学途中に見初めたと言ってもらえたことはいい思い出になると琴子は嬉しかった。





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水玉さん、こんにちは^^

この男だれ!?と、、、わくわく
“古河禰望夫”この読めない、小難しい名前だれ!?(笑)“こがね・もちお”!(笑)さすが水玉さん!ナイス!
入江探偵の推理にふむふむ~なるほどと、わくわく♪

頬を赤らめる可愛い琴子ちゃん♥
お母さんの寝台の傍で、それが当たり前のようにおもちゃで遊ぶ幼い琴子ちゃんが目に浮かび(涙)。。。
入江くんの芝居で言った話を思い出になると喜んでいる琴子ちゃん。
今回、幼い琴子ちゃんを思うと心が痛みましたが、健気な可愛らしい琴子ちゃんに会え、ほんわか優しい気持ちになれました。ありがとうございます。

今のところ「ぶっ!!」と笑う要素ゼロです!(笑)
宝物の中身?・「ぶっ!!」?~続き楽しみにお待ちしております♪

水玉さん更新ありがとうございます♪

こがねもちお。ぷぷぷーーーーっ!
水玉さんの超素晴らしいセンスに大爆笑です!!
漢字が読めなくて私ってお馬鹿かも??
とドキドキしましたが
こがねもちおだって!!!おもしろくて吹き出しましたよ!!
最高!!
さっどんな結末が待っているのかとても楽しみです。
続き待っていますね。
そしてお体、気を付けてくださいね。

ゆみのすけさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。
こがねもちお、いや~これは結構な方に受けていただけて私も嬉しかったです。
こういうネーミングは私好きなのですが、つけるといかにも「こいつは大したキャラじゃないな」とバレるので迷うところだったりするんですよ。でも、今回はコメディだからいいかと。
私もパソコンでひらがなで打って、変換キーをポンと押したら一発で出てきたのでこれにしただけですよ!「もちお」って「望夫」という書き方もあったかと驚きました!

こっこ(*^^*)さん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。
その後、口唇ヘルペスはいかがでしょうか?イベント前だと不安ですよね~。
私も湿疹にまだ時折悩まされております。湿疹というか痒みなんですけれど。
年末は忙しいですよね。お体に気をつけて下さいね。
ネーミング、受けていただけて嬉しいです!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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