日々草子 Mr.Mystery 1

Mr.Mystery 1

イタキス期間に合わせて書きたいと思っていたお話をお試しにアップしてみます。
…ちなみに、このネタを考えるだけでかなりの日数がかかり、しかもその割にくだらないという。
どれくらいくだらないかというと、プロット(といっても箇条書きで三行書いただけ)を母に見せたら「ぶっ!!」と噴き出されたほどで。

☆☆☆☆☆






その探偵事務所はひっそりと構えられていた。そのドアがノックされたのは、ある昼下がりのことだった。
「こちら、入江先生の事務所ですよね?」
現れたのは、若い女性だった。長い髪の毛を背中へ垂らし、派手ではなく、さりとてよい仕立てのワンピースを着ていた
「はい。」
最初に応対したのは、入口側に席を構えていた少年だった。
「お手紙を出した相原と申します。」
「お待ちしておりました。」
少年は女性を傍らの応接スペースへと導いた。そして奥のドアをノックして入った。
「相原家の使いが来たか。」
ドアの向こうは所長室であった。所長は新聞を畳みながら少年を見る。
「え?使いって女の人なの?」
「女?女が来たのか?」
「うん。ああ、女中かな?お兄ちゃん。」
少年は所長の弟であった。所長は新聞を机に放り出すと、側に掛けてあった背広に袖を通した。



「お待たせしました。所長の入江です。」
応接スペースに姿を見せた所長を見て相原と名乗った女性は「え?」と声にならない声を上げた。そして所長が自分の前に座る様子を目で追いかけていた。
「何か?」
女性の視線に所長は怪訝な顔をする。
「いえ、想像よりお若い方だと驚いて。」
女性はサッと目を伏せる。そんな様子に構うことなく、所長は名刺を出した。
「入江探偵事務所、所長、入江…直樹…先生ですね?」
「先生と呼ばれるほどのものではありませんが。」
「それであなたは?」という視線を所長―入江直樹は向ける。
「私は相原琴子と申します。」
「いただいたお手紙でお名前は拝見しております。」
そう言いながら、直樹はまさか当人が来るとは思っていなかったので少し驚いていた。
「相原家といえば、魚関連の事業で成功されたのは…。」
「父です。」
そこまで調べていたのかと、今度は琴子が驚く番であった。
「調べうる限りのことを事前に調べるのは当然のことです。」
そう言いながら直樹は素早く知識を引き出していた。相原家、確か当主の重雄が魚関連の事業で成功し、多額の財産を築き上げたとか。

「…成金だと思われてますか?」
沈黙が気になったのか琴子がおずおずと尋ねた。
「いえ、そのようなことは。」
直樹は本題へ入ることにした。
「お手紙では詳しい相談内容は面会時にとありましたね。」
「はい。」
「それで?」
「あの…本当にくだらなくて。」
「まだお話を聞いていないのでくだらないかどうかの判断はつけられませんが。」
おどおどとした琴子の様子と対照的に、直樹は淡々としている。お茶を持って来た裕樹が、いつもそうしていると言わんばかりに、少し離れた所に座って二人の様子を見ていた。

「実は…私と結婚したいと仰って下さる方がいまして。」
「それはおめでとうございます。」
眉ひとつ動かさず直樹は言った。
「いえ、あんまりそういうわけでは。」
「できれば要点をお願いできますか。」
依頼人の機嫌を取ることはない、気を遣うこともない直樹である。それでも探偵という対人関係が重要な商売を成立させているのは有能だからだが。
「すみません。」
「謝らなくても結構です。」
「ああ、これでは相手の女性が泣き出してしまうのでは」と裕樹は二人を見ながら考えていた。過去にもこのような態度で女性の依頼人が泣いて去って行ったことが何度あったか。

しかし、今度の依頼人はどうやら違うらしい。泣き出すと直樹も思ったのだが琴子はスカートをギュッと握りしめて、
「私はあまり気が進まないのです。だから最初は父を通して何度もお断りしました。それでも相手の方がぜひにと、しかも婿になって相原を名乗ってくれると。」
と、はっきりと言った。その目には涙は浮かんでいなく強い意志が浮かんでいた。
――珍しい令嬢だ。
直樹は少し見直したが、もちろんそんなことは表情に少しも出さない。
「一人娘でいらっしゃるんですね。」
「はい。でもやはり気が進まなくて。」
父は自分の気持ちを尊重してくれるので無理強いはしなかった。が、周囲がとやかく騒がしかったと、琴子はたどたどしく話した。相手は学歴も人柄も立派で、こんないい縁談はないと周囲が勧めてとうとう身動きが取れなくなってしまったらしい。

「それで父が一つの案を出したのです。」
「どのような?」
直樹はメモを取らなかった。必要な情報、不必要な情報を素早く分けて頭に入れている。
「我が家の宝を当てたら、結婚を認めようと。」
「…え?」
聞いていた裕樹が思わず声を上げてしまった。すぐにまずいと思ったのか、気まずそうに俯いた。
「いえ、そう声を上げてしまうのも無理はないのです。人様が聞いたら本当にくだらないと思うでしょう。」
「それでもあなたは安堵していらっしゃるのでしょう?」
直樹が琴子の胸中を言い当てる。琴子は少し間を置いた後、小さく頷いた。
「それで?お話を聞いたところ私の出番はないようですが。」
とりあえず約束だから話は聞いた。
「いえ、それで…その…。」
再び琴子は口ごもってしまった。今度は急かすことなく、直樹は琴子が口を開くのを待った。

「入江先生にも宝の中身を当てていただきたいのです。」
「は?」
一体この娘は何を言っているのか。
「なぜ私がそうしなければいけないのですか?」
「いえ、別に私と結婚してほしいとかそういわけじゃないのです。」
慌てて琴子が弁明する。
「あの方…私と結婚したいと仰って下さる方なのですが、どうも当ててしまうのではないかと。」
相原家に度々やって来ては、色々探しまわっているのだという。その様子を見ていて当てる可能性が高くなってきたことに琴子は不安を覚えていた。
「それで、もしあの方以外にも当てた方がいらしたら…。」
「話は白紙に戻るだろうと。」
「はい。」
愚かな考えだと笑われることは覚悟の上だと、琴子の顔が語っていた。それでも藁にもすがる思いで琴子はここに来たのだった。

これは絶対断るに違いないと裕樹は信じて疑わなかった。直樹が依頼されるのは財産家からの極秘事項が多い。相原家も財産家であることは同じだがこのようなくだらない依頼はいまだかつて、この入江探偵事務所に持ち込まれたことはない。いつ兄が断る言葉を口にするかと思いつつ、入るあての外れた依頼料を兄譲りの頭脳で素早く計算していた。

「…私のことはどちらで知ったのですか?」
所が直樹の口から出たのは裕樹が想像していたものとは違った。
「え?」
それは琴子も同じだったらしい。
「どちらで知ったのかと。」
自分の仕事は新聞には報道されないように頼んでいる。琴子はどこで知ったのだろうか。
「家令です。」
家令とは使用人の監督者である。
「入江先生のお噂を聞いていたようで。それで教えてくれました。」
「そうですか。」
答えを聞き終えると直樹は立ち上がった。そして窓の側に立ち外を眺めた。琴子は何か失礼があったのかと不安になりながらその背中を見ていた。裕樹も一体兄が何を考えているのか、意外な行動に驚きつつ見ている。


「…明日、お邪魔してもいいでしょうか。」
「はい?」
直樹は琴子の側に戻って、繰り返した。
「明日、お屋敷へ伺ってもいいでしょうか。」
「そ、それは…。」
「依頼をお受けしましょう。」
琴子の顔が初めて、明るいものとなった。
「ありがとうございます!!」
ならば住所をと琴子が言いだすのを、直樹はやんわりと止めた。
「それくらい調べれば分かることですので。」
何度もお礼を言いながら、琴子は事務所を後にした。



「…どういうこと?珍しいね。」
待ちかねたように裕樹が兄の側に近寄って来た。
「あんな意味不明の依頼を引き受けるなんて。」
「…人探しだ、何だということに飽きていたところだからな。」
直樹は素っ気なく答えた。裕樹は納得できていなかったが、これ以上問い詰めても何も答えがないことも知っていたので引き下がるしかなかった。
「裕樹。」
自分の仕事に戻ろうとした弟を直樹が呼び止める。
「お前、探偵の弟としては失格だな。」
「へ?どういうことさ?」
「さあ?」
相変わらずの兄の態度に裕樹は面白くないという顔をして、自分の席に戻ったのだった。




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新作来た~!!

待ちに待った新作ですね!
天才入江直樹は、今度は探偵さんですか~。

続きが気になる~O(≧∇≦)O

琴子ちゃんの結婚阻止!アーンドラブい展開にも期待しますね、水玉さん♪

お母様が「ぶっ!!」と噴出された!?(笑)
私も探偵気分で楽しんでいます♪

「お前、探偵の弟としては失格だな。」
なぜ!???そこも知りたいです!
続きにわくわくです♪

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六華さん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ありません。
楽しんでいただけたらいいのですが!
六華さんご期待のラブい展開はまだかもしれませんが、いつかそこまで書けるといいなと思っております!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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