日々草子 入江法律事務所 50

入江法律事務所 50

こんな情けない入江くんが嫌だという方も多いだろうに…(私は書いていて結構楽しいのですが)。
いつまで続くんだと、うんざりされている方も多いですよね。すみません!

☆☆☆☆☆







「信じられない、本当に西垣先生ってろくなことしないんですね!!」
おそらく父親から話を全て聞いたのだろう、琴子はずっと怒っていた。
「あんな人にお願いするのが間違いだったんですよ。」
「…俺の判断ミスだ。」
いくら冷静さを失っていたとはいえ、本当にその通りとしか認めようがない。
「おじさん、また俺のことすごい呼び名をつけてるんだろうな。」
「えっ?」
途端に琴子が挙動不審となる。目を上下させ、本棚の本をさかさまにし始めた。
「いいさ、もう何と呼ばれても驚かないよ。」
事前に聞いておいた方が心の準備もできると直樹は琴子に話す。
「で?何だって?変態パラダイスDVの次は?」
「え、ええと…。」
本棚の本を一段全てさかさまにした後、琴子は口を開いた。
「その…もう…呼び名を考える価値すらない男だと…。」
「…そこまで俺の評判下がったか。」
「はあ」と深い溜息をついた。
「先生が悪いわけじゃありません。いきなり変なことを騒ぎだすお父さんが悪いんだし、ろくなことを言わない西垣先生も悪いんです。先生は一生懸命やってくれているのに…。」
おそらく琴子も顔を合わせる度に、重雄にとりなしてくれているのだろう。が、まったく変化はないことは事実である。

「やっぱり他人の力を借りようとするのはやめた方がいいんだと思います。」
「そうだな。」
二人の力を合わせて困難な状況を乗り越えようと、直樹も思った。時間がかかっても、重雄に理解してもらわなければ。
「それで、私に考えがあるんです。」
琴子の目がキラキラと輝き出す。それを見た途端直樹の心臓はドキドキと鳴り始めた。
「お前の考え?」
「はい!」
一体それは…?



「ああ、今日は一段と素敵ですね、先生!」
数日後、事務所で琴子はうっとりと直樹の全身を眺めていた。

「いつものスーツだけど。」
「そんなことありません。今日の先生は輝きがすごいです!」
と言いながら、琴子は直樹の肩やら背中に懸命にブラシをかけている。ズボンのすそまで丁寧にかけている。
「やっぱり、先生が一番輝いているのは法廷だと思うんです!」
直樹が弁護士として活躍している場面を重雄に見せよう、それが琴子の考えであった。
「先生のお仕事ぶりを見たら、絶対にお父さんも考え変わります。こんな立派な先生なんだって!」
琴子が考えるようにうまくいくだろうかと、直樹は不安を隠しきれずにいた。が、仕事ぶりを見学してもらうというのは悪い考えでもないだろう。きちんとした仕事をする人間だと分かってもらえば、変態パラダイス野郎と呼ばれるところまで評価が上がるかも…いや、そんな呼ばれ方自体おかしいのだと、直樹は考え直す。

「ねえ、先生?やっぱりこっちの方が目立っていいんじゃありません?」
と、琴子が直樹の喉元にあてがったのはド派手な黄色の、琴子の顔ほどもあるであろうドでかい蝶ネクタイであった。
「法廷って殺風景だし、華を添えるといった意味でも…。」
「お前が頭につけてろ!」
蝶ネクタイを琴子の髪に乗せる直樹。やっぱり全てを琴子に委ねるのは危険なのだ。
「じゃ、せめてネクタイの手直しなぞ…」と頭に蝶ネクタイを乗せたまま、琴子は直樹のネクタイに手を伸ばした。この間まで出過ぎた真似だともじもじしていたのにと直樹はおかしくなる。
「はい、できました!これで準備完了!」
「まだだよ。」
「へ?」
ネクタイから離れかけた琴子の両手を直樹はすばやく握って、琴子の口にこれまたすばやくキスをする。
「…これで本当に準備完了。」
「…もう、先生ったら。」
琴子は恥ずかしくて蝶ネクタイで顔を覆ってしまった。それが可愛くて隠れていない頬に直樹はキスをした。



重雄に見学してもらう法廷は民事である。
「ええ?宿命のライバル船津検事との対決の方がいいんじゃないですかあ?」
民事に決めた時、琴子はとても不満そうだった。
「いや、民事にしておいた方が無難だ。」
「だって裁判官泣かせって異名まであるのに?」
だから見せたくないのだと直樹は言いそうになるのをこらえる。どういう理由からそうなるのかいまだ分からないのだが、船津相手だとどうもおかしな言動を取ってしまうのである。そんな所を見られたら今度は琴子を退職させられてしまうかもしれないではないか。
「まあ、確かに刑事はやめておいた方がいいかもしれませんね。」
少し考えた末に琴子は納得したようだった。
「船津検事だけでも鬱陶しいというのに、大蛇森検事部長まで出てきたら、もう滅茶苦茶になっちゃいますしね。」
そんなことを裁判所で話していると、重雄の姿が見えてきた。
「お父さん、こっちこっち。」
琴子が手を上げて呼ぶと、重雄が「おう」と返しながらやってくる。

「どう?ここが裁判所よ?」
琴子が言うと、
「いちいち手荷物検査というのが面倒だ。」
と今日も機嫌の悪い重雄であった。
「仕方ないでしょ?そういう規則なんだもの。」
「だが、検査をしないで入っていく奴らもいたぞ?」
「弁護士さんは検査しないのよ。先生もいつもスーッって入っていくもの。私は毎回ちゃんと手荷物チェック受けているわよ。」
「すみません、ご足労頂いて不愉快な思いをさせてしまって。」
裁判所職員でもないのになぜか直樹は謝ってしまった。
「人を疑って金を儲けている人間が集う場所だけあるな。」
ギロリと直樹を睨んだ重雄に「もう、そういう言い方しちゃだめでしょ」と琴子が叱る。
「あ、もう始まる時間です!とにかく、中へ入りましょ。さ、先生も!」
琴子に背中を押され重雄と直樹は法廷へ入った。



法廷が始まるなり、直樹はギョッとなった。
―― 訴訟資料を間違えた…。
目の前で繰り広げられている法廷と、自分の前に広げている資料。それが全然違うのである。仕事ができるだけに抱えている案件は多いから気をつけていたのに…。この資料は琴子が用意して鞄に入れてくれたものだが間違えてしまったらしい。もっとも琴子に任せて自分でもチェックしなかったことも悪い。
と、そのような言い訳を心の中で喋っている場合ではない。
目の前では相手の弁護士が証人を尋問している。何とかこの事件のあらましを思い出そうと直樹は目を閉じた。そうだ、あの慰謝料請求事件に違いない。この資料も損害賠償の請求事件だ。似たようなものだ。
それに今日は重雄がいるのだ。琴子の前でみっともない姿を見せるわけにいかない。目を開けた直樹は傍聴席を見た。琴子をじっと見つめる――。

――先生、どうしちゃったのかしら?
心配するように自分を見つめる直樹の視線に、琴子は緊張した。もしかしたら、隣の重雄と法廷中に喧嘩するのではと心配しているのかもしれない。
――大丈夫です、先生のパーガールとしてそんなみっともないことはしません!
力強く頷いたが、それでも直樹はじっとこちらを見ている。

――まだ心配しているみたい。どうすれば安心させてあげられるかしら?
琴子は考えた。「あ、そうだ」と思いつき、鞄をゴソゴソとあさった。
――先生、大丈夫です!これ、ちゃんと持ってますよ!
『ガラスの能面』のファンブックを無事買えたことをまだ報告してなかったことを思い出したのである。ちゃんと買ったことを教えようと琴子はチラリとその表紙を見せた。

――あいつ、まさかこの場でマンガ読む気か!?
突然マンガを出した琴子に直樹は眉をひそめた。まったくあの話は本当に理解しかねる…と言おうとして直樹はふと思い出した。そう言えば無理矢理琴子に読ませられた時に、今と似た場面があったような。
そうだった、主人公が台本をすり替えられて舞台上で困った場面があったはず。思い出せ、あの時主人公はどうしたか…そうだ、うまいこと自分のペースに持って行って成功させた!俺も似たような状況なんだ。

「被告側、尋問をどうぞ。」
「はい。」
直樹は自信に満ち溢れた様子で立ち上がった。
「証人にお尋ねします。原告はご主人の不倫相手である田村さん、すなわち被告に苦しめられていた、そう仰るのですね?」
「は、はい。」
イケメンの弁護士登場で女性の証人はポッと顔を赤らめた。
「なるほど。田村さんの存在で苦しんで心をすっかり弱らせてしまったと…。」
「は、はい。」
「あなたは誰にそれを聞いたのですか?」
「え?それは奥さんに…。ご近所のよしみで悩みを聞いてあげていて。」
「ほう。奥さんはずいぶんおしゃべりのようですね。」
「それは!私が一番の相談相手だったと…。」
「あなたはそれをどのような思いで聞いていましたか?」
「それは…あんまりだねって。」
「…本当にそう思っていましたか?」
「え?」
直樹はコツコツと証人の周囲を歩いた。
「丸山さんの不倫相手は被告ではなくあなたでは?」
「なっ!!」
「異議あり!!被告側代理人は憶測でものを言っています!」
被告の代理人が言う。

「ちょっと!何で突然そんなこと言うのよっ!!」
顔を真っ赤にしてカンカンに怒る証人。
「証人、あなたが先ほどから気にしているそのネックレス。どちらでお求めですか?」
「こ、これ?」
ネックレスを証人はギュッと握りしめる。
「べ、別にどこだっていいじゃないの!」
「銀座のAというショップでは?」
「えっ!?」
なぜそれをという顔をする証人。
「そのネックレスはペアで売られているものですよね?しかも限定100セット。違いますか?」
「そ、それは…。」
「そこに座っている原告の夫である丸山さんがしているネックレスが、そのペアの片割れなのでは?」
「え!」と原告の夫が顔を青ざめさせた。すると原告席にいる妻がギロリと夫を睨んだ。
「あなたは自分と丸山さんの関係がばれそうになるのを恐れた。そこで被告である田村さんを相手としてでっちあげて原告である奥さんに吹聴した。それを信じた奥さんがこの訴訟を起こした…これが真相では?」
「ち、違います!」
「ではAに出向いて、そのペアネックレスを購入した人物の名前を確認してきましょうか?いや…こんな馬鹿なことを計画するあなたたちだ。きっと二人でのこのこ出かけて行ったのでは?」
「そ、そんな…。」
証人は崩れ落ちた。あっけなく真実は明かされたものだと直樹は少々物足りなさを感じるくらいであった。
それにしても、琴子へ贈る指輪を探していた際、たまたま立ち寄ったAでそのセットに目を止めてなければ分からなかった…直樹は我ながら記憶力のよさにほくそ笑む。
「尋問を終わります。」
毅然と言い放ち、直樹は自分の席へ戻った。決まった――これで重雄も少しは見直して、変態パラダイスくらいまで格上げしてくれるかも…いや、その呼び方はダメなんだと突っ込んでいた時だった。

「原告側代理人、質問があります。」
「はい?」
裁判官が直樹に尋ねてきた。どこでネックレスの秘密を知ったのかと聞きたいのだろう。丁寧に説明してやろうではないか――。





「あなた、誰ですか?」
「…は?」
何だ、この裁判官は記憶喪失なのか?直樹はきょとんとなった。
「何を仰られているので?」
「それはこちらのセリフです。あなたは誰ですか?」
「私は原告の代理人…。」
「新しく加わった代理人だと?」
「加わった?」
何を言っているんだと直樹は更にきょとんとなる。
「原告側代理人、この人物を新しく追加したのですか?」
裁判官が目を動かした先を直樹は見た。そこには一体この場で何が起きているのだという顔をした、中年の弁護士が「い、いいえ…」と首を横に振っている。
「突然私の席に座っていて…一体何が何だか。」
「私は…平成○×年第2256号事件の原告の代理人ですが。」
直樹が事件名を口にすると、
「その事件は、この事件の後に行われる法廷ですね。」
と、裁判官が呆れたように言った。
「え!?」
直樹が目を丸くすると、
「あなたの担当する事件は、この後、午後2時からここで行われるものです。」
という裁判官の声が、静かな法廷内に響き渡った。
そんな馬鹿な…と直樹は傍聴席を見た。すると重雄が力なく、心底呆れ果てたと言わんばかりに首を横に振って立ち上がる。琴子が何とか止めようとするが、その後を追いかけようか、直樹を放っておけないと迷っている様子が目に見えた――。


「先生、本当にすみません!私が早く中になんて急がせなければ!」
廊下で琴子は直樹に平謝りだった。どうりで資料と全然違うわけだ。それにしてもそんな状況で法廷を務めた自分って結構すごいのではないかと直樹は思う。
「いや、俺も確認しなかったから。」
駄目だ、このままでは仕事に影響を及ぼす。プライベートと仕事はきっちりと分けなければ…。
そこで琴子の携帯が鳴った。
「はい…あ?お父さん?え?え?もう、何でそんなことを今!ちょっと待って、もう!」
「…今度は何だって?」
罵る言葉が浮かんだだけでも儲けものかと、自虐気味に直樹はなっていた。
「ええと…変態パラダイスDV自信過剰弁護士って伝えておけ…って。」
「自信過剰はその通りかもしれない…。」
「そんな!先生、元気を出して!」
琴子の励ましも、今の直樹には右から左へとすりぬけて行くだけだった――。













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あらら!

入江君、頑張れ、琴子ちゃんとの、結婚できる、為に、入江君どうしちゃったの?なんか?へたれ?v-40

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水玉さん、こんにちは。
黄色いどでかい蝶ネクタイを頭にのせた琴子ちゃん~♪
イリコトすごくかわいいです~~♪
冷静な判断をどこかに忘れた入江くん、そうとう焦っている!?
勝利かとおもいきや、きょとんとなる入江くん(笑)
いつの間にか“変態パラダイスDV自信過剰弁護士”(笑)
一途な琴子ちゃんにそっくりで、一途に頑固な重雄パパ♪

二人にはうまくいってほしいけれど、楽しいです♪
気分は、ガッキーです^^♪(笑)

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ア~ア

今晩は~コメントを書くのを遅くなっちゃいました(^_^;)

入江君と琴子ちゃんが辛そうで読んでる私も辛いです(涙)
早くお父さんに許して貰えると良いですね。

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不運は続くよ、どこまでも・・・♪

入江君ファンの方には申し訳ないのですが、大爆笑中です!!

下手にできるやつだから、まったく関係のない裁判までこなしちゃうなんて。

水玉さんサイコーですよ(笑)

裁判長や本当の代理人の人が、もう少し早く「誰?きみ」って聞いてあげればいいのに、ほぼ解決してからそれを聞くなんて。オ・モ・シ・ロ・ス・ギ!

いいじゃないか、呼び名が増えたんだから。

つける価値できたから増えたってことでしょwww

ここからどう挽回していくのか、すごい楽しみ!

水玉さん、次の不運も期待していいですか?

今回も、面白かったです!次回も楽しみにしてます!展開が気になってしかたありません!
それにしても直樹&琴子今日はミスばっかりですねー…重雄がいるから??
水玉さん、がんばって下さい!!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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