日々草子 入江法律事務所 44

入江法律事務所 44

かなり間が空いてしまった…なんてものじゃないくらい間が空いてしまいました。
こういうお話があったこすら、覚えている方がいらっしゃらないでしょう。いえ、無理もありません。
私自身も久しぶりすぎて、メンサの名字ってどんな字だっけと過去作品を探したくらいです。
もし続きを気にして下さっている方がいらしたら、お待たせして本当に申し訳ございませんでした。
(「お待たせして」って使うと「お前の話なんて待っていない」と思われそうで恥ずかしかったりします)
続いているので、前のお話を忘れている方(無理もないことです)は4243からどうぞ。


☆☆☆☆☆





婚約者と人気俳優が自分をめぐって火花を散らしていることなど知るよしもない琴子は、一人興奮していた。
「やっぱり弁護士が光るのは法廷なんですよ、法廷。」
俳優井家メンサが入江法律事務所で見学を開始して二日目のことである。
「そこをちゃんと見学した方がいいですよ。」
「僕もそう思っていました。」
この日もオタクに扮したメンサが琴子に同意する。
「でも先生に応援グッズ壊されちゃったし…。」
「あんなもんを俺の神聖な職場へ持ち込むな。」
「開かれた法廷を目指そうかと。」
「お前に開いてくれなんて、裁判所は頼んでいない。」
直樹に今日も打破された琴子は「ちぇっ」と口を尖らせる。それを見るメンサの優しい顔。そしてメンサを見る直樹の厳しい顔。入江法律事務所には小さな嵐が吹き荒れていた。

「頼むから留守番していてくれ。」
出かける準備を終えた直樹は琴子に言うが、
「そんなこと。だってメンサさんをお連れしないと。」
「一人で来させればいいだろう。」
「あ、でもさすがに裁判所に一人は不安です。」
メンサがすかさず、琴子に味方した。
「できれば琴子さんに付き添ってもらえたらなって。」
「ほら、ほら、ほら!大丈夫ですよ。ちゃんと私がお連れしますから。」
「やっぱり」という顔で、琴子もいそいそと外出の支度を始める。メンサのしてやったりという顔が腹立たしい直樹。

「メンサさん、ラッキーですよ。今日の先生の相手、船津検事なんです。」
「その検事さんが何か?」
「うちの先生の宿命のライバルってやつです!」
「へえ、本当に存在するんですね、宿命のライバル!」
鼻息荒い琴子に、興味津々というメンサ。
「はい!それはもう、有名なんです。」
「“ガラスの能面”のマヨとアユコみたいな?」
「ええ、そうです、そうです。さすがメンサさん!!」
大好きな漫画の登場人物を出され、琴子の機嫌は上昇した。
「先生がアユコ、きれいで努力を惜しまないから。で、船津検事がマヨです。ま、船津検事がマヨみたく天才かどうかはさておき…。」
「…ちょっと待て。」
琴子とメンサの盛り上がりに水を差すかのように、直樹の声が響いた。
「俺と船津がライバル?ライバルの定義に反する言い方だな。」
「へ?」
「いいか?ライバルというのは同等の力を持った者同士をさして使うものだ。お前の使い方だと、俺と船津が同等の力みたいじゃねえか。」
「先生…。」
不機嫌な直樹の前で、なぜか琴子の頬がポッと染まった。
「何だよ?」
「それ…ガラスの能面に出てきた台詞です。いやん、先生。ちゃんと読み込んでいるんじゃないですか。」
「読んでねえよ!それくらい知っていて当然だろうが!」
「遠慮しなくていいですってば。ああ、地道に宣伝した甲斐がありました。」
「読んでない!今度も読むつもりは全くない!」
これ以上付き合ってられるかと、直樹は腹立たしい気持ちで事務所のドアを蹴って出かけて行った。



「へえ、やっぱりスタジオセットとは全然違いますね。」
裁判所の中に入ったことが初めてだというメンサは、しげしげと中を見回す。
「ドラマの法廷って、すごくかっこいいですよね。私もああいう所だったらいいのになってよく思います。」
二人は直樹がよく見える席に陣取った。
「…くっつきすぎじゃねえか?」
その二人を見せつけられているかのようで、直樹は面白くない。
「ったく、冬じゃねえからコートも投げられやしない。」
以前、西垣弁護士が琴子とくっつこうとした時はコートを預けることで席を離すことに成功したが、季節が違う。

「結構人が多いんですね。」
傍聴人が想像より多いことに、メンサは驚いていた。
「そりゃあそうですよ。だって“裁判官泣かせ”の二人が出てくる法廷ですもん。」
「裁判官泣かせ?」
「はい。先生と検事、そう呼ばれているんです。だから傍聴マニアっていうんですか?その辺りで有名になっているみたいで。」
「裁判官泣かせ…。」
メンサはゴクリと唾を飲み込んだ。もしかしたらものすごい争いを目の当たりにできるのではないか。そう思いながらメンサは検察官側を見た。そこにいるのはメガネをかけた「ガリ勉」という言葉がぴったりのヒョロリとした、直樹と同年代の男である。
「一体どんな争いになるのか…。」
メンサが緊張していると、
「おや、これは役立たずの事務員じゃないかい?」
という声が背後から聞こえた。振り返ると、モミアゲが特徴の気持ち悪い容貌の男性が琴子を睨み付けている。

「あら、これはこれは。税金泥棒の大蛇森部長じゃございませんか。今日も一生懸命私たち国民が納めた税金を無駄にしている働きぶりですこと、ホホホ。」
すっかり嫌みに慣れている琴子が余裕で言い返した。
「…だから税金云々言う前に、国民の三大義務を言ってみろと!」
「少なくとも大蛇森部長の相手をする義務だけはないでしょうね。」
「何だと!」
大蛇森と琴子の間に今日も激しい火花が飛び散る。

「…まあ、いい。今日はここまでにしておこう。」
「え?」
突然手を緩めた大蛇森に琴子が拍子抜けする。
「今日は良い日だ。やはりあの噂は噂にすぎなかっただけだ。」
「噂?」
「君と入江弁護士が婚約したとかいう、根も葉もない噂さ。」
「それ、噂じゃなく事実です、ほら!」
琴子が左手を印籠のごとく、大蛇森の前に掲げる。そこには直樹から贈られた婚約指輪があった。
「はいはい、わかった。君が一人で買ったんだろう?まったくそこまで思い込みが激しい事務員で入江弁護士も苦労するね。」
「思い込みじゃなく、事実です。ちゃんと先生がくれたんです!」
「ほら、ほら」と琴子が左手を大蛇森の前で揺らす。
「じゃあ、隣の男は何だね?」
大蛇森が琴子の隣に座っている、変装したメンサを見た。
「入江先生という素晴らしき、見目麗しき男性と婚約していながら他の男性、しかもそんな冴えない男性と親しげに体をくっつけ、頬をつけて囁き合う?そんなことをする女なんて信じられない!」
「ちょっと、誤解されるようなこと言わないで下さい。どうしてそういうやらしい見方しかできないのですか!」
「君がその男性とさっさと寿退職してくれたら、僕は退官して弁護士になって先生と共同事務所を立ち上げようかな、うん、そうしよう。」
「退官しようが弁護士になろうがご自由ですが、開業するなら人っ子一人いない山奥でお願いしますね。」
「何だと!」
ウーウーと唸っていた大蛇森であったが、傍聴席が混み合ってきたため急いで席を見つけねばと、琴子から離れた。

「まったく、どうしてああいうことばかり言うのかしら。なんであんな人が検察の部長までなれたんだか。」
疲れた様子で席に座った琴子にメンサが、
「それ、昨日はしていませんでしたよね?」
と、婚約指輪に言及した。
「え?ああ、そうです。いつもはしてません。傷つけたら大変だとちゃんとトマトの箱にしまっておいてるんだけど。」
「トマトの箱?」
「先生がゆうべ、電話してきて。てっきり寝る前に私の声が聞きたいと思ってくれたのかな?と期待したら、この指輪をして来いって、それだけ言って切っちゃったんです。」
「入江先生が、昨夜に?」
「はい。何で突然そんなことを?と思ったんですけど。でもおかげで、大蛇森部長に見せつけられたしよかったわ。」
「…姑息な手を使って。」
「ん?」
「いえ、何でも。あ、裁判官が来たみたいです。」
メンサは急いで琴子の気をそらせた。直樹が琴子に婚約指輪をつけてくるよう命じたのは、大蛇森撃退のためではない。自分への牽制のために他ならない。「琴子は俺のもの」ということを示すためにそうさせたのだ。
「起立、礼」の合図を聞きながら、メンサは直樹を見た。直樹の視線もこちらに向けられている。二人の間に、琴子と大蛇森の間に散ったそれとは明らかに違う、静かで激しい火花が飛び散る。
そして、そんなことに気づくこともなく、琴子は直樹に向かって小さく手を振っていたのだった。





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熱い火花

今晩は~このシリーズの話も大好きです(笑)
続きが読めて嬉しいです。

メイサと入江先生の火花を散らしてるのに、空気を読めない琴子ちゃん…相変わらずの天然に入江先生は苦笑いするしかないですね(笑)
裁判所では琴子ちゃんと大蛇森とばとるに私は凄く面白かったです。なるほど入江先生は婚約指輪を着けて来るようと言っといたんですね。メイサさんと入江先生の熱いバトル、どうなるのか凄く楽しみにしています。

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shirokoさん、ありがとうございます。

お返事遅くなり申し訳ございません。
いえいえ、そういう意味でいったんじゃないです~!すみません、誤解させちゃって!!
最新のお話に関心持って下さることもとても嬉しいですよ!
火事騒ぎを経て結ばれたのに、なかなかうまくいかない二人。
琴子ちゃんは愛されている実感を少しずつかみしめているところでしょうか。
そうですよね、周りに結婚アピールしないと試練が起きそう…分かります!
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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