日々草子 後輩を指導する後輩

後輩を指導する後輩

暑いから書いた…って、このシリーズを書くのにどうして言い訳を考えるのでしょうか?
なんか書くたびにすごく申し訳ない気持ちになるんですよね。
もう、タイトルを見ただけでお越し下さった皆さんの「何だ、これかよ~!!」というがっかりしている顔が浮かぶようです。
あ、嫌がらせをしているわけじゃないんですよ!決して!!
書かずにいられなかった私を許して下さい。


☆☆☆☆☆









外科に研修医がやってきた。今日は彼らを交えた症例検討会が行われる。
「入江先生が執刀するんだよな?」
「すごいな、あの若さでオペの回数どれだけになるんだろ?
研修医たちの間でも、あの後輩は有名らしい。まったく面白くない。
どうして僕のことを誰も話題にしないんだ?

「この病院に勤務しながら、国際的にも活躍してるらしいぞ?」
「知ってる、紛争地域にも出向いたって!」
「そういうところって、あれか?国連とかの依頼?」
「そうじゃないの?でもさ、経験年数を重ねないと務まらないって話だよな?」
「やっぱ、入江先生すごいわ!」

…噂ってすごいな。
何でさ、そんな国連レベルな話に発展してるわけ?
国連のどいつが、尻狙撃を依頼するってんだ?え?
ったく、都合のいいように話を運び過ぎなんだよ、君たちは!

「ところで先生はまだかな?」
予定時間まで1分を切ったというのに、まだあいつは姿を見せない。
ったく、すでに教授にでもなったつもりか?

「…始めてもらおうか。」
背後から聞こえた声に研修医たちのおしゃべりが一斉に止み、そして一斉に顔が動かされる。
「い、入江先生…いつからそちらに?」
そう、例のごとくいつの間に来たのかあいつは部屋の一番後ろで壁に背を当て、僕たちをギロリと睨んでいた。
「用がないなら…。」
そしてあいつは部屋を出て行こうとした。
「すみません、すぐに、すぐに始めます!!」
慌てて説明担当の研修医が前に出てきた。それを見て、入江は再び壁に背をつけ僕らを見据える。
「あの、先生…あちらに席が…。」
気を使った奴が入江に話しかけた。
「いや、俺はここで構わない。」
腕を組み、じっと前を見る入江。うん、お前はそういう奴だよな。

前に出てきた研修医であるが、ガタガタと震えている。緊張しているに違いない。しょうがないな、この間まで学生だった奴らだ、少し緊張をほぐしてやるか。
まったく、どうしてこの僕が入江のフォローをしなければならないんだか。

「君、落ち着いて。」
「あ…え…。」
「大丈夫、ほら、深呼吸。」
「あ…なんか…。」
「ん?」
研修医は入江を見て、すぐに俯いた。
「だめだ…ま、まるで…。」
「まるで?」
「…殺し屋に狙われている気分です。」

何とか頑張ろうと、研修医がパソコンに手を伸ばした時だった。
「ゆっくりと!」
「ひぃぃぃ!!」
突然飛んできた入江の声に、研修医が弾かれたように飛び上がった。
「俺の前で物に触れる時は、ゆっくりとだ…。」
「す、すみませんっ!!」
そしてまるでスローモーションのごとく、研修医はパソコンに手を伸ばす。


「か、患者は68歳、男性。ええと○×県△市で、妻と二人暮らし。ペットは犬で名前はサブロー。趣味は盆栽と俳句。やや肥満で血圧も高く、胸の痛みを…。」
「要点だけを言え。」
うん、これは入江の言うことがもっともだ。年齢性別とかは必要だけど、ペットの名前まではいらないもんな。
「す、すみません。患者は68歳、男性。肥満で血圧が高く、主訴は胸の痛みで…。」
「要点だけを言えと言ったはずだが?」
え?これ、要点だけじゃん。あいつ、何をほざいてるんだ?

「要点ですか?え?要点…これ以上の要点…?」
可哀想に汗だくになって研修医はパソコンとにらめっこをしている。そりゃあそうだ。まさか年寄の男、デブとか言い出さないだろうな?
少し考えた後、研修医は絞り出すように叫んだ。
「患者は心臓の手術が必要です!」
要点まとめすぎ!!

「…いいだろう。」

いやいやいや、よくねえよっ!!!

おい、症例検討会で「心臓の手術が必要」の一言でOKな病院なんて世界中探したってねえよっ!!
お前、研修医を指導することになってねえじゃないか!

「おい、入江…」と言いかけた時、あいつはズカズカと前へ歩いて来た。歩いているだけだっていうのに、研修医たちの顔色が真っ青になる。

「これはもう不要だ。」
研修医の手にしている資料をビリビリと破いた。「ああ!」という声にならない悲鳴が研修医たちから漏れる。
「そのパソコンのデータ、今すぐ消去してもらおう。」
「え!?」
汗だく研修医が目を見開いた。
「だ、だってこれは患者のカルテ…。」
「不要だ、やるのか?やらないのか?」
「や、やります!!」
入江の突き刺すような視線に負け、研修医はマウスに手を伸ばす。そしてこんな時に「あ、ゆっくりしなければいけないんだ」と思い出したらしく、それはゆっくりとした動作でデータを消去した。
それを見て入江は無言で部屋を出て行った――。



「西垣先生!!どうすればいいんですか!!」
当然のごとく、残された僕が研修医たちに囲まれることになる。
「カルテ消去しちゃいましたよ!」
「資料もありません!!」
「どうやって手術を!?」
「そ、それは…。」
僕が聞きたいくらいだよ…。

「あ、そうか。あれは入江先生の洗礼なんだ。」
誰かがそんなことを言い出した?洗礼?アーメン?
「あれくらいのデータをあの場で覚えないと、外科医は務まらないってことじゃないのか?」
んな馬鹿な。
「なるほど!」
おいおい、君たち納得するのか?
「そうだよな。そうでなければ入江先生のような活躍はできないよ。」
「外科の先生はみなさん、ああやってその場で暗記するんですね?」
研修医たちが疑いを持たない瞳で僕を見上げる。そんな馬鹿なこと、あるわけ…。
「…もちろん、そうだよ。」
あー、僕の馬鹿!僕のこの口、何でそんなこと言うんだ!
こんなときに都合のいいことばかりしゃべる癖が出てしまった!!
「やっぱり!!凄いな、レベルが違いすぎるよ、外科は!」
「まあ、ね。」
あー、止まれ!僕の口、止まれ!!
「西垣先生も全部覚えているんですね!」
「当然!」
覚えているのは…ペットの名前がサブローってことだけなんだけど、どうしよう?



そんなこんなで、手術の日が来た。
あいつはおそらく琴子ちゃんとウフーンな時間をたっぷり過ごしてきたのか、全身力がみなぎっているという感じだ(手術前数時間、いつものごとく仮眠室に籠っていたからね)。
ゴシゴシと手を洗うあいつ。
「入江先生、今日はよろしくお願いいたします。」
本日選ばれし悲劇の研修医があいつの後ろに近寄った途端、あいつの体が見事に回転した。
「ひぃぃぃ!!」
「…俺の背後に近づくな。」
「す、すみませんっ!!」
怯える研修医を置いて、入江は手術室へと消えた。
「馬鹿だな、入江先生の後に立ってはいけないって有名だろう!」
もう一人の研修医がそんなことを言った。
「あ、そうだった…つい、うっかりと。」
「入江先生は後にも目があって、前後の目を使って手術するからすごいんだって教授が言ってたじゃないか!」
…怪物かよ!
というか、どの教授だよ、そんなことを言うのは。
そしてそれを信じているお前らって一体!!



はあ、やれやれ。こんな恐ろしい手術は初めてだった。
手術自体は難しくない、一般的なものなのにデータなしでやるって…もう何だか。
「西垣先生、オペお疲れ様でした!」
その声は…琴子ちゃん!!」
「琴子ちゃん、ありがとう。」
君こそ、毎回入江の相手で大変だろうに。

「…ねえ、琴子ちゃん?」
「はい?」
「その…手に持っているのって、なあに?」
琴子ちゃんの手にはその可愛い顔には似つかわしくない、おそろしい雑誌があった。『世界の銃のすべて』…ま、まさか琴子ちゃんもとうとうあの道に!?
「え?これですか?これは入江くんのために買ったんです。」
「入江の?」
「はい、入江くん興味があるみたいで。」
え?そ、それって、もしや、秘密を明かしたくなったってことか?
最愛の妻に全てを打ち明けるつもりになったと?でも一度に話しても琴子ちゃんは理解できないだろうから、少しずつカミングアウトしていく作戦か?

「そ、そうなんだ。」
「はい。でも入江くんがこういうのに興味を持ったのって…たぶん、私がきっかけかも。」
「え?琴子ちゃんが?」
どういうこと?もしや、最初は琴子ちゃんが尻狙撃してたってこと?いやいや、まさか!
人類始まって以来の不器用ナースとか言われている琴子ちゃんが、あんな小さな的をめがけて撃つなんてこと、できるわけないじゃないか。
「ど、どういうことかなあ?」
ドキドキしながら僕は琴子ちゃんの言葉を待つ。
「実は…。」
琴子ちゃんが恥ずかしそうに話す。
「前、テレビですごく腕のいスナイパーが出てくる映画を見ていたんです。どんなに困難と言われても絶対成功するんです。それで、私が言ったんです。」
「何て?」
「入江くんだったら、もっと小さな的でもペロッって撃っちゃうよね!って。」
もっと小さな的でも…ペロッ…ペロッ…ペロッって狙撃の効果音か?いや、問題はそこじゃない。
「それから入江くん、こういう雑誌とかに興味を持ったみたいで。」
「でも」と琴子ちゃんは続ける。
「私の言葉くらいで入江くんがその気になるわけないし。やっぱり男の人ってこういうのが好きなんでしょうね。なんか自分の思い上がりで恥ずかしい!!」
そう言うと琴子ちゃんパタパタと走って行ってしまった。

いやいやいや。
琴子ちゃんにもっと小さな的でもと言われて、あいつ、血管やら尻の穴やらをめがけるようになったわけ?
え?あいつがああなったのって、あんなことしているのって…原因は琴子ちゃん!?

驚くべき新事実にどう向き合えばいいか悩みながら歩いていると、ドアを開けている琴子ちゃんを再発見する。
閉まったドアを見て、僕は舌打ちする。また仮眠室…って、おい、今日二度目じゃないか!!!






関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

紀子ママさん、ありがとうございます。

嬉しいです、ありがとうございます!
私のゴルゴ愛を理解して下さっている紀子ママさんの存在がどれほど心強いか!
ガッキー、もう一体彼は何なんでしょうね?
ゴルゴ入江にいつもくっついているから、ただでさえ相手にされないところがますます相手にされなくなっていく…。
そうなんです、今回はちょっとそんな風にしてみました。
原作のセリフも少々お借りして。
確かに琴子ちゃんはラスボスです。アメリカも認めているし(笑)
そしてラストの「アモーレ!愛の仮眠室」が大爆笑ですよ!!もうそうやってドアにプレートくっつけるといいですよね!!

あおさん、ありがとうございます。

そうですよね、あおさんはお久しぶりのゴルゴ入江だったのかも!
いえいえ№1ですよ!全然調子に乗ってないから。
そうです、いつもお尻ばかり狙っているわけじゃないんですよ。たまには外科医らしいことも(笑)
後輩の指導になってないですよね。でもきっと「あの入江の指導を受けたなら間違いない」と納得されるんでしょう。
これでいいのか~byバカボン!もうあおさんったらおちゃめなんだから♪

lunaさん、ありがとうございます。

いえいえ、とんでもない!
こちらこそ、またこちらでお名前拝見できて、忘れずに来て下さってとても嬉しいです。
お休みすると、やはりそのままさようなら…という方も多いですから。
更新がないのに足を運んで下さりありがとうございます。
私の方こそ、心よりお礼申し上げます。
lunaさんも、お体に気をつけて下さいね。

りょうママさん、ありがとうございます。

そうですよね、琴子ちゃんの何気ない一言にかかっていますよ!
どれだけ自分が入江くんを動かしているか、その原動力になっているか気づいていないところが可愛い。
西垣先生、実はやみつき(笑)それは間違いないでしょう。もはや中毒、依存症!
確かに専用仮眠室が必要かも。というか、絶対他の人怖くて使えない(笑)

たまちさん、ありがとうございます。

そうなんです、もう医療界ではその名を知らないくらい。
そしてどんな噂でも信じられてしまう、大丈夫なのか日本の医療はと突っ込まずにいられませんが(笑)
宇宙まで飛び出しましたもんね~。
研修医なんて、ゴルゴ入江にとってはチョロいもんですよ。むしろあのゴルゴ入江が教えてくれるということ自体奇跡に近いんです。
術前術後の琴子に爆笑です!なんかお薬のような!!
入江くんのコンパスは琴子ちゃんなんでしょうね♪

マロンさん、ありがとうございます。

うわ~爆笑していただけて嬉しいです!
もうこのシリーズを読んで下さっているだけで感謝ですよ!
見せつけられることにはもう慣れているんでしょうけれど…でもやっぱり!!
琴子ちゃんの体力、本当にすごいことになってます。
暑さから少しでも離れることができたなら何よりです!!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ねーさんさん、ありがとうございます。

いえいえ、こちらこそ暑い中おこし下さり、大変なのにコメントまでありがとうございます。
そうなんです、カテゴリに分類しなければと分かってはいたんです(笑)
ねーさんさんにコメントいただいた日も、あ、訂正しなければと分かっていたのにそれを忘れてPC閉じちゃって!
ありがとうございます。

そうそう、ねーさんさんの呟き、ずっと残っていて(笑)
さすがになれそめは難しいけれど、これならってその日に思いつきました!
楽しんでいただけてよかったです。でもゴルゴ入江をかっこいいと言って下さるのはねーさんさんだけですよ!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
リンク