日々草子 逮捕された後輩

逮捕された後輩

ええ、ちょっと気分転換にばかばかしいお話を。

☆☆☆☆☆





「氏名デューク入江…ふむ、コンピューターのハッキングか。」
目の前でいかつい男が書類と、後輩の顔を交互に見て溜息をついた。
「まったく、どうやってあんな厳重なセキュリティの元へ忍び込んだんだ。そんな頭があるならもっと世間に役立つことに使えばいいものを。」
いくら嫌みを言われても、後輩は無表情のままだった。というか、お前の名前「デューク入江」で問題ないわけ?

おっと、説明がおくれてしまった。一体僕たちが今どこでどんな状況に陥っているのかちんぷんかんぷんだろ?
驚くなかれ、僕と生意気な後輩は何と警察にいる。しかも…逮捕されてしまったんだ!
といっても、わざと逮捕されたわけど。え?何でそんな物好きなことをしているんだって?
いやさ、その生意気な後輩、まあ入江なんだけど、こいつが今度受けた依頼を遂行するためにはこの警察署に潜入することが必要なんだとか。だからといって逮捕までされなくてもいいと思わない?

それで入江はほら、例のコンピュータにやたら詳しいお袋さんの手を借りてハッキングとかわざとして、捕まったんだ。
ん?どうして僕までそこに付き合っているのかって?
そりゃそうさ!僕は西垣だよ?この後輩の怪しくおかしい行動を全て見届ける義務があるんだから!やれやれ、この立場も辛いってもんだよ。



「それで隣が西垣…。」
おっといけない。どうやら取り調べは入江から僕へ変わったらしい。
「…お前もなあ。」
そうそう、すみません。でもまあ、ハッキングが逮捕理由か。まあ知的な僕らに合っているような…。
「…結婚詐欺とかふざけたことしてるんじゃねえよ。」
「はあ!?」
ちょい待ち!僕もハッキングじゃないの?て、何?結婚詐欺?
「いや、僕そんなこと一言も…。」
「まったく、女たらしこむ以外にもっとやりがいのあることを見つけろ。」
「いや、だから!結婚詐欺だなんて僕は一言も言ってないし!」
「よく見りゃ、女以外興味がありませんって顔だな。」
「そんなことないですよ!」
僕の弁明を全て無視し、刑事は入江の時より大きな溜息をついた。顔で犯罪を決めつけられるって一体!



何だか嘘みたいな取り調べが終わって、僕らは留置所へ異動することになった。
「ちょっとトイレに行きたいのだが。」
警察に来てもふてぶてしい態度を崩さない入江がことわりを入れた。
「そっちだ。」
さすがに生理現象を無視するわけにもいかず、付き添いの警官がトイレを示す。
もしや入江は何かする気か?こんな状況であいつがトイレなんてことを口にするのはおかしいもんな。
「僕も!」
慌てて僕も入江の後を追いかけた。そしてあいつが閉めかけたドアを手で止めて中へ入ろうとする。
「何をするんですか?」
こんな状況でも入江は僕に対する表情を変えない。
「何って、お前の全てを見届けるんだよ!」
「は?」
「いいから一緒に…。」
「…ちょっと待て。」
ドアの中へ入ろうとした僕の肩を警官がガシッと掴んで止めた。
「お前、何をやってるんだ?」
「何ってトイレ!こいつの全てを僕が見なければ…。」
「…底無しの変態だな、お前。」
心底あきれ果てた警官の声。
「トイレに入ることが問題でも?」
連れションだろうが何だろうが目くじら立てることじゃないだろ?
「何で変態扱いされなければいけないんですか!」
「ここに一緒に入り込もうって考える奴をまともと捉えろと?」
「はあ?」
僕はトイレの中を見た。
「…あれれ?」
このトイレ、ドアを開けたらそこにもう便器がある。ということは一人用?
「こいつの全てを見届ける?お前、男も女も見境ないのか?」
「いや、そ、そういうわけじゃ…。」
やれやれと肩をすくめる警官の側で入江は心から僕を軽蔑しているまなざしを向けている。
「いえ、そうじゃなくて。全てというのはですね、それは…。」
「分かった、分かった。だがな、現実を認めた方がいいぞ?」
警官が僕の肩をポンポンと叩いた。
「残念ながら、お前のモノの方が小さいだろうから。」
「ち、小さいって!!」
何でそんなことを決めつけるんだ!お前が僕の何を知ってるっていうんだ!!
「そういう下品な意味じゃなくて!」
「トイレに押し込もうとしている奴を上品だと思えと?」
いい加減にしろと警官が僕を無理矢理トイレのドアから引きはがす。入江はわざとらしく大きな溜息をついてドアをパタンとしめた。そして意味ありげな感じで鍵をガチャリとかけやがった…。



「…何でこんな目に遭わないといけないんだ?」
それでも知り合い同士とうことで便宜を図ってくれたのか、僕と入江は同じ部屋へ入れられた。僕は隅っこで膝を抱えて同じ台詞を何度も繰り返していた。
「付いてきたからでしょう?」
そして入江はここが留置場だろうが何だろうがお構いなしに、偉そうに足を組んでふんぞり返っている。こんな状況でどうしてそうしていられるんだろう?
「お前さ…」と僕は入江に近づいた。途端に入江がオーバーに後ろへ下がる。
「違うって!あのさ…どうやって依頼を遂行するつもり?」
ずっと気になっていたんだ。だってここは警察。さすがにあの親父さんだってヘリで乗り付けるわけにいかない。いや、そもそも入江は丸腰、あのアーマライトM16だって持ってない。
しかし入江は僕の質問に答えることなく立ち上がった。そしてゆっくりと柵の側へ歩いて見張りの警官を呼んだ。
「何だ?」
「トイレに行きたいのですが。」
おいおい、またトイレか!お前、近くない?頻尿?
「トイレはそこにあるだろ。」
警官は柵の中、奥にあるトイレスペースを示す。
「ですが…」と入江は意味ありげに僕をチラリと見た。それを見て「ああそうか」となぜか警官が納得した声を上げた。
「そうだったな、お前がズボンを下ろすのをあいつが待ち構えているんだと申し送りがあった。」
「おい!何を申し送りしているんだ!」
僕が大声を上げると「うるさい!罪をこれ以上重ねたいのか」と警官が僕を睨む。完全に僕、変態扱いじゃないか!
そして警官は「仕方がない」とガチャガチャと鍵を開け、入江を外へ出した。そしてもう一人の警官を呼び、入江をトイレへ連れていくように命じる。

しかし、よくトイレに行く気になるよ。僕なんてデリケートだからちょっと場所が変わると全然だめだってのに。まあ、あいつがデリケートなわけないな。あんな仕事しているわけだし。

しばらくして入江が戻って来た。ところで僕らはこれからどうなるんだろうか?
不安なまま、僕はまた膝を抱えて座る。入江はゴロリと僕に背を向けて横になった。



「…終わりましたよ。」
聞き取れない小声で入江が呟いた。
「お、終わったって?」
僕は四つん這いになってサササッと寝ている入江の側へ近づく。
「任務終了です。」
「いつ?ねえ、いつ?」
ゆさゆさと僕が体を揺さぶると、入江が面倒くさそうに説明を始めた。
今回の依頼人は何とこの警察署の道路挟んだ反対側のビルの一室で待ち構えているらしい。まあ、いつものことながら針で刺すのは痛い、病院で尻を出すのも嫌だとわめいて、どういうわけかビルの一室で窓に向かって尻を突き出すのはOKだっていうんで、入江はこの警察のトイレの小窓から座薬を打ち込んだらしい。
「でもどうやって?アーマライト持ってないじゃん。」
入江は更に面倒くさそうに起き上がると靴を脱いだ。そして僕の前で靴の踵部分をパカッと開ける。そこには吹き矢があった。これを使って向かいのビルで待ち構えていた尻にぶち込んだと。



更にそれから一時間くらい経った頃だろうか。コツコツと足音が聞こえたかと思ったら、僕らのいる場所の前でその音が止んだ。今度は何だと僕が顔を上げると、見覚えのない、眼鏡をかけた若い男性が僕らに笑顔を向けていた。
「悪い、入江。遅くなってすまなかった。」
「え?」
今、入江って言った?
「おい、お前ら釈放だ。」
そして警官が告げる。釈放?どういうこと?
「あの、あなたは?」
「ああ、すみません。僕は入江の友人の渡辺といいます。」
渡辺と名乗った男性が名刺を出した。弁護士…助かったのか?
「もう大丈夫ですよ。」
「ということは、僕も一緒ですか?」
「ええ。」
「やったあ!!」と僕は飛び上がって喜んだ。いやあ、よかった!!
「ありがとうございます。」
「いえいえ。」
このドス黒い男の友人とは思えないほど、温かい笑顔を浮かべる渡辺弁護士。あいつにこんな素晴らしい友人がいるなんて信じられない。

「あ、でも…逮捕歴は残ってしまうんですよね?」
いくら無罪放免とはいえ、そういうものが残ると今後の人生に影響があるのでは?
「大丈夫です。それも全て消去しましたから。」
渡辺弁護士が優しい笑顔でOKサインを作った。
「本当ですか?」
「はい。この逮捕も全てなかったことになりました。」
「すごい!渡辺先生、すごい有能な弁護士なんですね!」
この若さでそんなことができるなんて、どれだけ遣り手なんだろうか。
「いえいえ、僕はたいしたことはしてませんから。」
しかも謙虚な性格。おい、入江。お前もこの素晴らしきご友人の爪の垢を煎じまくって飲め。
「そんなご謙遜を。」
「本当です。だって、入江の親父さんにお願いしただけですし。」
「…入江の親父さん?」
「はい。入江の親父さん、大企業の社長だけに政治家にも知り合いが多くて。そのうちの一人にお願いしてもらって警察に圧力かけただけです。」
…腹黒い男の友人は、やはり腹黒かった。こんな温和な顔でサラリとドス黒いことを言うなんて。しかも政治家に頼んで警察に圧力かけたって、サスペンスドラマで一番腹が立つシチュエーションじゃないか。

「不満なら、ここに残っていたらどうです?」
入江が冷たい目を僕に向ける。
「え?残りたいんですか。そうですか、どうしてもっていうなら無理して出なくてもいいですけど?」
おやっという目をする渡辺弁護士。
「まあ入江のついでに出すだけですけど。」
そしてまたもや爽やかに傷つくことを告げる渡辺弁護士。
「いえいえ、とんでもない!出ます、出ます、出して下さい!」
冗談じゃない!圧力だろうが何だろうが使えるものは使って出してもらわないと!

「入江がいないと、困る人大勢いるもんな。」
なるほど、この爽やか腹黒弁護士先生も入江の影の仕事を知っているというわけか。まったく死角のないことで。



そして晴れて自由の身になった僕は柵の向こうに出た。するとそこに、
「入江くん!!」
「琴子ちゃん!?」
何ということだろうか。真っ青な顔をした琴子ちゃんが現れたじゃないか。
「琴子ちゃん、君…」と言いかけた僕をおもいきり突き飛ばし(僕は顔面を壁にしこたまぶつけた)、外に出ようとした入江に抱きついた。
「入江くん、逮捕なんて何かの間違いじゃないかと思って。心配で夜も眠れなかったの!」
泣きじゃくる琴子ちゃんを入江は抱きしめる。
「よかった!渡辺くんのおかげで無実だって証明されたってお義父さんが!」
ああ、そうね。そういうことにしておくわけね。うん、琴子ちゃんだけがこの世界に染まってないもんね。
ぶつけた鼻をさすりながら二人を見ていた僕の肩を、渡辺弁護士がチョンチョンとした。そしていつ持っていたのか、大きな白い布の端を僕へ持つように指示する。渡辺弁護士に言われるがまま、僕はその布を入っていた部屋の柵の左端へ合わせ留めた。渡辺弁護士も同様に右端に留める。白い布がすっぽりと柵を多い、中が見えないように…って、もしや?

「…ああ、ポリスラブ!!」
布の向こうから琴子ちゃんのあられもない声が聞こえてきた。ポリスラブって何なの、琴子ちゃん!!
「…無罪バンザーイ!!」
それはここを出てから思う存分言いなよ。というか、入江の奴、出るまで我慢できなかったのかよっ!!
「うん、やっぱり用意してきて正解だったな。」
そして渡辺弁護士は全く驚かず、自分の準備周到さに満足げに頷いている。いや、あんたも友人なら止めろ、準備してくるな!!

「大丈夫ですよ、この点もちゃんと警官を買収してますから。」
またもや笑顔でOKサインを出す渡辺弁護士。だから、そういう顔で買収とか黒いことを言わないでくれる?



更に驚くべき出来事がこの場で起きることとなる。
「お願いだ!!白状する!!俺が全てやったんだ!!」
琴子ちゃんの声が聞こえた途端、隣の留置所から声が上がった。
「俺も全て言う!やったのは俺だ!認める!」
ガシャッ、ガシャッと柵を掴んで揺さぶる音が辺りに響き渡る。他に捕まっている奴らが罪を認め始めたではないか!
「助けてくれ!ここから出してくれ!!」
「あんな…あんないい声を聞かされて耐えるなんて拷問同然だ!」
…なるほど、そういうことか。そりゃあ、そうだ。

「うんうん、琴子ちゃんはやっぱり全てを救うんだなあ。」
腕を組みまたもや満足げに頷く渡辺弁護士。
…そういう問題じゃないと思うけど?

「ああ…愛の留置場!!」
「出してくれぇぇぇ!!」
琴子ちゃんの色っぽい声と、懇願するドスのきいた男たちの声を背に受けて僕は早々に退散することにした…。





♪♪♪
☆ゴルゴ13の豆知識
任務遂行のためならば、わざと警察に捕まったり刑務所に入ることをいとわない。




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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

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当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

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