日々草子 ハズレ?それとも…? 3

ハズレ?それとも…? 3

思っていたより入江くんの出番が出てきて安心しております(笑)
私も原作をリアルタイムで読んでいた時、「入江くん、今回出番ないな~」とさびしく思っていたので、やっぱり入江くんを出してこそなんだなと今更ながら思ったりしてます。だからやはり少ない出番で申し訳ないです。
3話で終わらなかったので、番号振りました。でも次回で終わるはずです。

☆☆☆☆☆









入職当時に比べてぎこちなさが少しずつ減っていった琴子であったが、再びガチガチになる時がやってきた。

「ちゃんと休めた?」
「…緊張してあんまり。」
またもや指で突いたら粉々に崩れるのではないかというくらい緊張している琴子に、沢渡はクスッと笑った。
今日、というか今夜は琴子の夜勤デビューである。沢渡は琴子の初夜勤に自分のシフトを合わせた。それを知った時、琴子は安堵していた。沢渡以外の先輩ナースの指導を受けたことがないわけではないが、やはり夜勤はずっと面倒を見てくれている沢渡が傍にいると安心する。

夕方はまだ日勤のナースも残っていたり、夕食の時間があったりとざわついていた病棟も時間が経つにつれ静まる。消灯時間を迎えた時は人数も減り静かさは増していた。そして琴子の緊張もピークを迎えていた。

「いい?当たり前だけど患者さんは皆さん寝ているでしょう?」
ラウンドへ行く前に沢渡は琴子に話す。
「お部屋の出入りもないから、患者さんの様子がおかしくなっても気づくことが難しいから、夜勤の時は日中以上によく耳をすませて、目も動かしてね。」
「はい。」
「特に術後の患者さんや入院直後の患者さんには気をつけて。」
「はい。」
琴子の返事を聞きながら歩いていた沢渡だが、後ろの気配がないことに気付いて振り返った。
「…入江さん、足も動かして。」
意識が目と耳にいっているあまり、琴子は通路の真ん中で仁王立ちになって辺りを見回していた…。

「こちらの鳥井さん、点滴が終わる時間だったわね。」
点滴を外すことは琴子もだいぶ慣れていた。だから今夜も琴子がそれをするものだと思っていたが、
「今夜は私がするわ。見ていてくれる?」
と、沢渡が琴子より先にベッド傍に行く。鳥井はぐっすりと眠っていて二人がそばにいても目を覚ます気配はなかった。
その鳥井の腕から沢渡はあっという間に点滴を外した。そして音を立てずに点滴台を部屋の外へ出す。
「眠っている時に点滴を確認する時は、とにかく起こさないよう気をつけること。」
琴子もだいぶ上達してきたものの、今日は緊張していることもありいつもより時間がかかる可能性があると沢渡は判断したのだった。
ラウンドを終えてスタッフステーションへ戻った途端、コールが鳴る。
「佐藤さん、トイレだそうです。行ってきますね。」
「お願いします。」
トイレ介助に琴子は急いで出ていく。どうやら少し緊張がほぐれてきたようだと沢渡は安堵しながらその後ろ姿を見送る。と、またコール。すぐに行くと返事して沢渡もステーションを出て行った。

それからもコールは頻繁に鳴った。幸いトイレやその他ケア的なことだったので琴子一人でも対応できることだった。そして少し落ち着いたと思ったら、今度は体位変換、おむつ交換である。琴子も沢渡もそれぞれ目まぐるしく夜の病棟を駆け回った。

それにしても人数が少ないとこんなに忙しいものなのかと、ようやく落ち着いた琴子はぐったりしていた。
「今夜は…」と戻ってきた沢渡が言いかける。忙しいと言うのかと琴子が顔を上げると沢渡は、
「…比較的ヒマだわね。」
と信じられないことを口にした。目を丸くして固まっている琴子に沢渡が、
「コール、体位変換、トイレ介助等で終わるならその夜勤はヒマよ。」
と笑う。
「こ、これ以上忙しくなることがあると…?」
目を回す琴子に、
「ええ。だって急患が入ったらそうなるでしょう?」
と沢渡はこともなげに答えた。
「その急患がオペになったら準備しなければいけないし、急変だってあるし。場合によっては家にいる先生を呼び出すこともあるし。」
確かにそうだと琴子は気づいた。今夜は当直の医師を呼び出すこともまだない。
「あなたが独り立ちしたら、夜勤のナースは減るからそのつもりでね。」
「え?」
琴子はステーションを見回した。部屋を訪問しているナースもいるが、総計するとかなり少ないと思っているのに。
「だって今夜は新人のあなたが初夜勤ということで余分に入れているんだもの。」
初夜勤のナースを迎えた病棟はたいてい、人数を増やしているのだという沢渡に「そうなんですか…」と琴子は言葉を失くした。こんな自分が独り立ちできる時が来るのかと不安になる。
「大丈夫よ、みんな通ってきた道なのだから。」
沢渡は励ました。と、そこへ仮眠していたナースたちが戻ってきた。
「さ、私たちの番よ。起きたら朝の採血ラッシュが待っているわ。」
「うわあ…がんばります。」
ヨロヨロと立ち上がる琴子の背中を沢渡はバンと叩いた。



何とか初夜勤を終え、日常業務も慣れてきた琴子に沢渡はこれなら思っていたより早く成長してくれそうだとすっかり安心していた時、事件は起きた。

「大蛇森傷害事件!?入江さんが犯人!?」
休み明けに聞かされた話に沢渡はめまいを起こしそうになった。確かに大蛇森医師が琴子に苛立ちを感じていたことは知っているが、まさかそこまで!?
「まあ傷害事件ってのはちょっとオーバーだけど。」
同僚がペロッと舌を出す。ならちゃんと事実を言ってくれればと腹立たしさを覚えながら沢渡は詳細を求めた。
沢渡が休みだった昨日、オペの介助に清水主任が琴子を指名したのだという。ここ最近、成長してきた琴子を信じてのことだっただろうが初めての手術介助、さらに執刀医は大蛇森、それだけで琴子の緊張が最大値になったことは想像できた。
「それでケリー鉗子を逆さに渡してブスッと!」
そこまで聞いた時、沢渡は倒れそうになった。よりによって琴子の一番の問題点が手術中に出てしまったとは!
それにしてもと沢渡はいくら前もって決まっていたとはいえ、昨日休みだった自分を呪った。自分がいれば清水主任に指名された時、また琴子には早いと言えただろう。いや、琴子の成長は想像以上だと先日師長と主任に話した自分が悪かったのかもしれない。自分の言葉を信じて琴子を手術に入れた主任なのだから。

それからの琴子はすっかり委縮してしまった。せっかく自信をつけてきたところだったのに、行動のすべてに怯えが出てしまった。大きなミスはないものの、すっかり覇気が失せてしまった。
「新人さん、元気ないね。もしかして辞めたいとか?」
患者の前では明るくふるまっているものの、やはり以前とは違う琴子の様子に患者も心配していた。それもそのはず、琴子の最大の長所である患者とのコミュニケーション能力まですっかり影をひそめてしまったのだから。一応、患者が心配していることを伝えたものの琴子は「すみません…気をつけます」としか言わなかった。
せっかく順調に行っていたのに、もしかしたら本当に辞めてしまうかもしれないと沢渡は心配でたまらなかった。

そしてそんな心配の中、医局旅行に出かけねばいけないのも辛い沢渡だった。
「大丈夫です、楽しんで来て下さい。」
留守番を決めている琴子がその時は明るく沢渡に言った。
「でも…」と沢渡は躊躇する。旅行中には夜勤もあるし、この状態で残しておいていいのだろうか。指導担当として付き添うべきではないかと思う。
「大丈夫です。」
琴子は笑顔を見せた。が、どう見てもそれは作られた笑顔だった。自分を心配させまいと、いや自分の期待を裏切った辛さをずっと抱えているのだろう。沢渡は後ろ髪を引かれながら医局旅行へ出かけるしかなかった。



旅行から戻ったら、またもや騒動が待っていた。
「今度は入江先生がやらかしたのよ!」
「ええ!?」
留守番組の第一声を聞いた時、沢渡は直樹が「妻の仇!」とメスを大蛇森に突き立てたところを想像してしまった。いや、待て。大蛇森は今回の旅行にいた。宴会でクネクネ踊っていたことを思い出すと、胸を撫で下ろした。
では一体何を直樹はやったのか。
「研修医なのに無断でオペやったの!」
「それは…」と沢渡は驚き半分、当然半分というような気持ちだった。正直、直樹ほどの腕ならばもう単独で手術を執刀できるはずである。が、一応身分は研修医。指導医の許可がなければできないことも事実である。
「そこに入江さんもいてね。」
「嘘!!」
そちらの方が一大事である。あれだけ手術に恐怖心を持った琴子がいたとなるとどうなったか。しかし術後の患者の容体は安定しているという。

院内のざわめきをよそに、直樹の処分は指導医である西垣の反省文のみという寛大なものだった。そして琴子は少し元気を取り戻していた。やはり愛する夫を介助できたからかと思っていると、驚くことが琴子からもたらされた。
「やっぱり恐怖でたまらなかったのですが、入江先生から頭突きされたら目が覚めたんです。」
「頭突き!?」
目を丸くする沢渡に琴子は慌てて、
「いえ、いつもは違います。ほら、オペ中だったので手が使えなかったから!」
ではいつもは手を使って…「元気ですかあ!」と言いながら直樹が琴子を平手打ち…いやいやと沢渡はそれ以上聞くのはやめておくことにする。夫婦には夫婦の形があるのだ。自分たちだってそうだと言い聞かせた。



これをきっかけに琴子が元に戻るかと沢渡は期待したが、それは外れることとなった。直樹と共に患者を助けても、琴子はそれで自信を取り戻すような単純さを持ち合わせていなかった。
「…あれは入江先生が傍にいたから、ただそれだけのことなのです。」
少しだけ明るくなったものの、やはり仕事に対してはどこか怯えたままの琴子がポツリと沢渡に話した。
「それは結局、入江先生に頼っているだけということだし。私自身は何も成長できていないと思います。一人だったら…。」
琴子の心はまだ立ち直っていないのである。



「お疲れ様です。」
久しぶりにスタッフステーションで沢渡は直樹と二人きりになった。直樹を見ているとつい、琴子の「いつも頭突きでは…」という言葉を思い出してしまった。
「…別に毎日闘魂注入しているわけじゃないですから。」
「え?」
また考えを読まれたと沢渡は素っ頓狂な声を出してしまった。
「なぜ先生は私の考えている…いえ、そんな考えているわけでは。」
「あいつが言葉足らずな説明をしていることは簡単に予想がつきますから。あいつの言い方だと俺は暴力夫にされそうだ。」
直樹の冗談に沢渡は笑った。
「ということは、入江さんが元気をなくしているということには当然気づいているんですよね?」
「ええ。」
そこで直樹は沢渡を見た。
「お世話かけてすみません。」
直樹は沢渡に向かって頭を下げた。
「いえ、そんな。私の指導が足りないばかりに。」
慌てて沢渡は言った。
「いいえ、沢渡さんがとてもよく指導してくれたから、あいつは想像以上に成長を遂げていると思います。今苦しんでいるのも成長の証なんです。」
「そう…ですか?」
意外な直樹の言葉が沢渡は不思議だった。
「ええ。正直、俺と一緒にオペを乗り越えれば立ち直ると簡単に構えていたんです。が、予想以上にあいつの苦しみは深かった。でもそれは沢渡さんの指導の賜物だと思います。」
自分が指導したから琴子が苦しんでいると言われても複雑である。
「学生時代、初めての実習の頃だったらきっと今回のオペだけであいつは立ち直っていたと思います。でも今は違います。ちゃんと免許を取って看護師と名乗れる職業に就いて、沢渡さんの傍でどれほどその職務が重大なものであるか、人の命にかかわる仕事がどれほど大変かということが分かったんです。だから簡単に立ち直れない。苦しみもがき続けているんです。それは周囲から見ると辛いことですが、成長している証拠でもあると思います。」
とても琴子と同じ年齢、そして自分より年下とは思えない直樹の発言に、ただただ沢渡は感心するしかなかった。

「…あまりに苦しみ続けているようだったら、どうぞ遠慮なく見限って下さい。」
「それは絶対嫌です。」
直樹の言葉に沢渡は間髪いれず言い返した。その言葉に直樹が驚いた顔をする。
「私は入江さん、奥さまの性格は絶対ナースに向いていると思っています。先日、夜勤の時に事情からしょっちゅうおむつ交換のコールがありました。入江さんは嫌な顔一つせず対応していました。」
「…それは当り前のことでは?」
「その当たり前ができないナースも悲しいことに存在します。どうせ意識がないのだからというような行動を取る人間もいます。でも入江さんは絶対そんなことしませんでした。入江さんはどんな患者さんにも同じように丁寧に接しています。ナースになりたてで、そういう仕事ばかりで辛いのではと入江さんに尋ねたらそんなことはちっとも思わないと笑顔で返してくれました。自分に今できることがあることが嬉しいから、それを一生懸命するのだと。」
どうしたら楽に仕事をするか、そう考える人間はどの業界にも多い。もちろん、効率的に仕事をすることは大事だがそのために患者の気持ちを無視するということは沢渡はできない。だから自分と同じ考えを持つ琴子の存在が嬉しかった。
「採血もそうです。どうしても自分で採血するのだと患者が痛がるのを無視して何回も針を刺すナースがいます。が、入江さんは絶対そうしません…まあ、もう少し採血が上手になるといいなと正直思わないでもありませんが。」
つい出た沢渡の本音に直樹が「アハハ」と声を立てて笑った。その顔は先日の夜と同じ、優しいものだった。
「だから入江さんはナースを続けてほしいんです。患者さんのためにも絶対、彼女の存在は大きいと思います。ナースに向いています。私が保証します!」
「…俺は医者なので、すべてそちらにお任せするだけですね。」
そう微笑んだ時、直樹の胸元のPHSが震えた。「はい、わかりました。」と返事をしている。そして立ち上がってあたりを手際よく片付ける

「入江先生。」
沢渡は直樹を見た。
「奥様を任せて下さって、ありがとうございます。」
沢渡は頭を下げた。片付けを終えると直樹は小走りでステーションを出る。
「大事な妻を任せる相手が沢渡さんでよかった。」
とてもハードワークをこなしているとは思えない爽やかな笑顔と共に、髪をなびかせながら直樹は沢渡を振り返って笑った。そしてあっという間にまたその姿が薄暗い廊下へと消えた。
「大事な妻…どうして、さらりとのろけるかなあ?」
のろけてもかっこいいんだからと、沢渡はまた苦笑したのだった。



関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ガンバレ琴子ちゃん!!

大蛇森傷害事件(笑)と入江直樹独断オペ事件(笑)を第三者から見る

とこうなるんですね。

琴子単体でもかなりな事件が起きるけど、直樹と二人になるとぶった

まげなことをしでかしますよね~。

琴子ちゃん、早く元気になってくれるといいですが・・・。

それにしても、琴子ちゃんの言葉がちょっと足りないために、直樹が

DV夫又はサディスト夫みたいに思われちゃってる(笑)

沢渡さん、気になっちゃいますよね~。

でも、直樹の「遠慮なく見限ってください」と言った言葉にすぐにNOの

返事をした沢渡さん。

ちゃんと琴子の事を見ていて、琴子の良さをしっかり理解してくれて

いる。本当にいい先輩ですね。

直樹が言った通り、沢渡さんだったからきっと琴子はナースとしてしっ

かり仕事が出来てるんでしょうね。

わたしもこんな素敵な先輩に会ってみたかったです・・・。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

現在の御訪問者
現在の閲覧者数:
御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

コメント及びメールなどでの苦情及び批判は公開、非公開を問わず、私へ告げることはご遠慮いただけますよう、お願い申し上げます。

このブログ及び掲載されている話が嫌いだと思われたら、黙ってあなた様の中から、このサイトの存在を消去していただけますよう、お願い申し上げます。

カテゴリー+月別アーカイブ
 
最新コメント
最新記事
カボチャの世界
Private
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
リンク