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2015.05.01 (Fri)

ハズレ?それとも…? 2

コメントと拍手、ありがとうございます!!
このお話は琴子ちゃんの成長記のようなものなので入江くんの出番が少ないと思います。すみません!!

☆☆☆☆☆



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「循環器の花村さん、もう異動願い始めたってよ。」
「ああ、知ってる。指導担当の人と相性最悪だったんでしょ?」
指導担当ナースが新人の文句を言っているのと同様、指導される側もそれなりの文句がたまっているのが常というものである。あちらこちらで新人たちがそんな話をするようになっていた頃。

「まあ、うちらは結構恵まれた方よね。」
琴子の仲間である桔梗幹がやれやれといった様子を見せていたのは、昼休みの食堂でのことだった。
「そうね、私の担当も割といい感じかも。」
そう話すのは同じく琴子の仲間である品川真里奈である。
「まあ、シフトがなかなか合わないのが難点といえば難点だけど。」
そんな話をしていると「お疲れ…」とげっそりとした様子で昼食を載せたトレーを持って現れたのは琴子だった。
「しごかれてるの?」
「違うわよ。」
真里奈の言葉を笑って幹が否定した。
「琴子は、入江先生を守るのに毎日必死なの。」
「ああ、入江先生戻ってきたんだったわよね。」
幹がいうとおり、ようやく念願叶って愛する夫と一緒に働けるというのに待っていたのは、次から次へとやってくる女性たちからの攻撃だった。
「あんた、仕事だってまだ覚えていないってのに余計なことまでやってるから。」
「だって、私という妻がありながらみんな…。」
「そりゃあ、あんたの実情を知ったらこれは自分が入江先生をゲットできると思うのも無理はないかと。」
幹の言葉に真里奈がうんうんと頷くのを、琴子は恨めしそうに見る。
「あーあ、これじゃ実習の時と同じだわ。」
「指導係の先輩もそんな感じ?」
病棟が違う真里奈は琴子の指導係についてよく知らない。
「沢渡さんは…そういえばそんなことないかも。」
今になってそんなことに気づく琴子に、
「そりゃそうでしょ。だからあんたの指導係になったわけだから。」
と幹がこれまたあきれた様子で答えた。
「え?どういうこと?」
「どういうことも何も。沢渡さんは既婚者だから。」
「え!?」
「やだ、そんなことも知らなかったの?」
「うん、全然。」
「じゃあ、沢渡さんがあんたと似たような経歴の持ち主だっていうことも?」
「似たような経歴?え?それって…。」
カレーを食べる手を止め、琴子は声をひそめた。
「…沢渡さんも実は留年経験者?」
「あんたじゃあるまいし!!」
幹の台詞に真里奈が大笑いした。
「だって似たような経歴って…。」
「沢渡さんは一度大学を出てから、また看護学校に入ったってこと。ほら、あんたも文学部からの編入組でしょ?」
いったいどこで仕入れてくるのか、相変わらずの幹の情報網の広さに琴子はただただ驚くばかりであった。



沢渡は琴子の視線に戸惑っていた。沢渡の手技をなんとか身につけようと凝視してくるのはいつものことだが、どうも今日は何かまだある気がする。
「…あの、沢渡さん。」
スタッフステーションが少し余裕があるのを確認して、琴子は口を開いた。
「なあに?」
「その…沢渡さんってご結婚してらっしゃるんですか?」
「あら?言ってなかったかしら?」
「はい!!」
琴子の勢いに沢渡はたじろいだ。琴子の指導係に任命されたのは既婚者であること、同期より自分が年齢が高いということで共通点が多いということであるからだが、そんな理由を話すつもりはなかった。
琴子を見ると、顔中に「知りたい」と書いてあるかのような表情で自分を見ている。
「…いや、普通に付き合って結婚しただけだから。」
「え?沢渡さん、なんで私がそれを知りたいと分かったのですか?」
「分かるも何も、顔中にそう書いてあるわよ。」
まったくと沢渡はクスッと笑った。

「一度大学を卒業されてから看護の世界へ入ったとも聞いたのですが。」
「え?ああ、そうね。でも珍しいことじゃないでしょ?あなただって同じようなものだし。」
今や三十代、四十代の女性が看護学生になることもある。
「…入江さんは、どうして看護師になろうと思ったの?やっぱり旦那様がお医者さんだから?」
お互い少し胸襟を開くのも悪くないかと、沢渡は珍しいことを口にした。
「きっかけはそうでしたけど、でも実習中に色々あって。」
どんな「色々」があったかは聞かないことにする。
「最初は入江く…入江先生のお手伝いをしたかっただけでしたけど、それだけじゃ務まらない仕事だと知って。実習でいろいろな患者さんと接するうちに、患者さんのためにできることをしたいって。」
「へえ」と沢渡は意外だという様子で琴子を見た。
「え?お、おかしいですか?やっぱり甘すぎる考えですかね?」
「あ、ううん。ごめんね。そうじゃなくて、ちゃんとしっかりした理由があるんだなって感心してたの。」
今度は琴子が意外だという顔をした。
「そういう志でこの仕事を目指すのって結構小さいうちが多いじゃない?年齢が高くなると“職にあぶれないから”とか“普通のOLより初任給がいいから”とか、そういう見方が増えてくるのよね。で、実際仕事につくと想像と全く違って辞めていくと。」
今年も早速、「半年でやめてもっとおしゃれな格好ができる仕事を探す」と息巻いている新人がいると沢渡は聞いていた。が、そんな新人は珍しくない。

「沢渡さんはどうして看護師に?」
「私?」沢渡は記録を打ち込む手を止め、視線を遠くへ向けた。
「…中学生の頃、熱中症で通行人が倒れたところにでくわしてね。たまたま通りかかった看護師さんがテキパキと手当をしているのを見て、すごいなあって。でも高校生になって看護師の現実を知ったら自分には無理だなって。それで全然違う大学へ行って普通の事務をしてたんだけど。」
看護師に憧れたその時から、看護師に関係するありとあらゆる本やテレビを見ていた。それだけに現実を知って一度はあきらめたのだが、それでも「看護師」「ナース」という文字を見る度に本を手に取り、リモコンを手にしていた頃を思い出す。給料で読んでも分からない医学書を買ったこともあった。
「…それでまあ…やっぱり看護師になりたいんじゃないかって言われて。それで、ね。」
そう言ってくれたのは今一緒に暮らしている夫だとつい口を滑らせたら「わあ!!素敵!!」と琴子は頬を染めた。

「ご主人と二人暮らしですか?」
「ええ、そうよ。」
「すごい!」
「すごいって、普通よ。」
「いや、私なんて入江の義母に全部お世話になっているから。」
「それも悪くないでしょう。」
「うーん、でもちょっと夫婦だけの暮らしというのも憧れるかも。」
「想像してみたら?」
きっとニヤニヤしてしょうがないだろうと思いながら、沢渡は琴子にそう勧めてみた。
「夫婦だけの暮らしかあ」と琴子は呟いて目を閉じる。口元がそのうち緩み始めるだろうと笑いを堪えて沢渡は見つめた。が、口元が緩むどころか琴子の眉間には皺が刻まれ始めた。
「どうしよう…。」
眉を寄せ真剣に悩む琴子に沢渡は驚いた。
「二人で暮らしたら…入江先生はもう医者になれないかも…ああ、ごめん!!ごめんなさい、入江くん!私が二人で暮らしたいなんて言ったばかりに入江くんの幸せが!!」
「ちょ、ちょっと待って!!今、入江先生はどういう状況になってるの!ねえ、あなたの頭の中の入江先生に何が起きてるの!?」
「ああ、入江くん、本当に何とお詫びしたらいいか」と頭を抱えてわめく琴子に、沢渡も真っ青になってしまったのだった。



それから数日後の夜のことである。
「入江先生、お疲れさまです。」
夜勤の沢渡がスタッフステーションに戻ると、そこには入江直樹だけがいた。
「お疲れ様です。」
今夜は琴子はいない。沢渡はモニターを見つめる直樹をこっそりと伺った。なるほど、見れば見るほどきれいな顔である。しかも顔だけじゃない、中身も立派。二年目の研修医とは思えない腕をふるい、今ではベテラン医師からも一目置かれる存在となっている。西垣などこっそり後輩にお伺いを立てているくらいである。これは確かに、やっかみで妻をいじめたくなるのも分かるような…。しかし、あの琴子とこの入江医師がどうやって…。

「…特にお話する理由はありませんよ。」
モニターから目を離さず直樹が口を開いた。
「え?」
「俺と琴子が結婚した理由です。」
「え?いや、そんな!」と沢渡は顔を赤くして手を振った。が、これではそう考えていたと言わんばかりである。そんな沢渡に直樹はクスッと笑った。
「…顔に書いてありました。」
「やだ」と沢渡は頬に手をやった。これでは琴子と同じ、いやそんなに心の内が顔に出ていたら仕事が成り立たない。
「大丈夫です、昔から俺たちが夫婦だと知ったら皆、沢渡さんと同じ顔をしていただけですから。」
「そう…ですか。」
つまり慣れているということかと、沢渡は椅子に座った。
「入江先生は、研修期間は神戸にいらっしゃると思っていました。」
「ええ、そのつもりだったのですが。」
二人しかいないのをいいことに、話が進み始める。
「入江さん、そのつもりで神戸の病院に空きが出るまでここで頑張るって張り切っていたから。」
「さぞ、毎日ご苦労をおかけしていることでしょう。」
モニターから目を離した直樹は優しい表情だった。
「いえ、そんなことは。」
「隠さなくても平気です。だいたい想像がついてますから。」
「それほど酷いことはありませんよ、本当に。」
「…ありがとうございます。」
ああ、また優しい顔になった。全く、こんなイケメンにこんないい顔をさせるなんてと沢渡は少し琴子がうらやましくなった。

「…その頑張りを側で見たくなったんです。」
今度はパソコンに目をやりながら直樹が言った。
「あいつってできないことをできないって思うの、一番嫌うんです。」
「そうかもしれませんね。」
数ヶ月一緒にいて、琴子の性格を沢渡はつかんでいた。確かにその通りだと思う。
「がむしゃらにできないなりに努力して。どういう人間を見ているとこちらもやる気出ません?」
「ええ、そう思います。」
間髪入れずに返事した沢渡に直樹は驚いたようだった。が、沢渡本人も驚いていた。確かに直樹が言うとおり、努力することを惜しまない琴子の側にいると自分も俄然やる気が出る。
「だから…戻ってきちゃいました。」
肩をすくめて笑う直樹に、沢渡も微笑んだ。

「さて、俺は少し仮眠してきます。」
一段落ついたのか伸びをしながら直樹は立ち上がった。
「何かあったら起こして下さい。」
「分かりました。」
「では」とスタッフステーションを出かけた直樹が、ふと沢渡を振り返った。
「…独り寝が寂しくいってのが本音だったかも。」
「…え?」
思わず聞き返した沢渡に向かって、直樹は整った形のいい唇の上に人差し指を当てた。その目はいたずらをしたばかりの少年のようだった。

「…まったく、あんなこと言っても様になるんだから。」
一人になった沢渡は苦笑する。
「すっかりのろけられちゃったわ。」
どうやら直樹の方が琴子に惚れ込んでいるらしい。






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 |  2015.05.01(Fri) 21:45 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.05.05(Tue) 14:53 |   |  【コメント編集】

★沢渡さん大好き!!

沢渡さんも琴子と似たような境遇だったんですね~。

それにしても、琴子はいい先輩に恵まれましたね。

失敗だらけの琴子のいいところをちゃんと見ててくれてる。

そういう人ってなかなか出会えないと思います。

琴子ちゃんは『アタリ』だね(笑)

そして、琴子の事を語る直樹は本当に琴子の事が好きなんだなぁっ

て言葉の端々からも感じちゃいますね。

最後の最後にはさわやかに『ノロケ』ちゃってるし。

ホント、イケメンは何をしても許されるんだからうらやましい限りです

よ、まったくぅ ヤレヤレ ┐(´ー`)┌ マイッタネ
六華 |  2015.05.06(Wed) 00:15 |  URL |  【コメント編集】

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