日々草子 入江法律事務所 43

入江法律事務所 43

久しぶりのお話にたくさんのコメントありがとうございました!
忘れずに御訪問下さって、とても嬉しかったです。
しかしすみません。皆様のご期待にそえるようなお話にならないかと…!
ごめんなさい、本当にしょうもないワンパターンなものです。アップするのも申し訳なくなってきました。

☆☆☆☆☆






―― 変にめかしこみやがって。
メンサが見学する初日、直樹はどこか浮かれているような琴子を苦々しい思いで見ていた。いつもとは違う服、しかもメイクもしっかり。
「…おい。」
「はい?」
「化粧厚すぎて、ヒビ入ってるんじゃねえ?」
「なんですって?」
琴子はあわてて鏡を取り出し顔を確認する。
「うん、可愛い可愛い琴子ちゃんで大丈夫。」
「何が可愛い可愛いだ。ったく。」
どうせなら自分と出かける時にそれくらい気合いを入れろと言いたいところである。

「おはようございます。」
そこに当のメンサの声が聞こえた。
「おはようございま…す?」
琴子の明るい声が途中途切れた。直樹も目が点になった。
「よろしくお願いします!」
「あ、あの…メンサさん?」
「はい?」
「そ、そのお姿は一体?」

メンサの見学を受け入れることになった時、変装をしてほしいと頼んだのは琴子であった。
「そのままだと、事務所にいらっしゃるお客様が大騒ぎになってしまうし。」
確かにその通りだと直樹は琴子の提案に頷いた。人気俳優が出入りしるとなると周辺も騒がしくなってしまう。
「これではいけませんか?」
眼鏡と帽子で十分だと思っているメンサは首をかしげる。
「変装になってませんよ、きっと。」
「え?そうかなあ?」
だが受け入れてくれる琴子がそう願うならと、メンサはばれないよう変装を考えてくると言っていたのだが…。



「どうでしょうか?これなら僕だって分かりませんよね?」
ウキウキとどこか楽しんでいる様子のメンサに直樹と琴子は言葉が出なかった。メンサはボブ…いやおかっぱといった方がいいかつらをかぶっていた。眼鏡をかけて服はどこか薄汚れているスウェット。どこかでこんな人物を見たような--。

「あの、な、何を参考にそのお姿に?」
琴子は何とか声を絞り出した。
「以前ゲームの声を当てたことがありまして。そのイベントに来ていた人の中でとてもインパクトのあった人がいたんです。」
「そ、そのイベントって…もしかして水本ナナさんとかいました…?」
「そうです!」
水本ナナ、人気声優である。
「ひょっとして…“いやー、どーもどーも。青木だけど覚えていてくれたかなあ?”なんてこと言ってませんでした?」
「そうです!すごい、相原さん演技上手ですね!そっくり!」
パチパチと手を叩くメンサに対し「いえ、演技というか…ほめられてもあまり嬉しくないような」と複雑な顔をしている琴子。そして直樹は「ぶっ!」と噴き出してしまった。その直樹を琴子はギロッと睨んだ。
確かにこれでは井家メンサと誰も気づかないだろう。

ただ見学しているだけでは邪魔になると、メンサはどんなことでも命じてほしいと張り切っていた。
「では、もうすぐお客様いらっしゃいますから。」
琴子も張り切って指導をすることにした。それを見ている直樹の顔は相変わらず苦々しい。
「応対をお願いしますね。」
「応対ですか。うまくできるでしょうか。」
「大丈夫です。法律事務所といってもサービス業です。メンサさん、そういうお仕事の経験とかは…。」
「あります、接客業のバイトしていました。」
「じゃあそれを思い出して、ね?」
ニコッと笑いかける琴子に、青木風メンサの頬が少し赤くなったことを直樹は見逃さなかった。



そして約束の時間通り、来客の老夫婦は訪れた。
「メンサさん、お願いします」と琴子に促され、メンサが客へと近づいた。
「あの…11時にお約束している浜辺ですが…。」
「はい、ご予約の浜辺様!らっしゃいませぇぇぇ!!」
メンサの突然の大声に浜辺夫妻だけでなく、琴子と直樹もギョッとなった。
「どうぞ、こちらに!!」
「ど、どうも。」
「はい、1番テーブル、お客様ご案内ぃぃぃ!!」
威勢のいい声を響かせ、メンサが琴子の元へやってきた。
「あ、あのメンサさん?」
「はい?」
「バイトって何を…。」
「居酒屋です。」
メンサの答えに琴子は肩を落とし、机で書類を作っていた直樹は頭を抱えたのは言うまでもなかった--。



「…じゃあ、コーヒーは私がお持ちしますね。」
これは自分が見本を示さねばと、琴子はコーヒーを淹れたカップをお盆に載せ、しずしずと客の元へ行く。
「まあ、相原さん。」
浜辺夫人が顔なじみの琴子を見て顔をほころばせた。
「さっきはびっくりしちゃったわ。新しいアルバイトの子?」
「ええと…。」
何と説明していいか困った琴子は直樹に助けを求めた。すかさず直樹が机の上に『インターンシップ』と書いた紙を掲げる。
「インターンシップ…です。」
「まあ、そうなの。」
おそらくそれが何なのか浜辺夫妻は分かっていないだろう。そして琴子も分かっていない。

「コーヒーどうぞ。」
「ありがとう。」
よし、メンサのいい手本となっているはず。やっぱり自分は経験数が違うのだと琴子は自信をつけた。しかしつけ過ぎた--。
「ドリンクバーはあちらにございます。」
「ドリンクバー!?」
「御用の際はそちらの呼び出しボタンを押して下さいませ。」
「呼び出しボタン?」
それはどこに?と浜辺夫妻はテーブルの上を見回す。
「何を寝ぼけてるんだ」と直樹が琴子の頭をファイルで叩いた--。
メンサにつられて、ついファミレスでバイトをしていた時を思い出してしまったと頭をさすりながら琴子は戻った。直樹は呆れながら「失礼しました」と浜辺夫妻の前に着席した。

「ええと相続についてのご相談でしたね?」
「はい。」
「では…」と直樹は書類を広げテキパキと説明していく。浜辺夫妻は真剣な顔でそれに聞き入る。
「…ということで、ここまででご質問は?」
「大丈夫です、先生。」
「では」と直樹は時計を見た。
「10分時間をあげます。ここからどうすれば解決に導けるか、考えてみてください。」
そう告げて直樹は書類に目をやった--。

「…あの、入江先生?」
数分後、おずおずと浜辺が直樹の名を呼んだ。
「何でしょう?」
「その…解決方法が分からないので御相談に上がったのですが?」
そこで直樹はハッとなった。
「…失礼しました。」
しまった、自分まで学生時代にしていた家庭教師のバイトを思い出してしまっていた…。



浜辺夫妻を見送り、直樹はため息をついた。あのバカ二人のせいで自分までそのペースに乗せられてしまった。
「とんでもないことを引き受けてしまった…。」
やはりメンサの見学など断るべきだったと後悔していると、
「琴子さん、こんな感じでいいでしょうか?」
「どれどれ…わあ、すごい!完璧です!」
という、悩みの種の二人の声が聞こえてきた。何を先輩ぶっているんだかと思いつつも、でも琴子も後輩がいない状況なのでメンサが来ていい息抜きになっているのかもと、直樹は思い直した。

「それにしても、こういうお仕事もあるんですね。」
「そうなんですよ。大切なお仕事です。」
接客は問題ありだったが、こうして聞いていると結構面倒見がいいんだなと直樹が感心し始めた時だった。

「メンサさん、そっちの端をお願いします。そうそう、広げて…うん、これなら法廷で目立つこと間違いなし!」
「もしや」と思い直樹は二人のところへ急いだ。そこには『燃えつきろ、灰になるまで!入江直樹』と大きく書かれた横断幕が広がっていた--。

「先生、ひどい!何でこんなことを!」
「うるさい!おまえはそのまま転がってろ!」
横断幕に簀巻きにされた琴子がソファの上で足をバタバタさせている。
「…メンサさん。」
「は、はい?」
「…このバカの言うことはもう聞かなくていいので。俺の指示に従ってもらえますか?」
「え、でも…。」
「お願いします。」
「は、はあ…。」
「助けて」と叫ぶ簀巻きの琴子を気の毒そうに見ながら、メンサは返事をしたのだった。



その後、何とか簀巻きから解放された琴子はお茶菓子を買いに出かけた。メンサは自分が行くといったのだが、変装しているといっても万が一ということがある。あまり外に出ない方がいいだろうということであった。
「…琴子さん、本当に仕事に一生懸命なんですね。」
メンサの手には、琴子によって作られた直樹の名前と顔写真入りのうちわが握られていた。
「一生懸命になる方向が違うんですよ、あいつは。」
直樹はさりげなくそのうちわを奪いながら言う。
「でも一生懸命な人って輝いてますよね。」
メンサの言葉に直樹の目が光った。そのまま、二人の視線が合う。
「…ああいう人がそばにいると、こちらのやる気も出るな。」
やっぱりそう来たかと、直樹は小さくため息をついた。
「いつもフランス料理のフルコースばかり食べているから、たまには漬物が食べたくなるところでしょう?」
「フルコース?漬物?」
「美女に囲まれているから、ああいう毛色の違う珍獣が新鮮に見えるだけってことです。」
つまり勘違いだと、さりげなく直樹はメンサに釘を刺した。
「…血統書つきの動物より珍獣の方が僕には魅力的です。」
ボケているところがあるとはいえ、芸能界ではインテリイケメンと名が通っているだけに直樹の言わんとしていることが分かったらしい。見事な返しだと直樹は思った。
「あなたにはあの珍獣は手に負えません。」
「どうでしょう?」
挑発的な視線をメンサは直樹に送った。そちらがそうならばこちらもと直樹は思った。
「…俺とあいつは婚約しているって分かってるだろうな?」
ガラリと変わった口調にメンサは少し驚いた様子だったが、すぐに笑みを浮かべる。
「婚約でしょう?ただの口約束にすぎないですよね?」
「人の女略奪して芸能界から干されてもいいのか?」
「そうなったら他の仕事を探すまでです。」
バチバチと火花が二人の間に飛び交った。

「ただいま戻りました!あれ?」
ただならぬ雰囲気を察したのか、琴子が二人の顔を交互に見た。
「もう、先生!」
「は?」
「メンサさんに難しいお仕事言いつけたんじゃありません?初日なのに可哀想ですよ!」
琴子はプーッと頬を膨らませ、抗議の目を直樹に向けた。
「メンサさん、先生に何か言われたら私の指示を仰いで下さいね?先生は自分にも他人にも厳しいから慣れるまで大変なんです。」
「ぷっ!」とメンサが噴き出した。
「違います。ちょっと…シミュレーションみたいなことを先生としていただけですから。」
「シミュレーション?」
何だろうという顔をしている琴子をよそに、「あ、そろそろ時間だ」とメンサが立ち上がった。午後から本業なのである。
「すみません、ではまた明日お願いします。」
「あまり落ち込まないようにして下さいね。」
先ほどの失敗を気にしているのではと気遣う琴子に「大丈夫です」と笑顔を見せ、青木バージョンのメンサは事務所を出て行った。

「はあ…本当に爽やかですねえ。」
「…どうだか。」
「え?」
「別に。」
「あー!先生、うちわ壊したあ!!」
「くだらねえもんを作る暇があったら、書類の一枚でも早く作れるよう努力しろ!」
「ひどい!」
無残に折られたうちわを手に、琴子は涙目で直樹を恨めし気に見つめたのだった。





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キタキタキタ~!!

直樹vsメンサ!
無自覚琴子ちゃんに早くもロックオン状態のメンサに対して直樹が婚約者宣言で先制パンチ☆(゜o(○=(゜ο゜)o
だけどメンサも簡単には諦めないと応戦キックヽ( ・∀・)ノ┌┛Σ(ノ `Д´)ノ
勝負の行方はいかに!?って感じですね~。

いい男にモテまくりの琴子ちゃん♥
続きがとっても楽しみですぅ(*≧∀≦*)

あと、お江戸イリコト再掲していただけるとのお返事ありがとうございますm(__)m
お忙しいのにお手間を取らせてしまってすいません。。。
でも、こちらも楽しみに待ってますね~ヾ(*>∇<*)ノ

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Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
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