日々草子 入江法律事務所 42

入江法律事務所 42

お久しぶりでございます。
お休みに入る時はたくさんのコメントをありがとうございました。また花粉症に対してのコメントもありがとうございました。
途中でお返事ストップしていて申し訳ありません。
お休みの間、プライベートでいろいろ片付けようと思っていたのですが花粉症が結構酷くて。まったく進みませんでした。
4月になったらちょっと書いてみようかと思っていたのですが…浮かんだ話は続きものになりそうで、そうなると五月にまた毎年恒例の更新停滞期間を迎えると中途半端になってしまうなと考えたりしております。
とりあえず、更新がないのに足を運んで下さる皆様にご挨拶をかねてちょっとしたお話をお届けしようとすぐに終わりそうなものを書いてみました。
何かバタバタして申し訳ありません。
お気づかい下さったことに感謝申し上げます。

☆☆☆☆☆






「くしゅん!」
今年の春も、入江法律事務所では琴子が盛大にくしゃみをしていた。
「あーあ、また鼻が赤くなっちゃう…。」
鏡をのぞいて溜息をつきながら、琴子はチラリと直樹を見た。「たとえ鼻が赤くなっても琴子は可愛いよ」と言ってもらえるのでは?
「鼻がなくなるの間違いじゃないの?」
冷たい最愛の人の言葉に琴子は自分の考えの甘さを知る。
「ま、鼻の一つや二つなくなってもお前の顔はさして変わらねえから。」
「鼻は一つしかありませんよ。」
これが本当に結婚を考えている相手の言葉だろうか。しかしそんな男を好きになったのは自分なので文句も言えない。

プロポーズされた昨年のクリスマス以来、二人は何の進展もしていないのが実情だった。年が明けて早々、大きな案件が次々と入ったため直樹は夜遅くまで仕事一筋。それを支える琴子も必死で、ようやく落ち着いたころには冬が終わり春になっていた。

「あーあ…ネットでもチェックするか。」
仕事中にもかかわらず手が空いていることをいいことに琴子はインターネットを開いた。
「あ、井家メンサだ!」
琴子の声に直樹は書類から顔を上げた。
「うわあ、今回も一位だって。」
「何の?」
一度だけ会ったことのある人気俳優の顔を思い出しながら、直樹はついそのようなことを聞いてしまった。どうも自分以外の男に琴子が関心を持っていると分かると心穏やかにいられない。
「すごいですよ、今回は“空気清浄機の代わりにしたい男第一位”ですって!」
「…何だ、それ?」
「彼にしたい男でしょ?同僚にしたい男でしょ?おそろいのパジャマを着たい男に、梅干を一緒に食べたい男…すごい全部一位だ!」
「変なランキングも混じっているみたいだが?」
「さすが!会った時もすごくいい人でしたもんね!」
確かにいい男だったと直樹も思った時、「すみません…」と静かな声が二人の間に聞こえた。

「あの…突然すみません。」
「え…?ええと…あれ?」
琴子は目を丸くして、来訪者へ向かってフラフラと歩いた。直樹も驚いて声を失う。
「あの…あなた…井家メンサ…さん?」
「はい。先日はどうも。」
噂の張本人が、事務所の入り口に立っていた――。



「突然おじゃましてすみません。」
礼儀正しくメンサは頭を下げた。
「いえいえ、どうぞ気にしないで下さい。」
ウキウキと琴子がコーヒーを出す。それが直樹は面白くない。
メンサは眼鏡をかけ帽子をかぶっていた。一応変装のつもりらしいがにじみ出るオーラは隠しようがなかった。
「実は入江先生にお願いがあって。」
「俺に?」
渋々直樹はメンサの前に座る。琴子もちゃっかりとその隣に座った。
「どうしました?」
「あ、わかった!」
尋ねようとした直樹の隣で琴子が声を上げる。
「あれですね?事務所を移籍ってお話でしょ?」
「え?」
「よくありますよね。メンサさん、ご活躍なのにお給料が少ないのでは?」
「いえ、そんなことは。」
「大丈夫ですよ。うちの先生に任せていただければ円満な移籍をお約束しますから。」
「移籍は今のところ考えていません。」
「あら、そうですか。」
予想が外れ琴子はがっかりした。直樹は「ばあか」と声に出さず口だけを動かす。

「…もしかしてスキャンダルですか?」
こんないい人に限ってと思いながら、琴子は続けた。
「ひょっとして、謝罪会見が予定されている?先生に隣にいてほしいとか?」
「え?」
「ああ、どうしよう。先生、一番いいネクタイとスーツを用意して。あ、そうだ。先生は…うーん、左から撮ってもらった方が映りよさそう…。」
琴子の頭には派手にたかれるフラッシュ、そしてキリッとマスコミの質問に答える直樹の顔が浮かんでいる。
「すみません、今のところスキャンダルも特には…。」
間違ったことをしていないのに、なぜかひどく申し訳なさそうな顔のメンサが言った。
「あ、そうですか。それはまあ…よかったですね。」
「ったく、お前はいい加減にしろ!」
パコンと直樹は琴子の頭を叩いた。
「すみません、こいつの妄想は無視してお話をお願いします。」
琴子を椅子ごと押しやりながら、直樹はメンサに続きを促した。



「役作りを事務所でさせてほしい?」
メンサの依頼に直樹と琴子はびっくりした。
「はい。実は今度、ドラマで弁護士役をすることになりまして。」
その参考にしたいので、ここで直樹の仕事ぶりを見学させてほしいというのだった。
「ですが、こんな小さな事務所じゃなくても。」
メンサの事務所にも顧問弁護士はいるはず。そこで見学すればいいのではと思う。
「いえ、入江先生がいいんです。」
メンサは譲らなかった。
「年齢も近いですし、この間の収録の時の先生、男の自分から見てもとてもかっこよかったです。」
「そうでしょ、そうでしょ」と琴子が嬉しそうに頷いた。
「ぜひ、こんな弁護士を演じられたらと。それに今度のドラマで勝負をかけたいと思っているんです。」
「勝負?」
「はい。その…お恥ずかしい話ですが俺、演技が下手なんです。特にセリフ回しが。」
「ああ」と直樹と琴子は出しそうになった声をとどめた。なるほど、自覚はあるのか。
「顔だけが取り柄とか言われて。でも俳優として今後もやっていきたいから、何とか演技も向上させたいんです。そのためには本物の弁護士さんを観察して、自分のものにしたくて。」
確かに彼が大根役者であるという噂はよく耳にする。なるほど、今度の作品が勝負ということか。
「弁護士なんてセリフも長くて難しいですし。」
「そんなに気にすることはないと思いますよ。」
直樹が口を開いた。
「確かに長くて難解なセリフになると思いますが、それをベラベラまくしたてればそれらしく見えるものです。感情なんて込める必要ないでしょうし、棒読みしかできなくても大丈夫でしょう。」
「棒読み…。」
自分でそう言ったものの、他人から言われると余計落ち込むというもの。メンサはがっくりと肩を落とした。
「もう、先生!」
琴子睨まれても直樹は平然としている。事実なのだから仕方ない。
「そんなに気にするほどじゃないですよ、メンサさん。」
放っておけなくて琴子がフォローに回った。
「メンサさんは立っているだけで絵になるし。そんな視聴者はセリフなんて聞いてませんって。みんなメンサさんの顔しか見てないですよ。」
「顔だけ…。」
「お前、余計落ち込ませてるぞ。」
「え?何でそういうことに?」
俯いてしまったメンサを前に、二人はどうしたものかと悩んでしまう。

「…先生、協力してあげたらどうでしょうか?」
応接スペースにメンサを残し、机の傍で直樹と琴子はヒソヒソと話し合った。
「やだよ、そんな暇ないし。」
「そんなことないでしょう?この所落ち着いているし。」
「お前は暇でも俺は暇じゃないんだよ。」
確かに余裕がないこともないが、琴子の傍に自分以外の男を置いておくなんてまっぴらである。



「すみません、お力になれなくて。」
いくら説得しても直樹は首を縦に振らなかった。琴子は申し訳なさそうにメンサに謝った。
「いえ、突然お願いしたこちらが悪いんです。」
メンサは好感度ナンバー1らしく、感じよく返した。
「何とか自力で頑張ってみます。」
「ドラマ、楽しみにしてますね…くしゅん!」
いままで出なかったくしゃみが琴子から出た。
「花粉症ですか?」
「ええ、そうなんです…くしゅん!」
琴子はティッシュで口を押さえる。
「大変ですね。ああ、そうだ。よかったらティッシュをお送りしましょうか?」
「え?」
「鼻リッチってティッシュでよければ。」
「鼻リッチ!?」
それは最高級ティッシュではないか。かつて直樹からもらって以来、とても自分では買えない代物である。
「僕、鼻リッチのCM出ているんです。だからお願いすればいくらでも手に入るので。」
「そういえば」と琴子は思い出す。『ティッシュのように、いつも君の手の届くところにいたい』というメッセージと共にメンサが笑っていた――。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
慌てる琴子に、
「え?鼻リッチはお肌に合いませんか?」
「いえ、そういうわけではなく。とにかく少々お待ちを。」
と、琴子は急いで直樹の元へ駆け寄った。

「先生、メンサさんのお手伝いをしましょう!」
「それはさっき結論を出したはずだろ?」
「あんな高級ティッシュをただでいただくわけにいきませんもん!」
「てめえ、俺をティッシュで売る気か!?」
「人助けです、先生、弁護士なんだから人助けしないと!」
「ざけんな!」と怒鳴る直樹を無視し、琴子はメンサの元へ戻る。
「ぜひ、メンサさんのお力に!」
「え?いいのですか?」
「はい!」
直樹はそれ以上、琴子に逆らえなかった。まあメンサと一緒に過ごしたいという理由ではなく、高級ティッシュに心を奪われたという理由なので我慢することにしたのである。




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おかえりなさ~い♪

水玉さんのおかえりを今か今かと待っていました。
また新しいお話が読めて本当にうれしいです(*^_^*)

入江法律所は年明けからずいぶん忙しかったんですね~。
クリスマスにプロポーズまでしてるのにその後何もなかっただなんて・・・。
紀子ママじゃなくても、直樹を疑ってしまいそうです(笑)
あんなにかわいい琴子ちゃんに何もしないで入れるなんて、絶対変!!
それにしても、顔だけは一流の『井家メンサ』。
波乱の予感に今からドキドキしてます!
これからも水玉ワールド楽しみにしてますね~❤

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波乱?

お休みされていて、充電中ということで、復活待っていました。さてまさかの井家さんが再登場とは。
直樹は心おだやかじゃないですね。どうした波乱を呼ぶのか楽しみです。

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No title

お帰りなさい!
お待ちしたしておりました。
毎日毎日、覗いては[明日かな,?]と思い、以前からの作品を何度も読ませて頂いておりました。
すると、意外な所で感情移入してみたり。。。と
発見も新に!!
水玉さんの作品、益々好きになりました!!
ご自身のペースでぜ~ん全大丈夫なので、此れからも掲載していってください。
楽しみにしております。

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何か!

入江君が?嫉妬しそうな!予感がする?琴子ちゃん大丈夫?

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プロフィール

水玉

Author:水玉
『イタズラなkiss』のほかには『ゴルゴ13』が好きです☆
多数あるイタキスの二次小説の中で邪魔することなく、ひっそりとマイペースで我が道をゆきつつ生息しております。
そっと見守っていただけたら嬉しいです。

※当ブログに掲載されている文章及びイラストの無断転載・使用はご遠慮下さい。

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御訪問ありがとうございます
このブログについてのお願い
当ブログは、『イタズラなkiss』の二次創作をメインとしておりますが、時折管理人の趣味や日々の出来事についての記事も書いております。

原作者様や関係各位とは一切関係ありません。

二次創作については、いわゆる原作の隙間をぬった作品もありますが、主人公以外のキャラクターをメインとしたものや オリジナルキャラクターが出てくるものもございます。

そして、原作と違った時代(平安や明治やその他の時代を舞台にしております)、異なる設定(主人公を医者と看護師じゃない職業にしております)で書いてあるものが多いですが、原作を冒涜しているつもりは全くございません。

二次創作が苦手という方及び原作のイメージと合わないと思われる方はどうぞお引き取り下さいますようお願いいたします。

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