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2015.03.04 (Wed)

永遠に君を愛す 49.5

需要がありそうなので、2016年7月29日、再掲しました。

このお話は本編49話の後になります。
もしも琴子ちゃんが大阪へ行ったまま戻ることなかったらという設定です。
つまりイリコトのハッピーエンドじゃなかったらということです。どういう風になるか書いてみたくて。
そういうのは読みたくない!と思われた方はどうぞ回れ右をしてお帰り下さいね。
尚、こちらは3月4日午後2時30分3月4日午前0時までの期間限定記事にしてあります。ですのでコメントのお返事はごめんなさいね。

☆☆☆

【More】





昭和から平成に変わって数年が経った。
「…やれやれ、すごい人だ。」
東京駅に到着した入江直樹は人の多さに苦笑する。
この年、東北新幹線が東京まで延伸された。初めて仙台へ行った時は新幹線すらなかったのにと直樹は時代の移り変わりに驚いていた。
「少し早く着いてしまったか。」
腕時計に目をやると、約束の時間までまだあった。どこか店に入って時間をつぶそうかとも思ったが、どこも混雑している気がする。それより、久方ぶりの東京の雰囲気を肌で味わいたいと、直樹は店に入らず待合室で人の流れを眺めることにした。

待合室はあまり人がいなかった。直樹はその片隅に腰を下ろした。と、隣の女性に荷物が当たった。
「失礼しました。」
「いいえ。」
直樹の言葉に女性は微笑み返した。年齢は自分とさして変わらないだろう。どこか懐かしいものを感じる…直樹がそう思いながら人の流れに目をやった。若者が楽しげに歩いている。時代も変わったものだ。自分があの若者と同じくらいの年齢は戦争に…そこまで思った時直樹はフッと笑みを浮かべた。いけない、これを思い出すとまた胸が痛くなる。

「ご気分でもお悪いのでは?」
隣の女性が直樹に声をかけてきた。胸を押さえていたからそう見えたのだろう。
「いえ、大丈夫です。」
直樹が答える。
「そうですか?ご無理なさらないで下さいね。」
「ありがとうございます。これでも一応医者ですので自分の体は分かっていますから。」
「まあ、そうでしたか。それは大変失礼なことを。」
「いいえ。」
「実は私は看護婦だったのです。」
「ほう、それは」と直樹は不思議な偶然もあるものだと女性の顔を見た。女性も直樹の顔を見る。と、女性の目が大きく見開かれた。
「もしかして…直樹坊ちゃんでは…?」
自分をそう呼ぶ女性はこの世に一人しかいない。
「…琴子か?」
「はい」と琴子は嬉しそうに頷いた。



「本当にこのような所でお会いできるなんて。」
自分たち以外誰もいない待合室で、静かに二人は話していた。
「大阪へ確か行ったと?」
直樹の問いに琴子は頷いた。
「主人の会社の本社が大阪に移転したので。それからずっとあちらです。直樹坊ちゃんは?」
「おいおい、七十近い爺さんに坊ちゃんはないだろう?」
「だって。」
年齢を重ねてもこういう所はちっとも変っていないのだなと、直樹は懐かしかった。こうして話をしていると若い頃に戻った気分になる。
「…仙台で暮らしているんだ。」
「まあ、仙台。」
琴子とあの病院で再会し、別れた後、直樹は仙台へ向かった。そこの水が合ったのか、今も住み続けている。もっとも、東京をあえて避けていたという気もするが。
「お医者様をずっとしていらしたんですね?」
「ああ。」
仙台の大病院の院長になっていると告げると琴子は「すごい」とやはり娘のように喜んだ。

琴子は60過ぎただろう。髪の毛を後ろでまとめ、シックな洋服。しかしどことなく品が漂っているのは社長夫人の重みというものか。
「…奥様はお元気でいらっしゃいますか?」
「…ああ。」
「それはよかったです。」
琴子の言葉に何の屈託もなかった。
「そちらは?」
「おかげさまで。」
琴子に問うまでもなく、琴子の夫の会社が順調な発展を遂げていることは新聞で直樹は知っていた。新聞に掲載されるくらいだから立派なものだと思う。
「奥様、仙台での暮らしにすぐ慣れたのですか?」
「…まあね。」
話を聞きながら、大泉沙穂子の若い頃を琴子は思い出す。あれほど直樹に尽くしていた女性だ。どこまでもついて来てくれただろう。
「今日は奥様はご一緒ではないのですか?」
「…待ち合わせをここでね。」
「そうですか。」
琴子と直樹は暫し、黙り込んだ。

「坊ちゃん、お年を重ねてもちっとも変りませんね。」
若い頃も美男子でもてはやされたものだが、今でも同じだと琴子は思った。知的な雰囲気を漂わせ、仕立てのいいスーツを着て背筋がピンとなっているところは見とれてしまう。
「お前もな。」
人妻にお前というのは失礼だと分かっていたが、今はそう呼びたかった。



「おばあちゃん、そこにいたの?」
二人の時間を遮ったのは、十代の少女だった。一目見るなり、琴子とそっくりだった。
「探したのよ、もうすぐにどこかへ行っちゃうんだから。」
「あらごめんなさいね。」
少女は「仕方ないなあ」と笑いながら、琴子の側の直樹に気付き軽く頭を下げた。そして琴子に「どなた?」という顔をして見せる。
「こちらでお話相手になっていただいていたのよ。」琴子は孫娘に微笑んだ。「今日はこの子の兄の大学の合格祝いなのです。それで久しぶりに東京に出て来て。」
「そう…でしたか。」孫娘に誤解されぬよう、直樹は敬語を使った。「それはおめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
琴子はじっと直樹を見つめた。
「…お孫さんが待ちくたびれていらっしゃいますよ?」
行くようにと直樹は琴子に促す。
「まあ、そうでした。」
「そうよ、おじいちゃんが心配してる。おじいちゃん、おばあちゃんがいないとすぐに心配して騒いで大変なのよ。」
「それは大変」と琴子は笑う。
「では失礼します。」
「失礼します。」
琴子が孫娘と連れ立って行くのを、直樹は見送った。



「素敵な方ね?おばあちゃん。」
「まあ、そう思って?」
「ええ。あんなきれいなおじいさんを初めて見たわ。」
素直な孫娘に琴子は笑う。やはり直樹は年を重ねても女性の心をとらえてしまうのだ。
孫娘の背中を追いながら、琴子はそっとバッグを開けた。ハンカチにくるんだ物を取り出す。
「あ、それ、また持って来たのね。」
孫娘の言葉に琴子は「しっ」と人差し指を当てた。
「分かってます、誰にも内緒のおばあちゃんの宝物でしょう?」
どこか自分と似たところのあるこの孫娘にだけ、琴子は宝物を見せていた。それはもう五十年以上前にもらった、大切なブローチ。冬の冷たい海でも手離さなかった琴子の宝物――。
「これが導いてくれたのかもしれないわ。」
沙穂子と幸せに過ごす直樹と出会えてよかった。幸せな直樹と再会できて本当によかった。
「え?なあに?」
孫娘に琴子は「ふふふ」と笑って、ブローチを大事にしまったのだった。



「兄さん、ここにいたんだね。」
琴子が行って少しした後、やって来たのは直樹の弟、裕樹だった。
「道が混んでいて遅れてごめん。」
「だから一人で行けるって言ったのに。」
直樹は弟に笑いかける。父親の会社を受け継ぎ一流企業の社長となった裕樹は頼もしくなっていた。
「どう?久しぶりの東京は?」
兄の荷物を持ちながら裕樹が訊ねた。
「…せわしないな。」
「仙台もそれなりに都会だろう?」
「だが、やはりあちらの方が落ち着くな。」
兄の返事を聞き裕樹は言った。
「やっぱり…こっちに戻ってくるつもりはないか?」
「しかし、裕樹。」
「家は部屋は十分あるし、うちのだって兄さんの世話がしたいって。子供たちだってもう独立しようとしている。」
「ずっと独身を通した年寄りがそんなに心配か?」
直樹が悪戯っぽく笑う。
「だって兄さん…。」
「大丈夫さ、一人暮らしも長年すれば慣れるものだ。今更人のペースに合わせた生活というのは考えられない。」
「兄さん…。」
兄が独身を貫いた理由は裕樹が一番分かっている。かつて自分たちと暮らしていた女性、結婚したものの、戦争が引き裂いてしまった…。戦争さえなければ、兄は今頃最愛の女性と暮らし、自分のように子宝に恵まれていただろうに。
「お前たちの気持ちはありがたく受け取るよ。本当にありがとう。だが、もう少し俺の自由にさせてくれないか?」
「…分かったよ。」
裕樹は笑った。
「その代わり、何かあったら絶対連絡して来てくれよ?うちはいつだって兄さんの部屋は用意してあるんだから。」
「うん、分かった。」
昔のように直樹は裕樹の頭を撫でた。

「俺のことより、お前は明日のことを考えろ。」
「何だよ、明日って。」
「娘が嫁ぐんだ、ちゃんと花嫁の父をするんだぞ。」
裕樹の娘が明日、嫁ぐことになっている。今回直樹が東京に来たのはその結婚式のためだった。
「あいつさ、叔父様はいつ到着するんだってずっとうるさくて。まあ、兄さんには実の娘のように可愛がってもらったからな。」
子供がいない分、裕樹の子供たちを直樹は存分に慈しんだ。だから甥と姪たちには直樹は慕われている。
「さ、車はあっちに待たせているから。」
久方ぶりの兄の帰省に誰よりも喜んでいるのは裕樹のようだ。そんな弟を微笑ましく見ながら直樹はポケットに手を入れた。中から出したのは、半世紀近く前にもらった、直樹の宝物のお守りだった。
「兄さん、こっちだよ!」
「おいおい、大声出さなくてもまだ耄碌してないぞ?」
笑いながら直樹はポケットにそれをしまい、七十近いとは思えない足取りで弟を追いかけたのだった。





☆☆☆
書いてみた感想を申し上げれば、思っていたより悲壮感は漂わなかったなあと。
しかし後味ははっきり言ってよろしくない。
でもやっぱり自分は王道、ベタベタ、ご都合主義なハッピーエンドが好きなんだなと思いました。
『永遠に君を愛す』はハッピーエンドにしてよかったなと思います。





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 |  2015.03.03(Tue) 15:16 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 15:41 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 16:07 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 16:49 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 16:50 |   |  【コメント編集】

★これはこれでアリかも・・・。

読んでいてちょっとセツナイ気分になっちゃいましたが・・・。
琴子が新川さんと大阪へ行き、ちゃんと結婚をして家庭を築いて・・・。
今では子供や孫たちに囲まれて穏やかな生活を送っていく。
確かにもう一つの未来としてあったかもしれないですよね。
直樹は独身を通したことを琴子に告げず、杜の都仙台でゆっくり穏やかに時を過ごしていく。
きっといろんな方に結婚を勧められただろうし、アプローチもあっただろうけどたった一人の女性(琴子)を思って生きていくなんて・・・。切なすぎて胸がキューってなっちゃいます。
確かにアリだと思います。でもやっぱり!!直樹と琴子にはハッピーエンドが似合いますね。
これからも、最終的にはハッピーになるお話をお願いしますね、水玉さん❤
六華 |  2015.03.03(Tue) 16:59 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 17:49 |   |  【コメント編集】

悲壮感というより、切なさですかね?琴子ちゃんだって、ブローチを今だに持ってるって事は、直樹を忘れていないって事ですもんね(。>。<。)
おしどり文様の13.5を思い出しました(T_T)
やっぱり、イリコトは、ハッピーエンドが、一番ですo(^-^)o
この数日間、凄い更新ですね、それも懐かしい別ぺ(≧∇≦)ありがとうございます。
ジュジュ |  2015.03.03(Tue) 17:50 |  URL |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 20:34 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 20:37 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 20:59 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 21:18 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 22:22 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 22:26 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 23:02 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 23:13 |   |  【コメント編集】

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 |  2015.03.03(Tue) 23:59 |   |  【コメント編集】

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 |  2016.07.30(Sat) 23:12 |   |  【コメント編集】

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 |  2016.07.31(Sun) 00:57 |   |  【コメント編集】

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